子どもたちから絶大な支持を得る『角川まんが学習シリーズ 世界の歴史』(KADOKAWA)の監修を務めた、東京大学名誉教授で歴史学者の羽田正先生は、子どもには「歴史、なかでも近現代史を学んでほしい」と語ります。その理由は「いまを理解する」ことにあり、そうした学習をするためには重要なポイントがあるそうです。そのポイントに加え、子どもに歴史を 学ばせる際に知っておきたい、親が注意すべき点についても伺いました。
構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人
目次
「いまを理解する」ために近現代史を学ぶ
歴史学習というと、いまとは直接的な関係がほとんどない古い時代について学ぶことをイメージする人も多いと思います。ですが、歴史といってもその幅は広く、現代を含む「近現代史」を学ぶことは、そのまま「いまを理解する」ことにもなります。
とはいえ、私が監修を務めた『角川まんが学習シリーズ 世界の歴史』(KADOKAWA)は出版物ですから、「今現在」のものはどうしても入れられません。それでもいまにつながる出来事は近現代史のなかにしっかりと刻まれてきているため、それらを学ぶことで、たとえばいまのウクライナ情勢の要因などを理解することもできるはずです。
また、いまや誰もが頻繁に利用し、生成AIの名を多くの人が知る契機となった「ChatGPT」が公開されたのが2022年です。こうした現代のAIの発展につながる歴史ももちろん存在します。
情報技術の急速な発展によって社会や経済、ビジネスに大きな変革がもたらされた現象を意味する「IT革命」という言葉がメディアに頻出するようになったのは1990年代後半から2000年代にかけての頃でした。インターネットの普及のほか、コンピューターが小型化・高速化・低価格化により一般に広まったこと、スマートフォンの登場などによるIT革命がなければいまのAIの発展もなかったことはいうまでもありません。
そのITについても、『角川まんが学習シリーズ 世界の歴史』第19巻・第20巻で描かれています。いまの子どもたちはいわゆるデジタルネイティブであり、生まれたときからスマホがあってあたりまえという時代を生きています。そうしたあたりまえをただ享受するのではなく、いまにつながるITの歴史を知ることは、子どもたちにとっても有益です。
「偏った情報」は「偏った思考」を生む
また、SNS時代である現代は、子どもたちにとって危険な時代とも言えます。偏った情報ばかりをインプットすることで、自らの確固たる考え方をまだもてていない子どもの思考が偏ってしまうリスクが非常に高いのです。
みなさん自身も感じているはずですが、SNSのほか、YouTubeなどの動画共有サービス、ニュースアプリなどを利用すると、いわゆるアルゴリズムによって自分が興味をもちそうな情報がずらりと表示されますよね。ユーザーとして便利な一面もありますが、それはすなわち、偏った情報ばかりをインプットしてしまうことを意味します。
ですから、『角川まんが学習シリーズ 世界の歴史』では、掲載内容が偏ったものにならないよう精査することに注力しました。私が担当編集者に何度も伝えたのは、歴史を描くうえで「一方だけを悪者にしないように」ということでした。
過去のある対立や戦争を取り上げる場合、一方の立場に偏った描き方は、読者に偏った思考を植えつけることにつながります。本シリーズでは、過去の出来事にできるだけ多方面からアプローチし、当時の人々がなぜその行動や選択をしたのかを多角的にとらえられるよう工夫しました。
グローバル社会を生き抜くための、多様な視点から歴史をとらえる姿勢
歴史上の対立や変革には、必ずそれぞれの立場から見た理由や原因があります。その背景を知ることで、多様な視点からものごとを考える力が身につくはずです。いまの子どもたちは、将来的に世界中の人たちと協働することを求められるでしょう。そのとき、一面的で偏った思考しかもっていなければ、大きなマイナスになってしまいます。
だからこそ、『角川まんが学習シリーズ 世界の歴史』は、日本という立場から描くことは当然ですが、どこの国の誰が読んでも「こんなのはあり得ない!」と思われないようなバランスのとれた解釈を示すようにしたつもりです。
歴史を学ぶことは、ただ過去を知るというだけでなく、いまを理解し、未来を考えるための大切な手がかりとなり得ます。近現代史を通じて、現在の社会やテクノロジーがどのようにかたちづくられてきたのかを知ることは、子どもたちにとって大きな財産となるでしょう。
そして、多様な視点から歴史をとらえる姿勢は、偏りのない考え方を育み、グローバルな社会を生き抜く力にもつながるはずです。
『角川まんが学習シリーズ 世界の歴史 全20巻+別巻2冊定番セット』
羽田正監修/KADOKAWA(2024)
【角川まんが学習シリーズ『世界の歴史』第17巻】1冊分まるごと無料公開! ※2025年10月10日(金)まで
■ 歴史学者・羽田正先生 インタビュー一覧
第1回:歴史は “暗記” じゃない。東大名誉教授が語る『角川まんが学習シリーズ 世界の歴史』の学び方
第2回:歴史の「偏った情報」は「偏った思考」を生む。「お父さんは反対」「お母さんはこう思う」がNGな理由
第3回:「世界史が苦手」な親でも大丈夫! 東大名誉教授がすすめる「逆読み」歴史漫画学習法(※近日公開)
【プロフィール】
羽田正(はねだ・まさし)
1953年7月9日生まれ、大阪府出身。東京大学名誉教授。文化功労者。専門は世界史。従来のヨーロッパを中心とした世界史像からの脱却を目指し、国民国家やヨーロッパ対アジアという構図にとらわれない新しい世界史=「グローバル・ヒストリー」の方法による世界史理解を提唱し、各国の歴史学者との共同研究に取り組んでいる。『新しい世界史へ』(岩波新書)、『輪切りで見える! パノラマ世界史 1〜5』(大月書店)、『グローバル化と世界史』(東京大学出版会)、『興亡の世界史 東インド会社とアジアの海』(講談社)など著書多数。
【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。