「子どもにやらせたい習い事」として、しばしば挙げられるスイミング。かつて自分もやっていたという親御さんは多いのではないでしょうか。
子どもは保育園・幼稚園でプール遊びを始め、小学校で泳ぎ方を習うことが多いと思いますが、習い事としては何歳から始めさせるのが効果的なのでしょう? 今回は、子どもにスイミングを何歳から習わせるべきか、3つの観点から考察します。
みんなは何歳からスイミングを習っているの?
実際のところ、どれだけの子どもがスイミングを習っていて、何歳から始めているのでしょう?
博報堂こそだて家族研究所が2016年、「小学生の長子がいる母親」1,428名に調査したところ、最も多い習い事は「水泳教室」(31.1%)。低学年では39.8%、中学年では35.6%と、3分の1を超えていました。
同調査において、スイミングを始めた年齢の平均は5.6歳。19種の習い事のうち4番目の早さです。ちなみに、「続けさせたい年齢」の平均は11.3歳でした。
別の調査結果も参照してみましょう。ベネッセ教育総合研究所が2017年、「3~18歳(高校3年生)の子どもを持つ母親」16,170名に行なったアンケートによると、最も人気の習い事はやはり「スイミング」。幼児の23.0%、小学生の33.6%が習っていました。
ふたつの調査結果を見ると、およそ3割の子がスイミングを習っていて、就学前から始める子も小学生から始める子も多いようです。みんなが何歳からスイミングを習い始めるのか、なんとなくイメージできましたね。
スイミングを習うメリット
「何歳からスイミングを始めればいいんだろう?」と気になっていた方は、多くの子どもがスイミングを習っていることに驚いたかもしれませんね。どうしてこんなにも多くの親が、子どもにスイミングを習わせているのでしょう? それは、「泳ぎが得意になる」という以上のメリットが数多くあるからなのです。
体力がつく
スイミングは健康な体づくりに最適。ほかのスポーツにはないメリットがいくつもあるのです。文部科学省による『水泳指導の手引』では、「水の作用」に関して以下のように説明されています。
体温より低い水中で運動を繰り返すことで、体温調節機能が強化され、カゼを引きにくくなると言われています。
水泳は最高スピードで泳いでも、最大筋力の1/3程度しか使わず、テンポが毎分60回程度であるため、筋の血流量が最大となり、筋の持久的能力の発達を促します。また、最大筋力を必要としないので、筋・腱や関節・骨への負担が小さく、成長期の児童・生徒も安全に運動することができます。
水泳はテニスやバドミントン等とちがって、左右両側の筋を交互にバランスよく使用するので、均整のとれた身体の発達が期待できます。また、特定の腕や脚を集中的に使うことがないので、関節が未発達な、幼児や児童にも安心して泳がせることができます。様々なスポーツ傷害に関する報告書をみても、水泳はサッカー・テニス・野球のような、特有のスポーツ傷害が最も少ないスポーツの一つです。
(太字による強調は編集部で施した)
(引用元:文部科学省|学校体育実技指導資料第4集「水泳指導の手引(三訂版)」)
スイミング経験のある親御さんなら、うなずける点が多いのではないでしょうか。スイミングは全身を使ううえ、水の浮力のおかげで体に負担がかかりすぎず、腕や脚など特定の部位を傷めることが少ないのです。小さな子でも安心ですね。
空間認識能力が育つ
空間認識能力は、「人間が秘めた最大の潜在能力」と考えられています。空間認識能力が高いと、各種のスポーツでパフォーマンスを発揮したり、設計関係の職業に就いたりしやすいだけではありません。空間認識能力は、創造力・イノベーションと関連しているとまで言われているのです。
空間認識能力を伸ばす方法のひとつが、スイミング。人類学者のグウェン・デューワー氏によると、子どもの空間認識能力を育てるには、物の大きさや方向を意識できるような声かけが効果的だそう。
