「お父さん、お母さん、がんばったよ!」、かけっこのときに、我が子がそう笑顔で言ってくれたら、親として嬉しいですよね。
でもせっかく走るのならば、「少しでも速く!」――お子さまも親御さまもそう思っているのではないでしょうか。
そこで今回は、運動が苦手な子どもが主役の運動教室『スポーツひろば』代表である西薗一也先生に、速く走るコツをお聞きしました。
子どものかけっこは言葉かけで速くなる!?
西薗先生よると、幼稚園~小学校低学年の子どもの場合は、テクニックだけでなく、「親の言葉かけ」でも速くなるのだそう。
「子どもにとって親の言葉かけはとても重要です。言葉かけだけでも十分速くなりますよ。まず、お子さまとかけっこの練習をするときは、とにかくたくさん褒めてあげてください。そして、子どもにわかりやすい言葉を意識して使いましょう。『頑張って速く走ろうね!』といった抽象的なアドバイスでは子どもはどうやって頑張ったら速く走れるのか、理解ができません。電車が好きなお子さまであれば、『次は特急電車のスピードで走ってみよう!』などがいいでしょう。
また、練習時間は短めに。かけっこは(フォームも大切ですが)全力で走ることがポイントです。それなのに、長い時間、練習をさせてしまうと、子どもの集中力や体力が落ちてしまうのです。短期集中で頑張ってくださいね」
この3つのポイントですぐに速くなる!
速く走るためのテクニックがたくさんある中で、西薗先生が「まずはこの3つに気をつけるだけでかけっこが速くなる」という言葉かけポイントをご紹介します。
「スタートからゴールまで、ずっと前を見ていよう!」
当日はもちろん、練習中でも、お父さんやお母さんの顔をチラチラ見てしまう子は多いそう。そうすると、集中力もキープできませんし、スタートダッシュも遅れがちです。「ヨウイ!」のときから走り終わるまで、よそ見をせずにまっすぐ前を向いて走るように練習してみてください。キョロキョロせずに走るだけで、タイムが全然違います。
「ゴールの3メートル先まで走ろうね!」
ゴール地点を目指して走ってしまうと、ゴール直前でスピードが落ちてしまいます。すぐには止まれないくらいの勢いで駆け抜けましょう。ゴール直前で、1人お友だちを追い抜くくらいの気持ちが大切です。「もし一番でなかったとしても、最後まであきらめずに走ったらかっこいいよね!」など、練習中の声かけも忘れずに。
「100%の力で走ろうね!」
練習のとき、「今の走りは何%の力だった?」と聞いてみてください。「う~ん、70%くらいかな」と子どもが答えたら、「じゃあ次は100%の力で走ってみようか! 〇〇君(〇〇ちゃん)ならきっとできるよ」と伝えてあげてください。そうすると、ほとんどの子どもが1回目よりも速く走れるのです。もちろん、「すごい! さっきよりも速くなってるよ」としっかり褒めてあげてくださいね。
そして、このアドバイスのほかに、もうひとつ大事なことがあるようです。西薗先生は、「練習中にできないことがあったとしても、子どもを責めないで」と話します。
「子どもたちは一生懸命頑張っているんです。もしかしたらその子は、かけっこがあまり好きではないかもしれない。でも、速く走るために、頑張って練習をしているんです。それなのに、大好きなお父さんやお母さんに、『なんで前を向けないの!』『ゴールの3メートル先まで走る、って言ったでしょ』なんて言われたら、悲しくなってしまいます。
できなかったことを責めるのではなく、できたことを見つけて褒めてあげてください。『さっきより集中できていたみたいだね』『ゴールで止まらず走れたね。よーし、次はもっと駆け抜けるイメージで走ってみようか』と、少しでもできたことを褒めてあげれば、子どものやる気は持続しますから」
かけっこが今より速くなるテクニック!
