教育を考える/教育メソッド 2025.5.30

子どもの「吸収精神」とは? モンテッソーリ教育で育む0~6歳の力【Udemy講師・神原えみ先生解説】

子どもの「吸収精神」とは? モンテッソーリ教育で育む0~6歳の力【Udemy講師・神原えみ先生解説】

子どもには幸せでいてほしい。笑顔で、自分らしく、健やかに生きてほしい。きっと、そんな願いを胸にこの記事にたどり着いたのではないでしょうか。もしかしたら、「今の子育て、本当にこれでいいのかな……」「もっといい教育方法があるなら、知りたい」そんな想いが、あなたの心のどこかにあるのかもしれません。

それなら、ほんの数分だけ、お時間をください。きっとこの記事との出会いが、あなたとお子さんの毎日を変えるヒントになります。じつは、子どもの「よりよく生きる力」を伸ばす方法は、100年以上も前にすでに見つかっています。ですが、残念なことに日本ではまだ一部のご家庭にしか知られていないのが現状です。

はじめまして、神原えみと申します。私はAMI(国際モンテッソーリ協会)認定のモンテッソーリガイド(教師)であり、2児の母です。普段は、「ママもこどもと同じくらい自分を大切に」を軸に活動をしています。

この連載では、私が子どもたちと関わるなかで日々感じている「モンテッソーリ教育の本当の意味」をとらえ、それをご家庭での子育てのなかにどういかしていけるのか、丁寧にお伝えしていきます。今回のテーマは「吸収精神」です。

監修者プロフィール


神原えみさま

神原えみ(かんばら・えみ)AMIモンテッソーリ教師

小学生2児の母。AMIモンテッソーリ教師ディプロマ取得。「ママも子どもと同じくらい自分を大切に」をテーマに活動。代表著書『0~2歳 分かりやすい!モンテッソーリ教育』『幼児教育をはじめる前に読む本』、バイリンガル書籍『ORIGAMI はじめてのおりがみ』シリーズなどを出版。著者名「モンテッソーリガイドえみ」として海外にも発信中。Udemy・ストアカ講師として、子育て中のママが自分らしく過ごすための講座を展開しています。

 

「吸収精神」とは何か

この考え方を知ったあなたは、子どもへの接し方がきっと変わる。それが、モンテッソーリ教育の中核にある考え方、「吸収精神(The Absorbent Mind)」です。

吸収精神とは何なのでしょうか。一言で言うと、吸収精神とは子どもが「環境からあらゆることを全て吸収する能力」のことです。私たち大人が何かを学ぶとき、それは「意識的」に学習します。本を読んだり、ネット上で調べたり、時間をかけて記憶します。一方、子どもは“努力せずに” “自然に” “意識せずに” 吸収します“私達大人とこどもは違う”のです。

「誰も教えていないのに、いつのまにか仕草やしゃべり方がママにそっくり」そんな姿に見覚えがありませんか。それこそがこの “吸収精神” です。

目で見たもの、耳で聞いたこと、周囲の大人の振る舞い……あらゆる環境をそっくりそのまま吸収し、無意識に取り入れ、やがてそれが「その子らしさ」になっていきます。

そっくり親子

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「吸収精神」がはたらくのは0~6歳まで

吸収精神がはたらくのは、0歳から6歳までです。それ以降は、この特殊な能力は消えてしまいます。吸収精神の時期に子どもが無意識に吸収するものには、たとえば以下のようなものが含まれます。

  • 大人が何気なく使っている言葉
  • 感情の表し方
  • 食事のマナーや生活リズム

この力を意識するか、もしくはまったく知らずに過ごすかで子どもの将来や、親のありかたが変わります。この時期にどんな環境に身を置くかが、子どもに直接的な影響を大きく与えるのです。

親子で料理をする画像

モンテッソーリ園での「吸収精神」を生かした教具

吸収精神を知るため、モンテッソーリ園を少しのぞいてみましょう。

ここで、モンテッソーリ教育の基本的な概念をご説明します。「教具」とは、モンテッソーリ教育で利用する特定の道具のことです。これらの教具は、子どもが自分で間違いに気づけるように作られており、大人が教えなくても子どもが自然に学べるよう工夫されています。また、「お仕事」とは、子どもが取り組む活動のことを指します。モンテッソーリ教育では、子どもの学習活動を「遊び」ではなく「お仕事」と呼びます。

