2020.3.4

どんな子でも本好きに! 読書の楽しみを味わえる魔法の本の共通点

吉野亜矢子
どんな子でも本好きに! 読書の楽しみを味わえる魔法の本の共通点

アメリカで生まれた『パンツマンたんじょうのひみつ』という本があります。全米でシリーズ5,000万部を突破したメガヒット児童文学で、『スーパーヒーロー・パンツマン』というタイトルで映画化もされました。子どもたちに熱狂的に受け入れられ、世界20言語に翻訳され、シリーズの続編も数多く出ています。

パンツマンたんじょうのひみつ

イギリスで生まれた『トム・ゲイツ──トホホな毎日』という本もあります。こちらはイギリスの児童文学賞であるロアルド・ダール賞をはじめとするさまざまな賞を受けており、日本国内のインターナショナルスクールの子どもたちが選ぶ児童書としても大賞を取りました。世界41言語で翻訳出版されている世界的ベストセラーシリーズで、子どもたちが続編を常に待っているような作品です。

トム・ゲイツ トホホなまいにち

本好きな子はもちろん、本嫌いな子どもにも愛される作品群

さて、この2つの大人気シリーズの共通点は何でしょう。まず、どちらも小学生の男の子が主人公で、イラストがふんだんに入っていて、ユーモラスなストーリーが特徴的です。本を読むのが苦手な子どもも「パンツマンだけは好き!」「トム・ゲイツなら読める!」と言うことで定評があります。どちらも対象年齢は小学校中学年ぐらいですが、本が好きな子どもたちはもっと早くに手をのばすことでも知られています。

我が家の上の子は、8歳のときにイギリスに来ましたから、来たばかりの頃は英語の読みがほかの子どもよりも遅れていました。ところが『パンツマンたんじょうのひみつ』は手渡されるなり夢中になって読み始め、ものすごい勢いでシリーズを読破したのです。日本語での読書から英語での読書への橋渡しとなった物語として、私にとっても思い出の深い作品です。

決して堅苦しい本ではありません。わははと笑いながらページをめくるような本です。ですから、特に『パンツマン』発売当初は「馬鹿馬鹿しい」と評価が分かれたりしました。それでも子どもたちの圧倒的な支持を得て世界的ベストセラーになったのです。

本嫌いな子どもにも愛される作品群

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成績向上・心の健康にも! 「本好き」のメリット

人によっては評価が分かれるような本をなぜわざわざご紹介するのかと、不思議に思われるかもしれませんね。これについては、映画にもなった人気作『ヒックとドラゴン』の著者、クレシッダ・コーウェルが新聞記事の中で見事に説明をしてくれています。

小さな子どもにとって、読書を楽しむことは、さまざまなメリットがあるのです。勉強との結びつきはすぐに思いつきますね。実際に読書を「楽しんで」いる子どもの「楽しみ」と成績の関係については多くの研究があります。また最近では、読書を「楽しいと感じている」ことと、メンタルヘルスの関係も指摘されています。

本を読むことの喜びを知ることは、学力向上につながるだけでなく、心を守ることにも一役買ってくれるのですね。

だからこそ、コーウェルは「本を読みたがらない子どもを念頭に置いて物語を書いている」と語っています。「良い本と出会う」のと同じくらい、「楽しめる本に出会う」ことも大切なのです。

「本好き」のメリット

学習障害を持つ作者による、全ての子どもに贈る本

さて、テレビやゲーム、インターネットの動画など、さまざまな競争相手をおしのけて子どもたちに選ばれるこの2作品。じつはもうひとつ、聞かされてみると、「なるほど」と納得する共通点があります。じつは、『パンツマン』も『トム・ゲイツ』も学習障害を持つ著者によって書かれた作品なのです。

『パンツマン』シリーズの作者であるデイヴ・ピルキーは、ディスレクシアとADHDを両方持っています。そんな彼は、小学生のころ、しょっちゅう教室から出されていたのだとか。手に負えない行動をとるので、先生が廊下に出したのです。そこで漫画を描いていた彼に、ひとりの教師は「こんな馬鹿な本ばかり書いて一生暮らしていくわけにいかないでしょう」と言ったといいます。

