子どもが学校から帰ってきてもなかなか宿題に取りかからない、机に向かってはみるけれど勉強に集中できていない様子だ、といった悩みを抱えていませんか? 勉強の時間や場所を決めて実行しても、なかなか集中モードに入れないお子さんも多いようです。
そんなときのお子さんは、「脳が覚醒していない」のかもしれません。実は、集中して勉強するには「脳が覚醒している」ことが大切なのです。
脳が覚醒しているというのはどのような状態をいうのか、覚醒レベルはどうしたらアップできるのか、さらに子どもがあっという間に集中する簡単なエクササイズを3つご紹介します。
脳が覚醒すれば集中できる
集中して勉強する方法には、さまざまなアプローチがあります。
たとえば、食後は血流が脳よりも消化器官に優先して流れるので勉強するなら食前がいい、他に気を取られないよう机の上には勉強に使わないものは置かない、勉強が終わったらゲームやおやつなどのご褒美を用意するなど――。実際にご自身の学生時代やお子さんの勉強対策に試したことがあるでしょう。
しかし現実には、環境や条件を整えても、さっと集中モードに切り替えて勉強するのは難しいですね。
集中して勉強するには、「集中している」ときの脳の状態を知るとヒントが見えてきます。脳科学者の篠原菊紀先生は、以下のように話しています。
脳科学の観点から説明すると、「集中できている」というのは、脳の線条体(せんじょうたい)という部分が活動している状態。線条体とはいわゆる「やる気スイッチ」です。行動と快感を結びつけている器官で、移動する動物のすべてが持っているものとされます。というのも、行動に快感を感じられなければ、動物は生き抜くことができないからです。
(引用元:Study Hackerこどもまなび☆ラボ|子どもの「やる気」と「集中力」を引き出す脳科学的テクニック)
線条体は、脳の奥にある大脳基底核という神経細胞体の一部で、運動の始まりや持続、制御を司っている部位です。体への刺激を伝えるはたらきがあり、ここから出される信号が「淡蒼球(たんそうきゅう)」という部分に届くことで、脳の「やる気スイッチ」がオンになります。
つまり、脳を集中している状態にするには、体に運動などで刺激を与えて線条体を活動させ、淡蒼球に刺激を与えることが必要で、運動によって脳をうまく騙せれば集中できるといえるでしょう。
脳の集中力を上げるには、体幹の筋肉を動かす
実際、運動をすることで集中力が上がるという脳の仕組みを生かして、授業が始まる前に外遊びや運動の時間を取り入れている学校や園も各地にあるようです。
同じように帰宅後、家でも宿題や勉強の前に運動を取り入れて集中力をアップさせることができます。その際、「体幹」の筋肉を意識することがポイントです。
東京大学名誉教授の小林寛道氏は、体幹の筋肉(体幹深部筋)を動かす効果について、次のように述べています。
「体幹深部筋というのは、背骨や骨盤周辺、また四肢の付け根にある筋肉の総称です。姿勢を保ったり、歩く・走るといった人間の基本的な動作にかかわる重要な働きをする筋肉であり、その代表的なものが、背骨と脚をつないでいる大腰筋です。そして、これらの筋肉に刺激を与えると、意欲や根気、集中力が高まることがわかっています」
(引用元:プレジデントムック(2017),『プレジデントFamily 小学生からの知育大百科 2018完全保存版』, プレジデント社.) ※太字は編集部で施した
本来は、勉強の前に外遊びをさせて体をのびのびと十分に動かせるのが理想ですが、環境や状況によって難しい場合は、体幹の筋肉を動かすことで同じような効果が期待できます。
脳に効く! 集中力が高まるエクササイズ
脳の「やる気スイッチ」である線条体は、体を動かせば活動してくれます。そのため、特に決まったエクササイズを行なう必要はありませんが、ここでは例として、小林教授が提唱する大腰筋を動かすエクササイズを3つご紹介します。
【仰向けで行なうエクササイズ】
- 仰向けで床に寝ます
- 膝を90度に曲げ、お尻を浮かせます。おへそを天井へくっつけるイメージでゆっくり持ち上げます
- 持ち上げたらゆっくり元に戻します
- 2と3の動きを8回繰り返し、2セットを目安に行ないます
【正座で行なうエクササイズ】
- 正座の姿勢になります
- 両手を前に伸ばし、背筋がまっすぐになるように前屈して伸ばします
- 伸ばした姿勢のまま、前を見るように首を上げます
- そのままおなかの筋肉を引き締めて体をゆっくり元に戻します
【あぐらで行なうエクササイズ】
- 足の裏を合わせて胡坐の姿勢になります
- 両手でそれぞれの足首をつかんで、背中はまっすぐ伸ばしたまま、頭と肩でぐるっと大きな円を描くように上体をまわします
- 次に肩をまわさず腰だけをまわします
正座やあぐらはヨガや座禅にも取り入れられているように、集中したいときやリラックスしたいときに適していると小林教授はいいます。そして、正座やあぐらで姿勢良く座るには、お尻を後ろに突き出すくらい腰をしっかり伸ばすのがコツだそう。また、これらのエクササイズで効果を上げるには、背骨と脚をつないでいる大腰筋をイメージしながら行なうように声をかけてあげるといいですよ。
もちろん、上記エクササイズでなくても、ストレッチやスクワット、逆立ちなどでも効果を得ることができます。親子で軽く体を動かしたあとに、タイマーなどを使って「宿題何分で終わるかなゲーム」をしてみてはいかがでしょう。いつもはダラダラとやっている宿題があっという間に終わるかもしれませんよ!
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勉強前だけでなく仕事、スポーツ、芸術など分野を問わず、集中力はさまざまな場面で必要になる能力です。それぞれの分野で必要になる記憶力、思考力、技術力、創造力といった能力を十分に発揮する場合でも、高い集中力を自在に操れることが大きなアドバンテージになります。
(参考)
Study Hackerこどもまなび☆ラボ|子どもの「やる気」と「集中力」を引き出す脳科学的テクニック
親力講座|簡単な問題でやる気スイッチの線条体を活性化する
さぽナビ(Z会)|<あなたのまわりのサイエンス>集中力と継続力を発揮するしかけをつくる
ベネッセ教育総合研究所|やる気は脳ではなく体や環境から生まれる(池谷裕二インタビュー)
プレジデントムック(2017),『プレジデントFamily 小学生からの知育大百科 2018完全保存版』, プレジデント社.