教育を考える 2018.7.7

「10歳の壁」とは? 子どもの発達段階を意識した4つの対処法

編集部
「10歳の壁」とは? 子どもの発達段階を意識した4つの対処法

「10歳の壁」という言葉をご存知ですか? 「9歳の壁」「小4の壁」とも呼ばれることがあります。「イヤイヤ期」のように、親のあいだではよく知られている用語かもしれません。

けれど、それは一体どのような「壁」で、なぜ問題になっているのか説明できるでしょうか? よく知らないままでは、子どもの成長に対する不安がいたずらに大きくなってしまいかねません。

そこで今回は、「10歳の壁」が意味するものや、それが発生する理由、そして対処法まで詳しくご説明しますね。

「10歳の壁」と発達段階の関係

「10歳の壁」とは、年齢に応じた子どもの発達段階と深く関連しており、教育界ではよく知られた現象です。文部科学省は、小学校高学年における発達段階の特徴を以下のように説明しています。

9歳以降の小学校高学年の時期には、幼児期を離れ、物事をある程度対象化して認識することができるようになる。対象との間に距離をおいた分析ができるようになり、知的な活動においてもより分化した追求が可能となる。自分のことも客観的にとらえられるようになるが、一方、発達の個人差も顕著になる(いわゆる「9歳の壁」)。身体も大きく成長し、自己肯定感を持ちはじめる時期であるが、反面、発達の個人差も大きく見られることから、自己に対する肯定的な意識を持てず、劣等感を持ちやすくなる時期でもある。
また、集団の規則を理解して、集団活動に主体的に関与したり、遊びなどでは自分たちで決まりを作り、ルールを守るようになる一方、ギャングエイジとも言われるこの時期は、閉鎖的な子どもの仲間集団が発生し、付和雷同的な行動が見られる。

(引用元:文部科学省|3.子どもの発達段階ごとの特徴と重視すべき課題

ひとことで言うと、子どもの成長は9~10歳の時期に大きく転換するのです。

これまでは具体的なモノや数以外を認識するのは困難でしたが、抽象的な概念も理解するようになります。

臨床心理士の大須賀隆子・准教授(帝京科学大学)によると、発達段階に合わせ、小学校の学習で抽象的思考が必要とされはじめます。しかし、子どもの発達には差があるため、まだ抽象的思考を獲得してしない子どもが、たとえば算数分野では分数や割り算の学習につまずいてしまい、「10歳の壁」を越えられない子どもが続出するのだそうです。

「10歳の壁」の問題は、勉強面にとどまりません。10歳ごろになると「他者意識」が発達し、他人との比較を通じて自分を認識するようになるため、子どもの自己評価や自尊心が低下してしまうのだそう。嫉妬などのネガティブな感情も生まれ、気に入らない相手を無視したり、その人について悪いうわさを流したりといった「関係性攻撃」につながってしまう場合もあるとのことです。

なぜ「10歳の壁」が問題になったのか

上で述べたような「10歳の壁」が広く一般に知られるようになるには、きっかけがありました。それが、2009年に放送されたNHKの報道番組『クローズアップ現代+』の「10歳の壁」特集です。

番組によると、9~10歳で小学校の勉強についていけなくなる子どもが急激に増えたのだそう。原因のひとつとして、子どもの「考える力」が育っていないことが挙げられました。暗記・スピード重視の反復学習ばかりやらせることや、日常生活における親とのコミュニケーションが不足し「早く寝なさい」「お風呂に入りなさい」など一方的に指示を受けるばかりの状況が影響しているそうです。

その後、2011年に出版された心理学者・渡辺弥生教授(法政大学)の著書『子どもの「10歳の壁」とは何か? 乗りこえるための発達心理学 』(光文社)は、10歳という年齢における子どもの変化を「壁」ではなく「飛躍の時」として受け止めようと主張し、注目されました。

