教育を考える/教育メソッド 2025.6.17

日本のママは頑張りすぎ! ママの余裕が子どもの心を育てる——「よはく」をつくる子育て術【Udemy講師・神原えみ モンテッソーリガイド第2回】

神原えみ
日本のママは頑張りすぎ! ママの余裕が子どもの心を育てる——「よはく」をつくる子育て術【Udemy講師・神原えみ モンテッソーリガイド第2回】

朝の準備でバタバタしていたとき、「早くしてっ!」と強い口調で言ってしまった私。

すると、すぐあとに娘がまだ2歳の息子に向かって、まったく同じ口調で「早くしてっ!」と叫んだのです。その瞬間、ハッとしました。まるで鏡を見ているかように、私の言葉が、私の態度が、そのまま子どもに映っていたのです。

「これじゃいけない」そう思ったとき、心の奥に浮かんできたのは、“もっと優しく接したいのに、余裕がない…”という、母親としての切ない本音でした

こんにちは、神原えみです。私はAMI(国際モンテッソーリ協会)認定のモンテッソーリガイド(教師)であり、2児の母です。普段は、『ママもこどもと同じくらい自分を大切に』を軸に活動をしています。

本記事は、連載「モンテッソーリ教育ガイド」第2回目。「モンテッソーリ教育の本当の意味」を捉え、私が子どもたちと関わるなかで日々感じていることを、みなさんのご家庭での子育てのなかにどういかしていけるのか丁寧にお伝えしていきます。今回は「親自身が心に “よはく” をもつこと」がいかに子どもによい影響を与えるのかについて、海外との比較、そして日本の制度活用方法をまじえて、ご紹介していきます。

ライタープロフィール

神原えみさま

神原えみ

AMIモンテッソーリ教師

小学生2児の母。AMIモンテッソーリ教師ディプロマ取得。「ママも子どもと同じくらい自分を大切に」をテーマに活動。代表著書『0~2歳 分かりやすい!モンテッソーリ教育』『幼児教育をはじめる前に読む本』、バイリンガル書籍『ORIGAMI はじめてのおりがみ』シリーズなどを出版。著者名「モンテッソーリガイドえみ」として海外にも発信中。Udemy・ストアカ講師として、子育て中のママが自分らしく過ごすための講座を展開しています。

親の “心のよはく” が子どもの発達に与える好影響

◆子どもは環境のすべてを吸収している

モンテッソーリ教育では、「子どもは自己教育力を持っている」と考えます。それは、子どもが本来、自ら学び、自ら育とうとする力を内に備えているということです。しかし、その力がのびのびと発揮されるためには、「安心できる環境」と「関わる大人の在り方」が欠かせません

そこで大切にしたいのが、「ママのよはく」です。ママがリラックスし、心に余裕をもって子どもと関わることで、子どもは安心し、自分のやりたいことに集中できるようになります。

◆言葉がけひとつで変わる子どもの自己肯定感

たとえば子どもがミスをしたとき、「またやったの?」と責めるのか、「大丈夫、一緒にやってみようか」と声をかけられるか。その違いが、子どもの自己肯定感や「やってみよう」という挑戦の気持ちに大きく影響します。

モンテッソーリ教育が大切にする「吸収精神」の時期にある子どもは、大人の表情、言葉、姿勢、すべてから学んでいます。だからこそ、親自身が「自分を大切にし、心に余裕をもった姿」を見せることは、子どもが「自分を大切にする方法」を身につける、大切な学びになるのです。

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じゃれる親子の画像

◆子どもをよく観察できる

モンテッソーリ教育では、「観察する時間」をとても大切にしています。子どもを丁寧に観察することで、その子がいま何を求めているのか、そして大人がどこまで手を差し伸べるべきかを見極めることができるからです。

余裕がないと、なかなか子どもをゆっくりと見ることはできませんよね。「どうして泣くの?」「また癇癪……もう疲れた」そんなふうに感じていた毎日が、ゆとりとモンテッソーリ教育の知識をもつことで、「ああ、だから泣いていたのね」と子どもの気持ちを受け止められる日常に変わったら、素敵だと思いませんか

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日本のママは過酷!? 海外との現状比較

でも、そうは言っても現実は厳しいですよね。朝食の準備、子どもの着替え、保育園や学校の準備、そして自分の仕事の支度。気がつけば、子どもに笑顔を向ける余裕すらない。家に帰れば、夕食の準備、片付け、明日の準備……目まぐるしい毎日に、子どもが甘えてきても、心のどこかで「いまは無理……」と感じてしまうこともあるかもしれません。

しかしそれは全てあなたがやらなきゃいけないことでしょうか? 子どものためにも、日本のママがいる現状を少し立ち止まって見てみませんか?

