いま、コーディネーショントレーニングが注目されています。トレーニングというと、筋トレのような筋肉を鍛えるトレーニングを想像しがちです。しかし、コーディネーショントレーニングは違います。神経に刺激を与えるトレーニングなのです。
「子どもの運動神経をよくしたい!」と考える親御さまは少なくないはず。ぜひ、コーディネーショントレーニングを取り入れてみてください。今回は、「コーディネーション能力をアップさせるトレーニング方法」をたくさんご紹介します。
コーディネーションとは
コーディネーションとは、1970年代に旧東ドイツで生まれた、アスリートの運動能力向上のための理論です。コーディネーション(coordination)は、日本語にすると「調整」「一致」といった意味になります。ですから、コーディネーション能力とは、状況に合わせて「体の動き」や「力の加減」を調整する能力と言えるでしょう。
私たちの体がスムーズに動くのは、脳と神経が連係しているからです。脳は目や耳から入った情報をすばやく処理して、全身に張り巡らされた神経系(神経回路)に電気信号を送ります。つまり、脳は「どう動くのか」を筋肉に伝えているのです。
東京学芸大学教育学部教授である高橋宏文先生は、著書『子どもの身体能力が育つ魔法のレッスン帖』のなかで、脳が発信する電気信号について以下のように話しています。
脳と体、あるいは体の部位と部位の「神経回路」がしっかり連係しているほど、電気信号は速く、正しく伝わります。これによって体がスムーズに、そして自分の思い通りに動かせるようになるのです。
(引用元:高橋宏文(2018),『子どもの身体能力が育つ魔法のレッスン帖』, メディア・パル.)
「運動神経がいい」とか「運動センスがある」なんて言うことがありますよね? 自分の体を自由自在に動かせる「運動センス」の正体は、コーディネーションだったのです。
コーディネーション能力がぐんぐん伸びる年齢
高橋先生は、「コーディネーション能力は幼児期・児童期に伸ばすべき」と話しています。なぜならば、神経系は子ども時代に急激に成長し、5歳くらいで成人の80%、12歳にはほぼ100%まで発達してしまうから。ということは、私たち大人のコーディネーション能力は12歳あたりからほとんど変化していないのですね……。
(画像引用元:国立スポーツ科学センター|女性アスリート指導者のためのハンドブック「発育・発達について」)
この神経系が発達を続けている幼児期・児童期に、さまざまな動きを経験すればするほど、神経系は刺激され、運動神経がよくなると言われています。
山梨大学教育学部長で身体教育学が専門の中村和彦教授も、著書『運動神経がよくなる「からだ遊び」―小学校入学までに差がつく!』のなかで、「日本のトップアスリートたちの約6割は、幼少期に毎日2時間以上遊んでいた」と話しています。現在のトップアスリートたちは、子どもの頃のさまざまな遊びを通して、自身の神経系を刺激していたのです。
12歳くらいまでのあいだにさまざまな動きを経験することが、コーディネーショントレーニングになっていたと言えるでしょう。
コーディネーションの「7つの能力」
コーディネーション能力は、「定位能力」「反応能力」「連結能力」「識別(分化)能力」「リズム化能力」「バランス能力」「変換能力」という7つの能力に分けられます。この7つの能力は、それぞれが個別なものではありません。何かの動作や運動をするときは、7つのうちのいくつかの力がお互いに連動して、体を自分の思ったとおりに動かしているのです。
それぞれの能力をひとつずつ確認していきましょう。
◆定位能力
相手や味方、ボールなどと自分の位置関係や距離を感じる力、把握する能力
ボール投げであれば、相手が1メートル先にいるのと、5メートル先にいるのとでは、必要な力が変わってきますよ。その判断をする力が定位能力です。
(例)縄跳びで回る縄を跳び越す、人とぶつからずに走る
◆反応能力
合図にすばやく、正確に対応する能力
音や人の動きなどの情報をすばやく察知して、正しくスピーディーに動き出す力です。
(例)短距離走で合図と同時にスタートがきれる、速いボールに対して体が動く
◆連結能力
関節や筋肉の動きをつなげ、スムーズに動かす能力
いくつかの異なる動作をスムーズにつなげて、流れるような一連の動きにする力でもあります。
(例)移動して、ボールを取り、そして投げるまでの動作がスムーズにできる
