いま、日本の教育の目指す方向が大きく変わろうとしているのをご存じですか?
これからの時代に重要視されているのは、ズバリ、「考える力」。
それは一体どんな力なのでしょうか。そして、親の立場からできることは……?
過渡期を迎えたいま、必要な “力” とは?
今年4月、幼稚園の教育要綱と保育園の保育指針、認定こども園の教育・保育要が10年ぶりに改定されました。これまであまり具体性がなかった幼児教育の要領や指針が初めて明確になったのです。
さらに、2年後の2020年以降、小学校、中学校、高校の学習指導要領が順次変更され、この教育改革とともに大学入試改革も行われます。いま、まさに日本の教育は大きな過渡期を迎えているといえるでしょう。
保育学者であり、大阪教育大学准教授の小崎恭弘氏によれば、ますます多様化していく先行き不透明な社会において、答えがひとつではない事柄に関する課題に取り組んだり、対応できる人材を育成していくことが教育の大きなテーマになってきている、とのこと。そんな流れの中で求められるようになってきたのが「生き抜く力」「物事に取り組む姿勢」「考える力」である、と指摘しています。
また、NPO法人・教育のためのTOC日本支部マスターリードファシリテーターの飛田基氏は、著書の中で「考える力」の必要性について次のように書いています。
子どもが英語やプログラミングなど時代のニーズに合ったスキルを身につけたとしても、それだけで人生が切り拓けるわけではありません。目の前に現れるさまざまな障害に対して、自分の頭で考え、答えを出し、行動していく力がなければ、夢や目標を達成することはできないと思うのです。(中略)つまり、たとえどのような社会になろうとも、自分の力でたくましく生き抜くためのスキル、それが「考える力」なのです。
(引用元:飛田基(2017),『世界で800万人が実践!考える力の育て方』,ダイヤモンド社.)
「考える力」をつけるためにできること
これからの時代に必要な「考える力」のイメージが、見えてきましたよね。
暗記すれば高得点が得られるテストや偏差値が重視される時代は終わりを迎え、AIにはできないクリエイティブな発想や創造力といったものが重視されるようになってきているのです。
「考えること」を教えるツールとして、飛田基氏は以下の「3つの思考ツール」を挙げています。イスラエルの物理学者エリヤフ・ゴールドラット博士が開発したもので、子どもにもわかりやすく、経営者が使えるほどに奥が深いと世界的に高く評価されているものです。
【クラウド(cloud/雲)】
ジレンマを抱え、「雲」のようなモヤモヤした状況を解消するツール。絵や文字、図を描かせ、自分の置かれている状況や考えを整理します。
【ブランチ】
大きめの付せんなどを使い、「原因」「理由」「結果」のつながりを整理して、目の前の欲望をかなえるのではなく、長期的な視点で考える力を育てる思考ツール。
【アンビシャス・ターゲット・ツリー】
将来のプランニング、目標を設定して達成するという目的に特化したツール。自分が成長している実感、達成感を感じることができます。
「3つの思考ツール」について詳しく知りたい方は、『子どもの考える力を伸ばす「3つの思考ツール」(前編)』、『子どもの考える力を伸ばす「3つの思考ツール」(後編)』を読んでみてくださいね。
日常会話の中で“考える力”は身につけられる!
他にも、子どもが “考える力” を身につける方法があります。心理セラピストであり、アドラー心理学を取り入れた子育て法の第一人者である星一郎氏によれば、日常の何気ない会話や生活の中で実践できることも多いとか。著書の中から2つほどご紹介しましょう。
1. すぐに答えを出さない
星氏によれば、「考える力を伸ばす親は、すぐに答えを出さない」とのこと。例えば、子どもが「お月さまってどうなっているの?」と質問したとしましょう。すぐに答えを教えるのではなく、次のように答えてみてください。
「どうなっているんだろうね。じゃあ一緒に調べてみようか?」
そして、絵本や天体図鑑のページをめくりながら、さまざまなことを子どもに発見させるのです。そんな中で、子ども自身が「月は地球のまわりを回っているのか」などと発見したことがあれば、それは自分が興味を持ち、考え、答えを探しだし、手に入れた知識ということになります。
さらに、「月のほかに、どんな天体があるんだろう?」「プラネタリウムに行ってみようか」などと親の方から会話を展開させていくことも大切なのだそう。親がすぐに答えを教えないことで、子どもは自分で答えを導き出す習慣がついていくというわけです。
2. 「なぜ?」「どのように?」を大切にする
例えば、子どもと映画を見に行ったとしましょう。
親「映画どうだった?」
子「つまらなかった」
親「そう……」
ここで会話が終わってしまうのはもったいないことです。すかさず、「なぜ、つまらなかったの?」と聞き返しましょう。そこで子どもは「どうしてかな?」と映画を思いだし、「つまらない」という漠然とした感情を頭で整理し、分析していきます。これが大切なのだそう。
子「大好きな怪獣が出る場面が少なかったから。それでつまらないと思ったんだ」
親「今度は映画館に来る前にストーリーを少し調べておいてもいいかもしれないね。お目当ての怪獣が出る場面が多いか少ないか、想像できるんじゃない?」
子「うん、今度から調べてみる!」
こんな方向の会話にすすめば、前もって準備する意味や大切さを子ども自身が学ぶことにもなりますよね。子どもとの会話の中で、「なぜそう感じたの?」「なぜそうしたの?」と聞きだせる場面はたくさんありそうです。
同じように、「どのようにしたら宿題を忘れないでやれるかな?」「どうしたら皆が楽しく遊べるかな?」と、子ども自身に “やり方” を考えさせることも効果的だそうです。
子どもに選択させる習慣を
将来、自ら人生を切り拓いていけるような力をつけていくためには、子ども自身が「自分は何をしたいのか」「どんな人間なのか」を充分に知っておくことも必要です。
そのためには、「子どもの自分の判断を尊重し、選択をさせる」ことが効果的だとか。例えば、欧米の子どもは、幼少時から常に選択を迫られて育ちます。何を飲みたいのか、どの靴が欲しいのか、プールに入りたいのかサッカーをしたいのか……。選択をすることで、自分のことがよくわかるようになり、「好き・嫌い」や「イエス・ノー」をはっきりと表現できるように育つのです。
食べ物などを無制限に選ばせるのはよくありませんが、幼少期なら洋服、靴下、おもちゃなど、身の回りのものを子どもに選ばせてみるのはどうでしょうか。学校生活が始まれば、習い事や部活動など、子ども自身が選択をする場面もますます増えていくでしょう。
そんな習慣の積み重ねで、子どもは「自分は何者であるか」「何か得意で何をしたいのか」を確立していくことができます。進学やキャリアといった重大な選択を迫られた際も、何をしたらいいのかわからない、と悩むことも少なくなるのです。
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「考える力」は、小さいうちから日常の中で鍛えていけるスキルです。学校での勉強を通してだけでなく、家庭でもスキルを磨いていければ心強いですよね。ぜひ実践していきましょう!
文/鈴木里映
(参考)
飛田基 著(2017),『世界で800万人が実践!考える力の育て方』,ダイヤモンド社.
星一郎 著(2010),『子どもの考える力を引き出す魔法のひと言』,青春出版社.
日経DUAL|「学びに向かう力」「生き抜く力」が重視される時代に
DIAMONDonline|「インド・欧米に学ぶ「考える力」を伸ばす教育とは
こどもまなびラボ|子どもの考える力を伸ばす「3つの思考ツール」(前編)
こどもまなびラボ|子どもの考える力を伸ばす「3つの思考ツール」(後編)