秋はいろいろな作物が実り、豊かな自然はわたしたちにたくさんの恵みを与えてくれます。近頃は身近に自然を感じられる機会も減ってきていますが、実は多くの企業や自治体で子どもたちと自然を結びつける活動を行なっていることはあまり知られていません。
その中でも、ポテトチップスでおなじみのカルビー(株)では、じゃがいもの栽培や収穫という活動を通して、日本全国の子どもたちに自然の恵みと食の大切さを伝える役割を果たしてきました。
今回は、東北のとある幼稚園で続く活動に焦点を当てて、その活動内容と収穫体験から見られる子どもたちの成長についてお聞きしました。
震災によって変わった“食への意識”
3つのゾーンで構成される園舎。園内にはロッククライミングや大きな滑り台など園児がワクワクするアイデアが盛りだくさん!
お話をうかがったのは、福島県いわき市のかなや幼稚園です。東日本大震災の影響から子どもたちの屋外活動の減少が問題となる中、「思いきり遊んで汗をかける幼稚園」として設計されたこの園では、明るく開放的な室内遊技場で子どもたちが毎日元気よく活動しています。
さて、子どもたちが元気で健やかに成長するためには「食育」が欠かせませんよね。かなや幼稚園でも「食べることの大切さ」を幼児期からの実体験を通して学ぶ姿勢を育むべく、さまざまな取り組みをしています。その一環として、2016年からカルビー(株)の協力のもと「じゃがいも栽培」を年間行事として取り入れており、これまでにのべ149名の園児がこの活動に参加してきました。
そこで、じゃがいも栽培を始めることになった経緯を副園長の圷(あくつ)先生にお聞きしました。
「2011年の東日本大震災後、放射能の問題などもあり、子どもたちが土に触れる機会が激減しました。しかし、子どもたちが“食”を学ぶうえで、畑から野菜を育てる経験というのも必要だと感じていたんです。
そんなとき、カルビーさんからじゃがいもの苗をいただけることになりました。大好きなカレーライスや味噌汁に入っているじゃがいもを育てることで、食の大切さが身につくのではないかと思い、原発問題から6年が経過したタイミングで実施することになりました」
震災後、それまでのように自然に触れたり外で元気いっぱいに遊んだりする機会が制限されてきた東北の子どもたち。そばで見守る大人たちは不安でいっぱいだったかと思います。また、普段の食事にも細心の注意を払わなければならなくなるなど、これまでの日常が一変してしまいました。だからこそ、「安全」「安心」な食物を自分たちの手で育てることは大きな意味をもたらしますよね。
教えてくれるのは畑の先生!
じゃがいもの植え付けは春、4月ごろに行います。地元の農園に協力してもらい、丁寧な指導を受けながら小さな手で一生懸命に植え付け作業をする子どもたち。
「畑の地主さんにじゃがいもの植え付けの方法を教えてもらいます。子どもたちは“畑の先生”の教えをよく聞くので、安心してすべてを任せています」(圷先生)
プロの指導は子どもたちに普段とは違う緊張感をもたらすようですね。幼稚園の先生やご両親以外にも愛情をもって指導してくれる大人の存在は、子どもにとってかけがえのないもの。この経験を通して、ここでしか学べない大事なことを身につけられるでしょう。
等間隔に並べた種いもをじっと見つめる子どもたち。このおいもがたくさんのじゃがいもを育てます
畑の先生に教わった通り、優しく土のおふとんをかけてあげて、おいもをそっと隠します。みんなで一緒に「大きくな~れ~」と願いを込めて、植え付けの作業は完了です。
土のおふとんの中で大きく育ちますように!
それから約2ヶ月。6月には小さな花を咲かせます。え!? じゃがいもの花? あまり知られていませんが、じゃがいもはとても可憐な花を咲かせるのです。その花の様子をスケッチするために、再び畑へと向かうかなや幼稚園の子どもたち。みんなとても真剣な表情で、じゃがいもの成長の過程を記録します。
「おっ上手に描けてるね〜」嬉しい言葉が子どもたちの自信につながります
細かい部分までよく観察して、とても上手にスケッチできました!
