子どもが1歳を過ぎて好奇心旺盛になる頃、クレヨンや鉛筆を初めて握る子も多いのではないでしょうか。お絵かきというにはまだまだ、画用紙にぐちゃぐちゃと「何かを」描いて楽しそうにしている姿は微笑ましいものでしたよね。
そんな何気ない「お絵かき」には、大切な成長の軌跡をみることができるのです。今回はお絵かきの効果、そしてそれを見守る親が留意すべき点についてご紹介します。
「お絵かき」のメリット
まず、子どもにとっての「お絵かき」は、どんな意味があるのでしょう。
「お絵かきは、子どもが生まれてはじめて挑戦する、創造性を伴った自己表現」
(引用元:マイナビニュース|絵の上達だけじゃない!お絵かきのメリットとは?)
確かに、子どもは文字よりも先に絵を描き始めますよね。そして、自己表現としてのお絵かきは、子どもの成長に重要な役割も果たしています。
それでは次に、お絵かきのメリットを挙げてみましょう。
指先のトレーニングが脳の発達を促す
指の神経は脳神経と直接つながっています。つまり、指を動かすことで脳神経が刺激され、脳の発達が促されるのです。指先を繊細にコントロールするトレーニングは、体を制御する術を学んでいくことにもなります。そのため、たくさんお絵かきをした子は文字の習得も早い傾向にあるそうです。
また、絵を描くことで、空間を立体的に捉えられるようになります。そのため、その後の算数の図形問題にも苦手意識なく取り組めるようになるそう。また、3歳くらいからは観察を通して試行錯誤を繰り返しながら絵を描くようになるため、論理的思考力やコミュニケーション力の素地も作られるという、予想以上のメリットが。
感性が育つ
絵を描くことは観察すること。その過程で視覚、触覚、嗅覚、聴覚など、さまざまな感覚を使います。公園では生い茂る木々の美しさや虫たちの生き生きとした命を感じるかもしれませんし、街にあふれる鮮やかな色に目を奪われる子もいるかもしれません。
たくさんのものに気づき、気を向けることで、色彩感覚だけでなく人としての感性を高めることにもなります。描くことで「観察力」「想像力」「表現力」が身につくのです。
こころの安定に役立つ
描くことは自己表現のひとつ。成長期の子どもは乾いたスポンジが水を吸収するようにどんどん知識や情報がインプットされていますが、「入れる」ばかりでなく、時にはアウトプットも必要なのです。絵を描くことで、こどものこころに溜まっていた感情が発散され、心の安定をもたらします。
絵画教室の先生によると、存分にお絵かきして帰っていくこどもたちの表情は、来たときより清々しいとか。言葉での表現がもどかしいからこそたまるストレスもあるのでしょうね。
「お絵かき好き」を育む環境
お絵かきが得意な子と苦手な子がいますが、その差は絵を描く量。運動と同じで、絵も描けば描くほど上手になるのだそうです。
では、どうすれば子どもは「たくさん絵を描きたい!」と思うようになるでしょうか? それはもちろん「楽しい!」と思えるときですよね。そのために親が留意してあげたいことがあります。それは「絵を描く」場面だけにとどまりません。
寛容であること
子どもが描いた絵に対してだけでなく、日頃の失敗などにも厳しくなりすぎないことが大切です。怪我をして痛みを知ることでやってはいけないことを学ぶなど、子どもたちは成長過程で失敗からたくさん学びます。失敗しても「描きなおせばいい」と思えることが「お絵かき好き」を育みます。
また、家でお絵かきする際、親が気になるのが「汚れること」ですよね。紙からはみ出して描いてしまい床やテーブルが汚れてしまうのが気になるなら、画用紙のサイズを大きくしてみる、クレヨンなどで服が汚れるのが心配ならば、いくらでも汚していいお絵かき用の服を用意する、など。親のストレスをなくす工夫が、子どものお絵かきへのハードルを下げます。そして描いた絵を否定しないことも、とても大事です。
お手本ではなく、描く手順を教える