そして、数学教育などを研究するロビン・ヨルゲンセン教授(キャンベラ大学)によると、スイミング教室のコーチが指導で使う言葉には、家庭では出会いにくい空間的な表現(「突き出しの角にある赤いリング」「背泳ぎできるように向きを変えて、目は上に」など)が多く含まれています。実際、ヨルゲンセン教授が、スイミングを習っている3~5歳177人に認知機能テストを受けさせたところ、「方向理解」の平均点が一般より約16点も高かったそうです。
集中力がつく
スイミングスクール「ケーニーズ」によると、スイミングでは「何もしなければおぼれてしまう」ため、一生懸命に泳ぐことによって集中力が高まるそう。たしかに、泳いでいるあいだは早くゴールに着こうと必死ですよね。
正しいフォームで泳がないと沈んでしまうし、適切なタイミングで息継ぎをしないと水を飲んで苦しい思いをします。そのため、泳いでいるあいだは自分の体の動きに全神経を向けるので、集中力がつくのかもしれません。
東京大学の学生にスイミング経験者が多いのは有名な話。教育情報誌などを発行するプレジデント社の『塾習い事選び大百科2017 完全保存版』によると、水泳を習うことで集中力が身についたと話す東大生もいるようです。
このように、メリットの多いスイミング。では、何歳から始めるのがよいのでしょうか?
スイミングは何歳から始められるの?
すぐにでもスイミングを始めたいところですが、何歳から教室に通えるのでしょう? じつは、0歳から通えるスイミングスクールが多いのです。
首都圏を中心に展開している運動スクール「ティップネス・キッズ」では、生後4カ月から参加できるスイミング教室を開催。4歳未満の子が保護者と参加する「ベビースイミング」では、水遊びしたり、水に入ることに慣れたりします。親子のスキンシップにも最適ですし、水への恐怖心を小さいうちに取り除くことには大きな意味があるでしょう。
「スイミングは何歳から始められるの?」という質問には、「首が座ったら0歳からでも」と答えられるのです。
スイミングを何歳から始めるべきか~運動神経の発達~
「スイミングを何歳から始められるのか」はわかりましたね。もちろん、0歳から始めなければ手遅れという意味ではありません。では、何歳から始めるのが効果的なのでしょうか。「運動神経の発達」という観点で考えてみましょう。
朝倉書店の『栄養・生化学辞典』によると、運動神経とは「筋肉を支配し、身体の運動や姿勢を制御する神経」。運動が上手なことを、俗に「運動神経がよい」と言いますね。
人類学者リチャード・スキャモン(1883~1952)によると、神経の発達は、4歳頃に全体の約8割、6歳でおよそ9割、12歳でほぼ10割が完了するそう。神経の発達期間が終わってしまう前に、さまざまな経験を子どもにさせて神経に刺激を与え、「運動神経をよくする」ことが重要だと考えられます。
そのため、神経が急速に発達する4歳までにスイミングを始めるのが特に効果的だと言えるでしょう。0歳から通えるスイミングは、小さいうちから運動神経を刺激するのに最適ですね。
このように、「運動神経の発達」という点で考えると、「何歳からスイミングを始めるべき?」という質問には「4歳までに」と答えられます。
スイミングを何歳から始めるべきか~子どもの意欲~
次は、「何歳からスイミングを始めるのがよいか」という疑問を、「子どもの意欲」という視点で考えてみましょう。
「4歳までに」というのは、目安のひとつでしかありません。2016年に引退した水泳のマイケル・フェルプス選手は、五輪で計23個もの金メダルを獲得した伝説的人物ですが、水泳を始めたのは7歳だそうですよ。
神経の発達に効果的だからと、嫌がる子に無理やりスイミングを習わせる必要はありません。ベネッセ教育総合研究所が2009年、「3歳~17歳(高校2年生)の子どもを持つ母親」15,450名に実施したアンケートによると、小学生の親が運動系の習い事を選ぶ際に最も重視するのは「子どもが楽しんでいる」(95.8%)こと。「成果が目に見える」は、わずか18.8%でした。
スイミングを習わせたいと思ったら、まずは子どもの意思を確認しましょう。「ぜひやってみたい」と前向きならよいのですが、あまり乗り気でなかったり、スイミングがどんなものかよく知らなかったりする場合、とりあえず体験教室に行かせては? 楽しいと思えたら入会すればよいし、嫌ならやめればよいのです。
