教育を考える 2020.1.29

本番に強いか弱いかは価値観で決まる。「緊張を味方につける方法」の教え方

本番に強いか弱いかは価値観で決まる。「緊張を味方につける方法」の教え方

(この記事はアフィリエイトを含みます)

スポーツの対外試合、ピアノの発表会、入試……いわゆる「本番」に強い子どももいれば弱い子どももいます。そのちがいはどんなことに起因するのでしょうか? お話を聞いたのは、「励ましの言葉」である「ペップトーク」の第一人者、日本ペップトーク普及協会代表理事・岩﨑由純さん。「本番」に必ずついてまわる「緊張」との向かい方と併せて教えてもらいました。

構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)

親や指導者の価値観が、本番に対する子どもの強さを決める

本番に強いか、それとも弱いか――。そのちがいは、元来的な性格によるものと思う人も多いかもしれませんが、わたしは「価値観」のちがいによるものだと考えています。

スポーツの試合に臨む直前、「試合に出ることが楽しみでしょうがない」と考える子どもと、「絶対に勝たないといけない」と考える子どもでは、価値観がまったくちがいますよね。後者の子どもは、「2番以下はビリと一緒」というふうに考える指導者のもとで育った子どもだという可能性が高いと見ます。つまり、どんな価値観を持つ人間に育てられたかによって、本番に対する子どもの価値観、姿勢、強さといったものが変わってくるのです。

では、本番に弱いのはどちらかというと、いうまでもなく後者です。「絶対に勝たないといけない」「2番以下はビリと一緒」と考えてプレッシャーを感じるのですから、本番を怖がることになるからです。もちろん、勝つためにしっかり練習したり、試験に受かるために必死に勉強したりすることは大切なこと。でもそこに、「絶対に勝たないといけない」「絶対に受からないといけない」といったプレッシャーが加わると、チャレンジすること自体に恐怖心が芽生えるのです。

そうではなく、「まずはチャレンジして、それまでに培ったすべての力を出し切ることが大事」「それでも駄目だったとしても、次へのチャレンジのはじまりでしかない」という考えを身につけさせてあげることが大切です。

そういうポジティブな価値観を持った子どもたちは、「持っている力を全部出し切って試合に負けたのなら、強かった相手に『おめでとう』といってまた頑張ればいいだけじゃないか」「自分が勝ったら支えてくれたまわりの人に『ありがとう』といえばいいじゃないか」と考えられます。プラス思考の価値観を持っていれば、本番なんて怖いと思わないわけです。それどころか、「自分の力を試したくてしょうがない」「本番が楽しみでしょうがない」と思うはずです。

「緊張を味方につける方法」の教え方2

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普段のコミュニケーションがつくる本番前の「NGワード」

こういった価値観は、子どもと指導者のあいだでつくられていくものです。わたしもペップトークを専門としている立場上、「本番前のNGワードを教えてください」と聞かれるのですが、一概に「これがNG」といえるものはありません。なぜなら、あくまでも子どもと指導者(親も含む)の関係性によって異なるからです。

では、ひとつ例を挙げましょう。モチベーターとして優秀な指導者が、普段から「今日はみんなで『死ぬほど』走り込みをしよう!」「よし、『死ぬほど』腹筋をするぞ!」と子どもに声をかけていたとします。その環境のなかで成長してきた子どもたちに、本番前に「よし、今日こそみんな一緒に死んでこよう!」といったとする。普段の練習の様子を知らない親からすれば、「そんな言葉をかけるのはパワハラだ」と思うかもしれません。でも、普段から「死ぬほど」という言葉をかけられて練習に没頭してきた子どもたちは、「いよいよ力を発揮するときだ!」と、大きな声で元気に「はい!」と答えて闘志をみなぎらせるかもしれないのです。

もっといえば、子ども個人によってもNGワードはちがってきます。「頑張れ」という言葉は、ふつうに考えればポジティブないい言葉に思えるかもしれません。でも、なかにはその「頑張れ」をプレッシャーに感じてしまう子だっている。そのような子どもの受け取り方のちがいを、指導者や親は把握しておく必要があるでしょう。

「緊張を味方につける方法」の教え方3

緊張は、ポジティブにとらえれば強力な味方になる

また、本番には「緊張」がつきものです。しかし、小学生になる前くらいの小さな子どもの場合は、緊張とは無縁です。というのも、まだ緊張というものを知らないからです。でも、成長すると、突然、震えるほどの緊張を感じるときがやってきます。そのとき、指導者や親など、まわりの大人がどうかかわるかによって、緊張に対する子どもの認識は大きく変わるのです。

「いい緊張感」という言葉があるように、緊張自体は決してネガティブなものではありません。緊張を「プレッシャー」という名の敵にしてしまえばネガティブなものになります。でも、逆に味方につければポジティブに受け取れるというわけです。

緊張を味方につけられるプロアスリートの場合、汗をかいたり手足が震えたりするといった生理的反応を見て、「いま自分は緊張している」と察知します。そこでネガティブにならず、「これまで万全の準備をしてきたから大丈夫だ」「扉の向こうには自分の活躍を見るために大観衆が待っている」「汗は出るし手も足も震えているけど問題ない」「これは自分が本気になっている証拠だ」と考えられる。これは、緊張というものを、自分を鼓舞する材料にしている――つまり、味方につけているということです。

はじめて緊張を味わった子どもには、その緊張をしっかり味方にすることを教えることが大切なのです。まずは、これまで知らなかった緊張に出会えたことに、「おめでとう」といってあげてほしい。そして、「ついにきたね。それは緊張っていうんだよ。あなたが本気になった証拠だから大丈夫」「緊張を味方にできたら練習以上にすごいことができるし、もっと大きな感動に出会えるよ」と、緊張をポジティブにとらえられるよう導いてください。

「緊張を味方につける方法」の教え方4

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岩﨑由純 監修・浦上大輔 著/フォレスト出版(2019)
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■ 日本ペップトーク普及協会代表理事・岩﨑由純さん インタビュー記事一覧
第1回:子どもの成功も失敗も、親の言葉がけ次第! 「ペップトーク」が持つすごい力とは
第2回:子どもの夢を断ち切っているのは親かもしれない。注意すべき「ドリームキラー」発言
第3回:「わたしの子=わたしのもの」と思ってはダメ。“傾聴力”で子育てはもっとうまくいく!
第4回:本番に強いか弱いかは価値観で決まる。「緊張を味方につける方法」の教え方

【プロフィール】
岩﨑由純(いわさき・よしずみ)
1959年10月10日生まれ、山口県出身。一般社団法人日本ペップトーク普及協会代表理事。NECレッドロケッツ・コンディショニングアドバイザー。日本体育大学体育学部体育学科卒業後に渡米し、米シラキューズ大学大学院体育学専攻科修士課程修了。日本初の「アスレチックトレーナー」として数々のスポーツ現場で活躍。アメリカ留学中に、ペップトークの迫力・思い・魅力を体感し、現在はスポーツの他、教育・ビジネスの世界にペップトークを普及するため精力的に講演活動を行っている。主な著書に『子どもの心に響く励ましの言葉がけ「ペップトーク」』(学事出版)、『想いが伝わるペップトーク』(いまじにあ出版)、『やる気をなくす悪魔の言葉VSやる気を起こす魔法の言葉』(中央経済社)、『心に響くコミュニケーション ペップトーク』(中央経済社)、『子どものココロを育てるコミュニケーション術』(東邦出版)などがある。

【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。