教育を考える 2022.2.10

「キレる人間」3タイプ。感情や意志を抑圧されてきた子はキレやすい

長野真弓
「キレる人間」3タイプ。感情や意志を抑圧されてきた子はキレやすい

(この記事はアフィリエイトを含みます)

自分の感情をコントロールできず、相手を傷つけてしまう……。程度の差こそあれ、イライラして他者に当たってしまう経験は、誰にでもありますよね。

では、なぜ人は「キレて」しまうのでしょう? どうしたら、子どもを「キレない人」に育てられるのか? 今回は「キレる子どもの親の特徴」にフォーカスして、原因を探ります。

「すぐにキレる子ども」が増えている!

2000年頃から「キレる子ども」が社会で問題となり始めました。キレる子どもたちについて、社会心理学者の碓井真史氏は「なんらかの精神疾患をもっている子もいる」としつつも、最近は「普通の子」なのにキレるケースが増加していると述べています。そして、2020年以後のコロナ禍も子どもたちのメンタルに大きな影響を与えました。

国立成育医療研究センターが実施した「コロナ×こどもアンケート調査」では、6回の調査を通して、「すぐイライラする」「集中できない」と答えた子どもが約3割もいることがわかりました。しかも子どもたちだけでなく、「メンタルヘルスに中等度以上の問題を抱える保護者」が5割以上もいることが判明したのです。親も子もストレスを抱えていることがわかります。

また、キレる子どもの増加傾向は、文部科学省が毎年行なっている「児童生徒の問題行動等生徒指導上の諸問題に関する調査」にも見ることができます。調査項目のひとつである「暴力行為」(小学生~高校生)の発生件数は、平成23年度の56,000件から、令和1年度には78,787件と約1.4倍にまで増加。小学生に絞って見てみると、7,175件から43,614件と、なんと6倍以上となっています。どうやら、キレる子どもは低年齢化しているようです。

次項では「キレる人間の3タイプ」について詳しく説明しましょう。

キレる子どもの親1

子どもの知的好奇心を育てる3つのポイント
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「キレる」人間には3つのタイプがある

アンガーマネージメントの専門家でスクールカウンセリングにも積極的に取り組んでいる、早稲田大学教育学部教授の本田恵子氏は、人のキレ方には【赤鬼タイプ】【青鬼タイプ】【凍りつきタイプ】と、3つのタイプがあるとしています。

【赤鬼タイプ】

いろいろな刺激に対してすぐに興奮してカッとなってしまい、体温が上がって呼吸も荒くなる。八つ当たりをしやすく周囲に自分の感情をまき散らす。このタイプの人が興奮しているときに、興奮を抑制しようとするのはとても危険。トラブルに巻き込まれる可能性が高いのだそう。パワハラをするような人はこのタイプ。

【青鬼タイプ】

強い不安を抱えていて、ひきこもる傾向にある。自分の好きなことや安全なことをしているときは安定しているが、そこに他者が侵入してきてやりたいことを止められたり、無理やり外に出されそうになったりすると、相手に激しい攻撃をして、パニックに近い状況になる。また自分にとって安全なように、事実と異なった記憶が残ることが多い。

【凍りつきタイプ】

支配的な家庭に育った子ども、虐待やいじめを受けた子どもに多い。3歳頃に出てくる「自我」を親に否定され、「いい子でいなければいけない」と思うようになる。そして実際にいい子を演じ続けるが、いい子でいることに限界がきてしまうと問題行動を起こす。「小学生まではいい子だったのに、中学生になったら不登校になってしまった」と言われるような子は、このタイプ。

本田氏は、子どもがどのタイプであっても「キレやすい子どもになってしまうかどうかは、親の関わり方にかかっている」と断言しています。次項で詳しく説明しましょう。

キレる子どもの親2

「キレる子ども」の原因は家庭内にある

なんと、「安定した子どもになるかどうかのまず第1段階は、生まれてから3か月くらいのあいだに決まる」ということがわかっています。本田氏によると、生後3か月のあいだに何らかの理由で親から離される経験をした子どもは、幼稚園や保育園に行く際、ものすごく泣く傾向にあるようです。

