教育を考える/インタビュー/本・絵本 2025.11.26

子どもの「言えない」を責めないで。ギュッと重い気持ち「ウウントネ」とは|『なかなかいえない ウウントネ』著者・いげたゆかりさんインタビュー

子どもの「言えない」を責めないで。ギュッと重い気持ち「ウウントネ」とは|『なかなかいえない ウウントネ』著者・いげたゆかりさんインタビュー

これがやりたい、あれが欲しい、それはイヤだ……。いろいろな気持ちを声に出して伝えることが苦手な子がいます。世界文化社から出版された絵本『なかなかいえない ウウントネ』は、そんな子どもたちの気持ちに寄り添う作品です。

自分の気持ちを言葉にするのが苦手な主人公・なおくんが、音楽発表会でどの楽器を演奏したいか、自分の気持ちを言葉にするまでが描かれます。頭のなかではたまごのウウントネが生まれ、自分の気持ちを探すために、船に乗って旅に出るのです。

ギュッとしていて重い、でもいつかは割れて弾ける「たまご」——。「言いたいけど言えない気持ち」が形になったウウントネは、どのようにして生まれたのでしょうか。

そしてまた、その背景にある作者・いげたゆかりさんの幼い頃の体験とは。いげたさんにお話をうかがいました。

子どもの「言えない」を責めないで――その気持ちの重さを知ってほしい

「オーロラのかんむりがほしい」と言えなかった幼稚園時代

——絵本の冒頭で、どの楽器を演奏したいのか、なおくんは「ぼくはどのがっきにしよう? ううんとね、ううんとね……」と考えますが、言葉にはできません。そのときに生まれたのがたまごの「ウウントネ」。たまごのウウントネは、じつはいげたさんの体験から生まれているそうです。

いげたさん(以下 いげた):ひとつは、私の幼稚園のときの経験が元になっています。お遊戯会でかぶる折り紙のかんむりのなかに、ひとつだけオーロラ折り紙で作られたものがあって、「オーロラのがいい」と思ったのに、それを言えなくて

結局、「オーロラがいい」と言った子たちが、交代でかぶることになったのですが、アピールできなかった私は一度もかぶらずに終わってしまいました。これが最初の「言いたいことを言えなかった」経験。これがウウントネのモデルになっています。

——折り紙のかんむりではわかりにくかったため、幼稚園の子なら誰でもわかるようにと、音楽会と楽器にスライドしたそうです。

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溜め込んだ気持ちが、ウウントネになった

「自分の言葉で誰かを傷つけるかも」小学校で無口な少女

——言いたいことを言えないという気持ちは、その後、小学校に上がるころにますます強くなったそうです。

いげた:幼稚園はわりと自由で、ひとりひとりが違ってそれでいいという空気がありましたよね。でも、小学校に入ったとたん、「勉強がんばって、運動もがんばって、生活態度もしっかりしなさい。通知表も付けます」と、空気ががらっと変わり、自分もみんなも厳しく評価される対象になったと思いました。

当時は机が並んでいるのが怖かった。順番に座らされて、授業中は静かにしていなければならず、手を挙げて正解した人が偉いという空気。「あなたの机は何番目、成績はこれくらいで」と、自分が評価される対象になったことを象徴しているように思えたんですよね。

そうなると、何かを言葉にすることにも怖さを感じるようになってしまったんです。私が誰かについて発言したことで、その子が傷つくかもしれない。先生がその発言を聞いて、その子の通知表を悪く書いてしまうかもしれない。

自分ではほめたつもりでも、マイナスにとられるかもしれない。自分の言葉の影響力がすごく大きいように思えてしまって、「なんにも言えない」という無口な少女ができあがってしまったんです。

——その後、「言いたいことを言えない」のが18歳くらいまで続いたそう。言えないことは自分のなかに積み重なって溜め込まれ、いつしかパンパンに。

いげた:人に伝えられたら発散して忘れていくことができるのかもしれませんが、全部溜め込んでしまうようになったんです。そういうものは全部しっかりと記憶にも残ります。そうやって溜め込んだ「言いたくても言えない」気持ちが、ウウントネになっていったんだと思います。

ウウントネは「ギュッとしていて重い」

「言えない気持ち」はなぜ “たまご” なのか

——言いたくても言えない気持ちから生まれたウウントネ。しかし、なぜその象徴が「たまご」だったのでしょうか。

いげた:私のイメージでは、この言えない気持ちはギュッとしていて、重さのあるものだったんです。最初は石や氷みたいに固くてギュッとしたものをいろいろ考えていたんですが、物語の最後には「言えました!」、 “わあ” って弾けるシーンを描きたかったんです。

それで、割れて中身が弾けて飛び出すから、「あ、たまごにしよう」と思いつきました。

***
「言いたいけど言えない」とき、子どもの心の内には、なにかしらの「重くてギュッとしたもの」が生まれています。それは子どもの心を押さえつけるものではなく、いつかかならず割れ、中身がぱあっと飛び出す「たまご」、つまりウウントネなのです。

言えないでいる子のなかにはウウントネがいる。まず、それを知ることが、子どもに寄り添う第一歩なのかもしれません。

(第2回に続く)

いげたさん

なかなかいえない ウウントネ
いげた ゆかり 著/株式会社世界文化社 (2025)

■ 絵本作家・いげた ゆかりさん インタビュー一覧
第1回:子どもの「言えない」を責めないで。ギュッと重い気持ち「ウウントネ」とは
第2回:「いますぐ言葉にしなくていいよ」親から伝えてほしい「待ってるよ」というメッセージ(※近日公開予定)

【プロフィール】
いげたゆかり
宮城県生まれ。東京女子大学卒業後、東京デザイナー学院にて、絵本づくりを学ぶ。劇団こぐま座の舞台美術などを手がけるかたわら、絵本作品を制作。第九回日本新薬こども文学賞絵画部門最優秀賞、第二十回ピンポイント絵本コンペ入選、第五回絵本テキストグランプリ審査員特別賞 など、受賞多数。「童話の会ペパン」同人。趣味はアコーディオン演奏。市販される絵本の制作は本作が初。