◆識別(分化)能力
手や足、用具を意のままに操作する能力
力を入れる、すっと力を抜く、徐々に力を入れるなど、必要なときに必要なだけの力を出力する “器用さ” のことです。
(例)バットやラケットをコントロールする、ボールを速く投げたりゆっくり投げたりする
◆リズム化能力
タイミングを計ったり、動きをまねしたり、イメージを表現する能力
目で見た動きを、自分の体でできる力です。この能力がないと動きがぎこちなくなってしまいます。
(例)パスがタイミングよくできる、縄跳びで一定のリズムで跳べる
◆バランス能力
必要な体勢を保つ能力
体勢が崩れたときに、立て直すことができる力であり、不安定な物の上や空中で体勢を保ち、動ける力です。
(例)スノーボードに乗る、空中でボールをキャッチして乱れずに着地する
◆変換能力
状況に合わせてすばやく動作を切り替える能力
急な変化に対して、適切な動きをとれる力です。状況判断、身体操作、定位能力、反応能力などが複合的に関わっています。
(例)並走している相手がダッシュをしたら自分も速度を上げられる、バウンドが変わったボールを捕球する
次項では、7つの能力すべてをアップさせるコーディネーショントレーニングを紹介します。
コーディネーショントレーニングとなる「遊び」
コーディネーション能力は、遊びのなかでトレーニングすることができます。高橋先生は、7つのコーディネーション能力すべてをアップさせる遊びとして、「キャッチボール」を挙げています。
たとえば、相手やボールとの距離感を測るのですから「定位」が含まれますし、タイミングよくボールを離さなければなりませんから「リズム化」も含まれます。安定したフォームで投げるには「バランス」が必要ですし、ボールやグラブといった用具を使うには「識別」の力も必要。ほかにも「反応」や「連結」の力も鍛えられますし、相手が投げたボールがそれるようなことがあれば、「変換」の力も必要でしょう。
(引用元:STUDYHACKERこどもまなび☆ラボ|自らの体を自在に動かす“7つの能力”と「運動センス」を高める意外な方法 ※太字による強調は編集部が施した)
野球ボールだけでなく、ドッジボールやビニールボールなど、いろいろな大きさのボールを使うと効果がアップするそうです。「えー! ただのキャッチボール!?」なんて言わずに、お子さまと一緒にコーディネーショントレーニングをしてみてくださいね。
効果抜群! コーディネーショントレーニングメニュー
次に、それぞれの力を向上させるコーディネーショントレーニングをご紹介します。以下の注意点に気をつけながら、コーディネーショントレーニングを実践してみてくださいね。
- 親が最初にやってみせるなどして、子どもが動きを正確にイメージできるようにする。
- 同じ動きが続くとマンネリ化するので、「より正確に」「より速く」「より大きく動く」など、常に新しい刺激を脳に与え続ける。
- メニューをどんどん変える。
- 1回のトレーニング時間は30~40分。1週間に数回で十分。心身がフレッシュなときに行なう。
■物や人との位置関係を把握するトレーニング【定位能力】
<ボールを見よう>
- 大人が転がしたボールをジャンプして飛び越える
- すぐにボールを取って大人に投げ返す
- もとの場所に戻って仰向けに寝る
- 大人が投げたボールを上半身を起こしてキャッチ
※5回ほど繰り返す
■合図にすばやく正確に対応するトレーニング【反応能力】
<鏡になろう>
- 大人と同じ動きをすばやく正確にまねをする
- 20~30秒間続ける
※大人はわかりやすい大きな動きをする
■身体をスムーズに動かすトレーニング【連結能力】
<ボール運び>
- 仰向けに寝た状態で両手を伸ばしてボールを持つ
- 両手両足を上げて、手のボールを足で挟む
- 両手両足を上げて、足のボールを手で挟む
※1~3を3回ほど繰り返す
■手足や用具を操作するトレーニング【識別(分化)能力】
<紙コップでキャッチ>
- 小さなボールを上に投げる
- 紙コップでボールをキャッチする
※紙コップを下にスッと下げてボールの勢いを殺すと◎
■動きをまねる、タイミングを計るトレーニング【リズム化能力】
<お手玉>
- 左右の手に1つずつお手玉を持つ
- 右手でお手玉を上に投げる
- 左手のお手玉を右手に移し、左手でお手玉をキャッチする
■体勢を保つトレーニング【バランス能力】
<バランスがとれるかな>