なお、番組放送前の2003年、教育アドバイザーの糸山泰造氏による『絶対学力―「9歳の壁」をどう突破していくか?』(文春ネスコ)が出版されています。「9歳の壁」という言葉はこの本によって知名度を獲得したようです。

「10歳の壁」への対策1:ほめて自信をつけさせる

では、「10歳の壁」がどのようなものか把握できたところで、親として子どもにどう接すればよいのでしょう? 文部科学省は、「小学校高学年の時期における子どもの発達において、重視すべき課題」として、以下の5点を挙げています。これらの課題を達成できる、4つの対策をご紹介しますね。

・抽象的な思考への適応や他者の視点に対する理解
・自己肯定感の育成
・自他の尊重の意識や他者への思いやりなどの涵養
・集団における役割の自覚や主体的な責任意識の育成
・体験活動の実施など実社会 への興味・関心を持つきっかけづくり

(引用元:同上)

まず、他者との比較によって自己評価が低くなった子どもに必要なのは、あらためて自信をつけさせること、つまり「自己肯定感の育成」です。親が子どもに自信をつけさせるシンプルな方法は、やはり「ほめる」こと。しかし、一口にほめると言っても、効果的なやり方というものがあります。

「StudyHacker」のコラム「『人をほめる』は自分の脳にも効果大! 相手のため、自分のための “上手なほめ方” 教えます。」で紹介されているように、ほめることには以下のようなポイントがあります。子どもをほめることに慣れていないという人は、これらの点を意識してみてください。

1. 「すごい」「すばらしい」「さすが」「ありがとう」のようなワードを使う。

少し大げさに思えるかもしれませんが、このような言葉を用いると、子どもにとって「ほめられた」ことが分かりやすくなります。たとえば「テストで80点だね」「脱いだ服を片づけたね」と事実を述べるだけでは、ほめられているのかそうでないのか判然しません。しかし、「80点をとるなんてすごいね!」「脱いだくつを片づけてくれてありがとう」と言うことで、ポジティブなフィードバックとなり、子どもはほめられていると理解できるのです。

2. 具体的にほめる。

いったい何をほめられているのか、どのような行動が高く評価されたのか、はっきりさせることも大切です。ただ「すごいね」と言うだけでは、何が「すごい」のか分かりづらいですし、投げやりに聞こえてしまう可能性もあります。そのため、上記の例のように、どのような行動をほめているのか明確に言語化しましょう。くどく聞こえるかもしれませんが、「毎日1時間も勉強しているもんね。さすがだね」「自分からプリントを整理するなんてすばらしい!」など、できるだけ具体的な言葉にしてください。子どもの頑張りをちゃんと見ているよ、というアピールにもなります。

「10歳の壁」への対策2:家事を手伝わせる

そうはいっても、ほめることは難しい。勉強が得意ではないので、ほめるポイントが見つからない――そう考えてはいませんか? ならば、子どもに家事を手伝ってもらいまししょう。洗濯物をたたんだり、洗い終わった食器を棚に戻したり。能力に応じてできることを、具体的に指示してやってもらうのです。

そうすれば、「丁寧にたためたね」「手伝ってくれてありがとう」とほめる「ネタ」が生まれます。ほめられるだけでなく、「家族の役に立てた」と実感することで、子どもの自己肯定感が養われるのです。「集団における役割の自覚や主体的な責任意識の育成」の効果があるといえるでしょう。

「10歳の壁」への対策3:本を読むよう仕向ける

10歳ごろになると、子どもは客観的な視点や抽象的な思考を持ちはじめ、学校ではこれらの能力を要求する学習が始まります。前述したように、それらの能力が育ちきっていない子どもが直面するのが「10歳の壁」なのです。「抽象的な思考への適応や他者の視点に対する理解」という課題はどうすれば達成できるでしょうか?

