教育を考える/親の関わり 2025.9.3

「何度言ってもわからない」が嘘のように変わる! 専門家6人が教える “子どもが伸びる叱り方”

野口燈
「何度言ってもわからない」が嘘のように変わる! 専門家6人が教える “子どもが伸びる叱り方”

「そんなことしちゃダメ!」気づけば声を荒らげてしまい、あとから自己嫌悪……。子どもを叱るのは、親として避けられない場面です。でも、叱り方を間違えると、子どもは心を閉ざしてしまうかもしれません。

本来、叱ることは「罰」ではなく、子どもが社会で生きるための「大切な学び」です。感情的に怒鳴るのではなく、冷静に、そして愛情を込めて伝えることで、子どもはルールを理解し、成長していきます。

この記事では、教育・心理の専門家の意見をもとに、上手な叱り方のポイントやタイプ別のアプローチ方法を解説。子どもへの叱り方にお悩みの方は、ぜひ参考にしてください。

愛情をこめて「ルールを優しく」伝える方法

■岩立京子氏(東京家政大学子ども支援学部教授)

叱るとは「愛情を込めたルールの伝達」です。叱る行為は、親の怒りをぶつけるためではなく、子どもが社会で生きるうえで必要な価値観やルールを伝える大切な機会。

ですから「これはしてはいけない」というメッセージは、ただ押し付けるのではなく、子どもが納得できる形で伝えましょう。たとえば、おもちゃを友達から奪った場合、「そんなことしちゃダメ!」だけではなく、「友達も使いたかったんだよ」「順番を守ると楽しく遊べるよ」と具体的な理由を添えれば、禁止の裏にある本来の目的を理解してくれるはずです。

さらに、叱るときの表情や声色にも注意してください。過度に厳しい表情は子どもを萎縮させ、柔らかすぎる態度は本気度が伝わらないことも。叱ることは、「愛情を形にして示す行為」でもあります。子どもが成長の糧にできるよう、心を込めた言葉を選びましょう。

【子どもを叱るときのポイント】

  • 感情的ではなく、冷静にルールと理由を伝える
  • 「禁止」だけでなく、その背景にある価値観を説明する
  • 叱るときは表情や声色も意識して

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「叱らないしつけ」の取り入れ方

■おおたとしまさ氏(教育ジャーナリスト)

「しつけ=叱ること」という考え方を見直しましょう。どんなに強く言ってもできないことは、結局できないまま。代わりに、日々の行動のなかで自然に学ばせる工夫が有効です。

最大のしつけは「親の背中を見せること」。たとえば、あいさつや片付けに関して、口で指示するよりも親自身が習慣化していれば、子どもは自然と真似します。また、日々の決まりごとなどを忘れてしまったときは、「なんでできないの?」と叱るのではなく、「そういえば、これやるんだったね」と子ども自身が思い出せるようサポートをするのがポイントです。

さらに、叱らずにしつけるためには、事前の環境づくりも大切。たとえば、片付けやすい収納、ルールがわかるイラスト掲示など、子どもが自然と行動しやすくなる仕組みを整えましょう。叱ることだけに頼らない「しつけ」は、長期的な自律心と信頼関係の土台をつくります。

【子どもを叱るときのポイント】

  • 叱る前に、まずは親がお手本を見せる
  • 忘れた行動は優しく思い出させる
  • できた行動をしっかりほめる

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子どもの叱り方03

「一次感情」を伝える叱り方

■熊野英一氏(株式会社子育て支援代表取締役)

叱るときに大切なのは「怒り」の感情に焦点を当てるのではなく、その奥にある一次感情を伝えること。怒りやイライラは二次感情であり、その前には「心配」「悲しい」「残念」といった一次感情があるのです。

たとえば、宿題をしない子に対して「早くやりなさい!」ではなく、「やらないと明日困るのではないかと心配だよ」と一次感情をメインに伝えると、子どもは親の意図を受け取りやすくなります。
また、叱る前に理由を聞き出すことも忘れずに。子どもの行動には必ず背景があり、それを聞き出すことで本質的な改善策を一緒に探せます。親はあくまでも「インタビュアー」の立場でいることが大切です。

さらに、「〇〇しちゃダメ」と行動を否定するだけでなく、最後に代替案を提示しましょう。「代わりにこうするといいよ」と具体的な提案をすれば、子どもは次にどう動けばいいかを理解できます。一次感情を伝え、背景を聞き、次の行動につなげる。これが、叱ることを前向きな学びに変える秘訣です。

【子どもを叱るときのポイント】

  • 怒りの裏にある一次感情を率直に伝える
  • 理由を聞き出し、その行動の背景を理解する
  • 禁止だけでなく代替行動を提案する

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つい叱りたくなるときでも、親は「インタビュアー」になれば落ち着いて我が子に向き合える

「私メッセージ」の伝わる言い換え術

■瀬川文子氏(親業訓練協会)

叱るときの言葉選びには、「主語の視点」を取り入れましょう。ついやりがちな「あなた主語」の叱り方(例:「あなたはなんでこんなことをするの!」)は、子どもを責めるニュアンスが強く、反発や萎縮を招きやすくなりますが、「私主語」の伝え方(例:「私はこうなると悲しい」)を使うと、感情を押し付けるのではなく共有できます。

上手な伝え方は、「1. 事実の描写 → 2. その影響 → 3. 自分の感情」の順。

【部屋が散らかっている場合】
1. 「部屋におもちゃがいっぱい出ているね(事実)
2. 歩くときに転びそうで危ないね(影響)
3. ママはそれが心配だな(感情)