- 両腕を横にまっすぐ伸ばした状態で、片足で立つ
- そのまま目を閉じて30秒バランスを取り続ける
■状況に応じて動作を切り替えるトレーニング【変換能力】
<ハンドテニス>
- ふたりで向かい合う
- なるべくワンバウンドで、手でボールを打ち合う
コーディネーショントレーニングは、子どもが「楽しい!」と思うことが一番大切です。うまくできない子どもを見ていると、つい「どうしてできないの」「そうじゃないでしょう」などと言ってしまいがちですが、否定の言葉では子どもの能力は引き出せません。
また、子どもの年齢や体力、現在のコーディネーション能力によって、コーディネーショントレーニングは変わります。無理に難しいコーディネーショントレーニングに挑戦させるよりも、いまのお子さまが楽しめるメニューを提案してあげてください。
コーディネーショントレーニングにおすすめのグッズ
コーディネーショントレーニングが楽しくなるグッズもありますよ。お子さまが喜んでトレーニングしてくれそうなグッズを選んでみてくださいね。
■リアクションボール
どこにバウンドするのかわからないクレイジーボール。「識別(文化)能力」や「反応能力」が驚くほどアップします。
■バランスボード
バランスボードは、体力向上、バランス感覚の強化、調整力の向上に最適なアイテム。プロのアスリートから子どもまで、たくさんの人に愛されている人気アイテムです。
■バランス8
10歳前のお子さまにおすすめの8の字型平均台です。大人も遊べるので、親子で競争してみてはいかがでしょう。
■バランスストーン
「バランス能力」はもちろんのこと、「リズム化能力」アップに効きますよ。室内・屋外どちらでも使用可です。
楽しく遊びながら、コーディネーショントレーニングができるなんてうれしいかぎりですね。
コーディネーショントレーニングが体験できる運動教室
子ども向けのコーディネーショントレーニングは「キッズコーディネーショントレーニング」と呼ばれることが多いようです。キッズコーディネーショントレーニングを取り入れた運動教室をご紹介します。
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ティップネス・キッズ「体育のミカタ」
「かけっこで1番になりたい!」「逆上がりができるようになりたい!」を叶えます。科学的プログラムに加え、子どもの小さな「できた!」を拾い上げるコーチ陣が、お子さまの運動能力をぐんぐん伸ばします。
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へやすぽ
自宅で週に1回30分、コーディネーショントレーニングを取り入れたレッスンを受けられるオンライン運動教室。さまざまな種目に応用できる豊富な運動メニューの数はなんと300以上! そして、コーチが子どものいいところをたくさんほめてくれるところが一番のポイント。だから、レッスンを重ねるごとに、子どもも「もっとできる!」「頑張りたい」という気持ちになるのです。会員満足度97%というのも納得。スモールステップで成功体験を何度も経験できるため、運動神経だけでなく自己肯定感もアップしますよ。
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運動センスの正体である、コーディネーション能力。できれば12歳までに磨いてあげたいものですね。子どもの運動神経は、トレーニングをすればするほど、ぐんぐん伸びていきます。「親子で楽しくコーディネーショントレーニング」を今日から始めてみませんか?
(参考)
StudyHackerこどもまなび☆ラボ|「運動センス」の正体とは? コーディネーション・トレーニングが磨く“内観力”
高橋宏文(2018),『子どもの身体能力が育つ魔法のレッスン帖』, メディア・パル.
中村和彦(2013),『運動神経がよくなる「からだ遊び」―小学校入学までに差がつく!』, PHP研究所.
StudyHackerこどもまなび☆ラボ|自らの体を自在に動かす“7つの能力”と「運動センス」を高める意外な方法
J-STAGE|コーディネーション運動が幼児の運動能力に与える 効果―投球・捕球能力の量的変化と質的変化―
国立スポーツ科学センター|女性アスリート指導者のためのハンドブック「発育・発達について」
※本記事は2020年7月3日に公開しました。肩書などは当時のものです。