方法のひとつは、子どもが「本を読むこと」です。勉強に関するものではなく、物語で充分。「StudyHacker」のコラム「小説は人生の “例文集” 。 楽しく役に立つ『小説読み方入門』」によると、物語を読むことで以下のような学びの機会が得られます。

・登場人物の人間関係を構造化する。
・登場人物の価値観を吸収する。
・作品の核を抽象化する。

まず、「人間関係を構造化する」とは、「頭の中で人物相関図を描く」ことです。物語を読んでいると、それぞれのキャラクターがどのような立場に置かれ、何を行い、互いにどのような影響を与え合っているのかイメージしつづけることになります。それによって高められる能力は以下の通り。

少ない情報から登場人物を客観視する能力が磨かれるので、メタ認知力が高まります。このメタ認知力とは、要は自分や周囲の状況を一歩上から客観視する能力です。

(引用元:StudyHacker|小説は人生の “例文集” 。 楽しく役に立つ『小説読み方入門』

また、物語には登場人物の感情や価値観が描かれているため、自分とは違う他者の考えに触れることができ、以下のようなメリットが生まれます。

他者の価値観を許容し、頭ごなしに否定をしない姿勢を身につけることができます。また、多くの価値観はあなたにとって思考の引き出しとなり、それまでの自分ではできなかった発想が生まれるようにもなります。

(引用元:同上)

これは、文部省が指摘する課題「自他の尊重の意識や他者への思いやりなどの涵養」に該当します。涵養(かんよう)とは、無理なく自然に育てること。物語を通じ、他者への共感を高めることは、「10歳の壁」を乗り越えることにつながるのです。

さらに、多くの物語には「友情の大切さ」や「因果応報」など抽象的な教訓が含まれています。物語を読んでこのようなメッセージを感じ取ることにより、抽象的な物事への理解が深まることでしょう。

このように、読書は「10歳の壁」を乗り越えるのに大いに役立ちます。では、子どもに読書をさせるにはどうすればよいのでしょうか?

小学生の『国語力』を上げるには。3つの方法とオススメ問題集」でもご紹介したように、方法は2つあります。まずは、親が本を読み聞かせてあげること。そして、親が積極的に本を読み、子どもにまねさせることです。読書は効果が高いうえ、特別な出費も必要ない、リーズナブルな学習方法。ぜひ取り入れてみましょう。

「10歳の壁」への対策4:体験活動をさせる

文部科学省が挙げた課題には、「体験活動の実施など実社会への興味・関心を持つきっかけづくり」がありました。「体験活動」と一口に言ってもさまざま。「社会体験」もよいですが、「自然体験」はいかがでしょう?

子どもに『自然体験』をさせよう! 正義感と自己肯定感を強くする方法」でもお伝えしたように、自然体験を多くした子どもほど、自己肯定感が強くなるという調査結果があります。自然体験の豊富な子ほど、自身について「勉強は得意な方だ」「今の自分が好きだ」と考える傾向があるのだそうです。

子どもに自然体験をさせる方法としては、家族でキャンプに行ったり民泊に泊まったりといったものがあります。詳しくは上に挙げた記事をご参照ください。

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何かと話題になりがちな「10歳の壁」。あまり敏感になりすぎず、子どもをほめたり、親子で読書をしたりと丁寧なコミュニケーションを心がけていってください。

(参考)
文部科学省|3.子どもの発達段階ごとの特徴と重視すべき課題
帝京科学大学学術リポジトリ|児童期の認知発達と心理発達の特徴と支援について
NHKオンライン|“10歳の壁”を乗り越えろ ~考える力をどう育てるか~
J-CASTニュース|「早く寝なさい」が思考力奪う!? 脱「ゆとり・百ます計算」の教育
StudyHacker|小説は人生の “例文集” 。 楽しく役に立つ『小説読み方入門』
StudyHackerこどもまなび☆ラボ|小学生の「国語力」を上げるには。3つの方法とオススメ問題集
StudyHackerこどもまなび☆ラボ|子どもに「自然体験」をさせよう! 正義感と自己肯定感を強くする方法