からだを動かす/教育を考える/体験 2018.12.24

「外遊び」は有能感や自己肯定感を伸ばす――でも、効果のほどは「親次第」

「外遊び」は有能感や自己肯定感を伸ばす――でも、効果のほどは「親次第」

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家に引きこもっている子どもより、自然のなかを元気いっぱいに駆けまわっている子どものほうが心身ともに健全に育つということは、子育ての専門家でなくとも想像できます。事実、「自然体験が子どもの発達に及ぼす影響」を研究テーマにする心理学者・石﨑一記先生も、「外遊びは子どもの成長に大いに影響を与える」と語ります。ただ、外遊びの効果を引き出すには、「親の関わり方がすごく大事」とも。それはどういうことなのでしょうか。

構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹(ESS) 写真/玉井美世子(インタビューカットのみ)

親は考え過ぎず、ただそこにある「環境」と関わればいい

外遊びについてお伝えする前に、まずは多くの親御さんが持っている誤解を解いておきたいですね。ひとつ、例を出しましょう。以前、親子で参加するサマーキャンプを開催したときのことです。子どもたちが川遊びをしていると、ニジマスが泳いできました。なぜかというと、わたしが事前にニジマスを用意して放流したからです(笑)。

それで、子どもたちはどうするか。当然、一生懸命に捕まえますよね。じゃ、なぜ捕まえるのか。ニジマスが泳いできたからですよ。そこにもっともらしい理由なんてありません。でも、教育熱心な親御さんたちほど、ただの遊びに対しても「なぜこれをやるの?」「なんのためにやるの?」と、考え過ぎてしまう。そうではなくて、ただそこにある「環境」と関わればいいのです。まずは親御さんが意識を変えないといけない。

この話には続きがあります。ニジマスを捕まえた子どもはどうなるか。困るんです(笑)。経験がないから、どうしたらいいのかわからないんですね。でも、まわりを見渡してみると、魚をさばいている大人がいる。子どもはその人のところにニジマスを持っていき、一緒にさばいてもらう。さらには、たき火をしている人もいる。子どもはさばいたニジマスを焼いて食べる。子どもにとっては最高の遊びです。

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ところが、「今日の昼食はニジマスですよ、ひとり1匹ずつ捕まえて焼きなさい」と告げられたとしたらどうでしょうか? 子どもたちはお昼ご飯を食べるためにニジマスを捕まえなければならない。同じことをやっているようでいて、これはもはや作業です。まったくもって遊びではないですよね。

生きること自体もそうですが、子どもにとっての遊びは、つねに自分から環境に対して働きかけないといけないものなのです。そして、それに応じて環境が変化する。それを受けて、また子どもの行動が起きる。つまり、遊びとは行為の連鎖として起こるものです。

ところが、親御さんは「外遊びが子どもの情操にいい」などと考えて、いい子に育てるために、子どもの意志とは関係なく外遊びをさせようとする。それでは、単なる作業、あるいは課題ではありませんか。そんなものが面白いわけがない。子どもにどんな遊びをさせるのがいいか——そんな発想をまずやめましょう

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外遊びが「知能の原型」をつくる

もちろん、結果として、外遊びは子どもの成長に大いに影響を与えます。大きくは4つ。まずは感覚運動的な知能を使うこと。これは知的発達段階のいちばん最初のレベルにあたります。イメージや言葉を使わず感覚で外界を受け取って、それに対して運動的に働きかける。これが知能の原型です。これに体験が積み重なることで、やがて、実物がそこになくとも頭のなかでイメージできるようになっていく。

そうすると、今度はファンタジーの力を身につけることになる。空想であるとか、絵本の世界を楽しめるようになるのです。リアルの世界に対して自分の体を使って反応する体験が豊かであればあるほど、イメージしたり、ファンタジーを楽しんだり、あるいは目標や夢、理想というものを決めるにも、よりリアリティーを持ってできるようになるのです。

それから、2番目には自律性を育てること。公園の遊具は別ですが、自然というものは子どもが遊びやすいようにできていないですよね。木は子どもの都合を考えて枝を伸ばしているわけではありません。当然、木登りをするにも工夫をしないとならない。頭を使って、試行錯誤し、トライアル・アンド・エラーを重ねることとなる。

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遊びという場面において試行錯誤できるということ、つまり、やってもやらなくてもいいし、やるにしてもどのようにやってもいいということは、自己決定の要素、自分の意志を活用する場面がすごく多いということです。自分の意志を活用するというのは、人が生き生きとするためのひとつの大きな源泉です。

そういうふうにして自分の意志でその遊びに関わったから、木のいちばん上まで登れた子どもは誇らしく感じる。これが3つ目で有能感を育てること。そして、子どもはその誇らしさを誰かに伝えたい。「ママ! 上まで登れたよ!」と言って、ママが「すごいわね」と反応してくれたら、他者との関係性が養われることになる。これが4つ目。外遊びは、これらの4つがすごく豊かに含まれるものなのです。

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もっとも重要なことは親が一緒に楽しむこと

もちろん、外遊びは、みなさんにとってもっと耳慣れた力を伸ばすことにもつながりますよ。自分で決めたことだから夢中になってやり続ける——集中力。試行錯誤しながらいろいろと工夫する——発想力。やり遂げたことで自分を好きになる——自己肯定感。親など他者との関係性を保つために情報や意志の交換をする——コミュニケーション能力、といった具合です。

外遊びの効果は枚挙にいとまがない。逆にいえば、こういうものをちゃんと育ててあげないと、せっかくの外遊びももったいないとも言えます。

子どもの自律性の発達を妨げるのなんて簡単ですよ。「ああしなさい」「これしちゃ駄目」「こうしたほうがいいんじゃない?」と言うだけでいい。子どもが「やったー! 見て!」と誇らしげに言ってきたときに、「そんなの大したことないじゃない」と言えば有能感は育たないし、「後でね」と言ってスマホをいじっていれば関係性が育たない。

つまり、子どもに外遊びをさせるにあたっては、「親の関わり方」がすごく大事なのです。それ次第で、同じことをしても、子どもの成長という観点からすれば、まったくちがうものになってしまう。

とはいえ、先にお伝えしたように、考え過ぎる必要はまったくありません。外遊びの効果を最大限に子どもにもたらすには、あれやこれやと言わず、子どもと一緒になって親御さんもただ楽しめばいい。それに尽きます。

※本記事は2018年12月24日に公開しました。肩書などは当時のものです。

人と自然をつなぐ研究 ネイチャーゲーム大学講義録
石﨑一記 他 著/日本シェアリングネイチャー協会(2016)
人と自然をつなぐ研究 ネイチャーゲーム大学講義録

■ 心理学者・石﨑一記先生 インタビュー一覧
第1回:「外遊び」は有能感や自己肯定感を伸ばす――でも、効果のほどは「親次第」
第2回:「公園遊び」に道具は必要ない――外遊びは「なにもないところ」から始めよ
第3回:意外すぎる自然遊びで一番大事なこと――“外遊び”の専門家が語る「シェアリングネイチャー」入門

【プロフィール】
石﨑一記(いしざき・かずき)
1958年7月18日生まれ、埼玉県出身。東京成徳大学応用心理学部教授。専門領域は発達心理学、カウンセリング、環境教育、キャリアコンサルティング。動機づけ、自然体験が子どもの発達に及ぼす影響、キャリア発達を研究テーマとする。日本シェアリングネイチャー協会指導者養成委員でもあり、目指す指導は「体験した人が活動を振り返ったとき、そこの自然や参加者同士の表情は覚えているのに、指導者の印象はない」というもの。

【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。