あたまを使う/サイエンス 2018.5.14

【米村でんじろう先生インタビュー 第4回】人生の可能性を広げ賢く生き抜く武器となる「理科・科学の真髄」

【米村でんじろう先生インタビュー 第4回】人生の可能性を広げ賢く生き抜く武器となる「理科・科学の真髄」

AIの登場や日常生活にIoTが浸透していくなど、科学技術がめまぐるしく進歩する現在。そんな時代に理科・科学の力を身につけることは、子どもたちの人生の可能性をどのように広げていくのでしょうか?

サイエンスプロデューサーの米村でんじろう先生が、理科・科学の力が子どもたちに与えてくれる、将来を生き抜いていくうえで欠かせない本質的な力について話してくれました。

取材・文/辻本圭介 写真/石塚雅人

理科・科学に親しむと「好奇心」が生まれ、新しいことにチャレンジする心が養える

AIやIoTをはじめとした科学技術が発達することで、近い将来におけるわたしたちの生活はこれまで考えられなかったようなかたちで進化を遂げていくと言われています。インターネットの登場も人々の生活を激変させましたが、今後ますます親の世代が体験し得なかったことを、子どもたちは「あたりまえのこと」として体験していきます。当然のことながら、そこには人々の生活を向上させる反面、さまざまな問題も生まれてくることでしょう。

「いまの子どもたちが大人になるころには、わたしたちの暮らしは激変し、これまで想像もしなかったようなものが次々と登場していることでしょう。そんな時代を子どもたちが力強く生き抜いていくためには、やはり、科学的な見方・考え方の枠組みを持つことが大きな武器になります。なぜなら、ものごとを判断するときに、おかしな考え方や偏った見方にならずに、合理的に取り組むことができるから。これは、大人になっていくうえでとても大切なスキルであると考えます」

また、次々と登場する新しい科学技術に対して、戸惑うことなく自分なりに仕組みを理解しながら、便利に使っていく能力も養うことができると米村先生。

「『新しい技術についていけない』と思った瞬間、人には拒絶反応が出ます。たとえば、スマホをどうしても使えない人がいますが、電話がかかってきたら通話ボタンをタップするだけなのに、それができない。簡単に使える人からすると『どうして?』と思いますが、それはもう抵抗感だけなのです。でも、科学的な枠組みの感覚を鈍らせなければ、新しい技術に対してつねにオープンで、柔軟に対応できるようになります。だからこそ、好奇心を育むことが大切になる。難しい原理を知る必要はないし、スマホの原理を知って使っている人なんてほとんどいません。でも、遊びとしての理科の体験を通して好奇心を育んでいくことで、自然と新しいことにチャレンジしていける力が養えるはずです」

科学的な思考を身につければ、ものごとの「良い面と悪い面」も正しく評価できる

もちろん、科学には良い面と悪い面があります。たとえばノーベルが発明したダイナマイト。この発明によって、硬い岩盤から鉱石を採掘できるようになりました。また、より高度な土木工事が可能になり、人々の暮らしを良くするインフラが整ってきたことは歴史が証明しています。でも一方で、ダイナマイトは戦争にも使われ、多くの人命を奪ってきたのです。

「どんなものにも、両面があるということですね。たとえば、いま懸念が高まっているのは核エネルギーです。核の威力は凄まじく、人類は桁違いのエネルギーを手にしましたが、まだうまくコントロールできていないのが現実かもしれない。原子力エネルギーの研究開発はまだ発展段階で、その途上で問題になっていますよね。でもじつは、大きな可能性を秘めたエネルギーでもあるのです」

科学は、つねに失敗と成功の試行錯誤の繰り返しによって人類の生活を良くしてきました。米村先生はそうした過去を踏まえ、これからの将来、そして子どもたちに期待しています。

