2019.8.14

“日常的に”自然で遊ぶメリット。「感性で動く」幼少期に多くの自然体験をすべき理由

“日常的に”自然で遊ぶメリット。「感性で動く」幼少期に多くの自然体験をすべき理由

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わたしたち大人が自然に求めるものというと、「雄大な景色を見ることができる」「日頃のせわしない日常から離れる」といったことによる「癒やし」の側面が強いかもしれません。でも、「自然体験によって子どもたちにもたらされるものは、それよりもずっと幅広いものです」というのは、さまざまな自然体験プログラムを提供しているNPO法人国際自然大学校の佐藤初雄理事長。国内における野外活動指導の第一人者が語る、「自然体験が子どもにもたらすもの」とは、どんなものでしょうか。

構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)

体ばかりが大きくなって身体能力は低下傾向にある子ども

最近の子どもたちを見ていると、かつてと比べて体格は良くなっているのに、敏捷性やバランス感覚といった能力は徐々に下がってきているように感じます。その要因としては、やはり外で遊ぶ機会に恵まれていないことが考えられるでしょう。禁止事項だらけのいまの公園はキャッチボールすら禁止されていることが多く、「危険だから」と遊具も減る一方。それでは、子どもが満足に遊べるわけもありません。

もちろん、サッカーや野球などスポーツチームに所属して熱心に練習している子どもたちもいます。でも、そういう子どもであっても、普段からやっているのは、そのスポーツに必要な体の動かし方だけです。なにかにぶら下がったり飛び跳ねたりと、自由な遊びのなかで幅広い運動をすることに比べれば、トータルの身体能力強化という点では開きがあるように感じます。

むかしの子どもたちは娯楽に恵まれていない一方、自然のなかで比較的自由に遊べました。大人になってから木登りに挑戦してみればわかると思いますが、ただ木を登るにも思った以上に腕力を使うものですし、もちろん木から落ちないためのバランス感覚も必要になる。そういった遊びのなかで、むかしの子どもは自然と身体能力を伸ばしていたのです。

「感性で動く」幼少期に多くの自然体験をすべき理由2

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いまの子どももむかしの子どもも本質は変わらない

そういう遊びを子どもたちが日常的にできることがベストですが、とくに都市部では難しくなっているというのが実情です。だとしたら、長期休暇などを利用するかたちででも、わたしたちが提供している自然体験プログラムなどに参加することにも大いに意味があると思うのです。

体力をつけるためとトレーニングをさせても、ほとんどの子どもはよろこばないでしょう。一方、自然のなかでの遊びというかたちなら、楽しみながら体を鍛えることができる。バランス感覚を鍛えるためにと平均台を渡るより、川にかけた丸太を渡ることのほうが、緊張感もあってよりゲーム感覚でできますよね。

いまの子どもたちは、ただ単に遊ぶ機会に恵まれていないだけです。自然のなかで遊べる環境のなかに入ってしまえば、むかしの子どもとなんら変わりありません。それこそ、自然のなかで遊びはじめた途端に、かつてのガキ大将のようにいい意味でやんちゃな一面を見せてくれる子どももいます。子どもを自然のなかで自由に遊ばせることが難しくなっている時代ではありますが、少しでもそういう機会を子どもに与えてあげることを親御さんは考えるべきではないでしょうか。

「感性で動く」幼少期に多くの自然体験をすべき理由3

なるべく小さいうちから自然体験をさせる意味

子どもが自然体験をすることは、身体能力を伸ばすということだけではなく、「心」にも大きく影響を与えます。わたしたちが提供している自然体験プログラムのなかには10km、30kmという長距離を仲間たちと歩く「チャレンジハイク」というものもあります。30kmのほうは小学3年から小学6年の子どもが対象です。高学年ならともかく、中学年の子どもにとっては30kmという距離はかなり長く感じるものでしょう。でも、それを「やり切った」という経験があれば、その後の人生で出会う困難にもへこたれずに立ち向かうことができるにちがいありません。

あるいは、「チャレンジハイク」も含めて仲間たちと助け合いながら行うプログラムがほとんどですから、コミュニケーション能力も伸びることになります。誰かが困っていたら声をかけたり助けてあげたりする。あるいは、自分が困っているときにひとりで抱え込まずに素直に助けを求める。そういったことは、それこそ大人になって社会に出たときに必要な力であるはずです。

そして、子どもにはなるべく小さいうちからそういう体験をさせてあげてほしいのです。自然体験への注目度が増していることもあるのか、いまでは社員研修にも自然体験を取り入れている企業も多くなりました。でも、極端な例かもしれませんが、もしその社員研修がはじめての自然体験だという人がいたとしたら……、残念ながら「時すでに遅し」といわざるを得ません。

大人になれば、人間は自然と「頭で考える」ことを優先してしまうものです。「やる、やらない」「やれる、やれない」といったこと、「その行動をすることの意味」といったことも考えてしまうでしょう。それでは、純粋な意味での体験をすることはできません。

そうではなく、頭で考える前に「感性で動く」子どものうちに、なるべく多くの体験をさせてあげてほしいのです。そして、できれば親も一緒になって体験をしてください。いくら子ども時代に自然のなかで遊んだ経験がある親であっても、成長するうちに少なからず「頭で考える」大人になっています。学びの真っ最中にある子どもに共感するためにも、親自身もあらためて自然体験をしてほしいと思うのです。

「感性で動く」幼少期に多くの自然体験をすべき理由4

社会問題を解決する自然学校の使命
佐藤初雄 著/みくに出版(2009)
社会問題を解決する自然学校の使命

13歳までにやっておくべき50の冒険
ピエルドメニコ・バッカラリオ、トンマーゾ・ペルチヴァーレ 著/佐藤初雄 監修/太郎次郎社エディタス(2016)
13歳までにやっておくべき50の冒険

■ NPO法人国際自然大学校理事長・佐藤初雄さん インタビュー一覧
第1回:キャンプに「せっかくだから」は不要! 子どもが自ら学ぶ、自然のなかでの“シンプルな”過ごし方
第2回:「ギリギリまで待ち、見守る」がコツ。我が子の自然体験に親はいかに“介入する”べきか
第3回:“日常的に”自然で遊ぶメリット。「感性で動く」幼少期に多くの自然体験をすべき理由
第4回:【初心者向け】親子キャンプの楽しみ方。自然体験のプロが教える、親の2つの“NG行動”

【プロフィール】
佐藤初雄(さとう・はつお)
1956年12月21日生まれ、東京都出身。NPO法人国際自然大学校理事長。他にNPO法人自然体験活動推進協議会代表理事、NPO法人神奈川シニア自然大学校理事長、公益社団法人日本キャンプ協会監事なども務める。1979年、日本体育大学社会体育学科を卒業し、財団法人農村文化協会栂池センター入所。1891年に同センターを退所し、1983年4月に国際自然大学校を設立。「次代を担う自立した青少年を育成するには自然体験活動が不可欠」として「教育・環境・健康・国際・地域振興」をキーワードに自然体験活動の提供を続ける、国内における野外活動指導の第一人者。著書に『図解 サバイバル百科』(成美堂出版)がある。

【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。