決まったテーマで絵を描くとき、お手本を渡してしまうとそれを真似しようとしてしまいます。それよりも、描き方を示すほうが、本人の能力を伸ばすことができます。子どもの造形教室「手の教室」(東京都大田区)によると、子どもが絵を描くときの作業順番はこのようになっています。
(1) 対象を必要な「部品」に切り分ける
(2) それぞれの部品を丸、三角、四角、線などのパターンにおきかえる
(3) これらのパターンを画面に配置する
(引用元:手の教室|子どもの絵を育てる)
描けないときは、この手順のどこかでつまずいているのだそう。そんなときは、テーマ(対象)のメインのパーツを言葉でイメージさせてあげるようなサポートが有効なのだとか。「顔はどんな形?」「耳はどんな形?」など、時間はかかりますが、自分でイメージして表現することがとても大事なのです。
観察力や感性を磨く
絵を描くための準備として観察力や感性を磨くために、生活の中で役立つことはたくさんあります。お絵かきとは無関係に思えるようなことも、実は、子どもたちの感性を磨くポイントとなっているのです。
お手伝い
野菜を切ったり、洗濯物をたたんだり。お手伝いの際いろいろなものに見て、触れて、行動することで好奇心が育まれます。
読み聞かせ
映像を持たない読み聞かせは子どもの想像力を育みます。また、日常会話では使わない言葉も出てくるので語彙の学びにも。親の優しい声がもたらす子どもの心の平穏は最大のメリットです。
造形的遊び
積み木やレゴブロックなど立体を伴う遊びは、部品を組み合わせる作業。部品もないところから描き上げるお絵かきよりもハードルが低く、絵がうまく描けない子でも楽しめるという特徴があります。手順をイメージする、立体を把握するなどのトレーニングとして有効です。
生活の中のさまざまなことが「お絵かき」につながっていくのですね。
親が言わないほうがいいこと
絵を描く楽しさを伝える「ラクガキノート術」の著者タムラカイ氏は、子どものお絵かきをサポートするとき、できれば言わないほうがいい言葉を2つあげています。
- 自由に描いていいよ
- 上手だね
どちらもとても肯定的な言葉なのにどうしてでしょう?
おとなは自身の常識から外れた子どもの発想や行動を見て「子どもは自由だ」と感じるわけですが、子どもからしてみると「常識」という概念自体がないので、「自由に」と言われても困ってしまうのだとか。それよりも、何を描くかのきっかけやテーマを与えてあげて、その後は思いのままに描くサポートをするが理想的だそうです。
また、「上手だね」という言葉は、子どもに「上手じゃないといけない」と思わせてしまいます。そもそも「上手」の定義はなんでしょう? 大人にとっては写実的であることが多く、そうすると子どもも対象と「そっくり」な絵を描くことを目指し始めてしまいます。
お絵かきの正しい声かけは、「絵を描くのは楽しいね!」「〇〇ちゃんの絵、お母さんは好きだな」など、褒めるべきは「絵を描いたこと」。そうすれば子どもは「もっと絵を描きたい!」と思うようになり、お絵かきが好きになるのではないでしょうか。
***
考えてみると、おとなになった私たちは「絵は下手なので……」と言っていることが多いような気がします。子どもの頃は誰しも気ままに絵を描いていたはずなのに、多くの人がいつの日からか苦手意識を持ってしまうのです。
その始まりは「写実的にうまく描けない」というジレンマが原点であることに気づかされます。おとなになった今だからこそ、まだまっさらな子どもと一緒にお絵かきを楽しんでみると、お互い新しい発見がありそうですね。
(参考)
ベネッセ教育情報サイト|子どもと楽しくお絵かきをしよう!メリット&注意点をご紹介
マイナビニュース|絵の上達だけじゃない!お絵かきのメリットとは?
AllAbout|こどもの絵画上達を妨げる!やってはいけない5大NG
手の教室|子どもの絵を育てる
タムカイズム|子供とお絵描きをする時、できれば使うべきではない2つの言葉とその対策