あたまを使う/教育を考える/本・絵本/英語 2018.9.20

ペンケースも教科書もなし! 仮装に絵画、作話まで? イギリスの小学生の「体感する」物語の学び方

吉野亜矢子
ペンケースも教科書もなし! 仮装に絵画、作話まで? イギリスの小学生の「体感する」物語の学び方

9月になり、イギリスでは新学年が始まりました。我が家の下の子どもはこれで小学3年生。学校でも「小さい人たち」ではなく「大きい人たち」になるので、子どもたちの顔つきもちょっとしっかりしてきました。

クイズ:イギリスの小学生のカバンの中身は?

さて、そんなイギリスの小学生たちのカバンの中身について、ちょっと質問してみたいと思います。

本日の我が家の小学3年生のカバンの中に入っているものは以下のどれでしょうか?

筆箱・靴の空き箱・ノート・本・水筒・ビスケット・教科書・定規

答えは4つあります。

靴の空き箱・本・水筒・ビスケット

え、勉強の道具がないの?」と意外に思われた方もいるかもしれませんね。

筆箱は禁止、ノートは支給! ユニークなイギリスの小学校

イギリスでは、鉛筆やノート、定規などの、学校で絶対に使うものは、授業内で先生が配ってくれます。そして、授業で扱っている作業が終わると、さっさと回収されます。

そのため、学期末に子どものノートを開くと、落書きが全くありません。日本で育った私の目には、とても新鮮に映ります。

筆箱は、実は上の子どもの小学校では「5~6年生になるまで持ち込み禁止」でした。最終2学年で許可されるのは「セカンダリースクール(中学校のようなもの)へ行く準備」なのだとか。

確かに筆記具が学校にあるのであれば、自分で持って行く必要はないのです(そして、筆箱の柄や、匂い付きの消しゴムなどに、子どもの気がそれることもなくなるわけです)。

本も課題もレベル別! おやつの持ち込みはOK?

ビスケットは、放課後のクラブ活動前のおやつです。アレルギー反応を起こす子どももいますから、ピーナッツが入っているものはだめですが、決められた時間に食べるためにおやつを持っていくことは認められています。

「本」についてはそのうちきちんとふれたいと思っていますが、子どもの能力に応じて読むべき本が先生から貸し出されます。これは学校が採用したシリーズのものです。今朝も一回音読してからカバンに入れました。

子どもの能力に応じて柔軟に対応する姿勢は、宿題だけではなく授業でも同じです。授業参観に行ったときには、子どもが飽きる暇も与えずに、それぞれの子供のレベルにあったタスクをどんどん与えている様子が印象的でした。

ということで、登校時のカバンの中身も、教室における机の配置も、先生の教え方も、授業で力を入れるポイントも、日本とは大きく異なるのがイギリスの小学校です。そんなイギリスの小学校で物語がどのように教えられているのか、お話ししたいと思います。

「工作」「絵画」「作話」で物語を立体的に味わう

初めてイギリスの小学校に行ったのは、子どもたちがこちらの学校に上がる前でした。そのときにまず目に付いたのは、ずらっと並べられた靴の空き箱。空き箱の中には、子どもたちが作った小人の部屋がありました。

どうやら、高学年の子どもたちがメアリー・ノートンの『床下の小人たち』(ジブリ映画『借りぐらしのアリエッティ』の原作)を題材に、小人たちの部屋を作ったようです。

子どもたちそれぞれの想像力が発揮された靴の空箱。小学校の先生たちが、できるだけ子どもの五感のすべてに訴えようとしているのが見受けられ、興味深く思ったのを覚えています。

その後も興味をもって学校での子どもたちの活動を見ているのですが、物語を読んで理解するという段階にとどまらず、授業で取り扱う物語を軸に、絵を描いたり、戯曲に書き直したり、続きを書いたりと、ひとつのテキストから様々な活動が広がっていくようです。

言い換えるならば、物語を立体的に体感させるような教え方がなされているのです。

「仮装」で物語の主人公になりきる?

さらには、仮装をする日が多いのも、イギリスの小学校の特徴です。イギリスでは小学校から全員制服ですから、仮装は一大イベントです。

・物語の主人公になってください
・歴史のこの時代の服を着て登校してください

学校からのこんなリクエストに困ってしまうことも正直多いのですが、「話すこと」が重要視されている英語のカリキュラムを実践するにあたって、確かに仮装は「本を読み」「その本についての理解を服装で表現し」さらに「その本について説明する」という3つの重要なステップを自然に実践できる、教室内で使いやすいツールなのでしょう。

目的は一冊の本を理解すること! 単語の学習は別の時間に

物語を体感させるようなアプローチがなされる理由はいくつかありますが、大きな理由のひとつとして、物語を読む「英語」の授業とは別に「識字」の授業で、スペルや基本の読み方などを教わっていることがあげられるかもしれません。

日本の場合は教科書の文章を理解することと、出てくる漢字の学習が結び付けられていますが、下の子どものイギリスの学校では、スペリングなどの記憶を必要とする項目は、パターンごとに覚えさせているようです。

たとえば今週は “un”で始まる言葉を集めて10個書けるようにするという宿題が出ました。 “unhappy” “unclean”など、つながりのある言葉を一緒に覚えていくのです。

もちろん学校で物語を読むときも、本を読むのですから識字と密接に関わるわけですが、あえて単語のスペルなどには注目していないようです。目的はあくまでも一冊の本を多角的に理解することなのです。

教科書はなし? 全科目がひとつの学習テーマにつながる統合学習

イギリスの小学校には教科書がありません

学校指定の識字教材は学校から貸し出されますが、それは基本的に子どもたちが自分の進度に合わせて読んでいくものです。特に学年が低いうちは子どもたちの成熟もバラバラですから、その子の能力に合わせて進んでいきます。

ただ、バラバラな本を読んでいるのではクラス内でのディスカッションもできませんから、こうした識字の時間とは別に、一緒に読む本もあります。

また、当然のことながら、学校で勉強するのは、識字や計算、英語だけではありません。科学や地理、歴史や図工など、様々な科目が教えられています。そして、こうした科目のすべてが、学期ごとの「テーマ」に結び付けられているのです。

たとえば、下の子どもの学年が今取り扱っているテーマは「家と生息場所」。もちろん科学では動物の生息場所を調べますし、地理では地図の読み方を学び、動物の生息場所を記録していきます

英語の授業で読むのは、ディック・キング=スミスの The Hodgeheg。交通量の多い道路を挟んで、公園の向かいに住むハリネズミを主人公にした物語です。

図工の時間には、森にある様々な自然素材を使う工作。今朝、息子のカバンに入っていた空の靴箱は、自分が選んだ動物の生息場所の模型を作るために使うのです。

一冊の本を読むときに、ぽん、と本だけ与えられるのではなく、重層的な知識に基づいた読み方ができるようにカリキュラム自体が組み立てられていること。これは、イギリスの児童向け文学教育の大きな強みだと、私は思っています。

(参考)
メアリー ノートン (Mary Norton), 林容吉 訳(2000),『床下の小人たち―小人の冒険シリーズ〈1〉』,岩波書店.
Dick King-Smith, The Hodgeheg, (London: Penguin, 2017) First published, 1987.