あたまを使う/教育を考える/インタビュー/社会 2025.7.11

戦後80年で話題沸騰! 中学受験のプロが選ぶ “本当に効果がある” 歴史漫画

戦後80年で話題沸騰! 中学受験のプロが選ぶ “本当に効果がある” 歴史漫画

漫画ではあっても、「学習漫画」はあくまでも勉強に使うものであり、いわゆる知識詰め込み型のような教材をイメージする人もいるかもしれません。しかし、KADOKAWAの『角川まんが学習シリーズ 日本の歴史』は、これまでにも多くの子どもたちを「歴史好き」に変えてきました。同シリーズの監修を務めた歴史学者の岡美穂子先生と、中学受験を志す小学生・保護者をサポートするカリスマ塾講師の馬屋原吉博先生が、その魅力について語り合います。

構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)

『日本の歴史』は、断片的な知識を整理・定着させる最強ツール

馬屋原吉博先生(以下、馬屋原):
いわゆる勉強というかたちではなく「『おもしろい』から子どもの歴史学習をスタートさせたい」と考える保護者も多いですよね。『日本の歴史』における、「これは子どもが手に取りたくなる」「子どもが読み進めたくなる」というポイントはどこにあると思いますか?

岡美穂子先生(以下、岡):
歴史漫画シリーズは出版社によってまったく内容が異なるのですが、とにかく文字が多く、まるで教科書にちょっと絵をつけただけのようなものもあります。一方、KADOKAWAのものは文字が少なく、絵が本当にきれいでストーリー性に富んでいます。そのため、歴史の知識が無理なく頭に入ってきます。

馬屋原:
科目を問わず「漫画でわかる」といった本は流行っていますが、たしかに岡先生がおっしゃるように、「挿絵つき参考書」のようなものも多いですよね。KADOKAWAの『日本の歴史』は、漫画というメディアとしてきちんと丁寧につくられていますから、子どもでも読みやすいのかもしれません。

それに、巻ごとの「でこぼこ」をあまり感じないのも特徴だと感じます。こういったシリーズは、複数の漫画家さんが分業するのが通常のケースなのですが、するとたとえば、「3巻までと4巻からでテイストがまったく違う」ということもよく見受けられます。でも、KADOKAWAのものは編集に1本筋が通っているというか、巻や漫画家さんが違ってもテイストが一貫していますから、抵抗感なく読めるのです。

岡:
馬屋原先生から見て、子どもたちが歴史漫画を楽しく読むことで、学力向上に結びついていると感じる場面はありますか? 「これは効いているな」と思うシーンがあれば教えてください。

馬屋原:
一般的には、歴史学習が本格的に始まる前に親が買い与えることが多いと思いますが、期待どおりに子どもが読むケースはあまり多くないでしょう。逆に、歴史の勉強がひととおり終わって、断片的にインプットした知識を整理したり定着させたりするのにいちばん役立つツールなのではないでしょうか。

やはり、歴史漫画を読むにも一定の知識は必要です。そうでなければ、登場人物を誰ひとり知らないまま読むことになりますから、おもしろくないですよね。知っている言葉や人物が増えた状態で読むことで、「そういうことか!」と理解が深まるように思います。

馬屋原先生

子ども向けだからこそ “本格的” に学ぶ。「ベネッセの英語教室BE studio」の驚きの教育メソッド
PR

興味をもった時代をトリガーに、歴史全般を好きになってほしい

岡:
馬屋原先生の塾生のなかで、歴史が得意な子に人気の時代はありますか? 「男の子なら戦国時代から入ると歴史が好きになりやすい」など、「子どもが歴史を好きになるきっかけ」に多く見られる時代があれば教えてください。

馬屋原:
それほど偏りは感じませんね。戦国や幕末に偏るイメージもあるかもしれませんが、そう考える大人の側がその時代を好きということではないでしょうか(笑)。

岡:
たしかに、たとえば大河ドラマもほとんどが戦国や幕末が舞台ですから、大人にはファンが多いかもしれません。

馬屋原:
ただ、戦国や幕末の問題は、残念ながら中学入試においてとくに頻出というわけではありません。でも、子どもが戦国や幕末が好きになったのなら、そこをトリガーにして歴史全般を好きになってくれたら嬉しいですよね。

