2018.4.7

現実と空想を区別できるのは6歳以降? 親の”救世主”読み聞かせで、子どもは絵本を「体験」する

景山聖子
現実と空想を区別できるのは6歳以降? 親の”救世主”読み聞かせで、子どもは絵本を「体験」する

こんにちは。life styleに「絵本の力」を取り入れ、楽に成果を出し、楽しい未来の選択ができるようになる方法をご提案している、絵本スタイリスト®景山聖子です。

代表を務めているJAPAN絵本よみきかせ協会の活動を通して、日々、読み聞かせに関するお悩みや質問を受けます。

先日、思わず笑ってしまったことがありました。3歳の男の子のお母さん、Aさんのお話です。

夜の絵本の読み聞かせが定着してきました。親としては、ゆったりとした時の流れの素晴らしさに驚いています。でも、幸せだなと私が感じているのも最初の10分くらい。

実は今、困っていることがあります。それは、同じ絵本を毎晩20回くらい読まされること。どうして、子どもは飽きないのでしょうか?

結局、私が先に寝落ちしてしまうか、そうでないときは寝たふりをして、なんとか寝かしつけます。同じ本の読み聞かせを、せめて2、3回にとどめる方法はないでしょうか?

実はこれ、とても多いお悩みです。しかし、何度も同じ絵本の読み聞かせを求められる背景には「一般的には知られていない、ある理由」が隠されています。

それをお話したところ、納得なさったAさん。こうお返事をいただきました。

子どもだからこその理由があるんですね。わがままな子というわけではないのですね。

子どもの行動の裏にある理由がわかると、子どもの欲求を正しく理解した上で、きちんと対応してあげることができます。

今回は、絵本を通して、子どもならではの不思議な行動を紐解いていきましょう。

子どもは絵本を読んでいない!

幼稚園で読み聞かせ会を開いたときのことです。

くまは、おいかけました。うさぎはあわてて、にげます。のはらをいちもくさんににげて、山をこえて、にげて、にげて……。

このように読みきかせていると、数人の子どもが「は~は~」と息せき切っていました。

このとき子どもたちは、自分自身がウサギになり、クマから逃げることを実際に「体験」していたのです。だから、本当に息まで荒くなったのでした。

保育士さんからこんな報告をいただいたこともあります。保育園で、お話の時間に妖精の絵本を読み聞かせた後、公園にお散歩に行ったときのこと。

一人の子どもがこう言ったのです。

あのきのえだに、ようせいがいる! みてみて!

すると他の子どもたちも、こう答えます。

ほんとだ! あっ、こっちにもいるよ!

なんと、公園でのお散歩が、妖精さがしの時間になったのだそうです。

大人が子どものそんな発言を耳にすると「えー、ホント?」とつい疑いたくなってしまうもの。

でも実は、子どもたちが嘘をついているのではなく、ごっこ遊びをしているのでもありません。

子どもには本当に、木の枝に妖精がいる様子が現実のこととして見えるのです。

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子どもは空想の世界を現実のこととして「体験」する

実は、ここに大人と子どもの違いがあります。6歳位までの子どもは、まだ「現実と空想」の区別があまりつきません。

一方、年齢が上がるにつれて、現実と想像の世界の境ができていきます。そのため、大人へと成長していく過程で、両者をはっきり区別できるようになるのです。

幼児期は人生の中で唯一、空想の世界で見たり聞いたりしたことを「現実」の出来事として体験できる、貴重な時間。

そのため子どもたちは、自分自身がウサギになり、クマから逃げることで、本当に息せき切るのです。同様に、空想の世界の妖精を「現実のもの」として木の枝に存在させることもできます。

だから子どもは、実際のところ、絵本を読んではいません。そうではなく子どもは、絵本を「体験」しているのです。

絵本よみきかせコーチング第6回2

子どもにとって絵本は「遊園地のアトラクション」と同じ

そして、楽しい体験は何度でもしたいもの。

大人でもディズニーランドで、長時間待ってでも幾度も乗りたい、お気に入りのアトラクションがある人も多いでしょう。子どもにとっては、絵本がまさにその存在になります。

絵本の世界に入り込み、登場人物になりきって空想の世界を体験するのは、とてもわくわくして、いくらやっても飽きないこと。

そのため、同じ本を何回も「読んで」とせがまれるのです。子どもは絵本という楽しい体験を、何度も繰り返したいのです。

絵本は悩める親御さんの味方

JAPAN絵本よみきかせ協会には、専業主婦のママ、働くパパやママがたくさんいらっしゃいます。

驚くのは、専業主婦のお母さんは、働くお母さんについて、時折このように話していること。

仕事での顔と家庭での顔を持ち、充実した生活を送り、輝いていて、うらやましい。自分はおしゃれも後回しで、すべての時間が子ども優先。社会から取り残されているような気がする。

