「今日はどんな気持ちだった?」と子どもの感情に寄り添い、「がんばったね」と温かく励まし、子どもが困ったときには「一緒に考えよう」と支えてあげる。じつは、そのような子育てをする親にはエレファントペアレントという名前がつけられていることをご存じでしょうか。
このエレファントペアレンティング(象型の子育て)は、象の親が子どもを大きな愛情で包み込むように、感情に寄り添い、保護的で、子どもの気持ちを最優先にするのが特徴の子育てスタイル。興味深いことに、この子育て法は日本の伝統的な「母子密着型」の子育てと多くの共通点が。添い寝や一緒の入浴といった日本古来の育児スタイルと自然に調和することが多くの研究から示唆されています。
この愛情深いアプローチは確かに素晴らしい面がたくさんあります。しかし行きすぎると、子どもの困難に立ち向かう力を奪い、長期的には「打たれ弱い子」をつくってしまうという落とし穴も。
本記事では、エレファント・ペアレントの特徴7つ、この注目の子育て法のよい面・注意すべき点、そして子どもを本当にたくましく育てるヒントをお伝えします。
目次
エレファント・ペアレントとは?
その名の通り「象のように大きな愛情で子どもを包み込む」子育てをする親のこと。この用語は2014年、ジャーナリストのプリヤンカ・シャルマ=シンダー氏が『The Atlantic』で発表した記事「Being an ‘Elephant Mom’ in the Time of the Tiger Mother」で提唱されました。厳格で目標重視のタイガーペアレントに対する代替案として世界で注目されています。
エレファント・ペアレントとの最大の特徴は、子どもの感情的な安全と幸福を優先すること。安心できる環境を与え、気持ちを尊重し、自由な探究や挑戦を応援。スキンシップや抱っこを惜しまず、心理的な安全基地としてそばにいることを大切にします。
あなたはエレファント・ペアレント? 7つの特徴
では、具体的にどのような行動がエレファントペアレントの特徴なのでしょうか。以下の7つをチェックしてみてください。
1. 常に子どもの気持ちを聞きたがる
学校から帰ってくると必ず「今日はどうだった?」と聞き、テストの点数が悪かったときも「つらかった? どんな気持ち?」と感情を中心に話を聞こうとします。子どもが少しでも元気がなさそうだと「何かあったの? 話してみて」と心配に。いつも子どもの心の状態を気にかけ、何かあれば支えてあげたいと思っています。
2. 何でも子どもの意見を聞いて決める
「今日は何して遊ぶ?」と「○○ちゃんのやりたいことをしよう」が口癖です。子どものペースに合わせて一日の予定を決めます。きちんとしたルールや決まった時間よりも、子どもの気分や希望を大切にし、食事のときもまず子どもの好みを聞いてから決めます。子どもの話を一番大切にし、子どもが会話の中心になるように意識しているのが特徴です。
3. 子どもの代わりに問題を解決したがる
友達とけんかをしたと聞けば「お母さんが先生に相談してみようか?」と提案し、宿題で困っていると「一緒にやってあげる」と手を差し伸べます。子どもが自分なりに解決方法を考えるまえに、親の方から「こうしたらどうかな?」と答えを出してしまいます。子どもが困っている様子を見ると、そのままにしておけません。
4. 心配しながらも子どもの挑戦を見守る
公園の高い滑り台に向かう子どもを見て、止めはしませんが手に汗をかきながら「気をつけてね」「ゆっくりでいいからね」と、すぐに手を貸せる距離にいます。子どもの冒険心は大切だとわかっていても、ケガをしないかという不安でいっぱいになってしまいます。完全に止めはしませんが、子どもが何かにチャレンジするときにはとても心配になってしまうのが特徴です。
5. 子どもが泣くと必ずそばに行く
夜泣きしていたら子どもをひとりにはせず、「大丈夫だよ、お母さんがついているよ」と子どもが落ち着くまでそばにいます。外出先でぐずったときも、怒るのではなく人の少ない場所に連れて行って、「どうしたの?」と優しい対応。子どもが不安になったり悲しんだりしているときは、必ず寄り添います。
6. 子どもが嫌がることは続けさせない
ピアノの練習を嫌がれば「無理しなくていいよ」と言い、何よりも子どもの気持ちを大切にします。「最後まで続けることの大切さ」よりも「子どもが幸せでいること」を重視し、ストレスを与えたくないと考えています。子どもが「楽しくない」「やりたくない」と言った習い事などは、無理に続けさせません。