そもそもの話をすると、私は子どもたちに対して「楽しんで」とか「興味をもって」とは絶対に言わないスタンスをとっています。なぜなら、私自身が、「これを楽しみなさい」と言われたら、「嫌だ!」と反発しちゃうような子どもだったからです。代わりに、自分が楽しそうに歴史について話すようにしています。そうするなかで、子どもたちがそれぞれに楽しみを発見してくれたらいいなと考えているのです。

岡:
私にはふたりの娘がいますが、そろって近代史が好きですね。馬屋原先生自身が楽しそうに話すこととは違うかもしれませんが、おそらく日常生活のなかで一緒にニュースを見る習慣があるからなのだと思います。「どうしてこういう問題が起きているの?」という質問をされると、そこに直結している過去の歴史について説明するようにしていますから、やはり現代に比較的近い時代に興味をもっているのでしょう。

岡先生

来年の入試では「戦中・戦後」に要注目!

馬屋原:
『日本の歴史』のなかで、「まずはここから読んでほしい」と子どもたちにおすすめしたい巻があれば理由と併せて教えてください。

岡:
いまであれば、今年(2025年)は戦後80年ですから、別巻の2巻「戦中・戦後の日本」ですね。先にも歴史漫画シリーズは出版社によってまったく異なるといいましたが、じつは沖縄戦をきちんととり上げているのはKADOKAWAのものだけです。そういう意味でも、必読の1冊だと思います。逆に、馬屋原先生のおすすめはありますか?

馬屋原:
じつは私もまったく同じで、別巻の2巻ですね。これは、受験対策という点でもおすすめしたいものです。中学受験の問題で扱う時代には、偏りはそれほどありません。時代を問わず広くまんべんなく出題されるのが実情です。でも、やはり戦後80年ですから、来年の入試は違ってくるでしょう。

いま、1年に1回しか入試を実施しない学校は限られていて、2回、3回と入試を実施する学校が増えています。すると、2種類、3種類の問題をつくるとなったとき、戦後80年ということもあって昭和の前半について出題される可能性は高いと見ています。

左に馬屋原先生、右に岡先生

『角川まんが学習シリーズ 日本の歴史 全16巻+別巻5冊定番セット』
山本博文・五百旗頭薫・岡美穂子監修/KADOKAWA(2024)
日本の歴史定番セット

【岡先生&馬屋原先生のおすすめ巻】『よくわかる近現代史』第②巻[戦中・戦後の日本]が無料公開中! ※2025年8月15日(金)まで
無料公開バナー

■ 岡美穂子先生・馬屋原吉博先生 インタビュー一覧
第1回:戦後80年で話題沸騰! 中学受験のプロが選ぶ “本当に効果がある” 歴史漫画
第2回:有名進学校が欲しがる子の条件|「現代と歴史をつなげる力」は歴史漫画で育ちます(※近日公開)
第3回:暗記は昔から通用しない! 東大准教授が語る「現代を生きる力」を育てる歴史学習法(※近日公開)

【プロフィール】
岡美穂子(おか・みほこ)
1974年生まれ、兵庫県出身。京都大学大学院博士課程修了。博士(人間環境学)。現在、東京大学史料編纂所准教授。専攻は中近世移行期対外関係史、キリシタン史。『角川まんが学習シリーズ 日本の歴史 別巻 まんが人物事典』(KADOKAWA)の監修を務める他、著書に『商人と宣教師 南蛮貿易の世界』(東京大学出版会)、『海域アジア史研究入門』(岩波書店)、『海からみた歴史 シリーズ東アジア海域に漕ぎ出す 第1巻』(東京大学出版会)などがある。

【プロフィール】
馬屋原吉博(うまやはら・よしひろ)
1983年生まれ、北海道出身。東京大学在学中から大手予備校・進学塾で大学受験指導、高校受験指導の経験を積んだのち、中学受験専門のプロ個別指導教室SS‒1副代表として多くの中学受験生の指導にあたった。2024年に独立し、オンライン学習サポート「ハルミナ」を立ち上げる。定期的なオンラインの集団授業に加え、完全1対1のオンライン個別指導も続けている。主な担当科目は国語・社会。『中学入試 塾技100 社会』(文英堂)、『国際社会のキホンが2時間で全部頭に入る』(すばる舎)、『頭がよくなる 謎解き社会ドリル』(かんき出版)、『おもしろくてとんでもなくわかりやすい日本史』(アスコム)など著書多数。

【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。