「巧緻性(こうちせい)」という言葉を聞いたことはありますか? あまり馴染みのない言葉かもしれませんが、実は巧緻性は子どもの発達に欠かせない大切な力です。
この記事では、経営者でもあり造形教室講師でもある井上真奈実氏監修のもと、巧緻性の意味や重要性をや、年齢別にどんな遊びや関わり方で育てられるのかをわかりやすく解説します。
監修者プロフィール
塾運営・造形教室講師
高校・大学で美術教育を学び、小学校で図工専科として子どもたちと関わってきました。現在は地元・沖縄で学習塾と家庭教師派遣センターを運営しながら、自ら家庭教師として、また小学生向け造形教室の講師としても活動しています。造形を通じて「自分で考えて、やってみる力」を育てたい。親として、教育者として、今の子どもたちに本当に必要なことは何か、日々考えながら子どもたちと向き合っています。
目次
巧緻性とは?——手先の器用さと集中力の土台
「巧緻」とは「精巧で緻密なこと」。つまり巧緻性とは、指先を上手に使う力のことを指します。ハサミで紙を切る、ボタンを留める、ひもを結ぶ——これらの動作すべてが巧緻性に関わっています。
埼玉大学の川端博子教授らが行なった研究では、手指の巧緻性が高い子どもほど「漢字練習」「計算練習」「工作」などの学習活動を「好き」と感じる傾向がありました。つまり、手を使う力が高い子どもほど、学びへの意欲も高まりやすいということ。
指先を動かすことは、単なる「器用さ」ではなく、集中力・思考力・学習意欲のベースをつくる行為なのです。では、年齢ごとにどんな遊びで巧緻性を育てられるのでしょうか。子どもの発達段階に合わせた具体的な方法を見ていきましょう。
【1〜2歳】「にぎる・つまむ」で世界を感じる
この時期の子どもは、まだ指の動きが未発達。手のひら全体を使って物をつかんだり、放したりすることを通して「触覚」と「力加減」を学んでいきます。
おすすめの遊び
- 大きめのブロックや積み木を積む
- スプーンやフォークで食べる練習
- 丸いシール貼りやポンポンつまみ遊び
- 手遊び歌(いないいないばあ、グーチョキパー)
手を動かすことで、感覚が発達し、脳への刺激も増えます。
親は「つかめたね!」「ぺったんできたね!」と、動作の成果を言葉で伝えてあげましょう。上手・下手を評価するよりも、「できた」という事実を一緒に喜ぶことが大切です。無理に正しくやらせようとするのではなく、子どもの “やってみたい” という気持ちを尊重してあげてください。
この時期は「指先を使う楽しさ」を体で覚えることが何より大切なのです。

【3〜4歳】「切る・貼る・通す」で器用さを育てる
3〜4歳になると、指先を少しずつ独立して動かせるようになります。このころから「形を作る」「目的をもって完成させる」といった製作遊びに夢中になる子も多いでしょう。
おすすめの遊び
- 安全はさみを使って紙を切る
- ストローやひもを通してネックレス作り
- ちぎり絵やのり貼り
- おままごと(スプーンやお箸を使う)
指先を使う動きが増えることで、目と手の協調性も発達します。
「どっちの手で持つ?」「どうやったら切れるかな?」と問いかけて、考える力も一緒に育てていきましょう。道具の使い方をゆっくり見せて、安全に扱う練習をすることも大切です。完成形よりも 過程をほめることで、自信と意欲を伸ばすことができます。
どうやって作るかを考えながら手を動かすことが、巧緻性の大きなステップになります。

【5〜6歳】「折る・結ぶ・作る”」で集中力を高める
就学前の5〜6歳になると、細かな動作をコントロールする力が一気に発達します。鉛筆のもち方や文字を書く力も、この時期に形成されます。
おすすめの遊び
- 折り紙(1回折る→複雑な折り方へステップアップ)
- ビーズ遊び(テグス通し・形づくり)
- ペーパークラフト(切る・貼る・折るを組み合わせる)
- 指回し体操(親子でゲーム感覚で)
これらの遊びは、単に手を動かすだけでなく、順序を考え、集中して取り組む力を育てます。
「どんな形にしたい?」「どう折ればできるかな?」と、子どもの思考を引き出す声かけをしてみましょう。作品が完成したら、家の中に飾って「達成感」を共有することも効果的です。失敗しても「うまくいかなくても、挑戦したね」と努力を認めることで、チャレンジする気持ちが育ちます。
手先を使う遊びは、単なる作業ではなく、思考・集中・達成感のトレーニングでもあります。

【小学生以降】「書く・作る・挑戦する」で巧緻性を応用する
小学生になると、巧緻性は学習や創作活動の中で自然と使われるようになります。鉛筆をもつ、リコーダーを吹く、裁縫をする——すべてが巧緻性の応用です。
おすすめの活動
- 書写や絵日記など “書く” 活動
- 折り紙・工作・裁縫
- ピアノ・リコーダーなど楽器演奏
- 科学工作キット・プラモデル
- 手芸やペーパークラフト(難易度を少し上げて)
先述したように研究でも、手を使う活動を好む子ほど学習への意欲が高いことがわかっています。繰り返し作業に強くなることは、勉強への集中力にもつながるのです。
結果よりも「工夫のプロセス」を評価してあげましょう。「苦手」ではなく「練習中だもんね」と声をかけることで、子どもの前向きな気持ちを支えることができます。「作品を見せてくれてありがとう」と伝えることで、自己肯定感を育むことにもつながります。
手を動かす楽しさを続けることで、子どもは自然に 「努力できる力”」を身につけていきます。
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巧緻性を育てることは、単に器用な手をつくることではありません。それは、「考える力」「集中する力」「挑戦を楽しむ力」——つまり、生きる力の基礎を育てること。
折り紙でも、ビーズでも、ペーパークラフトでも、そこにあるのは「やってみたい」という小さな意欲です。親がその気持ちを見逃さず、「一緒にやってみよう」と寄り添うことで、巧緻性だけでなく、子どもの自己肯定感も大きく育ちます。
手を使って学ぶ時間を、家の中でもう一度見直してみませんか? 今日のちょっとした手遊びが、未来の学びの土台をつくっていくはずです。
(参考)
日本家政学会誌|小学生の手指の巧緻性に関する研究―遊びと学習面からの一考察―
文部科学省|子どもの発達段階ごとの特徴と重視すべき課題













