からだを動かす 2026.9.25

運動神経は “伸ばせる”。——名門幼児教室代表が教える、リビングで出来る「6つの動き」

運動神経は “伸ばせる”。——名門幼児教室代表が教える、リビングで出来る「6つの動き」

運動会の朝、体操服に着替えながら子どもがぽつりと言う。「かけっこ、出たくない」。去年もその前も、ゴールは後ろのほうだった。「大丈夫、楽しんでおいで」と送り出しながら、親は心のどこかで、この子は運動が得意なタイプじゃないんだろうな、と思っている。

運動神経は生まれつきで、向き不向きは変えられない。そう思っている親に、はっきりと首を横に振る人がいます。難関小学校合格率98%で知られ、35年の歴史を持つ「つくし会幼児教室」を運営し、近年はABCテレビ『おはよう朝日です』の体操コーナー「おきトレ」の監修も手がける、株式会社LOCOK代表の石井大貴さん。

運動神経は生まれつきではなく、6歳までの毎日でつくられる。そう言い切る石井さんに、家で今日から始められる「6つの動き」を教えてもらいました。

構成・取材/STUDY HACKER こどもまなび☆ラボ編集部

【プロフィール】
石井 大貴(いしい だいき)
株式会社LOCOK 代表取締役/金沢工業大学大学院 准教授/博士(メディアデザイン学)
慶應義塾大学法学部を卒業後、TBSテレビに15年勤務し、一流のアスリートや経営者、文化人と接するなかで「教育」の本質を学ぶ。慶應義塾大学大学院で博士号を取得すると同時に株式会社LOCOKを創業し、「あらゆる人に教育を通して無限の可能性を提供する」ことを掲げて教育プロデュース事業を展開。30年以上、独自カリキュラムを実践する「つくし会幼児進学教室」の運営や、千葉ロッテマリーンズなどプロアスリート・大手企業向けのリーダーシップ教育を手がける。2026年、つくし会の理念をスポーツで社会実装する『PROJECT やれば、できる!』を始動し、五輪代表経験者を擁するLOCOK陸上競技クラブの運営、ABCテレビ『おはよう朝日です』の体操コーナー「おきトレ」の監修、電通との業務提携による全国展開を進める。著書に『“目標”を“現実”に変えるたった3つのルール』(プレジデント、2021年)など。

家で始めるなら、この6つの動き

運動会でビリだった。縄跳びが跳べない。姿勢が悪い、転びやすい。そんな場面が重なると、親はどこかで「この子は運動が苦手な子だ」と結論を出してしまいます。

けれど石井さんによれば、幼児期はまず基本動作をきちんとできるようにすることがいちばん大事で、それは家庭でも十分にできることだそうです。家庭向けにすすめてくれたのは、つくし会でも行っている次の6つの動きでした。

家で始める「6つの動き」
道具も場所もいらない。
1
グーパー
手をグーとパーに、大きく開いて閉じる。
2
指カウント
親指から順に、一本ずつ折って数える。
3
肩甲骨まわし
腕を後ろから前へ、前から後ろへ、肩甲骨から大きく回す。
4
つま先立ち
かかとを上げて立つ。
5
片足バランス
片足で立って、バランスをとる。
6
線ジャンプ
床の線をまたいで、前後に、次に左右に跳ぶ。

この6つを続けるだけでも体全体をコーディネートする力が高まり、それがあらゆる運動神経の基本になるそうです。

やらせるときのコツは、できたらその日のうちに繰り返させることだそうです。

「私たちは、宿題にしないんです。一回できたら褒めて『また明日やろうね』ではなく、その場でやらせる。1回できたら10回できる、10回できたら100回できる。その日のうちにやったほうが、幼少期はすごく伸びます」

始める前に、いまの状態を見る二つのチェック

6つの動きを始める前に、子どものいまの状態を見ておきましょう。神経が指の先までつながっているかどうかを見分ける方法を、石井さんは二つ挙げてくれました。

一つ目は、まっすぐ立てるかどうか。

「まっすぐ立つという行為だけでも、いろんな要素があります。肩が内側に入っていたら、まっすぐ立っているとは言えない。姿勢が悪いということですね。ではなぜ肩が内側に入るかというと、親指が内側に入るからなんです。スマホを触るとき、みんなそうなるでしょう」

だから子どもには、手のひらを前に向けるように伝えます。すると肩が勝手に開いて、姿勢がよくなる。解剖学的な立位の姿勢でも、手のひらを前に向ける姿勢があるそうです。一度肩を90度外に開いてから手を横に戻せば、肩が開いた状態で立てます。

また、スマホやタブレットを見る、いわゆる「スクリーンタイム」の長い子に共通して見られるのが、顔が前に出る姿勢です。これは首をぐっと上げて、一度ストンと落とすと、首が自然に伸びます。

正しい立ち方を意識して、その通りに立てるかどうか。教えられている子と教えられていない子では全然違うそうです。

二つ目のチェックは、6つの動きの最後にある「線ジャンプ」そのものです。前後に、左右に、5回ほど跳ばせれば体幹がわかります。

「できない子はブレちゃうんです。モーグルの選手を思い浮かべてください。重心は真ん中にあって、足だけが動いている。体の軸はまっすぐなまま、足だけが動く。これができるかどうかが、体幹が強いかどうかなんです」

体幹ができていれば、着替えや靴下を履く動作もスムーズになります。つくし会では靴下も座らず、立って履くよう教えているそうです。右足を履くときは左足で踏ん張る。全部の動作が、つながっています。

