教育を考える 2020.1.16

一級建築士が語るリビング学習のメリット。「子ども部屋で勉強」ではなぜいけないの?

一級建築士が語るリビング学習のメリット。「子ども部屋で勉強」ではなぜいけないの?

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「東大生の8割がリビング学習をしていた!」といった見出しの記事を読んだことがある人も多いでしょう。2010年に上梓した著書『わが子を天才に育てる家』(PHP研究所)が高く評価された一級建築士の八納啓創さんも、リビングやダイニングで子どもに勉強させることをすすめるひとりです。でも、ただ単にリビングやダイニングで勉強させればいいというわけではないようです。リビング学習、ダイニング学習が持つメリットと注意点を教えてもらいました。

構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/玉井美世子(インタビューカットのみ)

もともとなかった、子どもが子ども部屋で勉強する習慣

いま、「リビング学習やダイニング学習が学習効果を上げる」といったことがいわれますが、ただ単にリビングやダイニングで子どもに勉強をさせればいいわけではありません。その本質的な答えは、親のそばがいいということ。その象徴が、親、とくに母親がいることが多いリビングやダイニングというだけなのです。

子どもは、親のそばでお絵描きや宿題をやりたがるものですよね。なぜなら、親のそばにいることで得られる安心感と、自分がやっていることを親に見てもらいたいという気持ちによってモチベーションが保たれているからです。

みなさんも、あたりまえのように「勉強は子ども部屋でやるもの」と思っているかもしれませんが、そもそもその習慣が根づいたのはここ数十年の話。いわゆる学習机が日本で生まれたのは1950年代後半です。それまでは、他の先進国も含めて、子ども部屋に学習机を置いて子どもに勉強をさせるという習慣はなかったのです。

でも、先に述べたように、宿題も子どもは親のそばでやりたがります。そのとき、親が「せっかく学習机があるんだから」と、子ども部屋で宿題をさせようとしたとします。すると、子どもは「勉強=ひとりきりでやらないといけないもの」と考えてしまう。勉強はつまらなくてつらいものと認識して、勉強に対する興味や熱意を失ってしまうのです。

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子どもの知的好奇心を育てる3つのポイント
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人とのかかわり、喧騒のなかで勉強をする重要性

勉強も子どもは親のそばでやりたがるというのは、「人とつながっていたい」という人間の本能なのでしょう。そう考えると、親がいるリビングやダイニングで勉強することこそが自然であって、子ども部屋にこもってひとりで勉強することは不自然ともいえます。

しかも、その後の人生を考えてみても、人とかかわりながら必要な勉強や仕事をできることが重要です。社会に出たあと、果たして本当にひとりきりでできる仕事はどれくらいあるでしょうか? 仕事をして対価を得る以上、必ず他者とかかわることになる。そう思えば、将来、社会でスマートに生きていける社会性を持った人間に子どもを育ててあげるためにも、リビングやダイニングで家族とかかわりながら勉強をさせることが重要だとおわかりになるかと思います。

また、リビング学習やダイニング学習には、喧騒に対する耐性をつけるという効果もあります。とくに子どもにきょうだいがいるような場合なら、弟や妹が大きな声を上げて遊んでいるような状況で勉強をするということもある。似たようなことは、社会に出たあとにも多いのではないでしょうか。

オフィスの隣の席では先輩が大声で電話をしていてる。上司に呼ばれれば、すぐに仕事の手を休めて駆けつけないといけない。そういったなかでも、自分がやるべき仕事に集中できる必要があります。そういう力、喧騒に対する耐性が、リビングやダイニングで勉強する経験によって培われるのです。

もし、いつも静かな子ども部屋でだけ勉強していたとしたら、どうでしょうか。その子が大人になったとき、他人がたくさんいるオフィスの喧騒のなかでは仕事に集中できないということになってしまうでしょう。このことは、大学入試などの受験のときにもいえます。試験がはじまってまわりから聞こえるカリカリという鉛筆の音が気になって、実力の半分も発揮できないといった受験生もいるのです。

