あたまを使う/サイエンス 2018.5.11

【米村でんじろう先生インタビュー 第3回】子どもの目がキラキラ輝く! おうちでできる理科・科学の実験

【米村でんじろう先生インタビュー 第3回】子どもの目がキラキラ輝く! おうちでできる理科・科学の実験

「理科の実験」と聞くと準備が大変そうだし、時間も場所もお金も必要。だから忙しいうちでは無理……と思いがちではありませんか? でも、それはとてももったいないこと。じつはおうちのなかで簡単に楽しめる理科の実験は、意外とたくさんあるのです。

大切なのは、遊びの延長としての「実験ごっこ」を子どもと一緒になって気軽に楽しむこと。サイエンスプロデューサーの米村でんじろう先生が、日常生活のなかでも簡単に楽しめる理科実験のアイデアを教えてくれました。

取材・文/辻本圭介 写真/石塚雅人

おうちで楽しめる「非日常」な原体験。まずはお風呂で一緒に楽しんでみよう!

まず最初は、理科の実験と意気込むのではなく、「実験ごっこ」で遊ぶくらいのつもりで子どもと一緒に楽しむことが大切だと米村先生。ごっこ遊びと発想を変えれば、おうちのなかでもどこでも、気軽に楽しむことができそうです。

「理科の実験なんてうまくいかなくてあたりまえ(笑)。まずは、子どもと一緒にやることに意味があるんです。子どもにとっては、非日常的なことをやるだけでワクワクするもの。一緒にお風呂に入るときなど、生活のワンシーンを利用するといいですよ。たとえば、『今日はドライアイス風呂だよ!』と言って、湯船にドライアイスを入れてぶくぶくさせるだけでも、子どもたちは面白くて大騒ぎします。そして、そのとき一緒に氷も入れてみるのです。すると、ドライアイスは沈むのに氷は水に浮く。つまり氷は水より軽いわけで、じつは自然界では水に浮く物質のほうが珍しいんです。そんな理科の豆知識を、ちょっと付け加えてあげれば十分です(※)」

(※ドライアイスは約‐80℃と非常に冷たいものです。使うのは少量にして、直接肌に触れないようにしましょう。また、ドライアイスは気体の二酸化炭素になるため、お風呂で使用するときは換気をしてください。注意して取り扱うようにしましょう)

暑くなる季節には氷風呂もおすすめ。ポリ袋に水を入れて冷凍庫で冷やしておけば、それだけで「ミニ氷山」の完成です。それを湯船に浮かべるだけでも、子どもたちにとっての非日常な出来事になります。

「大きい氷だと水面から少ししか見えないので、そこではじめて『氷山の一角』という意味が実感を持ってわかります。そこで『タイタニック号』の話でもしてあげれば、子どもたちはリアルに想像を膨らませることができるというわけです」

それこそ、いまはインターネットで『タイタニック号』について簡単に調べることができ、映像作品も観られますが、実際にお風呂で再現した氷山を手で触るのとでは、体験の「濃度」がまったくちがうというわけです。米村先生推薦のお風呂遊び学習はまだまだあります。

「お風呂でちゃぷちゃぷ音を出して、『どうして音が出るのかな?』と話すのもいいですね。『手に水があたるからだよ』と子どもから返されるかもしれませんが、じつは音は空気の振動で出るので、水中に気泡ができたときに振るえて音が出ます。これはせせらぎでも、滝のごうごうという音でも原理は同じ。あの音は、水中にできた無数の泡の振動なんですよね。そんな話をした後に、今度は蛇口から泡が立たないように静かに水を流してみせると、子どもたちは音の発生の原理を、まさに『体験』できる」

子どもの知的好奇心を育てる3つのポイント
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料理に使った油でキャンドルづくり。電気のない時代を一緒に体験してみよう

大がかりなことではなく、ただ「普段やらないこと」を生活のなかで試してみることで、なんでも遊びになり、同時に立派な理科の実験になっていきます。

「大人の趣味としてキャンドルづくりをする方もいるかと思いますが、料理で使った油(廃油)でも、ジャム瓶に芯と一緒に入れて油処理剤で固めるだけで、そのままキャンドルになりますよ。写真は新しい油に色をつけてつくったものです。そして、『普段やらないこと』としてキャンドルの光だけで一緒に本を読んでみると、一気に電気のない時代にタイムスリップ。火の明かりだけで本を読むことがいかに大変なことか、むかしの人の暮らしをありありと実感できるでしょう」

米村でんじろう先生インタビュー第3回2

こうした実験ごっこのためには、時間があるときに子ども向けの科学の本を読んでおくといいそう。一緒に楽しむだけでももちろんいいのですが、より理科・科学体験を意識するなら、親も一緒に「へ~。そうなんだ!」という学びがあったほうが遊びも盛り上がるはず。