運動会で負けた日に言うこと。「よく頑張ったね、もっとできるよ」

運動会で負けて帰ってきた日のことも聞きました。一生懸命やったのに、負けてしまった。とても悔しそうに、べそをかいている。そんな日、親は何を言えばいいのでしょうか。

走ってビリだったなら準備が足りなかっただけのこと、でもそれをその日に言ってもしょうがない、と石井さんは言います。これまでの過程をどうこう言っても意味がなく、否定的なことを言う必要は全くない。見るのは順位ではなく、一生懸命やったかどうかです。

「一生懸命やって結果が出ないのは、しょうがないじゃないですか。だったら『よく頑張ったね』と。そして『もっとできるよ』と言ってあげる。思ったより順位がよくても悪くても、『次はどうしたい』と聞くと、多くの子は『もっと上を目指したい』と言います。そうしたら『じゃあそのためにどうしようか』『いや、できるよ、あなたなら』と、次に向けて期待をかけてあげる。それでやる気になるんです」

転んでしまった、スタートで出遅れた。そういうアクシデントを後からあれこれ言われても、子どもは嫌な気持ちになるだけです。

ここまでが、今日からできることです。

ここからは、なぜグーパーや線ジャンプで運動神経が育つのかを聞いていきます。

「運動神経は変わらないもの」は誤解でした

運動神経は生まれつきなのかという問いへの答えは、ためらいのないものでした。

「はっきり言って、運動神経は鍛えられるし、生まれつきのものではないと思います。神経ですからね」

根拠は「スキャモンの発育曲線」という学説。人の体の各部位がいつ発達するかを示したこの曲線によれば、神経系は0歳から6歳までに約90%が完成します。

石井さんの言う運動神経とは、脳からの神経伝達をいかに素早く正確に、指の先、足の先まで届けられるかということ。つくし会が「おきトレ」などの発信で「運動“脳”力」と、脳の字をあてて書くのはそのためで、脳からの伝達のスピードが上がれば正確に動けるし、より繊細な動きも、よりダイナミックな動きもできるようになります。

一方で、遺伝の要素があることは認めていて、そこは丁寧に切り分けます。石井さん自身は身長192センチ。190センチ以上は日本人の0.07%しかいないそうですが、その中に入った理由は「間違いなく血筋」だと言います。骨格もそうですし、瞬発力に向いた筋肉の人と持久力に向いた筋肉の人がいるのも事実です。

ただし、それが効いてくるのはオリンピアンになる、NBA(アメリカのプロバスケットボールリーグ)で活躍する、というレベルの話です。

「運動が好きになる子と嫌いになる子がいるとしたら、成功体験を重ねて『ちょっと運動神経がいいね』と言われた子のほうが好きになる。そしてその差の多くは、やっているか、やっていないか。正しくやっているか、そうでないかだけなんです」

最初に触れた「宿題にしない」という流儀も、ここから来ています。神経系がまさに育っている時期だから、昨日できなかったことが今日いきなり100回できるようになる、びっくりするようなことが幼少期には起こりやすいのだそうです。

なぜ小さな動きなのか。縄跳びを因数分解する

グーパーや線ジャンプのような小さな動きが運動神経の基本になる理由は、縄跳びで考えるとわかりやすいと石井さんは言います。

腕を回す。縄が来たことを認識する。タイミングを合わせて跳ぶ。後ろから背中の力を使ってまた回す。ジャンプにしても、かかとで跳ぶよりつま先で跳んだほうがいい。いろんな要素が絡まり合って、一つの運動になっています。

「因数分解していくと、すごく細かい動きに一個ずつ分かれるんです。その一つ一つが基本動作としてできなければ、縄跳びはできません」

ボールを投げるのも同じです。足の先で踏ん張り、その力を指の先まで伝える。力が伝わる途中で、肩甲骨がしっかり動く。分解すれば、一個ずつの動きになります。

だから幼児教室がやらなければいけないのは、因数分解された一つ一つの動きがちゃんとできるようになることなのです。

この考え方は、運動だけにとどまりません。つくし会は「身体、知育、コミュニケーション、巧緻性」という4つの柱の中に、最初から「身体」を置いています。体をコーディネートする力は全部につながっていて、クレヨンの筆圧や濃淡も体の動作だから、というのが理由です。

だから、つくし会では子どもたちは基本的にずっと「立ったまま」活動します。立ったまま鉛筆やハサミを使う。その理由は、つくし会を立ち上げた石井さんのお母様の言葉に表れています。「家事を座ってやる人はいますか。立ったほうが明らかに指の先まで力を込められるから、包丁を使うときだって立ってやるでしょう。それと一緒です」。子どもが鉛筆やハサミを使うときも、踏ん張れたほうがいいに決まっている、というわけです。

***

運動神経とは、脳から指先への神経伝達の速さと正確さのことでした。6歳までに9割ができあがり、繰り返すことで育っていきます。

グーパー、指カウント、肩甲骨まわし、つま先立ち、片足バランス、線ジャンプ。どれも今日の夕方、リビングでできることです。運動会の順位はもう変えられませんが、来年のスタートラインに立つ体は、これからつくれます。

【石井大貴さんに聞く「子どもの運動」連載】

  • 第1回 運動神経は「伸ばせる」。合格率98%の幼児教室代表が家庭にすすめる、6つの基本動作(本記事)
  • 第2回 「かけっこの教え方」知っていますか? テレビの体操コーナーを監修する幼児教育のプロが “勝てるかけっこ” のコツを教えます(近日公開)
  • 第3回 スマホの見せすぎで子どもの「身体」はどう変わるか。スマホへの向き合い方と、今日からできるちいさな習慣(近日公開)