「だからこそ、僕はなんでも頭から否定するのではなく、良い面と悪い面の両方をしっかり検証し、評価できる力が必要なのだと思っています。たしかに、現在の技術では放射線の処理は難しいことではある。でも、もしかしたら将来子どもたちが新しい技術を生み出すかもしれないじゃないですか? そんな可能性まで、ただの拒絶反応で否定してしまうと、少し考え方が偏っているんじゃないかなと個人的には思うわけです」

理科・科学に親しんだ子どもたちの体験が集まり、未来の社会がかたちづくられていく

人間の生活や社会を変えてきた原動力の一部は、まさしく科学技術です。そんな技術が生み出されていく根本は、子どもたちが理科の実験でものごとを観察し、その仕組みや関係性を合理的に考えて応用していくのとまったく同じ努力が積み重なってできたものだと米村先生は言います。

「ひとりが生涯に成し遂げられることは限られているかもしれませんが、そうした小さな努力も全世界でもの凄い数が集まって、次の世代にバトンを受け渡していくうちに思いもよらない発明となっていく。つまり、それが科学の素晴らしさなんです。多くの人の努力を蓄積できるし、時代を超えて活かしていけるからこそ世界中が驚くようなことができるのです。そんな科学の本質を理解できるととても夢があるし、子どもたちも『理科って面白そうだな!』と思えるはずです。もちろん、誰もが専門家にはなりませんし、なる必要もないかもしれない。でも、その専門家を支えるのが一般の人たちです。多くの人が科学に対して理解がなければ、科学に対する予算がどんどん減り、優れた技術者や研究者は減っていくことでしょう。なぜなら、それでは夢が持てないからです。でも本当は、夢を持って技術者になる人がたくさん出てきて、たくさんの試行錯誤をしない限り、科学は発展していきません。効率のいい方法なんてないのです。だからこそ、多くの人たちの科学に対する理解が必要になる。子どものころに、『そういえば理科って面白かったな』と思い出してくれる大人たちが支えるからこそ、みんなにとってより良い社会になっていくのです」

そして米村先生は、最後にこんな素敵な言葉を贈ってくれました。

「科学はつねに、いまを生きるわたしたちの想像を超えた可能性を秘めています。そしてこの可能性を開いていくのが、まさにみなさんの子どもたちなのです」

■ サイエンスプロデューサー・米村でんじろう先生 インタビュー一覧
第1回:理科・科学にある「まっとう力」
第2回:子どもの自主性がどんどん高まる! 理科実験で身につくチャレンジ精神
第3回:子どもの目がキラキラ輝く! おうちでできる理科・科学の実験
第4回:人生の可能性を広げ賢く生き抜く武器となる「理科・科学の真髄」

【プロフィール】
米村でんじろう(よねむら・でんじろう)
1955年生まれ、千葉県出身。東京学芸大学大学院理科教育専攻科修了後、自由学園講師、都立高校教諭を勤めた後に、広く科学の楽しさを伝える仕事を目指して1996年に独立。NHK『オレは日本のガリレオだ!?』に出演し話題を呼ぶ。1998年、「米村でんじろうサイエンスプロダクション」を設立。現在、サイエンスプロデューサーとして科学実験等の企画・開発、全国各地でのサイエンスショー・実験教室・研修会などの企画・監修・出演、また各種テレビ番組・雑誌の企画・監修・出演など、さまざまな分野、媒体で幅広く活躍し、科学の面白さを子どもたちに伝えている。

【ライタープロフィール】
辻本圭介(つじもと・けいすけ)
1975年生まれ、京都市出身。明治学院大学法学部卒業後、主に文学をテーマにライター活動を開始。2003年に編集者に転じ、芸能・カルチャーを中心とした雜誌・ムックの編集に携わる。以後、企業の広報・PR媒体およびIR媒体の企画・編集を中心に、月刊『iPhone Magazine』編集長を経験するなど幅広く活動。現在は、ブックライターとしてもヒット作を手がけている。