「子ども向けの本はわかりやすい良書が多いので、先に読んでおくと話のネタが増えます。その話をしてあげることで、子どもたちもどんどん興味が湧くはずです」

草笛の代わりに!? ストロー1本でも立派な楽器になる

子どものときに、葉っぱや花の茎でつくった笛で遊んだ覚えはありますか? ストロー1本さえあれば、簡単な楽器をつくって楽しむこともできます。

「曲がるストローに水を入れて吹くだけで、立派な笛になります。吹くとストローのなかの水が動いて、空気の量によって音程が変わるんです。透明なストローなら、水が上下する様子もわかりやすく観察できます。むかしはたんぽぽの茎や草笛で遊んだものですが、その代りにお風呂でストローを使えばいいんです」

米村でんじろう先生インタビュー第3回3

最初はうまく音を出せないかもしれませんが、失敗しながら何度でもチャレンジすれば、うまく音を出せたときのよろこびは格別ですよね。子どもだけでなく、親にとっても楽しい時間になることでしょう。

「リード楽器にしたいなら、ストローの先端を2センチほどつぶして、細長い台形のように両側をカットすればポピュラーなストロー笛になります。ストローの長さを変えると音が変わったりして、しばらく楽しめるはず。音が鳴る原理は理解できなくても、こうした原体験こそがゆくゆくの学びや成育に活きていくのです」

米村でんじろう先生インタビュー第3回4

(左下)シンプルなかたちにカットしたストロー笛
(右上)アレンジを加えて音をより自由自在に出せるようにしたもの

科学の進歩はほとんど「魔法」みたいなもの。100年後の世界なんて絶対にわからない

水や音や光で遊んだら、やはり現代生活に欠かせない電気についても体感したいところ。電気を「直接体験」すると、毎日の生活のなかであたりまえのように触れている電化製品のイメージも、ガラリと変わるかもしれません。電気を起こしやすい素材は、じつは身の回りにたくさんあります。

「いちばん簡単に電気を起こすなら、風船を乾いたタオルでこするだけでかなり電気がたまるので、髪の毛を逆立てて遊ぶことができます。お決まりの遊びですが、これがなかなか面白い。天井に向けて投げれば、なんとそのまま天井にくっついてしまうし、風船を2個使って近づければマイナスの電気が反発し合って、一方の風船を空中に浮かせて遊ぶことだってできますよ。このときの反発力は想像以上の強い力なので、ぜひ親子で持ち合って、実際に電気の力を体感してほしいですね」

米村でんじろう先生インタビュー第3回5

風船と布をつかって静電気を起こす米村先生

米村でんじろう先生インタビュー第3回6

米村でんじろう先生インタビュー第3回7

静電気を使って自由自在に風船を操る米村先生

わたしたちの生活の隅々にまで浸透したこんなに身近な電気も、約260年前、アメリカのベンジャミン・フランクリンが避雷針の研究をしたころには、まだ電気から明かりが生まれることすら知られていませんでした。

「それがいまでは、多くの人がパソコンやスマホを日常的に使っています。こんなまったく想像もできない発展の可能性を備えているのが、科学の力なのです。むかしの人から見れば、それらはほとんど魔法に近いものですよね。そう考えると、100年後の世界なんてわたしたちには想像できません。信じられない世界になっているはずですが、そんな世界をつくっていくのがいまの子どもたちであり、そのまた先の子どもたちです。そのようにして、良くも悪くも時代は想像を超えて変化していくのですね」

■ サイエンスプロデューサー・米村でんじろう先生 インタビュー一覧
第1回:理科・科学にある「まっとう力」
第2回:子どもの自主性がどんどん高まる! 理科実験で身につくチャレンジ精神
第3回:子どもの目がキラキラ輝く! おうちでできる理科・科学の実験
第4回:人生の可能性を広げ賢く生き抜く武器となる「理科・科学の真髄」

【プロフィール】
米村でんじろう(よねむら・でんじろう)
1955年生まれ、千葉県出身。東京学芸大学大学院理科教育専攻科修了後、自由学園講師、都立高校教諭を勤めた後に、広く科学の楽しさを伝える仕事を目指して1996年に独立。NHK『オレは日本のガリレオだ!?』に出演し話題を呼ぶ。1998年、「米村でんじろうサイエンスプロダクション」を設立。現在、サイエンスプロデューサーとして科学実験等の企画・開発、全国各地でのサイエンスショー・実験教室・研修会などの企画・監修・出演、また各種テレビ番組・雑誌の企画・監修・出演など、さまざまな分野、媒体で幅広く活躍し、科学の面白さを子どもたちに伝えている。

【ライタープロフィール】
辻本圭介(つじもと・けいすけ)
1975年生まれ、京都市出身。明治学院大学法学部卒業後、主に文学をテーマにライター活動を開始。2003年に編集者に転じ、芸能・カルチャーを中心とした雜誌・ムックの編集に携わる。以後、企業の広報・PR媒体およびIR媒体の企画・編集を中心に、月刊『iPhone Magazine』編集長を経験するなど幅広く活動。現在は、ブックライターとしてもヒット作を手がけている。