長期休暇や週末の、子どもたちが孫を連れての帰省。あの笑顔に会えると思うと、心がほころびますよね。孫と過ごす時間は、何物にも代えがたい幸せなひとときです。
でも、いざ子どもや孫が帰省すると……「愛おしいけれど、正直しんどい」「ストレスがたまる」そう感じたことはありませんか? じつは、この孫疲れは、いま多くの祖父母世代が抱える悩みなのです。
実際に、西南学院大学の山村英司教授らによる研究(IZA Discussion Paper, 2021)によると、研究者たちが日本の祖父母の幸福度を調査したところ、孫の存在が祖父母にとって必ずしもプラスではないことがわかったのです。なかでも、娘の孫がいる祖母の幸福度は、息子の孫がいる祖母と比べて13.3%も低下しているのです。これは、性別役割分業の影響で、母方の祖母により多くの孫の世話が集中しやすく、体力的・精神的な負担が大きくなってしまうためです。
孫が帰った後、なぜかどっと疲れが押し寄せる。「楽しかった」と言いながらも、内心ホッとしている自分がいて罪悪感を覚えてしまう……。もしそんな方がいたら、安心してください。このような気持ちを抱くのは自然なことです。今回は、そんな気疲れを防ぐための「孫育て10か条」や具体的な対策を紹介していきます。
目次
孫疲れの正体は「体力消耗」+「干渉しすぎ」
孫との時間は、想像以上に体力・神経・気づかいをフル稼働させるものです。
帰省を受け入れた祖父母の多くが「帰省中は休んだ気がしない」と感じるのも当然。朝から晩まで孫のペースに合わせて動き回り、安全に気を配り、食事の準備をして……。気がつくと一日中、動きっぱなしだったということも珍しくありません。
でも、多くの祖父母は「孫がかわいいのに疲れるなんて言えない」と感じてしまいがち。その結果、疲れを抱み、そのストレスが孫疲れ状態になってしまうのです。
孫疲れの原因を整理してみると、大きく2つのパターンがあります。
①体力の消耗
一日中の抱っこや外遊び、孫のペースに合わせた生活リズム、食事の準備や片付けなど、想像以上に体を使います。さらに、孫が転んだりケガをしたりしないよう常に安全に気を配る緊張感も、知らず知らずのうちに体力を奪っていきます。若い頃とは違い、回復にも時間がかかるため、一日が終わる頃にはぐったりしてしまうのも当然です。
②無意識の「気疲れ」「がんばりすぎ」
「昔はこうだった」とつい口を出してしまったり、完璧な祖父母でいようとしたり。子ども世代との子育て観のすれ違いにストレスを感じることもあります。「何かしてあげなければ」という責任感が強すぎて、自分を追い込んでしまうケースも少なくありません。よい祖父母でいたいという気持ちが、かえって心の負担になってしまうのです。
特に、現代の子育て事情は昔とは大きく変わっています。離乳食の進め方、アレルギー対応、睡眠のとらせ方……。よかれと思ってアドバイスしたことが、かえって親世代との間に溝をつくってしまうこともあります。
前述の研究でも指摘されているように、日本では「母親と娘の関係は、母親と息子の嫁との関係よりも強い絆がある」ため、娘をもつ祖母により多くの育児負担が集中する傾向があります。実際に、母親は夫の母親よりも自分の母親に育児サポートを頼みやすく、この結果として母方の祖母の負担が大きくなってしまうのです。
祖父母だってゆとりが大事!「孫育ての心得10か条」より3つだけ覚えよう
そこで参考にしたいのが、NPO法人 孫育て・ニッポンが提唱する「孫育て10か条」です。この10か条は、前述の研究結果とも合致する内容で、特に祖父母が無理をしすぎないことの大切さを説いています。
👴孫育ての心得10か条👵
1.育児の主役はパパ・ママ、祖父母はサポーター
2.パパ・ママの話を聞く
3.今と昔の子育ての違いを知る
4.とがめるより、補う
5.他の子、親と比べない
6.手、口、お金は出しすぎず、心と体力にゆとりを! 断る勇気も持とう
7.「ありがとう」「ごめんなさい」を言う 親しき仲にも礼儀あり
8.孫のほめ役、夢の最強応援団になる
9.自分のライフスタイルも大切に
10.老いていく姿を見せる
全部を覚えるのは大変ですが、特に帰省シーズンに意識したいのはこの3つです。
①「パパ・ママの話を聞く」
つい「こうした方がいいのに」と思うことがあっても、まずは話を聞くことから始めましょう。「昔は〜だった」ではなく「いまはどうしてるの?」「何か大変なことはある?」と現在の状況を聞く姿勢が大切です。アドバイスは求められた時だけにして、まずは共感することで、親世代との関係もスムーズに。良好な関係であれば、「育児でやってほしいこと」「育児でやってほしくないこと」などを先に聞いておくこともできるでしょう。求められていることがわかれば気疲れせずに済みます。
②「手・口・お金は出しすぎず、心と体力にゆとりを! 断る勇気も持とう」
「何でもしてあげたい」気持ちは素晴らしいですが、無理は禁物です。「今日は疲れたから、夕食は外で食べない?」と提案する勇気も時には必要。孫の世話をひとり面倒を見ようと思わずに、帰省中でもパパ・ママと交代制にしたり、「おじいちゃん・おばあちゃんも休憩タイム」をつくったり。体調がすぐれない時は正直に「今日は無理しない」と伝えることも、結果的に家族みんなのためになります。
料理や子どものためのおもちゃなども無理に準備する必要ありません。特に料理は「惣菜」や「宅配」を活用するのもよいでしょう。「お金をかけるのはもったいない」「豪勢に振る舞わなくちゃ」と思うかもしれませんですが、あなたの体力と心の余裕の方がもっと大切。無理してほしいと思っている人はひとりもいないのです。
③「自分のライフスタイルも大切に」
孫中心になりがちですが、あなた自身の生活も同じくらい大切です。帰省中でも、いつもの散歩や習い事は続けて構いません。友人との約束を「孫が来るから」とキャンセルしすぎず、一人の時間も確保してリフレッシュしましょう。「孫のため」ではなく「みんなで楽しもう」という気持ちでいると、自然と肩の力が抜けて、よりよい時間を過ごせます。
「泊まらせてあげなきゃ」も思い込みかも
じつは、帰省する子ども世代のなかにも、「本当は夜はホテルに泊まりたいけれど、親に申し訳なくて言い出せない」「日帰りでもいいならそうしたい」と感じている人が少なくありません。
もし、泊まりがけ帰省が「ちょっとしんどい」と感じているなら、祖父母の側から「泊まらなくても、来てくれるだけで十分嬉しいよ」と伝えてみてください。”ほどよい距離” が喜ばれる時代だからこそ、がんばりすぎる祖父母より、無理せずお互いに楽しめる祖父母の方が、じつは子どもや孫にとっては嬉しい存在なのです。
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お互いが無理をせず、自然体でいられる距離感。それこそが、末長く良い関係を続けるための秘訣です。
この夏の帰省が、家族みんなにとって心地よい時間になりますように。「また来てね」と自然に言える、そんな温かい関係を築いていきましょう。
(参考)
NPO法人 孫育て・ニッポン|「孫育て10か条」
IZA Institutes of Labor Economics|the Effect of Grandchildren on the Happiness of Grandparents: Does the Grandparent’s Child’s Gender Matter?