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リビング&ダイニング学習の注意点あれこれ

そう考えれば、子どもの性格にもよりますが、基本的にはリビングやダイニングでの勉強がベースと考え、子ども部屋で勉強するのは特別な場合だけと考えていいでしょう。みなさんにも、本当に集中しないといけない仕事は、静かな場所で誰にも邪魔されずにやりたいということもあるでしょう。子どもの勉強もそれと同じことだと考えるべきです。

とはいえ、リビング学習やダイニング学習を子どもにさせるにはいくつか注意点もあります。まずは、発達障害の傾向がある子どもの場合です。そういう子は、リビングやダイニングなどまわりにものが多い環境では、すぐに気が散ってしまいます。そのため、机のうえにパーテーションのような仕切りをつくって、勉強に集中できる環境をつくってあげてください。そういう状況でも、顔を起こせばお母さんやきょうだいがそばにいてコミュニケーションを取れますから、リビング学習やダイニング学習の効果はしっかり得ることができます。

また、照明にも注意が必要。ダイニングは料理が美味しそうに見えるように、リビングはリラックスできるようにと、照明は暗く設定されていることがほとんど。そのため、調光機能のある照明にしたりスタンドライトを置いたりして、子どもの目に悪影響を与えないようにしてあげてください。

それから、椅子にも要注意です。学習机の場合は天板の高さを調節できますが、一般的なダイニングテーブルはそうではありません。大人用の椅子を使わせては、姿勢は悪くなりますし、勉強にも集中できません。そこで、「ストッケ」というブランドの製品など、足を乗せる板も座面も高さを調節できる椅子を用意しましょう。

そして、なにより親がリラックスしておくことが大切です。とくに綺麗好きな母親の場合、ダイニングテーブルに消しゴムかすが散らかったりすると、ついイライラしてしまうもの。でも、「そんなに散らかして!」なんて叱ってしまっては、子どもは萎縮してしまいますし、「ここで勉強したら駄目なのかな」と思ってしまう。そうしないためにも、汚してもいい子ども専用のカウンターテーブルを用意するなどして、穏やかに子どものそばにいてあげてください。子どもにとって、勉強に対する最大のモチベーションは、大好きなお父さんやお母さんがよろこぶ顔を見たいという気持ちなのですから。

一級建築士が語るリビング学習のメリット4

なぜ一流の人は自分の部屋にこだわるのか?
八納啓創 著/KADOKAWA(2015)
なぜ一流の人は自分の部屋にこだわるのか?

■ 一級建築士・八納啓創さん インタビュー記事一覧
第1回:子どもの人格形成への影響力大! リビングとダイニングが極めて重要な場であるわけ
第2回:一級建築士が語るリビング学習のメリット。「子ども部屋で勉強」ではなぜいけないの?
第3回:「日本の子ども部屋」に欠けている大事な思想。子どもの個室が持つ本質的な役割とは
第4回:子どもが賢く育つ家はどうつくる? 一級建築士がアドバイスする家とインテリアの使い方

【プロフィール】
八納啓創(やのう・けいぞう)
1970年6月15日生まれ、兵庫県出身。一級建築士。株式会社G proportionアーキテクツ代表取締役。「孫の代に誇れる建築環境をつくり続ける」を100年ビジョンに、一般建築ではデザイン性と省エネ性能、快適性を追究。住宅設計では、「笑顔があふれる住環境の提供」をコンセプトに、年齢層は20代から80代、会社員から経営者、作家など幅広い層の住宅や施設設計に携わる。また、現在では、これまで携わってきた公共・商業建築設計の経験と住環境ノウハウを生かして、商業建築プロジェクトや建物環境再生による商業施設の活性化プロジェクト等にもかかわっている。著書に『「住んでいる部屋」で運命は決まる! 心も空間も、スッキリさせる方法』(三笠書房)、『住む人が幸せになる家のつくり方』(サンマーク出版)、『わが子を天才に育てる家』(PHP研究所)がある。

【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。