この方法を実践すれば、叱られる側の子どもにとっても冷静に受け止めやすく、親子の関係性を保ちながら行動改善を促すことができます。さらに親自身も、自分の感情を言語化することで、冷静に対処できるようになるという効果も。叱るときの言葉を少し変えるだけで、子どもへの伝わり方も、親の心の余裕も大きく変わりますよ。

【子どもを叱るときのポイント】

  • 「私主語」で事実・影響・感情を順に伝える
  • 責める言葉ではなく共有する言葉を使う
  • 自分の感情を冷静に言語化してから話す

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子どもの叱り方04

子どもの性格に合わせた叱り方

■稲場真由美氏(人間関係研究家)

じつは、子どもの性格タイプに合わせて叱り方を変えることが効果的です。たとえば、論理的に物事を考える「ロジカルタイプ」の子には、「なぜその行動がいけないのか」を筋道立てて説明するのが有効。このタイプは、ルールや理由を事前に共有しておけば納得しやすくなります。

一方、直感的で自由な発想を好む「ビジョンタイプ」の子には、長々と説明するよりも、短く端的に叱るほうが響くことも。叱ったあとに前向きな言葉を添えると、気持ちを切り替えやすくなります。また、慎重でマイペースな子には、急かす叱り方は逆効果。相手のペースを尊重しながら、やるべきことを伝える必要があるでしょう。

叱り方を一つに固定せず、相手に合わせた柔軟なアプローチを心がけることが大切です。タイプを見極めるには、わが子の日常の行動パターンや反応をよく観察すること。小さなサインを見逃さず、その子に合った言葉とタイミングで叱ることで、伝わり方が大きく変わります

【子どもを叱るときのポイント】

  • 子どもの性格タイプを見極めて叱り方を変える
  • タイプに合わせた説明方法と長さを調整する
  • タイミングと声かけで伝わり方を最適化する

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「いくら言っても分かってくれない」のは、叱り方がその子に合っていないから。

1分以内で効果的に叱るコツ

■浦谷裕樹氏(EQWELチャイルドアカデミー主席研究員)

子どもを叱る時間は1分以内が理想です。長時間のお説教は、子どもの集中力が切れ、内容が頭に残らなくなってしまうから。叱るときは、まず事実を端的に伝え、その行動の問題点を明確にします。そのうえで、改善案を示して締めくくる。短時間でも要点を押さえれば、十分に効果があります。

もし感情的になりそうなときは、一度その場を離れて冷静になる時間を取ることも重要です。冷静さを欠いた叱り方は、相手の反発や不安を招くだけでなく、親自身も後悔することになりかねません。

叱ることを「怒るチャンス」ではなく、「教えるチャンス」と捉えましょう。叱る場面を、ただの注意ではなく学びの場に変えることで、子どもは次の行動につなげやすくなるのです。そして、叱ったあとには必ず「フォローの一言」を! 「さっきのことはもう大丈夫」「次はこうしようね」と声をかければ、叱責が関係悪化につながるのを防げますよ。

【子どもを叱るときのポイント】

  • 叱る時間は1分以内に収める
  • 感情的になる前に距離を取る
  • 必ずフォローの言葉で締めくくる

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子どもの叱り方05

よくある質問Q&Aーー親が迷いやすい叱り方のギモンを解決!

Q1. 子どもを叱らないと甘やかしになりますか?

A. 必ずしもそうではありません。叱らなくても、ルールや価値観を日常のなかで伝えることは可能です。ただし、危険な行為や他人を傷つける行動は、その場で明確にストップをかけてあげてください。

Q2. 感情的に叱ってしまったときは?

A. 後で冷静になってから「さっきは感情的になってしまってごめんね。でもこうしてほしかった」ときちんと説明すれば、信頼関係を修復できるでしょう。

Q3. 兄弟で叱る回数に差が出るのは悪いことですか?

A. 子どもの性格や行動によって叱る頻度が変わるのは自然なこと。ただし、どちらかだけを常に叱っている印象を与えないよう配慮しましょう。

Q4. 何歳から叱っていいの?

A. 言葉や表情がある程度理解できる2~3歳頃から、短い言葉で簡潔に伝えることが効果的です。

Q5. 叱ったあと、フォローは必要ですか?

A. 必須です。フォローがあることで、叱られた経験を前向きな学びとして受け止められます。

***
叱ることは、子どもの成長を支える重要な関わり方です。感情的になるのではなく、目的と相手に合わせた言葉選びを意識すれば、叱る行為は「罰」ではなく「学び」に変わります。本記事の専門家の知見を参考に、子どもの心に届く叱り方を実践し、親子の信頼関係を深めていきましょう。

(参考)
STUDY HACKER こどもまなび☆ラボ|イヤイヤ期には“気そらし方略”がうまくいく。3歳の子育てをラクにする、2歳までの「しつけ」のコツ
STUDY HACKER こどもまなび☆ラボ|いちばんのしつけとは、子どもに〇〇を見せること。親はそんなに頑張らなくていい!
STUDY HACKER こどもまなび☆ラボ|つい叱りたくなるときでも、親は「インタビュアー」になれば落ち着いて我が子に向き合える
STUDY HACKER こどもまなび☆ラボ|「私メッセージ」の叱り方で子どもが変わる! 親は怒りではなく“第一次感情”に注目して
STUDY HACKER こどもまなび☆ラボ|「いくら言っても分かってくれない」のは、叱り方がその子に合っていないから。
STUDY HACKER こどもまなび☆ラボ|お説教は「○分以内」で。子どものEQを高める“叱り方の正解”とは