「幸い、僕は人の言うことを聞かない子どもだったのです」とデイブ・ピルキーはのちに語っています。まさに、そういった本ばかりを書いて生活できるようになったわけなので、その先生は間違っていたわけですね。「あんなに問題児だった僕が、たくさん本を出せるんだから、どんな子どもにだって希望はあるんだ」と彼は話します。

学習障害をもつ作者による、すべての子どもに贈る本

子どもを引きつけて離さないしかけの秘密

『トム・ゲイツ』を書いたリズ・ピーションもまた、ディスレクシアの作家です。子どもの頃の自分の読解力はほかの子たちより1年ほど遅れていたように思う、とどこかで話していましたが、それだけではなく、ピーションはディスレクシアの子どもを持つ母親でもあります。

自分が子ども時代に「パッと見てすぐにわかる」物語が好きだったこと。同じくディスレクシアを持つ自分の子どもが、イラストのふんだんに入った『パンツマン』シリーズを楽しんでいたこと。子どもの好奇心はどんどんあちらこちらへと移っていくという実感があること。

『トム・ゲイツ』シリーズは、そういった作者の経験が生み出した作品だとも言えます。じっと座って本を読むことが苦手だった作者だからこそ、子どもを引きつけて離さないしかけや工夫をこらした物語を作ることができたのです。

本シリーズは、決して学習障害を持った子どもたちをターゲットにした本ではありません。広く一般に児童書として出版されています。そうでありながら、学習障害を持つ子どももそうでない子も、多くの子どもたちが愛し、手に取る作品群に仕上がっています。

「ディスレクシアだからといって本を読む楽しみを諦めることはない」と、ピーションは言います。まさに、全ての子どもに贈る、「楽しむこと」を一番の目的に掲げた物語群です。イギリスでは「本なんて嫌い!」とそっぽを向く子どもたちに、まずオススメされる物語でもあります。

子どもを引きつけて離さないしかけ

読書の楽しみは、どんな子どもにも広く開かれている

この2作品の作者が一貫して出しているメッセージは、学習障害を持っているからといって、本を読んだり書いたりできないわけではないということ。そして、物語の持つ豊かな楽しみは、どんな子どもにも広く開かれているということーー今すでに読書が好きな子どもにも、今はまだ読書が苦手な子どもにも

じつは、学習障害を持っていることを明らかにしている作家は、ピルキーやピーションだけではありません。大人向けの小説を書いている人を含めれば人数はずっと増えますし、過去の作家でもたとえば、推理小説家のアガサ・クリスティーのような有名な作家が、ディスレクシアを持っていた可能性が高いと言われています。

デイブ・ピルキーは自分の学習障害について、「スーパーパワーだ」と言っています。学習障害があるからこそ、物語を作るときにどうやって表現するべきなのか、とても深く考えることになったのだと。

自分のおかれた「人とは違う部分」を強みに変えていく作家たちの子ども向けの作品が、広く子どもに支持されているのは、当然と言えば当然ですが、同時にとても心強くもなるのです。

(参考)
Dav Pilkey|Author
Youtube|Dav Pilkey (author of “Captain Underpants”) talks about his favorite teacher (Original Version)
Understood|“Dav Pilkey Sees ADHD and Dyslexia as His Superpowers”
HuffPost|Amy Packham “Why Children With Dyslexia And Reluctant Readers Are Inspired By Liz Pichon’s Unique Books”、Huffington Post UK, June 22, 2016
The Independent|Cressida Cowell, “If we want our children to thrive, teaching them to read is not enough – they must learn to enjoy it” in Independent, 4 December 2018
National Literacy Trust|“Mental wellbeing, reading and writing” Added 26 Sep 2018
dav pilkey bio.
The Bookseller|Scholastic UK signs more Tom Gates
CISION PR Newswire|Captain Underpants Saves The Day By Recruiting Top Comedy Talent To Voice New DreamWorks Animation Film