逆に、働いているお母さんは、親子の時間を多く持てないために、子どもに罪悪感を感じることがあるようです。

幼い子を預けてまで働く自分は、正しいことをしているのだろうか? 子どもと過ごす時間が少なくて申し訳ない。専業主婦のお母さんがうらやましい。

もちろん働くお父さんも、もっと子どもと一緒に過ごしたいと思っています。

立場は違えど、皆なにかしらの悩みを抱えているという点では同じかもしれません。

でも「ある方法」によって、どちらの悩みも解消できることがあります。両者に効果的な、とっておきの絵本の活用術があるのです。

働くママ・パパのための絵本の活用術

普段お仕事で忙しい親御さんには「親子で共に平凡な日常を送る姿」が描かれた絵本をたくさん読み聞かせるよう、勧めています。

例えば、ママと一緒に料理をする。パパとおでかけして、魚釣りをする。そんな何気ない家族の日常生活が垣間見える絵本です。

子どもは絵本を読むのではなく「体験」するのでしたね。では、親子でお昼にサンドイッチを作って食べるというこの絵本を読み聞かせることで、何が起きるでしょうか。

サンドイッチつくろう

そう、子どもは、ママと一緒にサンドイッチを作るという、平凡だけれども楽しい昼下がりを、現実のこととして体験するでしょう。すると、こんなことを言い出すようになります。

ママ、またサンドイッチいっしょにつくろうね。

それでは、パパと一緒に魚釣りに行き、日が沈むまで存分に遊び尽くす様子が描かれたこの絵本を読み聞かせたら、どうなるでしょうか。

11ぴきのねこ

そう、子どもは、わくわくするような親子の1日がかりの冒険を、現実のこととして経験します。だからこそ、こんな風に言うようになるのです。

パパ、またおさかな つかまえに行こうね。おもしろかったね、おいしかったね。

1冊の絵本を読むのにかかる時間は、たったの5分程度。

ほんの少しの時間でも、普段の楽しい生活が描かれた絵本を読み聞かせることで、我が子と一日中すごす親御さんと同じように、多くの経験を共有できます。

この5分で得られる経験は、24時間、そして2、3日……このように長い間ずっと、子どもと一緒に幸せな日常を送ることに相当するでしょう。

わずか数分間の読み聞かせにより、なんと数日間分の親子の時間を取り戻せることにもなるのです。

そのため、実際に共に過ごせる時間は短くても、一瞬一瞬がより密度の濃いものへと変わります。

すると、働く親御さんの、子どもに対する罪悪感は軽くなります。仕事と子育ての両立に自信が持てるようになり、心安らかに日々を過ごせるようになるのです。

専業主婦(主夫)のママ・パパのための絵本の活用術

一方、専業主婦(主夫)の親御さんには、読み聞かせのときのお子さんの様子を、後からメモに書き留めておくよう勧めています。そしてこれを、日記のように続けてもらうのです。

例えば、このような絵本を子どもに読み聞かせたとき。

  • 冒険ものの絵本
  • 怖い絵本
  • 笑える絵本

 
それぞれどのような反応・仕草・表情・会話があったのかを記録しておきます。

なぜなら、お子さんの「今」の姿に着目してメモを取る習慣で、専業主婦(主夫)のママやパパが抱えがちな「ある問題」を打破できるから。

それは、自分は「こんな親でありたい」、我が子に「こんな子どもに育ってほしい」と、過度に期待してしまうこと。高い理想を追い求めることで、苦しく感じてしまう方が多くいらっしゃるようです。

重要なのは「あるべき姿」ではなく「今」に焦点を当てること。

子どもの言動を記録すると、日に日に成長していく我が子の様子が手に取るようにわかります。その結果、「今」子どもとすごす時間がどれだけすばらしいものなのかを、改めて実感するはず。

本当の幸せは、実はすでに自分のもとにあったのだと気づくでしょう。我が子との毎日の中に輝きを見出すことで、自然と気持ちが満たされるようになるのです。

すると、働く親御さんに対する羨望の眼差しや、自分だけ社会から取り残されているという不安な気持ちが薄れていきます。

愛すべき子どもと共有している、大切な今この瞬間に感謝の気持ちが芽生え、自分の中で「幸せ」が増していくでしょう。

藤井壮太棋士を育てたモンテッソーリ教育に学ぶ「親のあり方」

将棋界で話題の最年少棋士、藤井壮太くんも受けていたモンテッソーリ教育。日本のモンテッソーリ教育の第一人者である相良敦子博士は、こう言っています。

子どもの見方がよくわかっているお母さんは、子どもへの期待や自分の願望を書くより、すでに「感性豊かに今を生きる」子ども特有の生き方をあたたかく見守り、「今の子どもの心を大切にする」おおらかな母親として生きています。

(引用:相良敦子(2007),「お母さんの「敏感期」=モンテッソーリ教育は子を育てる、親を育てる~」,文藝春秋文庫.)