吸収精神の特性を生かした教具に、“幾何タンス”というお仕事があります。

幾何タンスの画像

子ども達は、幾何タンスという教具を利用して、「台形」、「ひし形」、「鈍角不等辺三角形(どんかくふとうへんさんかっけい)」などの名称を、指で触りながら、言葉の名称を全く苦労することなく吸収します。公立の小学校では高学年で初めてでてくる言葉も、モンテッソーリ園では触れる機会があるのです。

環境からすべて吸収するこども

◆大人の言葉

たとえば「ワンワンかわいいね」「ブーブーが通ったね」「○○でしゅか(赤ちゃんことば)」。あなたは子どもにこんな言葉を使っていませんか。

モンテッソーリ教育では、犬のことを「ワンワン」と教えると、子どもは「ワンワン」と「イヌ」という別々のものが存在すると誤解し、混乱すると考えられています。先程の例でもお伝えしたように、子どもは、「鈍角二等辺三角形(どんかくにとうへんさんかっけい)」という言葉も「こんにちは」と同じ感覚で吸収します。あかちゃん言葉を使わず、大人が使う言葉をそのまま子どもに伝える必要があります。

◆親の生活態度

吸収精神の力は言葉だけではなく、人の動き、生活態度にも働きます。

冷蔵庫の下のドアを無意識に足で閉めていませんか。とてもお恥ずかしいことに、私は以前、無意識にやっていました。ある日、気が付くと2歳の子どもがそっくりそのまま真似をしていてハッとしてすぐに行動を改めたことを思いだします。

子どもは、言葉だけでなく、あなたの日常の態度、所作をまるごと、しかもとても細かいところまで吸収します

◆親の表情

マリア・モンテッソーリ氏は吸収精神を書籍のなかでカメラにたとえています。

「カシャッとシャッターが押されると、全ての物が突然にカメラに入ります」

(引用:マリア・モンテッソーリ(2016),『1946年ロンドン講義録』, 風鳴舎.)

子どもの心は、アプリで加工することのできないカメラです。何もかも、すべての現実をまるでカメラに写したかのように、詳細に吸収します。たとえば、ママがいつもニコニコしていればその表情を吸収します。そして、その逆ももちろんすべて吸収してしまうのです。あなたは、どんな表情や態度を子どもに吸収してもらいたいですか。

女の子が手の枠を作って見つめている画像

子どもの吸収精神を働かせるために家庭ですぐに取り組めること

◆吸収してもらいたい環境を整えよう

子どもにどんな表情を吸収してもらいたいですか。いつもイライラ、怒りっぽい。もしくは、穏やかに笑っている……。後者の方が圧倒的に多いですよね。まずは、ご自身が子どもに対してどんな表情や態度で接しているか少し立ち止まって考えてみましょう。

家のなかの環境はいかがですか。シンプルで清潔、整った環境、もしくはちらかった部屋、子どもにどちらの環境を吸収してもらいたいですか。環境の詳しい整え方はまた別の記事でお伝えしますね。

積極的に家事に参加させよう

洗濯、料理、掃除——日々の家事は、じつは子どもにとって学びの宝庫です。歩き始めたばかりのお子さんは目が離せなくて大変ですよね。決まった場所にいてもらい、安全を確保するのも、大切なことです。

でも、もしおんぶ紐を使って、あなたが料理をする姿を見せてあげられたら、それはお子さんにとって、とても貴重な吸収する環境になります。もう少し年齢が上がってくると一緒に料理つくりを楽しむこともできますよね。

「環境から吸収する」ことこそが、子どもにとって、自然で深い学びになります。積極的に家事に参加できる環境を意識してみてください。

正しい言葉遣い、豊富な語彙を意識しよう

大人の言葉づかいや表情、態度は、すべて子どもの心に染み込みます。正しい言葉遣い、豊富な語彙を意識しましょう。「あれ」ですませず、正式な名前を意識してみてください。

また、「うちの子なんて……」という謙遜を使うのをやめましょう。子どもは、言葉をそのまま受け取り、吸収します。大好きなママ・パパが「ぼく、私のことをよく思っていない」と無意識に吸収してしまうことは避けたいですよね。

***
心に余裕をもち、笑顔でいることを意識してみてください。すると、不思議なほど、子どもも自然と笑顔になります。これはとてもシンプルなことですが、じつは非常に大切なことです。

吸収精神が働いている子どもは、私たちが想像する以上に、多くのことを学び、日々蓄積しています。親の笑顔、言葉、しぐさ、それらすべてが、子どもにとっての「環境」そのものです。そして何より、ママ・パパがこの吸収精神の存在を理解し、自らの「あり方」に意識を向けることこそが、吸収精神を育むための最大の環境なのです。

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(参考)
マリア・モンテッソーリ(2016),『1946年ロンドン講義録』, 風鳴舎.