「食べ物はどこから来るの?」「なんで心臓は動くの?」——子どもたちにの身の回りには不思議なことがいっぱい。そんな子どもたちの素朴な問いかけに対して、私たち大人はどのように答えればよいのでしょうか。すぐに答えを教えてしまうことが多いかもしれませんし、「不思議だね」となんとなくやり過ごしている人も多いかもしれません。
でももし、その「なぜ?」という疑問を大切にし、子どもと一緒に考えることができたらどうでしょうか。その積み重ねが、子どもの「自分で考える力」や「問題解決能力」を育み、やがて未来を切り拓く力(=「生きる力」)になるとしたら——じつは、そんな「なぜ?」から始まる「探究学習」がいま注目されています。単なる知識の詰め込みではなく、子どもが主体的に考え、発見する喜びを通して成長する学びなのです。
今回が、探究型学習教室「LOUPE(ルーぺ)」での取材をもとに、ご家庭でも実践できる探究学習のヒントをお届けします。
目次
「探究学習」って、どんな学び?
探究学習は、子どもが身の回りの疑問や問題を自分で解き明かしていく学びです。「調べ学習」とよく似ていますが、大きな違いがあります。調べ学習が「すでにある答えを探す」のに対し、探究学習では「自分で問いを立て、自分なりの答えを見つける」プロセス全体を大切にします。
海外ではPBL(Project Based Learning)として知られ、アメリカを中心に研究が進められています。また、日本の小・中学校では「総合的な学習の時間」、高校では「総合的な探究の時間」として授業で扱われています。文部科学省は、探究学習の目標を「子どもが様々な視点から物事を考え、教科の枠を超えた学びを通して、問題解決力を高め、自分の生き方を考える力を育てること」と設定しています。さらに2020年からの新学習指導要領では、こうした学びの重要性がより一層強調されるようになりました。
これは、急速に変化する社会において、子どもたちが自ら問題を発見し解決していく力を育むことが、これからの時代に生きるために必要不可欠な力であると考えられているからです。
探究学習の実践「チリメン標本プロジェクト」
探究型学習教室「LOUPE(ルーぺ)」では、こどもたちの好奇心や感じる力を引き出す学びを大切にしています。そんな教室の取り組みのなかから、今回は普段の生活のなかにある「なぜ?」から生まれた、「チリメン標本プロジェクト」という探究学習について紹介します。ご家庭でも簡単にできますので、ぜひ実践してみてください。
小さな発見から始まる学び
「シラスのなかに、ピンク色の生き物がいる」そんな小学2年生のTくんの発見から、このプロジェクトはスタート。小さなエビのような生き物を見つけたTくんは「どうして混ざっているのかな」「これは何の生き物なんだろう?」と疑問をもちました。
Tくんさっそく海の生き物の図鑑を調べ始めます。すると、シラスはイワシの赤ちゃんだということや、無選別のチリメンには色々な生き物が混ざっていることがわかりました。シラスは網で獲るため、他の小さな生き物も一緒に混ざることがあることに気づいたようです。「どんな生き物が入っているのか、もっと調べたい!」というTくんの好奇心は、さらに広がっていきます。
チリメンモンスター探検隊
Tくんの要望に応え、実際に無選別のシラスを用意。Tくんは、夢中になってチリメンを探します。ヘビのような魚、歯の鋭い魚、ダンゴムシのような生き物など、たくさんの「モンスター」が見つかります。まるで宝探し!
「わあ! このピンクのは昨日見つけたのと同じだ!」「この黒いのは何だろう?」次々と新しい発見に目を輝かせるTくん。見つけたモンスターを図鑑と見比べながらひとつひとつ種類を調べていきます。エビ、イカ、タコ、カニ、タイ、タツノオトシゴなど、20種類もの生き物を発見! つい見守っていたはずの大人も一緒に熱中してしまいます。
「シラスのなかにこんなにいろんな生き物がいるなんて、びっくり!」そんな子どもならではの純粋な感動が、学びへの意欲を高めていきます。
世界にひとつだけの「チリメン標本」づくり
チリメンモンスターをたくさん見つけたTくんは、さらに「チリメン標本」を作ることを思いつきました。見つけた小さな生き物を画用紙に貼り、名前や珍しさのレベルを書き込んでいきます。
標本づくりをしながら「イワシの赤ちゃんは大人と形が違うのに、エビやカニ、タツノオトシゴは小さくても大人と同じ形をしているんだね」といった新しい発見も。こうしてTくんの思いが詰まった、世界に一つだけの標本が完成したのです。
その後、Tくんはこのオリジナルチリメン標本をもとに今回のプロジェクトでわかったことや思ったことを家族や友達に発表しました。このプロジェクトをきっかけに、Tくんはさらに海の生き物や海について関心をもったようです。
「生きる力」を育む探究学習の魅力
探究学習の最大の魅力は、子どもが「主役」となり、自ら問いを立て、答えを見つけていくプロセスを楽しめること。「チリメン標本プロジェクト」でも見られたように、「シラスの中に何がいるんだろう?」という素朴な疑問から始まり、調べる→発見する→まとめる→伝えるという一連の流れを、子ども自身が主体的に体験することで深い学びが生まれます。
また、探究学習では正解を求めるのではなく、試行錯誤する過程自体が大切です。そのため、子どもたちは間違いを恐れずにチャレンジできます。「これはどうなっているのかな?」「もっと調べてみよう」という好奇心が次々と湧き、興味・関心が自然と広がっていくのも探究学習ならではの特徴です。
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日常のなかで子どもの気づきに共感し、考えるプロセスを大切にしてあげることが、探究する力を育む第一歩。子どもが自分で考え、発見する喜びを通して、学ぶことへの自信と原動力が育まれていきます。こうして育まれた探究力は、将来直面するどんな課題にも柔軟に対応できる生きる力となるのです。
取材協力・監修者プロフィール

小学校教員として教育現場を経験後、ビジネスの世界に飛び込み、IT企業で約10年間コンサルタントとして企業の課題解決に従事。教育と事業、二つの世界での経験や視点を活かし、2023年に埼玉県鴻巣市で子どものための学びの場「LOUPE(ルーペ)」を創設。体験学習と探究型学習を通して、子どもたちが自ら問いを立て、考える力を育む環境づくりに取り組んでいます。