日本では、諸外国に比べ、家事や育児にかける時間も、男女問わず非常に多いのが実情です。私自身、アジアやヨーロッパに住んだ経験があります。そこで感じたのは、日本よりも、海外のほうが、子どもを社会全体で育てるという雰囲気があるということです。かたや日本では、子どもを、特にママが四六時中見ていなければならないという社会的なプレッシャーを感じます。

育児時間の表(引用:内閣官房こども家庭庁設立準備室)
(https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/kodomo_seisaku_kyouka/dai1/siryou5.pdf)

上記の日本のママ・パパが働きながら育児をする現状に関する資料を見てみましょう。

■子育て世帯が直面する “時間労働の壁”

日本では、長時間労働者が多く、男性:約 22%、女性:約 7%です。この比率は諸外国 と比べても高く、特に男性の突出ぶりが目立ちます。

■父親の家事・育児時間は “世界最短クラス”

6歳未満の子どもをもつ父親が、家事や育児に充てる時間は 1日平均2時間未満です。ドイツ・アメリカ・スウェーデンは、約3時間。つまり、日本のパパは他国より約1時間短い計算です。

■母親の負担はさらに重い

一方、ママが家事・育児に費やす時間は1日約7時間です。これは他国の母親よりも 約1時間長く、父親とのギャップをさらに広げています。男性の働き過ぎと母親への育児の負担がわかり、日本の子育て世帯を追い込んでいることが一目瞭然です。

見つめ合う親子の画像

■ベビーシッター利用率の圧倒的な低さ

また、内閣府によるベビーシッター利用状況では、先進国中、他国は約40%の利用があるなか、日本のベビーシッター利用率は5%以下です。このデータから、他国と比較した場合、日本の利用率は極端に低いことがわかります。

ベビーシッター利用率

(引用:第2-2-17図 ベビーシッター利用の現状 – 内閣府)

このデータからも、日本のママ・パパの働き過ぎと母親への育児負担の集中していることを示していますもっと人の手を借りてもいい、頑張りすぎなくていいと感じていただけるのではないでしょうか。

子育て支援サービスという選択肢も

ベビーシッターは費用の面で心配という場合は、もう一つの選択肢に行政の子育て支援サービスがあります。たとえば、「ファミリー・サポート・センター(ファミサポ)」という制度をご存じでしょうか? 地域のなかで、育児の援助を受けたい人と、援助したい人をつなぐ仕組みで、送り迎えや一時預かりを1時間数百円で利用できるケースもあります。

しかし、これらの制度があっても、「知らなかった」「どこで申請すればいいのかわからない」といった声も少なくありません。まずは、あなたの住む自治体のホームページを確認し、「子育て支援」「一時預かり」「ベビーシッター補助」などのキーワードで検索してみてください。問い合わせ窓口に電話するのも、まったく問題ありません。むしろ、それが「一歩踏み出す」勇気になるかもしれません。そして何より大切なのは、「頼ってもいい」という心の許可を自分に与えることです。

ベビーシッターの画像

私自身、子どもが小さい頃にベビーシッターやファミリーサポートを利用してきました。その経験のなかで見えてきた「頼るときに気をつけたいこと」や、「ママの生活によはくをつくる工夫」について、実際に役立った家電やサービスも含めて、1冊の本にまとめました。

忙しい毎日のなかで少しでも心のゆとりをつくりたい方は、ぜひ手に取ってみてください。

新生児のママへ:幼児教育を始める前に読む本

新生児のママへ:幼児教育を始める前に読む本【子どもと同じくらい自分も大切に】

神原えみ著
参考価格:1,650円

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頼っていいよ。ママが子育てに “よはく” をつくる3ステップ

「ママが全部やらなきゃ」と背負い込み過ぎていませんか? 頑張ることは素晴らしいです。しかし、自分自身に余裕をもたせることは、子どものお手本となるためにも、もっと素晴らしいことです。生活によはくを取り入れるために考えてみましょう。

■自分にしかできないことは、どれくらいある?

3つにタスクを分けて考えてみましょう。「頼めること」「頼みたくないこと」「あなたにしかできないこと」。あなたが抱えているタスクを割り振ってみてください。

1. 頼めること

子どもの世話や家事を人やテクノロジーに頼ってみませんか。シッターさん、ファミサポ等の行政サービス、便利な家具家電を活用する方法があります。「親だから○○すべき」という思い込みは横に置きましょう。

2. 頼みたくないこと

「ここは自分でやりたい」と感じる領域です。寝かしつけ、手作り弁当などがありますね。“好き” や “癒やし” が理由なら素敵ですね。ただし 状況が変わったら 「1.頼めること」 にスライド しても大丈夫です。

3. あなたにしかできないこと

じつはごくわずかです。たとえば、母乳育児中の授乳が代表的です。「全部私がやらないと……」と思い込みがちな家事・育児も、ほとんどが他者とシェアできます。そう気づくだけで、心がふっと軽くなりませんか?

***

子どもに関わる最高のギフト、それは、私たち自身の抑制力を高める練習ができることです』— モンテッソーリの著書より

このギフトは、親である私たちが自分自身や環境をコントロールする力を育むチャンスでもあります。子どもと関わることで、自分の心の状態や生活環境を見つめ直す機会を得られるのです。

もしあなたも、いまの自分の環境を少しだけ見つめ直し、子どもとの関わりを通してこの贈り物を受け取ってみたら、きっと、毎日がもっと優しく、意味のあるものになるはずです。

モンテッソーリ教育では、子どもは環境からすべてを吸収し、大人の言葉や態度もそのまま吸収すると考えます。だからこそ、親が穏やかで落ち着いた関わりを見せることは、子どもの安心感や自己肯定感を育むうえで欠かせません。また、心に余裕があることで、子どもと丁寧に向き合い、その様子を観察する時間が生まれます。あなたの余裕、よはくのある表情こそが子どもの生活の土台であり、素晴らしい環境なのです

子どもためにも、ママが「すべてを抱え込まない」という選択肢を、自分に許してみてはいかがでしょうか。