親だってひとりの人間ですから、イライラするのも自然なことです。とくに子育て中は、思い通りにならない出来事の連続でついイライラしてしまうことも多いでしょう。でも、その感情を子どもにぶつけるのは「虐待にあたる可能性もある」と警鐘を鳴らすのは、欧米で学んだ心理学をベースに母親たちをサポートしている公認心理師の佐藤めぐみさん。親子関係を健全に保つために、イライラの要因とその対処法を教えてもらいました。
構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)
子育て中のイライラにある3つの要因
子育て中、ついイライラしてしまう場面は少なくありません。よくある要因としては、以下の3つが挙げられます。
【1】親自身に時間がない
【2】子どもが思い通りに動いてくれない
【3】親自身の体調が悪い
まず「【1】親自身に時間がない」というものが挙げられます。「あれもやらなきゃ、これもやらなきゃ」と考えて、イライラしてしまうのです。そんな状況下で、「【2】子どもが思い通りに動いてくれない」ことが重なれば、なおさらでしょう。
また、「【3】親自身の体調が悪い」こともイライラを引き起こす理由のひとつです。その原因として母親にとくに多いのが、いわゆる「PMS(月経前症候群)」です。生理前だけではなく生理中も不調が続く人もいますから、なかには1か月のうち3週間もイライラしやすい時期が続く人もいます。また、子育てに追われることもあり、睡眠不足によって体調を崩してしまうというのもよく見られるケースです。
しかも、これらの要因はどうしても重なりがちなのです。体調が悪いために家事などやるべきことが溜まって時間がないうえに、子どもが思い通りに動いてくれない……といったことですね。そう考えると、イライラする場面がまったくないという人はほとんどいないと言っていいでしょう。
しかし、だからといって感情的になって大声で子どもを叱ったり、あるいは叩いてしまったりするのは避けなければなりません。イライラをぶつけることで、子どもがふてくされたり反抗したりするなど、ますますいうことを聞かなくなることもありますし、逆に親の顔色をうかがうような子どもにしてしまいかねません。要するに、親子関係がこじれてしまうのです。
イライラをそのままぶつけてしまうと「虐待」に
みなさんに知ってほしいのは、そのようにイライラを子どもにぶつけることは「虐待」にあたるかもしれないということです。
2000年に施行された「児童虐待の防止等に関する法律」では、虐待を4つに分類して定義しています。暴行などの「肉体的虐待」、「性的虐待」、「ネグレクト(育児放棄)」、暴言といった「心理的虐待」の4つです。
厚生労働省の児童家庭局によれば、以下なども心理的虐待としています。
- 子どもを無視したり、拒否的な態度を示すこと
- 子どもの心を傷つけることを繰り返しいうこと
- 子どもの自尊心を傷つけるような言動をすること
つまり、子どもを叩くことはもちろん、イライラから感情的に子どもを怒鳴りつけ、暴言を吐くといったことも、紛れもない心理的虐待になるのです。
世代にもよるところですが、親御さん自身が子どもの頃には、学校の先生や親に叩かれたり怒鳴られたりするのが当たり前だったという人もいるでしょう。時代の流れととともに、教員の体罰や暴言は法律で禁止されましたが、家庭では相変わらず「そんなのはよくあることだ」「私がやっていることは虐待などではない」と認識している親も多いのです。
しかも、虐待は徐々に、そして意外なほど簡単にエスカレートしていくものです。テレビなどのメディアが取り上げる酷い虐待のケースを見ると誰もが心を痛めますが、「ちょっと大きな声で叱っただけ」と思っている人も、いずれエスカレートしてしまう可能性だってゼロではありません。そのことを忘れないでほしいと思います。
イライラに対処するには、要因を見つけ、環境と思考を見直す
誰もが虐待してしまう可能性があることを理解してもらったところで、大事なのは、イライラや怒りをコントロールする方法を知ることです。そうするための第一歩は、冒頭に触れた「イライラの要因」を見つけることにあります。そうして、PMSが要因であればたとえば漢方薬を試してみる、時間がなくてイライラしがちなのであれば新しい家電に頼って時短するというように、要因ひとつひとつを軽減する手段を考えていきます。
また、「環境を見直す」というのもポイントになると考えます。このことは、子どもが思い通りに動いてくれないという要因の対処法にもなり得ます。親御さんがイライラしがちな家庭には、「ルールがない」ということがよく見られます。たとえば、「テレビは1日に1時間まで」「ごはんの時間にはテレビを消す」といったルールを設定していないのです。
ルール設定ができていなければ、まだ自制が効かない幼い子どもの場合だと、「テレビを観たい」という自分の素直な気持ちに従って行動します。すると、親はその場の勝手な気分で「いつまでテレビを観てるの!」とイライラしてしまうのです。
揚げ句、「いい加減にしなさい!」と叱ったら、子どもはどう感じるでしょうか? ルールとして「こうしようね」と言われていたならともかく、そうでないのですから子どもは「なんで?」と混乱し、心理的なダメージを負ってしまいます。そのような事態を招かぬよう、家庭のルールを子どもと一緒に定めて共有してあげてください。
最後に、自分自身の「思考を見直す」ことも大切だとお伝えしておきます。なぜなら、自らがもっている思考がイライラを増幅させていることが非常によくあるからです。子どもが長時間テレビを観ている例なら、本当に必要な行動はその場でテレビを消してもらうことだけですよね? 行動としては、とても単純なことなのです。でもそこで、「いつもテレビばかり観て……」「毎回毎回そうなんだから」というようにダメなシーンを頭のなかに羅列してしまい、わざわざ自らをイライラさせているケースも多いのです。
「私の思考の癖ってなんだろう?」とあらためて見直してみると気づきを得られることも多いです。この例であれば、「私は過去のことを持ち出しすぎる癖があるな。単純に、いまテレビを観ることをやめてくれればいいだけだよね」と気づくことができれば、その場で対処すべきことに意識を向けやすくなるでしょう。その結果、子どもがテレビを消すようになれば、自身をイライラさせるようなこと自体が減ります。ぜひ、自分の思考の癖が状況を悪化させていないかも併せてチェックしてみてください。
■ 公認心理師・佐藤めぐみさん インタビュー一覧
第1回:無自覚のまま「虐待」していませんか? 子育て中のイライラ、3つの要因と対処法
第2回:なぜ、わが子とほかの子を比べてしまうのか。「比較病」の心理構造と克服のポイント
第3回:放置は絶対にNG。愛着障害にもつながる「子どもをかわいいと思えない」問題(近日公開)
【プロフィール】
佐藤めぐみ(さとう・めぐみ)
公認心理師。英・レスター大学修士号取得。育児相談室・ポジカフェを運営。専門は0~10歳のお子さんを持つご家庭向けの行動改善プログラム、認知行動療法ベースの育児ストレスの支援。また、子育て心理学を学ぶ場としてポジ育ラボを主宰。ブログにて毎日の育児に役立つ心理学を発信中。https://megumi-sato.com/
【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。