芸術にふれる/アート/デザイン 2019.8.25

体が動くと、心が動く――。アート鑑賞のトレンドが「体感型」にシフトしている

長野真弓
体が動くと、心が動く――。アート鑑賞のトレンドが「体感型」にシフトしている

デジタル技術の進化で、バーチャルやゲームの世界で疑似体験ができる時代になりました。アートの世界でも「体験型」がトレンドになりつつあります。チームラボが展開するデジタルアートミュージアムが大人気なのも、そのひとつですね。

最近は、美術館の子ども向け展覧会にもその流れがきているようです。バーチャルではなく “リアル” を体感することは、子どもたちにとってより印象的な経験になるはずです。今回は、気軽に楽しめて感性を育んでくれる体験型美術展覧会をご紹介します。

アート鑑賞が子どもに与える3つの効果

小さな頃からアートを体感することが子どもの人格形成や脳に良い影響を及ぼすことは、広く知られるようになりました。大人になってからもそれは同じです。銀座靖山画廊オーナーである美術商の山田聖子氏は、芸術に親しむことで身につく能力を次のように語っていらっしゃいます。

■思考力
絵画や映画、音楽など芸術に触れることで生まれた思いを、「どうしてそう思ったのだろう?」と深く考えることで思考力が育まれます。
■表現力
思って、考えたことを人に伝えようとすることで表現力が培われます。
■多様性
世界には多様な芸術があふれ、同じ作品でもさまざまな感じ方があります。アートに身近に接することで、そのグローバリズムを体感できます。多様性が自然と受け入れられるようになり、「人はみな違って当たり前」と思えるようになることは、自信と自己表現にもつながり、世界で生き抜く大きな力となります。

そのほかにも、美的センスコミュニケーション力も身につきます。これらは全て、見て感じたことを人に伝えようとすることが大事。伝えるために、考え、表現する方法を探し、相手の言うことに耳を傾けるようになります。

今、このスキルはビジネスパーソンにも必要だと取り上げられることも増えていますが、子どもの頃から行なうことで、感性豊かになり、人の立場で考えられる人間性のベースを築くことができます。堅苦しさはいりません。アートについて家族で感想を自由に語り合うことで十分。その際は何を言っても否定はせず、枠にはまらない子どもたちの感性を優しく受け入れてあげることがいちばん大切です。

今、アートのトレンドは「体感型」!

以前は、美術館へ足を運んでアートを鑑賞することは、「陳列されている絵画や彫刻などの作品を静かに観る」というイメージが強かったと思います。だからこそ、子連れで美術館に行くのはハードルが高いと思う人も多かったでしょう。しかし、最近はその傾向が変わってきたようです。

参加型・体験型のものや、動く・変化するアートなど、ただそこにあって観るだけではない、身近で自由な発想のものが増え、子どもたちにとっても興味を持ちやすく親しみやすくなってきました。特に現代アートにその特徴が見られます。その中から、人気のイベントを4つご紹介します。

①『デザインあ展』(熊本)
熊本市現代美術館にて2019/9/8(日)まで開催中

全国を巡回している『デザインあ展』は、体験型の先駆け的存在といえるでしょう。展覧会のベースとなっているNHK Eテレの番組『デザインあ』は、子どものデザインマインドを育むことを目的とした画期的な番組です。

優れたデザインには、人と人、人とモノをよりよくつなぐ工夫があります。番組では、身のまわりに意識を向け(みる)、どのような問題があるかを探り出し(考える)、よりよい状況をうみだす(つくる)という一連の思考力と感性を「デザインマインド」ととらえ、多彩な映像表現をもちいて伝えてきました。デザインあ展は、この「デザインマインド」を、見て、体験できる展覧会です。

(引用元:デザインあ展 in KUMAMOTO|デザインあ展とは

会場は「体験のへや」「観察のへや」「体感のへや」「概念のへや」の4つのコーナーから成っており、それぞれ遊びながら、デザインとは何かを自然と感じられる工夫にあふれています。