7. 「ダメ」とはっきり言うのが苦手
「それはちょっと…..」「どうかな?」といったあいまいな表現を使いがちで、子どもが本当にやってはいけないことでも強く止めることができません。お店で走り回ったり、ほかの人に迷惑をかけたりしても「みんなが困るからね」と優しく諭すだけのことも。きちんとした注意やルールを伝えるのが苦手な傾向があります。子どもを傷つけたくない気持ちが強く、明確な境界線を設けるのが難しくなります。
いかがでしたか? これらの特徴は決して悪いことではありません。ただし、すべてが極端になりすぎると、子どもにとって「重すぎる愛情」「過保護」になってしまう可能性があるので注意が必要です。
エレファントペアレンティング(象型の子育てのメリット・デメリット)
この子育て法は、確かに多くのよい効果をもたらすことが研究で明らかになっています。
・自己肯定感の向上:常に愛情を受けることで「自分は大切な存在」と感じられる
・感情表現が豊か:気持ちを受け止められる環境で、感情を素直に表現できる
・深い親子の絆:信頼関係が築かれ、何でも相談できる関係性になる
・ストレスの軽減:親が心の支えとなり、精神的に安定した状態を保てる
・高いコミュニケーション能力:感情を大切にする環境で対人スキルが発達する など
・困難への耐性不足:守られすぎて、挫折やストレスへの対処法を学ぶ機会が少ない
・問題解決力の低下:親が先回りするため、自分で考えて解決する経験が不足する
・依存的な性格:親への依存度が高く、自立するタイミングが遅れがち
・やり抜く力(グリット)の欠如:困難に直面したときに諦めやすくなる傾向
・現実への適応困難:社会に出てから理想と現実のギャップに苦しむ可能性 など
このスタイルには大きなメリットがありますが、行きすぎるとデメリットも生じるため、適切なバランスを保つことが重要です。
エレファントペアレンティングを活かす賢い子育て
では、エレファントペアレンティングのよさを活かしつつ、デメリットを最小限に抑えるにはどうすればよいのでしょうか。
◆共感はするが、解決は子どもに任せる
まず子どもの気持ちをしっかり受け止めながらも、解決は子ども自身に任せることが大切です。「つらかったね」と共感した後は、「どうしたらいいと思う?」と子どもに考えさせてあげましょう。
◆愛情を示しつつ、ルールははっきり伝える
愛情を示しながらも、基本的なルールやマナーについては「これだけは守ろうね」とはっきり伝えることも重要です。年齢に応じて小さなことから徐々に子どもに任せ、自分でできることを増やしていくことで自立心を育てられます。
子どもの今の気持ちを大事にしつつ、将来困らないよう必要なことは教えるという、現在と未来のバランスを取った子育てを心がけることで、愛情深さを保ちながら子どもをたくましく育てることができるのです。
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エレファント・ペアレンティングは、子どもの感情的な安全と幸福を何よりも大切にする素晴らしい養育スタイルです。しかし、度が過ぎると子どもの成長機会を奪ってしまうリスクもあります。大切なのは、愛情深さを保ちながらも、子どもの長期的な成長を見据えたバランスの取れたアプローチを心がけることです。
あなたも7つの特徴をチェックしながら、自分の養育スタイルを見直してみてはいかがでしょうか。完璧な親になる必要はありません。子どもと一緒に成長していく姿勢こそが、最も大切なことなのです。
(参考)
Parent|7 Signs You’re An Elephant Parent
The Atlantic|Being an ‘Elephant Mom’ in the Time of the Tiger Mother
The Center|Understanding Parenting Styles: Finding the Balance Between Control and Empowerment
O’Sullivan Counseling|Japanese Parenting Style – And Differences from the West