これは、ある実験結果をふまえ、相良博士が導いた結論です。その実験とは、親子の時間をただ漫然と過ごしている母親と、我が子の言葉や行動を日々記録している母親を比べるというもの。

ただ漫然と日々を送っている母親は、子どもへの期待や、自分は「母としてこうありたい」という願望が募るばかりで、なかなか実現には至らなかったようです。

一方、我が子の思いがけない言動を書き留めることを習慣化している母親は、幼児期特有の不思議な行動に気づき、子どもならではの感受性を理解できるようになりました。

その上で子どもを優しく見守ってあげることのできる存在になり、ついには「子どもの専門家」としての道が開けてくるのだそうです。

子育ての専門家への道があるのなら、専業主婦(主夫)のママやパパも、もう社会から取り残されていると感じることもないでしょう。

絵本は、1冊5分で色々な体験ができる、子どもにとって夢のような存在です。同時に親御さんも、読み聞かせを通して、我が子のかわいらしい表情や面白い反応にたくさん出会えます。

これらをつぶさに観察することは、いつもおおらかに子どもに接し、豊かな心を育む親になる近道なのです。

読み聞かせ前の「お約束」

同じ絵本を何度も「読んで」と言ってくる子どもの気持ちを、イメージしていただけたでしょうか。

子どもが絵本を「体験」する感覚は、まさに私たちがジェットコースターのようなワクワクする乗り物に乗るのと同じなのです。

でも冒頭でご紹介した3歳児のママ Aさんのように、20回も「読んで」とせがまれると、親御さんも大変ですね。

そんなときは、遊園地の乗り物の前で「2回だけね」などと約束をしてから乗るように、絵本も「今日は3回だけね」とあらかじめ約束してから読み聞かせるといいでしょう。

いつかあなたも「魔法」を経験するかもしれません

実は大人にも、子どもと絵本の世界にいるときだけ、空想と現実の区別なく生きることができる瞬間があります。

自分がウサギになり、逃げて本当に息が荒くなる。現実世界の木の枝に、ちょこんと座って微笑んでいる妖精が見える。そんな一瞬が、訪れることがあるのです。

いつかあなたも経験するかもしれません。これは、読み聞かせを通して我が子が私たちにかけてくれる「魔法」。

この体験によって、子ども観が変わります。子どもは決して未熟な存在なのではなく、自分ができないことをさせてくれる、尊敬すべき存在なのだと気づくはず。

そしてこの視点は、新たな親子関係を築くきっかけになるでしょう。

子どもとは、大人が見失いがちな「今を生きる」偉大な存在なのです。

親子の楽しい日常を体験できる参考絵本

3歳位~

そらまめくんのベッド

なかやみわ(1999)「そらまめくんのベッド」,福音館書店.

サンドイッチいただきます

岡村志満子(2013),「サンドイッチいただきます」,ポプラ社.

4歳位~

11ぴきのねこ

馬場のぼる(1967),「11ぴきのねこ」,こぐま社.

サンドイッチつくろう

さとう わきこ(1993),「サンドイッチつくろう」,福音館書店.

5歳位~

バムとケロのおかいもの

島田ゆか(1999),「バムとケロのおかいもの」,文溪堂.

6歳位~

キャンプ!キャンプ!キャンプ!

青山友美(2014),「キャンプ!キャンプ!キャンプ!」,文研出版.

(参考)
相良敦子(2007),「お母さんの「敏感期」=モンテッソーリ教育は子を育てる、親を育てる~」,文藝春秋文庫.
さとう わきこ(1993),「サンドイッチつくろう」,福音館書店.
馬場のぼる(1967),「11ぴきのねこ」,こぐま社.
なかやみわ(1999)「そらまめくんのベッド」,福音館書店.
岡村志満子(2013),「サンドイッチいただきます」,ポプラ社.
島田ゆか(1999),「バムとケロのおかいもの」,文溪堂.
青山友美(2014),「キャンプ!キャンプ!キャンプ!」,文研出版.