学校から帰るとランドセルを玄関先から放り込んで、友だちが待つ公園へ走って行き、夕焼けが広がるころまで遊んでヘトヘトになって家へ戻る――かつてよく見られた子どものこんな姿は、今では希少になりました。そして、外で遊ぶ機会が減ってきたことが子どもの体力低下につながり、果ては集中力の欠如や学級崩壊の原因と指摘されていることも事実です。
幼児は「1日60分以上、体を動かす」ことが望ましいと文部科学省から指針が出ていますが、外遊びは、体を動かし体力を向上させるだけでなく、子どもに身に付けてほしいさまざまな力を伸ばすことができるメリットがいっぱいです。
外遊びをしなくなった子どもに足りない2つの力
現代の子どもたちは、園や学校から帰ってきても急いで向かう先は習い事や塾通いということが多く、たまの休みも友だちと曜日が違うために1人の時間をゲームやスマホでやり過ごすことが少なくありません。むしろ、子どもをひとりで外へ出すことにリスクや心配が多く、親のほうが家にいるようにと促すことも珍しくない状況です。
外遊びの減少に併せ、子どもたちの体力も低下しているようです。平成24年に出された「幼児期運動指針ガイドブック」(文部科学省)にも、次のように記されています。
現代の幼児の遊びは、活発に体を動かすものが少なくなっているようです。日本小 児保健協会の調査によると、よく行う遊びについて「お絵かき・粘土・ブロックなど の造形遊び」が平成 12 年の調査では 62%だったものが、平成 22 年では 75%で 1 位 となるなど体を動かさない遊びの割合が高く、特に遊びに占める「絵本」「テレビ・ビ デオ」の割合は、10 年前に比べて約 2 倍に増えていることもわかりました。逆に「ボー ル・すべり台などの運動遊び」は 59%で変化がなかったものの、「自転車・三輪車など」 は、平成2年69%、平成12年54%、平成22年43%と減少傾向にあります。
(引用元:文部科学省|幼児期運動指針ガイドブック)
こうした状況のもと、子どもたちに足りなくなっているのが、「体を操作する力」と「自発的に運動する力」です。体の操作といっても難しい動きではなく、スキップをしたり階段を片足ずつ下りたりといった動きや、立ったまま体のバランスを取って靴を履き替えるなど、日常生活にありふれた体の使い方が未熟な子どもたちが増えています。
また、スイミングやサッカーなどを習っている子どもにおいても、決められたメニューに従って体を動かすことはできる一方、ルールが決まっていない自由な環境のなかで興味の赴くままに体を動かすことは苦手だという子どもも多いようです。
1日60分の外遊びで伸ばす、子どもの力5つ
こうした幼児期の体力低下に歯止めをかけるため、前出の「幼児期運動指針ガイドブック」では、「1日60分以上、体を動かすこと」を推奨しています。本来は外でのびのびと遊ぶことがベストですが、天候や環境によって外遊びができないこともあり、「体を動かす」という表現が使われています。体を動かすことで、以下の成長が望めるのだそう。
体力・運動能力の向上
「運動神経が良い」という言葉にもあるように、走る、飛ぶ、ボールを投げて受ける、ぶら下がる、つかむといった動きを通して、神経機能の発達が促されてタイミングの良い動きや力のコントロールを子どもは学びとっていきます。また、日ごろから体を動かすことで持久力が向上し、動きつづける力を養うことができます。
健康的な体の育成
外遊びで体を動かす習慣が身に付くと、丈夫でバランスのとれた体づくりだけでなく、体の機能の発達も促されることで健康的な体づくりにつながります。肥満ややせを防ぎ、成人後の生活習慣病のリスクを低くすることができます。
意欲的な心の育成
のびのびと外遊びをして、さまざまな「できた!」という成功体験を重ねていくことで意欲的な心も育まれます。
社会適応力の発達
外遊びでたくさんの友だちと群れて遊ぶことで、仲間のルールを守り、自分勝手なふるまいを抑えて友だちとコミュニケーションを取ることを覚え、協調する社会性を身に付けることができます。
認知的能力の発達
鬼ごっこで逃げたり、ドッヂボールでボールが飛んでくる方向を予測したりと、外遊びは危険予測や状況判断といった脳の発達を促す効果もあります。また、自分たちで遊びのルールを工夫することや新しい遊びを考え出すといった創造力も育まれます。
つまり、外遊びは体を育てるだけでなく心の成長も促す効果があると言うことができます。
外遊びをするとき、大人が知っておきたいこと
体と心の発達に欠かせない外遊びですが、ただ「外へ出て体を動かす」だけでは、子どもの運動能力や社会性を育めるわけではないようです。ふいに外へ連れ出して「遊んでごらん」と言ってみても、外遊びに慣れていなければ子どもは大人が望むように遊びませんし、そもそも遊べません。
かつての子どもは、近所に住む年上の子どもたちと一緒になって遊び方やルールを自然と身に付けていたのですが、身近なところで異年齢の子ども同士が遊ぶ機会が減ってしまったことで、そうした遊びの伝承も失われているわけです。
最初は、大人も一緒になって遊びに加わって年上の子どもの代わりになり、縄跳びやボールを使った遊びや公園の遊具などを使って「誰かと遊ぶ」という経験をさせたいものです。
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外でのびのび遊ぶ子どもは、体が丈夫になるだけでなく心も豊かに成長します。お父さんやお母さんも童心に返って一緒に遊びましょう!
(参考)
文部科学省|幼児期運動指針ガイドブック
文部科学省|幼児期運動指針 普及パンフレット
NHK|子どもに“外遊び”をすすめる4つの理由
DIAMOND online|算数が伸びない子どもの共通点とは!?「外遊び」こそが算数の最高の教材!