日々成長を遂げている子どもの身体と心。「もうこんなに背が伸びたんだね」「ちょっとしたことで泣かなくなったね」と、その成長を見届けることは、親としてなによりの喜びなのではないでしょうか。
でも、成長しているのは身体と心だけではありません。目には見えませんが、子どもの『脳』も “段階的に” 成長することはご存知ですか? その発達段階に適した教育をすることで、本来持っている能力を最大限に伸ばしてあげることができます。
今回は、子どもの年齢に合った『育脳』について詳しくお教えします。
脳には学びの適齢期がある!?
脳医学者の林成之先生は「子どもの脳の発達段階に合わせて育てると、能力を驚異的に伸ばすことができる」と述べています。つまり、脳の成長に合わせた刺激を与えることで、本来子どもに備わっている能力を最大限に引き出すことができるのです。
たとえば、0歳から3歳くらいまでは視覚や聴覚などの「五感」が発達する時期です。だからこそ、この時期にたくさん読み聞かせをしてあげることは、脳にとって非常に良い結果をもたらします。小さいうちから脳に良い刺激はどんどん与えてあげるべきでしょう。
だからといって、脳の仕組みを理解しないまま、闇雲にたくさんの習い事をさせることはあまり意味がなく、子ども自身にもあまり良い影響を与えません。東北大学加齢医学研究所の瀧靖之教授は、次のように述べています。
使う脳の部分によって、伸ばしたい能力によって、成長の始まるタイミングは違います。脳は、そんな性質を持っているのです。
ある能力が一番伸びやすい時期に、その能力に関係する習い事を始める。次の時期になったら、違う習い事を試してみる。
それを繰り返すことで、子供の能力を効率的に伸ばすことができますし、子供自身が感じる学習ストレスを大幅に減らすことができるのです。
(引用元:瀧 靖之(2016年),『「賢い子」に育てる究極のコツ』,文響社.)
脳の発達段階に合わせた学習は、成長に沿って無理なく結果に結びつくので、親にとっても子どもにとってもストレスなくスムーズな学びにつながるのです。
【年齢別】脳の発達段階:0歳~3歳
文教大学教授で小児科医の成田奈緒子先生は、0歳~3歳は『からだ脳』が成長する時期だといいます。『からだ脳』とは「動物として生きるための脳」であり、基本の生活習慣や愛情形成をはぐくむ時期です。
だからこそこの時期には、太陽の動きに合わせた起床・就寝、おいしい食事、ふれあいや声かけ、散歩など、五感からの刺激が何よりも大切。脳神経細胞が増え続ける時期なので、未熟な脳に負担をかける知識の詰め込みはNGです。また、要求をそのまま言葉や行動に表す時期です。わがままをおおらかに受け止めてあげて、我慢できたときはたくさん褒めてあげましょう。
■0歳〜3歳に適した育脳
この時期には耳を鍛えることが有効です。遊びの中に歌や楽器を取り入れると◎。できれば音階のあるものを使いましょう。ドレミの音階を聞き分ける能力を鍛えておくと、集中力や反射神経などが良くなります。
まだ子ども自身の「好き・嫌い」の判断が未熟なので、脳がたくさんの情報を受け入れられるように工夫しましょう。たとえば、「お母さんは虫が嫌いだから、虫の図鑑は置かない」と大人中心に物事を判断するのではなく、できるだけたくさんのジャンルに触れさせてあげるといいですね。
【年齢別】脳の発達段階:3歳~7歳
3歳~7歳は『おりこうさん脳』が成長する時期。『おりこうさん脳』とは「人間らしさの脳」ともいえます。
この時期は、思考の中枢となる大脳皮質や、まっすぐ立ったり指を使って作業したりするための運動機能を調整する小脳が鍛えられます。そのため、勉強・スポーツ・芸術などに必要な言語機能や、手先を使った微細な動きといった知能全般の発達が期待できる時期なのです。
大人との会話や遊びから刺激を受け始め、幼稚園や学校などでさらにたくさんの人たちとの関わり合いによって飛躍的な成長を遂げます。昼間たっぷり刺激を受けて、夜眠っている間に神経回路網として定着させていくため、日中の過ごし方が重要になるでしょう。
■3歳~7歳に適した育脳
この時期は、勉強もスポーツもできる脳を育てましょう。まずは、正しい姿勢と歩き方で体のバランスを鍛えることを意識します。良い思考力には正しい歩き方が大切。身体のバランスが整って視覚的に正しい空間認知ができることによって、脳に良い影響を与えるのです。
正しい姿勢で正しく筋力を使う運動がおすすめです。縄跳びやキャッチボールなどは空間を予測しながら遊べるため、空間認知能力を伸ばす効果が期待できます。