ひとりで動けない赤ちゃんは「おむつを替えてほしい」「ミルクが欲しい」などの不快を泣くことでしか表現できません。そんな赤ちゃんの「不快」を、親が「快」に変えてあげることで、赤ちゃんは安心し、気持ちが安定していくのだそう。ですから、この時期に安心できる環境で過ごせなかった子どもは、不安を抱えたまま成長することになるのです。

また、子どもが3歳前後の頃も、子育てにおいて要注意な時期だと本田氏は続けます。

3歳くらいになって感情が出そろってくると、子どもは親の感情や行動を真似していくようになります。自分にとってマイナスになる場面では、うそをつくとうまくいくことを見ていると同様の行動をする。また、親から怒鳴られている子どもは、人と接するときや人になにかをしてもらいたいときには怒鳴るようになる、という具合です。だから、親から虐待された子どもは、学校ではいじめっ子になりやすくなるといいます。

(引用元:STUDY HACKER こどもまなび☆ラボ|子どもが「キレやすい」人間に育ってしまう、“絶対にNG”な親の振る舞い方

子どもをキレやすい人間にしないためには、親自身が自分の行動を振り返り、もしよくない行動をしていたのならば、そのつど直していきたいですね。

キレる子どもの親3

「キレる子ども」の親、4つの特徴

次に「キレる子どもの親の特徴」について詳しく見ていきましょう。専門家のアドバイスを参考にした改善点も挙げています。

特徴1:子どもの睡眠を重要視していない

子どもの精神安定には「正しい睡眠」が必要です。睡眠の専門家で小児科医でもある成田奈緒子氏は、キレる子どもは睡眠時間が短いと話します。たとえば、5歳児の理想の睡眠時間は11時間。小学生であれば約10時間の睡眠がベストです。長いと思うかもしれませんが、子どもの脳をしっかり休ませて発達させるには必要な時間なのです。

実際に成田氏の調査では、きちんと勉強に取り組めない、キレやすい、不登校気味といった問題を抱えた子どもたちの睡眠を改善させたら、問題の多くが解決したのだそう。とはいえ、いきなり睡眠時間を2時間増やそうとするのは難しいはず。まずは、1時間増やすことを目標に生活を見直してみてはいかがでしょう。

特徴2:NGワードを使っている

キレやすい子どもの親は、以下の3つのNGワードを使っていることが多いのだそう。本田氏が挙げる3つのNGワードを使っていたら要注意です。

【NGワード1】事実を確認する前に決めつける言葉
(例)「またゲームしているの?」「あなた、〇〇したんだって?」

子どもは決めつけられることを嫌がります。もし子どもがゲームをしていたとしても、「何しているの?」と聞いてみてください。決めつけられないだけで、子どもは心の安定を保つことができるのです。

【NGワード2】気持ちの代わりに「なんで?」を使う言葉
(例)「どうしてそういうことを言うの?」「なんでここを汚すの?」

疑問の言葉に子どもはますます反抗します。そもそも親自身も「なんで?」の答えを知りたいわけではありませんよね。シンプルに「そんなことを言われたら、お母さんは悲しい」と伝えましょう。親が素直になれば、子ども素直になりますよ。

【NGワード3】物事を否定的に伝える言葉
(例)「約束を守れないなら、買わないよ」「こっちに来ないなら、もう知らないよ」

「マイナスとマイナスの組み合わせ」の言葉は特に注意が必要です。「いま出発すれば、乗りたい電車に間に合うよ」など、「プラスとプラスの組み合わせ」の言葉を使いましょう。また、曖昧すぎる言葉がけもNGです。「お行儀よくしなさい」ではなく「座って絵本を読もうね」、「ちょっと待ってて」ではなく「あと10分だけ待ってくれるかな」と、具体的な話し方を心がけましょう。

特徴3:ストレスをため込みすぎている

本田氏は、親のストレスは子どもをもストレスフルにし、子どもの「キレる土台」をつくると話しています。親が常に子どもを急かしたり、頭ごなしに怒ったりしていると、子どもは「我慢し続ける」か「我慢しきれずに癇癪を起こす」ことになります。抑え込まれた感情はいつか爆発するのです。