スイミングを嫌がる子も、成長したら興味が湧き、やってみたくなるかも。幼稚園や小学校のお友だちに触発されて、「うまく泳げるようになりたい」と一念発起するかもしれませんよ。「運動神経をよくするため、すぐ始めなきゃ!」と焦らず、子どもの意欲を待ってもよいのではないでしょうか。
つまり、「子どもの意欲」という点で考えると、「スイミングは何歳から?」という質問には「やりたくなったら」と答えることができます。
スイミングを何歳から始めるべきか~水への恐怖~
最後に、「水への恐怖」という点から、スイミングを何歳から始めるべきなのか考えてみましょう。
スイミングのメリットのひとつは、水に慣れ、水を怖がらなくなること。みなさんにも、お風呂を嫌がったり、プールを怖がったりするお子さんがいるのではないでしょうか。子どもをお風呂に入れるのに苦労したり、学校の水泳の授業が心配になったりしますよね。
水を怖がる子でも、スイミングに通うことで水に慣れられるかもしれません。浅いプールで水遊びしたり、ほかの子の泳ぎに触発されたりして、だんだんと水への恐怖を克服できる可能性がありますよ。
ただし、「小さい頃に無理やりスイミングに行かされてトラウマになり、プールが苦手になった」という人もいますので、注意が必要です。無理強いするのでなければ、「何歳からスイミングを始めるべきか」という問題に関しては、「いまからでも」と言えるでしょう。
スイミングを習うのに必要な費用
スイミングを習うメリットと、何歳から始めるべきなのかをみてきました。すぐにでも始めたいところですが、気になるのはお金の問題。楽器などほかの習い事に比べれば安いイメージがあるものの、実際はどれくらいの費用がかかるのでしょう?
たとえば「ティップネス・キッズ」だと、店舗によって会費が異なります。東京23区の場合、平日に週1回だと、6,930~8,030円(税込。2021年3月時点)です。通う曜日や頻度によって変わるので、お近くの店舗を調べてみてください。
「何歳から始めるべきなんだろう」と悩まなくても、迷ったときがスイミングの始めどきなので、お子さんと相談して気軽に体験授業を受けてみましょう。
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「スイミングは何歳から始めるべきなんだろう?」という疑問は解決できたでしょうか。早すぎることも遅すぎることもないので、気軽に始めてみてください。
(参考)
スポーツクラブ・ケーニーズ|スイミングで期待できる効果
プレジデントオンライン|水泳で頭が良くなる?東大生の6割が小学生時代にスイミング
藤井勝紀(2013),「発育発達とScammonの発育曲線」, スポーツ健康科学研究, 35号, pp.1-16.
コトバンク|運動神経
博報堂|【博報堂こそだて家族研究所】「子どもの習い事・身につけさせたいスキル」レポート
ベネッセ教育総合研究所|第1回 学校外教育活動に関する調査 2009
ベネッセ教育総合研究所|第3回 学校外教育活動に関する調査 2017(データブック)
文部科学省|学校体育実技指導資料第4集「水泳指導の手引(三訂版)」
Olympics|Michael PHELPS
Robyn Jorgensen Consulting | Adding Capital to Young Australians
Jorgensen, Robyn (2012), “Under-fives swimming as a site for capital building: Supporting and enhancing transitions,” Australasian Journal of Early Childhood, Vol. 37, Issue 2, pp.127-131.
Parenting Science|10 tips for improving spatial skills in children and teens