たとえば、対象物をデッサンしてスタッフに渡すと、目の前のスクリーンに自分が描いた作品が大きく映し出される――。これには、子どもだけでなく大人も大興奮。スクリーンに踊るたくさんの子どもたちの絵は、ひとつとして同じものはありません。個性豊か。この、“デッサンそのもの” と “その絵の楽しみ方” の両方を体感すること。これが、子どもの中に「デザインマインド」の種をまくことになるのですね。

②『あそびの時間 Now, it’s time to play』(東京)
東京都現代美術館にて2019/10/20(日)まで開催中

“あそび”の価値を見直すことがテーマ。日常のルールや考えに縛られない新しい価値観や法則を発見するべく、展示されている “作品” で自由に遊べるようになっています。「ハンドルにアソビを持たせる」のように、“あそび” のもうひとつの意味「余裕・緩み」の意味も再確認。「みんな同じでなくていい」「失敗してもいい」と心を自由に解き放つことで、創造力を育むことが趣旨の展覧会です。

あそびはシンプルなものばかり。廃材タンスの壁のボルダリング、的に向かってひたすらボタンを投げる、全身で影絵を作る、お面を作る、ブロックで言葉遊び、などなど。体と感性を使って遊べるさまざまなコーナーがあります。それらは全て、アーティストと子どもが一緒に作り上げるアート作品でもあります。子どもそれぞれ夢中になるあそびはきっと違うはず。好きなものに好きなだけ時間をかけて楽しんでください!

③『クルクルパラパラ 動くアートの秘密展』(島根)
浜田市世界こども美術館にて2019/9/23(月)まで開催中

子どもたちの創造力と感性を養うために美術とふれあってほしいとの思いから、1996年に誕生したのが、浜田市世界こども美術館です。企画展がほぼ途切れることなく開催され、近隣の小学校や幼稚園とも連携し、「ミュージアム・スクール」も実施されています。

今年の夏のテーマは「動く作品」。その仕組みや秘密、歴史を紐解いていく体験型現代美術展を開催中です。昔から子どもたちを夢中にさせるパラパラ漫画イギリス発祥のソーマトロープなどの古いものから、今大人気の最新アニメーションへの変遷を楽しみながら体感できる、子どもたちがワクワクできる魅力的な展覧会となっています。

④『シンコペーション:世紀の巨匠たちと現代アート』(神奈川)
ポーラ美術館にて2019/12/1(日)まで開催中

子どもに優しいポーラ美術館が、初めての試みで、現代アートをテーマにした展覧会を開催中です。所蔵のモネ、セザンヌ、ピカソ、ダリなど巨匠の作品と、そこからインスピレーションを受けた現代アーティストのコラボレーションは、おもしろい観点です。“アートから発想をえて、世界を広げる” というすばらしい実例を子どもたちが体感できる貴重な機会となるでしょう。土地柄を生かし、そこに「自然との共生」というテーマも加わり、全身でさまざまなものを体感することで、アートの世界観が広がります。

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「体が動くと、心が動く」

これは、横浜美術館で30年近く「子どものアトリエ」のエデュケーターを務める山﨑優さんが、多くの子どもたちと接するなかで感じたことです。「心が動くことが美術のもと」ともおっしゃっています。五感を解放して “アート” を体験することが多ければ多いほど、感受性や価値観、好きなものの基準が、子どもの潜在意識の中で育まれていくのでしょう。これから楽しい展覧会がさらに増えるといいですね。

(参考)
幻冬社GOLD ONLINE|芸術を鑑賞するだけで「コミュニケーション能力」が高まる理由
東京都現代美術館|あそびの時間
デザインあ展
浜田市世界こども美術館
ポーラ美術館
日本財団DIVERSITY IN THE ART|STORIES|REPORT 体が動くと、心が動く。横浜美術館の<子どものアトリエ>