あたまを使う/英語 2018.2.28

「10歳」を境に最適な英語学習法が変わる?

編集部
「10歳」を境に最適な英語学習法が変わる?

言語教育情報学修士でTESOL(英語教育の国際資格)を持つ、英語のパーソナルジム ENGLISH COMPANYの田畑翔子トレーナーに、第二言語習得研究の知見から子どもの英語習得についてお話をうかがうシリーズの第2回目をお届けします。

第1回では、英語学習と年齢の関係、そして臨界期仮説についてお話しいただきました。今回は、子どもの年齢に合わせた英語学習の進め方と、外国語学習に成功しやすい学習者の要件を探ります。

英語学習に成功しやすい人の条件

——第二言語習得に成功しやすい学習者の要件として、どのようなことが挙げられますか?

田畑トレーナー:
大まかに言えば、以下の5つに分けられます。これは第二言語習得研究の研究者である白井恭弘さんがまとめられているものです。

  1. 年齢(若ければ若いほど良い)
  2. 母語との言語間距離
  3. 外国語学習適性が高い
  4. 動機づけが強い
  5. 学習法が効果的である

 
「若ければ若いほどいい」というのは英語圏で英語を学ぶ場合での話でしたね。日本においては、必ずしも早く始めたからといって、週に1回少し英会話をするだけでは、ネイティブのようになるのはなかなか難しいでしょう。

しかし、早く始めた場合、大量の質の高いインプットに触れることができれば、バイリンガルに近い言語能力を身につけられる可能性があるのも事実です。

「言語間距離」に関しては、皆さんもご存じの通り、日本語と英語はとても異なる言語です。残念ながら、言語間距離は遠いと言えます。

「外国語学習適性」には、言語分析能力や音声認識能力、記憶力などがあります。例えば、音・または文法に対する敏感さ、意味と形の関連パターンを見つけだす力、丸暗記をする力のようなものです。これらの適性はIQと重なっている部分が大きいですが、全く同じではなく、外国語学習特有の適性もあるとされています。

「動機づけ」については、特に子どもの場合、自分から「英語の成績を上げていい学校に行きたい」とか「英語ができれば将来の仕事に役立つ」といったモチベーションを持つことはあまりありませんから、「タスクモチベーション」という概念に注目するといいでしょう。

これは、面白いと思える学習法ならやる気が高まるということ。例えば、「人とおしゃべりするのが大好き」という子どもなら、実際に英語でコミュニケーションをとりながら学ぶのが楽しいと思うかもしれません。本が好きな子どもなら、絵本などを使って学ばせると自分からすすんで学習しようと思うかもしれませんよね。

このように学習者が興味を持てる部分をうまく刺激して、学習方法自体を動機づけにするのです。子どもは、楽しめる活動でなければ続きません。特に英語を学び始めるときは、面白いと思える学習活動を用意する必要があります。

動機づけについて語る田畑翔子氏

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10歳を境に最適な英語学習法は変わる

——幼稚園生~小学校低学年の子どもにはどんな英語学習方法が効果的なのでしょうか?

田畑トレーナー:
「インタラクション」を通した自然な「インプット」を与えることが重要です。「インタラクション」とは、他者とのやりとりのこと。子どもが母語を身につけるとき、お母さんとのやりとりを通じて学んでいきますよね。

インタラクションがないと、子どもは相手の反応を通して言語を検証するプロセスをふむことができません。子どもが英語を学ぶときも、英語による他人とのやりとりが大切になります。

ちなみに「インプット」とは、聞くこと、読むこと(それに対して、アウトプットとは、話すこと、書くこと)。言語習得において、インプットは絶対に必要なものです。第二言語習得研究では一般的に、言語を習得するには「理解できる大量のインプットと少量のアウトプット」が効果的だと言われています。

子どもの場合、まずは英語にふれる機会を多く持ち、英語を「聞く」という大量のインプットを確保することが必要になります。その上で、他人との英語でのやりとりを通して、少しずつ英語を「話す」というアウトプットの機会を設けていくといいでしょう。

ENGLISH COMPANYスタジオの照明

——子どもに文法規則などのルールを教えても効果は薄いのでしょうか?

田畑トレーナー:
これは子どもの年齢によっても変わってきます。子どもは10歳以降、明示的な知識を理解し、運用するのに必要な「認知能力」を身につけるようになると言われています。そして、認知能力の有無によって、最適な学習法は異なります。

小学校高学年以降、子どもは次第に高い認知能力を獲得していきます。そのような子どもには、体系的な英語の文法規則を教えた上で良質なインプットを多く与えたほうが、短い時間で効率よく学ぶことができるようです。学校教育で、中学生から英語の文法を教えるのは、理にかなっていると言えるでしょう。

一方、幼稚園生~小学校低学年の子どもの場合は、まだその認知能力が十分育っていません。そのため、文法を明示的に教えるよりは、先ほどお話ししたように、自然なインプットを大量に与え、インタラクションを通して英語を学んでいくほうが効果的なのです。

【プロフィール】
田畑翔子(たばた・しょうこ)
京都府出身。米国留学を経て、立命館大学言語教育情報研究科にて英語教育を専門に研究。TESOL(英語教育の国際資格)を保持。株式会社恵学社の取締役、文系教務部長、ENGLISH COMPANY担当部長。

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子どもにとって最適な英語学習の進め方がだんだんわかってきました。次の第3回では、今後の学校教育や大学入試における「英語4技能化」と、英語4技能のスキルアップに効果的な学習方法についてお話しいただきます。

■第1回はこちら:第二言語習得研究に基づく「臨界期仮説」のウソ・ホント。“英語のプロトレーナー”田畑翔子さんインタビュー【第1回】

■第3回はこちら:入試の「英語4技能化」に対応できる英語力の伸ばし方。“英語のプロトレーナー”田畑翔子さんインタビュー【第3回】