もしいまストレスがたまっているならば、「やらないこと」を考えてみましょう。「仕事」「睡眠」「家族」「運動」「友人」など、自分にとって欠かせない大切なカテゴリーを5つ挙げて、毎日そのなかから3つを選び実践する幸福術、「ピック・スリー」がおすすめです。毎日「やらないこと」が2つあるだけで、心に余裕ができますよ。

特徴4:よく夫婦げんかをしている

うつ病カウンセリングなどを行なう精神科医・山下悠毅氏によると、子どもの前でいつもけんかをしている親は「キレるお手本」になってしまうのだそう。また、日本メンタルアップ支援機構 代表理事の大野萌子氏も指摘するように、子どもは「親の態度や口調をそのままコピー」しながら成長するのです。パートナーや義両親など他者への対応を、子どもは本当によく見ています。

子どもの態度に腹を立てることがあったら、自身やパートナーの言動を振り返ってみてください。子どもには言わないような言い方をパートナーにはしていませんか? 親の他者への接し方が、子どもに多大な影響を与えるということを忘れずにいたいものです。良好な夫婦関係は、子どもの精神的な安定につながりますよ

キレる子どもの親4

思春期の子どもがキレるのは、脳の仕組みが原因かも?

ここまで「キレる子どもと親の関係」について考えてきました。しかし、早くて8歳頃からの思春期の子どもがキレやすいのは、どうやら脳の仕組みにも原因があるようです。

脳科学者・中野信子氏の著書『キレる! 脳科学から見た「メカニズム」「対処法」「活用術」』によると、思春期のホルモンバランスの変化がメンタルの不安定さを誘発しているとのこと。思春期男子の場合は、男性ホルモン「テストステロン」が大量分泌するため攻撃性が増します。そのため、イライラしたり、人や物に当たりやすくなったりするのです。

思春期女子の場合は、女性ホルモンである「エストロゲン」の分泌が活発になるので、 “異質なもの” に対する拒否反応を示しやすくなるのだそう。その際、イライラした感情を直接ぶつけてくるため、親御さんはつらい気持ちになるかもしれません。

でも、「思春期特有の脳の仕組みが原因なのだ!」と親が把握しておくことで、荒れがちな子どもに対しても、冷静な対応ができるかもしれませんね。

***
「キレない子ども」を育てるには、とにかく、子どもを不安にさせないこと。そのために親はどうしたらいいのか? もう一度振り返り、考えてみてもいいかもしれませんね。

(参考)
中野信子(2019),『キレる! 脳科学から見た「メカニズム」「対処法」「活用術」』, 小学館.
東洋経済オンライン|「怒りっぽい子ども」が増加している悲しい現実
Yahoo!ニュース|キレる子どもたち、増える子どもの暴力:その背景と私たちの関わり
早稲田大学|アンガーマネージメントミニ講演〜子ども達の新しい生活をどう支えるか〜
NIER 国立教育政策研究所 研究成果アーカイブ|「突発性攻撃的行動および衝動」を示す子どもの発達過程に関する研究-「キレる」子どもの成育歴に関する研究-文部科学省委嘱研究 平成12~13年度「突発性攻撃的行動および衝動」を示す子どもの発達過程に関する研究 報告書
NHK|どうする?子どものグズるキレる
AllAbout|キレる子供、思い通りにならないとすぐ怒る子の心理と対処法
国立研究開発法人 国立成育医療研究センター|コロナ×こどもアンケート調査報告一覧
FNNプライムオンライン|“キレやすい子”にしたくない…子どもが感情をコントロールできるために親ができること
文部科学省|児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査
内閣府|子供・若者白書(旧青少年白書)〜
NHK|ニッポンの家族が非常事態!?
プレジデントオンライン|すぐにキレる人は、なぜすぐにキレるのか
STUDY HACKER こどもまなび☆ラボ|子どもが「キレやすい」人間に育ってしまう、“絶対にNG”な親の振る舞い方
STUDY HACKER こどもまなび☆ラボ|子どもの脳をきちんと育てる「正しい睡眠」
東洋経済オンライン|「子どもを伸ばす」「ダメにする」叱り方の違い
公的社団法人 日本産婦人科学会|思春期とはいつからですか?