あたまを使う/教育を考える/本・絵本 2019.7.26

「つまらない本」を知ることも大事。図書館での“3千冊の乱読”から子どもが養う大事なもの

「つまらない本」を知ることも大事。図書館での“3千冊の乱読”から子どもが養う大事なもの

図書館や本屋にはたくさんの本があふれていますが、子どもにはどんな本をすすめたらよいのでしょうか? 物語が好きな子や、図鑑ばかりの子など、子どもの本の好みもさまざまです。『読書力アップ! 学校図書館の本のえらび方』や『今こそ読みたい児童文学100』などの著書がある児童文学評論家の赤木かん子さんに、子どもに適した本の選び方をお聞きしました。

編集/木原昌子(ハイキックス) 取材・文/田中祥子 写真/児玉大輔(インタビューカットのみ)

乱読で感覚が養われる

本には推奨年齢や学年が書いてあります。ですが、子どもによって好みや成長は違います。基本的にはしごくシンプルに、子どもに ”好きな本を” “好きなように”読ませてあげればいいのです。具体的には、公共図書館に連れていって、子どもが持ってきた本は何でも「ああいいよ、いいよ」といって読んであげる……本屋さんに行って、その子が欲しいというものを「ああいいよ、いいよ」といって買い与える……という姿勢です。特に図書館はただなので心置きなく借りられるでしょう。

赤ちゃんだって気に入れば最後まで見ているし、嫌だと思えばそっぽを向いたり、手で邪魔をしたりしますよ。その “イヤだ!” という気持ちは大切にしなければなりません。命に別状のないことは、子どもの判断を受け入れたほうがいいのです。

そのときに大事なことは、親である自分がその本を好きかどうかは考えないということ。お子さんとあなたは別の人間だし、性別の差も、なん十歳もの年の差もあります。同じ本を楽しいと思うことのほうがまれでしょう。赤ちゃんや幼児が嫌がったら「そうなの~、これは嫌なんだね~」といって本を閉じて、次の本に移ればいいだけ。読んでつまらない本はあるかもしれませんが、読んで害になる本というのは、普通の本屋さんや図書館にはまずないといっていいでしょう。ですから、子どもの「この本が嫌い」というのは好みであって、わがままではありません

普段から公共図書館で「読んで~」と子どもにせがまれるまま本を読んでやっていると、普通の子どもでも3千冊、本が好きな子どもなら1万冊以上の読書をすることになります。そのなかにつまらない本が混じってもいいのです。たくさん読んだなかには、子どもがワンシーンだけ、1ページだけ好きになる本もあれば、1冊丸ごと気に入ってしまうような完成度が高い本もあるでしょう。一方で、全然子どもの気に入らない本があるのも当然のことです。つまらない本を知らないと「この本はおもしろいんだな」ということがわかりません。子どもには膨大な時間がありますから、乱読することで感覚やものを見る目を養わせましょう

小さなお子さんを持つ親から「うちの子は同じ本ばかり破れるまで何度も読みます」という相談を受けることがありますが、それはとても良いことです。大人だって自分が好きで買った音楽のCDは何度も繰り返して聴くでしょう。好きな曲が終わると、わざわざ戻して好きな曲だけもう1回聴いたりするじゃないですか。曲が楽しいと思うのは、何回も聴いて覚え、歌えるようになってから、だと思いませんか? 次にこのメロディが来る、この歌詞が来ると知っていて「来る来る来る、来た~!」というのが楽しいし、何度も聞くうちに最初は気がつかなかった細部まで理解が深まります。

これは本でも同じこと。子どもたちは誰に教えられなくても、本能的に本の読み方を知っているのだと思います。繰り返し読むことで本を深く読み込むことができ、喜びも深くなることを知っているのです。ですから、そんなふうに何度も読みたい本が見つかったらラッキーですね。もちろんお気に入りができなくても心配はご無用。それは、子どもそれぞれの個性です。

低学年で脳をじゅうぶんに耕す

これまでお話ししてきたように、子どもに読み聞かせをするときには、子どもの喜ぶ本を選んであげてほしいと思います。逆にいえば、読み手である親が「必要な本」「良い本」と感じる本は選ばないようにすることです。なぜなら、子どもに本を読んであげる一番大きな目的は「子どもを幸福にすること」、そしてもうひとつの目的は「子どもに本を好きになってもらうこと」だから。楽しくないけど必要な本を読むのは、もっと大きくなって本を好きになってからでもじゅうぶん間に合いますよね?