自分の手でじゃがいもを掘り起こす意味とは
じゃがいもの植え付けをしてから約3ヶ月。いよいよ収穫の時期がやってきます。ちゃんと育っているかな? ワクワクドキドキの気持ちを抱えてバスに乗り込む子どもたち。
「収穫の方法も畑の先生にご指導いただき、掘り方のコツを丁寧に教えてもらいます。掘っているときには一人ひとりに声をかけてくださるので、子どもたちは大きなじゃがいもを掘ろうと頑張っていますよ」(圷先生)
一人ひとりに丁寧な指導をしてくれます。上手に掘れるかな?
「じゃがいもさんはどこだ〜?」まるで宝探しのようです
土を掘りおこすと、出てくる出てくる、たくさんのじゃがいもたち。びっくりするくらい大きなものから、コロンと可愛い小さいものまで、じゃがいもはさまざまな形・大きさをしています。まるで、一人ひとりキラキラした魅力があふれる子どもたちそのものです。
自分の手で掘りおこしたじゃがいもは、お店で売っているじゃがいもと比べてどうでしょうか? より一層愛着がわくと思いませんか? 子どもたちもそのように感じたらしく、抱えきれないほどのじゃがいもを手にニコニコ笑顔があふれていました。
こんなに大きいじゃがいもが掘れたよ!
自分で収穫したじゃがいもを手に「はい、ポーズ!」
青空の下、広い畑の真ん中で土の感触を両手両足から感じ取ること。自然と一体になって食物を育てるというこの経験が、何事も最後までやり遂げる力や責任感の芽生えにもつながっていくのではないでしょうか。
自然の恵みがもたらす食への意識の変化
子どもたちが一生懸命収穫したじゃがいもが、その後どうなったのかというと……数日後、幼稚園の夏祭りで揚げたてのポテトチップスに変身! 毎年恒例の「じゃがいも収穫祭」として、カルビーの人にも協力してもらい目の前で揚げてくれます。いろいろな味を用意しているので、子どもたちは自分が掘ったじゃがいもで作られたポテトチップスを好きな味付けで楽しむことができるそう。
揚げたてのポテトチップスに子どもたちも大興奮!
数種類の味付けを用意。どの味が一番人気かな?
自分たちで一から育てて収穫し、調理して食べる。
ここまでが、かなや幼稚園とカルビーが行なっている「食育」です。実際に土に触れて成長の過程を記録して、立派に実ったら収穫。そして自然の恵みをしっかりと味わうことで、私たち人間は自然に生かされていることに気づくのです。
「植え付けの時点では茶色の模様だった畑が、2ヶ月後には白い花を咲かせて土の中で立派なじゃがいもを育てます。このように、畑でじゃがいもができる過程を実際に見ることで、今まで当たり前のようにカレーライスなどに入っていたじゃがいもに対して「ありがとう」という感謝の気持ちが増えたように感じます」(圷先生)
かなや幼稚園の園訓である
か「かんしゃのこころ」
な「なかまを思いやるこころ」
や「やさしいこころ」
この3つの心を育むことは、幼児期の子どもたちにとって何よりも大事なことですよね。
最後に、じゃがいもの栽培・収穫活動が子どもたちの心の成長にどのような影響を与えたのかお聞きしました。
「いつも食べているじゃがいも、そしてもちろん他の食べ物も、植えている人がいて、育てている人がいて、雨や太陽の恵みがないと育ちません。「感謝の心」と「食の大切さ」、そのことが実体験を通して子どもたちにも伝わっていると実感しています」(圷先生)
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かなや幼稚園の子どもたちは、大好きなじゃがいもがどうやって育つのか、どのようにして収穫するのか、身をもって知ることができる貴重な体験をしましたね。本や映像で見て知っているつもりでも、実際に土に触れることでしか実感できないことはたくさんあります。実りの秋。ぜひ家族で収穫体験に参加してみてはいかがですか?