また言語能力が発達する時期なので、言い訳をするなど口が達者になったと感じることも。以前に比べて親の言うことに反論するようになったと思っても、まずは子どもの意見を聞き入れましょう。それで失敗しても大丈夫です。「失敗して、考えさせて、行動を変えさせる」の繰り返しが脳を育てます。
■巧緻運動を取り入れると◎
細かい動作をする「巧緻運動」をつかさどる運動野がピークに発達するのがこの時期、とくに3歳~5歳であると言われています。
考えながら手を使うことによって、頭でイメージしたとおりに身体を動かす「錘体路(すいだろ)」という神経回路が発達するため、紙を折ったりハサミで切ったり、のりで貼ったりといった手指や身体の器用な動きを取り入れた遊びがおすすめです。
また楽器の習い事を検討しているのなら、この時期に始めるといいでしょう。楽器の演奏は聴覚を発達させる効果もあるため、聴覚野のそばにある言語野にもいい刺激を与えます。前出の瀧靖之教授も、「この時期に楽器や運動を始めたことで身につけた能力は、将来、種類や競技を変えたとしても「基礎的な能力」として、その子のプラスになる」と強くすすめています。
【年齢別】脳の発達段階:7歳~10歳
7歳~10歳は『こころ脳』が成長する時期。いわゆる「社会の脳」ともいえる『こころ脳』の成長時期は、言語の発達がピークを迎え、語学力が総合的に伸びます。大人と変わらない話し方をするようになり、相手によって言葉を使い分けることができるようになるなど、著しい成長を感じる親御さんも多いはず。
さらに、相手の表情を読み取る、必要なときには我慢する、想像力を駆使して何かを作り出すといった能力が伸びることで、コミュニケーション能力や集中力、想像力、自制心などが鍛えられます。
■不安定な子どもの心とどう向き合う?
自分が他者から認められ、受け入れられていると実感することで、自己肯定感が高まり自立と自律が進む大事な時期なので、本格的な思春期に入る前に親子間の信頼関係をしっかりと築く必要があるでしょう。
たとえば、家族の前で弱音を吐いたときには決して突き放さず、まずは共感して安心させることが大切です。小学校高学年、『こころ脳』の完成時期に近づくと、子どもは社会(学校)では理性的にふるまえるようになる一方で、家庭ではまだまだわがままを言ったり甘えたりすることも多いでしょう。そこで、親は子どもの甘えを受け止める余裕を持つことを心がけなければなりません。
赤ちゃんや幼児のころに比べると、ほとんど手がかからなくなる時期ですが、心が不安定になったり親に反発したりすることは格段に増えます。親として心配になりますが、必要以上に不安にならずに、いつでも落ち着いた穏やかな対応を心がけたいですね。
■7歳~10歳に適した育脳
情報伝達回路がさらに発達して大人の脳に近づく時期であり、本格的な学習を始めるのにベストなタイミングです。言語野が発達するので、語学の学習に挑戦するといいでしょう。
ただしこの時期は、基本的に子ども扱いするのはNG。「自分でやりたい」気持ちが働いているので、子ども扱いしてその芽を潰さないようにしましょう。質問形式で「どうしたいのか」「どうするのか」を自分で考えさせて、自分で決めさせます。親御さんはそれを達成できるようサポートしてあげるだけで大丈夫。この時期の脳には「指示・命令」は避けるべき、と覚えておきましょう。
また『こころ脳』を育てるには、勉強や習い事よりも責任を持って家事をする方が効果が期待できます。家事は注意力、同時処理能力、段取り力、処理速度が鍛えられるので、家事を通じて試行錯誤することが脳への刺激になるのです。
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10歳を過ぎると、思考やコミュニケーションなどの高次認知機能をつかさどる前頭前野が著しく発達します。そのときにしっかりとした社会性を獲得するためにも、『からだ脳』『おりこうさん脳』『こころ脳』がちゃんと育っている必要があるのです。お子さんの豊かな未来のために、脳の発達段階を考えながらサポートしてあげましょう。
(参考)
林 成之(2011),「子どもの才能は3歳、7歳、10歳で決まる! 脳を鍛える10の方法」,幻冬社新書.
瀧 靖之(2016年),『「賢い子」に育てる究極のコツ』,文響社.
PHPファミリー|年齢別!子どもの脳を育てる甘えさせ方
洋泉社MOOK(2017),『子どもの脳を伸ばす 最高の勉強法』, 洋泉社.