そして、子どもには気がつかない大人の本のなかにも、子どもが喜ぶ本が案外あるものです。たとえばクジラが大好きなら、大人用のクジラの写真集を喜んでくれるでしょう。子どもに本を選ぶときには、「この本を読んでもらいたい」ではなく「これを見せたらあの子がどんなに喜ぶかしら」を基準にしてください

小さな頃は、偏った本の選び方をする子もいます。物語を読むのが嫌いな子どもを持った親御さんから、「うちの子は本を読むのが苦手で……」と相談されることがありますが、そのようなことで頭を抱える必要はありません。

そういう子をよく見ると、たいてい図鑑などを好んで見ているもの。前回お話ししたとおり、本は内容で2種類に分かれます。1つは物語などの「空想系」の本、もう1つは現実に起きることが書いてある「リアル系」の本です。政治、芸術、スポーツ、自然科学、歴史、地理、産業など、本のうちの9割はリアル系ということになります。子どもに読書をさせるなら物語を読ませないといけない、と思っている親御さんが多いですが、そんなことはないんですよ。

それに、必ずしも小説を好めば頭が良くなるというわけではありません。科学者は頭がいいグループだとは思いますが、彼らのなかには小説を読まない人たちも多くいます。(もちろん例外は常に存在するし、ジャンルによってもかなり違いますが。私の感覚では、物理学者は一番小説を読む人が少ないように感じています)

特に、低学年のうちは図鑑が好きな子どもが多いですね。これはとても大切なことです。低学年は脳を耕している時期。いわば、種をまく前の畑の土に栄養をたくさん入れてふかふかにしている時期です。そのためには、何でも屋さんのように手当たり次第に雑学を入れなければならないと本能的に知っているのですね。また、低学年のうちは1つのものに1つの答えがあるものを好みます。答えがないようなもの、範囲の広いものは理解できないのです。図鑑のなかでは、1つの絵に対して1つの名称と解説が記されていて、解決できないことは基本的に載っていません。

それから、子どもの知識に関する話題として、最近は知っている言葉の数が極端に少ない子どもが多いという報告があります。たとえば、小学1年生の体育で「足首を掴んで」と指導したら、「足首って、どこ~?」という騒ぎになった、という話がありました。言葉を増やすには、たくさんの言葉を「聞く」必要があります。誰だって、聞いたことのない言葉は覚えられません。ですから、小さいうちから大人がなるべく豊かな語彙力で話しかけてあげましょう

また、普段の生活で「見る」「試してみる」などの経験がなかなかできない自然科学などについては、テレビの科学番組が一番だと思います。ビジュアルを見ながら説明を聞くことができるので、新しい言葉も理解しやすいのです。育児や教育にテレビは害だという意見もありますが、見せたい番組を親が選ぶなど工夫して賢く利用するほうがいいでしょう。

高学年になると図鑑は卒業?

小学4年生くらいで図鑑に見向きもしなくなる子どもが増えはじめます。その頃になると前頭葉が発達してくるからです。前頭葉は感情をつかさどる部分なので、徐々に人の気持ちがわかるようになり、そちらに関心が向くのです。「自分とは違うけれど、こういう暮らしや生き方をしている人がいる」ということを理解できるようになると、物語や伝記などが読めるようになってきます。そうすると、読む本ややりたいことが変わってくるというわけです。

子どもたちは成長の過程で本能的に、「この時期にはこれをして、これを会得しなければならない」と知っているかのように振る舞います。そして能力も変化していきます。赤ちゃんのころの驚異的な記憶力(これがあるから言語を習得できるわけです)や共感能力、耳から聞いたことで理解できるといった能力はだんだんと落ちていき、そのかわりに文字を読んで理解する能力、人の気持ちがわかる能力、客観的に見る能力などに取って代わります。低学年で耕した頭に、高学年から種をまきはじめて、実の収穫ができるようになるのは高校卒業くらいでしょうか。大きな実が収穫できるように、小さな頃に子どもの脳を知識と本でしっかりと耕してあげたいですね

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豊かな読書経験は子どもの将来への糧となることがわかりました。図書館をうまく利用して、日常的に本を手に取るようにしたいですね。子どもの読書量は親の読書量と比例するという調査結果が出ています。ぜひ親子一緒に図書館に出かけてはいかがでしょうか。

改訂版 調べ学習の基礎の基礎
赤木かん子 著/ポプラ社(2011)

■ 児童文学評論家・赤木かん子さん インタビュー一覧
第1回:自由研究のテーマが簡単に見つかる「3つのキーワード」手法~調べ学習のコツ・前編
第2回:自由研究の“正しい”調べ方とまとめ方。絶対に守るべき「体裁の基本」~調べ学習のコツ・後編
第3回:図書館の本の9割は○○系! 子どもに物語をすすめる親が図書館を活用しきれていない理由
第4回:「つまらない本」を知ることも大事。図書館での“3千冊の乱読”から子どもが養う大事なもの

【プロフィール】
赤木かん子(あかぎ・かんこ)
児童文学評論家。
長野県松本市生まれ。法政大学英文学科卒業。
子どもの頃に読んだけれどタイトルや作者名が分からなくなってしまった本を探し出す「本の探偵」としてデビュー。現在は、児童文学やミステリーの評論、子どもの文化の研究を始め、図書館の改善活動にも積極的に取り組む。
主な著書に『改訂版 調べ学習の基礎の基礎 (かんたん!たのしい!調べ学習)』『本で調べてほうこくしよう』(ともにポプラ社)、小学校1年生から使える科学のシリーズとして『ヒマワリ』『アサガオ』『タンポポ』『イネ』ほか(新樹社)、『お父さんが教える 図書館の使いかた』(自由国民社)など。