A君「テーブルの上で寝ている人かな?」
Bさん「でも下半身がないのがおかしいね」
C君「それに、テーブルの脚も2つしか見えないのが変だね」
Dさん「後ろの棚に食器みたいなものがあるから、ここはキッチンかな」
A君「食器みたいな物の色が暗いから、窓かもしれない」
Dさん「たしかに、窓の外から日が当たっているから、暗い色なのかもしれないね」
これは、アーティスト Toos Nijssen による本作品を観て、数人の子どもたちと交わした対話です。
この対話では私は、子どもたちの発言ごとに復唱したり、どこから、そしてどうしてそのように見えたかの根拠を聞いたりしながら、会話をつないでいきました。おわかりのように、子どもたちは、仲間の発言から新たな発見をしたり、自分の発言を改めて見直したりしています。
子どもは大人よりも “ほかの子ども” の発言をより多く受け入れる
子どもは、大人や教師よりも、仲間どうしの発言をより多く受け入れる傾向があります。仲間の発言から、自分にはなかった視点や感じ方に気づき、受け入れ、そのうえで自分の見方や考え方を見直していくのです。
会話はさらに深まります。
Bさん「後ろの棚か角に置いてあるのは陶器にも見えるね」
C君「すると、この人は陶芸家かな、自分の作品を置いているんだ」
Dさん「穏やかな表情をしているから、楽しい夢を見ているのだと思う」
A君「部屋かキッチンに物が少なすぎるから、この絵は陶芸家自身が見ている夢かもしれない」
このように、仲間との対話によって視点の移動が行なわれることで、より豊かな鑑賞が実現できます。さらに、お互いの発言を聴き合うことで、コミュニケーションスキルが培われ、自分の思いや考えを再考する力も養われます。
家族や友人と気軽にできる! グループでの鑑賞の進め方
グループでの鑑賞は、学校の友だちどうしや近所の仲間、家族や親せきなどの、普段から親しくしている人と、保護者同伴で気軽な気持ちで行なうことをおすすめします。
子どもたちの年齢は異なっていてかまいません。年齢にばらつきがあるほどさまざまな視点が得られ、見方や思考の多様性が広がります。作品は、やや大判の画集や、美術館のショップなどで市販されているポストカードを利用してもいいですね。
複数の大人が関わる場合は、ひとりが進行役(私たちはファシリテーターと名づけています)に立ち、ほかの大人は子どもたちの発言を優先しながらも、それぞれひとりの鑑賞者として発言してみてください。
子どもたちは、ほかの子どもはもちろん、大人や異なる立場に立つ人たちの発言にも大きな関心を持っています。大人もできるだけ素直な印象を語ってあげると、子どもたちも素直に受け入れ、思考を深めることができるでしょう。
家族で対話型鑑賞に挑戦してみよう♪
お子さんと一緒に、アーティスト Patrick Hoedt によるこの作品を観てください。どのような印象を抱くでしょうか。
私が実践したとき、子どもたちからは
大人の女性からは
などの発言がありました。あなたやあなたのお子さんからは、どんな気づきがありましたか。
グループ鑑賞のメリットとファシリテーターの役割
グループで鑑賞するとき、重要になるのが「作品をじっくり観ること、ひとりひとり発言すること、仲間の発言をよく聴くこと」です。そのために、ファシリテーターは特に次の3つを意識しながら進めてみてください。
1. 仲間の発言をよく聴き、受け入れる
なかでも一番大切なことは、「仲間の発言をよく聴き、受容して考えること」。矢継ぎ早の発言を避け、ひとりひとりの発言を参加者みんなで注意深く聴くことに時間をかけてください。そして、すべての発言を復唱したり、根拠を聞いたりしながら受け入れましょう。
もし子どもたちが言い淀んでいるようだったら、その子が伝えようとしていることを汲み取ったうえで、本人に確認しつつ、より適切な言葉に言い換えてあげるといいでしょう。「自分の考えをわかってもらえた」と感じることで、子どもは安堵感を覚え、さらに深い対話へとつなげることができます。また、子どもの語彙力の形成にも役立ちます。
自由に発言できる空気感を醸し出すために、発言者の言葉にうなずき、納得する姿勢を示してください。プレッシャーのないなか、心から楽しんで鑑賞し、発言できる雰囲気を作ることで、より実り豊かな対話が実現します。
自分の発言が受け入れられているという思いが、子どもたちの自己肯定感を生み出すと同時に、仲間の発言を受け入れる姿勢を形作っていくでしょう。
2. さまざまな発言をつなげる
さまざまな発言をつなげていくことも大切です。つなげ方は、言葉の関連性、作品に対する視点の取り方、感情面での結びつき、抽象あるいは作品が暗示するものや事象のつながりなど、さまざまです。
これらの「つながり」に目を向けることによって、時間をおいてなされた仲間の発言に刺激され、自分自身の思考が深まっていくのを実感できるはずです。子どもたちも、仲間の発言をつなげていく姿勢をすぐに身につけていきます。
3. 判断や評価する言葉を避ける
判断や評価する言葉を避けてください。ファシリテーターは、鑑賞を誘導したり、作品の一般的な評価を下したりするのではなく、仲間の発言を促すことに徹しましょう。
対話型鑑賞は、正解を早く求めることを目的とはしていません。正解のない世界に羽ばたいていく子どもたちが自ら問いを立て、自律的に学んでいく姿勢を身につけることを目的としているのです。
そのため、作品についての解説も必要ありません。ただし、対話の途中で作品についての具体的事実(たとえば、いつどこで誰によって制作されたかなど)を提示することで、新たな視点が加わるのも事実です。その後の対話をより豊かなものにするきっかけとして、作品背景を話の中に含めてもいいでしょう。
教育の現場においても、教えない教師=ファシリテーターとしての教師の存在が、子どもたちの成長を支えていくと思います。
※Toos Nijssen、Patrick Hoedt による作品は、アーティストから許可を得て使用しています。個人の鑑賞以外の用途の使用はできませんので、ご注意ください。