次に、実際に走る際のポイントも教えてもらいました! 上述した内容も含め、スタートからゴールまでの流れでご説明しましょう。
【スタート時】
- 前を見る
- 手の握り方は生卵が割れないくらいの力加減
- 肘は「小さく前へならえ」の角度
- 1歩目に出す足を決めておく
- 体に力を入れすぎない
- スタートの音をよく聞く
前方を見つつも、あごを突き出さないように注意しましょう。
「ヨウイ!」と言われたときに自然に引いたの足が一歩目の足です。スタートから3歩が非常に重要なので、練習をするときは、スタートから5メートルだけをたくさん練習しましょう。
全身に力が入ってしまうと、すぐに体が動かず、スタートダッシュが遅れてしまいます。脱力したポーズが◎。
「ヨウイ!」のとき、スタートの姿勢をつくった状態で目を閉じます。そして、「ドン!」の合図で目を開け、一歩を踏み出します。本番前に何度か練習しておくといいでしょう。
【走り方】
- 腕を後ろに大きく振る
- かかとは地面につけず、つま先で走る
- ゴールの3メートル先まで走る
- 100%の力で走る
腕は前に振り上げるときは小さく、逆に後ろに引くときは大きく引く。腕を大きく振って、肘の後ろでたいこを叩くようなイメージです。腕の振りが速いと足も速く動きますよ。
かかとが地面についている時間が長くなると、ドスンドスンとした走り方になり動きが遅くなってしまいます。タッタッタ! と軽やかに走れるといいですね。
かけっこが速くなる簡単トレーニング
かけっこ練習のほかにも、自宅でできるトレーニングを西薗先生に教えてもらいました。走るときの歩幅が広がると、かけっこが速くなるのだそう。太ももや腰を鍛えて、一歩一歩を大きく踏み出しましょう。
2つとも室内でできるトレーニングです。親子で楽しくやってみてくださいね。
【太ももを鍛える】
アキレス腱を伸ばす形から、徐々に膝を下げ、次にゆっくり元の姿勢に戻ります。1日、左右5~10回ずつやってみてください。かけっこに使う筋肉がつきますよ。
【腰を鍛える】
膝を伸ばして、お尻で歩きます。2メートルくらい前に進んだら、今度は後ろに下がりましょう。ポイントは上半身の姿勢を保つことです。
かけっこで本当に大切なこと
最後に西薗先生にかけっこの一番のポイントを聞いてみました。
「本当に大切なことは、『これ以上速く走れない!』というくらい全力で本気で走ることです! かけっこの順位なんて、どうでもいいのです。
私は、教室に来てくれている子どもたちにいつも話しています。『一番かっこ悪いのは、ビリになることじゃなくて、全力で走らないことだよ』と。
だから、お父さんお母さんも、ぜひ『全力で走ったこと』をたくさんたくさん褒めてあげてください。きっとその子の自信になるはずですし、かけっこが好きになると思いますよ」
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ご自身も小学校のころは “大きめ体型” で、運動が得意ではなかったという西薗先生。「だからこそ、運動があまり好きじゃない子に、運動の楽しさを知ってもらいたいのです」と話していました。
今回、こどもまなび☆ラボ読者の親子(小1、小2)に協力をお願いしたのですが、練習を見守っているお母さんが、「そうじゃないでしょ」と言いそうになり、言葉をグッとこらえる、という場面が印象的でした。そして、西薗先生にたくさん褒めて(本当に小さなことでもかなり褒められていた)もらった2人は、実際にかけっこが速くなったそうですよ!
【プロフィール】
西薗一也(にしぞの・かずや)
株式会社ボディアシスト取締役。スポーツひろば代表。一般社団法人子ども運動指導技能協会理事。運動が苦手な子どもを対象にした体育の家庭教師の事業をはじめとして、子ども専用の運動教室の開設や発達障害児向けの運動プログラムの開発など、新たな体育指導法の普及 に幅広く取り組む。著書に『発達障害の子どものための体育の苦手を解決する 本』(草思社)『うんどうの絵本』(あかね書房)。
運動が苦手な子のための運動教室『スポーツひろば』
運動を心から楽しめる! 諦めない心を育てる! スポーツひろばは『心を育てる』運動教室です。
『うんどうの絵本 かけっこ』(あかね書房)
監修:西薗一也 絵:左藤芳美
かけっこが速くなるコツがたくさん詰まっています。とても分かりやすい内容なので、練習前にぜひお子さまと一緒に読んでみてください。体の使い方だけでなく、親の声かけの仕方も詳しく載っており、大変ためになりますよ!
【SPECIAL THANKS】
『NPO大江戸』
ちょっとのコツで速くなる「かけっこ倶楽部」はいつも大盛況! 跳び箱、マット運動、縄跳びがどんどんできるようになる「体育塾」は西薗先生監修です。理事長の橋本直和さん、理事のえびさわけいこさんインタビューはこちら。