夕方、夕飯の支度をしているあいだ、子どもにタブレットを渡す。静かになる。助かる。そのあいだに味噌汁ができて、洗濯物が畳める。画面をのぞき込む小さな背中を横目で見ながら、これでいいのだろうか、と毎日思っている。かといって、全く見せずに一日を回す方法も思いつかない。
35年の歴史を持つ「つくし会幼児教室」を運営する株式会社LOCOK代表の石井大貴さんは、ABCテレビ『おはよう朝日です』の体操コーナー「おきトレ」を監修し、2026年には電通と業務提携して、子どものスクリーンタイム増加による体力低下を社会課題として掲げました。教室の中で子どもを見てきた人が、いま教室の外に出ようとしています。
運動神経の話、かけっこの話に続く今回は、スマホやタブレットを見ている時間、いわゆる「スクリーンタイム」の話です。画面を見る時間が長い子の体に何が起きているのか、親はどこを見ればいいのか、そして、全く見せないわけにはいかない家庭に何ができるのかを聞きました。
構成・取材/STUDY HACKER こどもまなび☆ラボ編集部
石井 大貴(いしい だいき)
株式会社LOCOK 代表取締役/金沢工業大学大学院 准教授/博士(メディアデザイン学)
慶應義塾大学法学部を卒業後、TBSテレビに15年勤務し、一流のアスリートや経営者、文化人と接するなかで「教育」の本質を学ぶ。慶應義塾大学大学院で博士号を取得すると同時に株式会社LOCOKを創業し、「あらゆる人に教育を通して無限の可能性を提供する」ことを掲げて教育プロデュース事業を展開。30年以上、独自カリキュラムを実践する「つくし会幼児進学教室」の運営や、千葉ロッテマリーンズなどプロアスリート・大手企業向けのリーダーシップ教育を手がける。2026年、つくし会の理念をスポーツで社会実装する『PROJECT やれば、できる!』を始動し、五輪代表経験者を擁するLOCOK陸上競技クラブの運営、ABCテレビ『おはよう朝日です』の体操コーナー「おきトレ」の監修、電通との業務提携による全国展開を進める。著書に『“目標”を“現実”に変えるたった3つのルール』(プレジデント、2021年)など。
目次
スクリーンタイムが長い子は、体のどこが変わってしまうのか
石井さんによると、スクリーンタイムの長い子は、首や肩をはじめ、全身に影響が出ると言われています。スマホやタブレットを見るときは親指が内側に入るので、肩が内側に巻きます。猫背や肩の内旋によって首が前に出て、肩甲骨が動きにくくなる心配もあります。
座り方や姿勢によっては、骨盤が後傾して、身体の機能にも影響が出る恐れがあります。骨盤が後傾すると重心が背中側に偏り、そのまま膝を伸ばすと後ろに倒れてしまうため、体は無意識に膝を軽く曲げ、背中を丸めて前後のバランスをとるようになるからです。
この姿勢が続くと、できなくなることが出てきます。肩甲骨の動きが悪くなると、ボールを投げられなくなる。これは子どもだけの話ではなく、20代から50代の大人にも、ボールをまともに投げられない人がいるそうです。
骨盤が後傾していると、走るときの前傾姿勢もとりづらくなり、速く走れなくなります。体の軸も不安定になります。
体の軸が不安定になると、転んだときに危ない。安全でなくなる。石井さんの言葉では「生きる力が失われてきちゃう」ということです。目も、次第に悪くなります。
上の三つのサインは、1本目の記事で紹介した「まっすぐ立てるか」のチェックと同じものです。
肩が内側に入っていれば手のひらを前に向けさせると開きますし、顔が前に出ていれば首をぐっと上げて一度ストンと落とさせるとしゃきっと伸びるのです。

全く見せないのは無理。だから「分ける」
スクリーンタイムを減らしたほうがいいことは、みんな知っています。問題は、現代の生活でそれをどうやるかということです。
石井さんも、「全く見せない」というのは無理だといいます。
「無理じゃないですか。現代社会で全く見ない、情報を得ない、AIを使わない、というのはありえない。だから、使う時間と使わない時間を明確に分けてあげないと難しいと思います。
あとは、なるべく紙の本を読む時間を増やすとか。そういうふうに家庭や学校生活で工夫していかないと難しい時代になった、という気がします」
三つ目の「朝の体操」は、石井さんが家庭に最初にすすめたことでもあります。
家で何から始めればいいかを聞いたとき、最初に返ってきたのはラジオ体操でした。
「ダサいと言う人もいるかもしれませんが、ラジオ体操はすごくいいですよ。最近はYouTubeに上がっているコンテンツもたくさんあるので、そういうものをすすめています。毎朝同じ時間にやれば習慣になる。結局、生活の中に取り込めなければ、続けることなんてできないと思うんです」
石井さんが監修する「おきトレ」も、同じ考え方でつくられています。『おはよう朝日です』のエンディングで毎朝流れる、頭と体を一緒に動かす短い体操です。放送を見逃してもYouTube「おきたちゃんねる」で見ることができ、毎月更新されるチャレンジシートもダウンロードできます。
下の動画が、実際に放送されている「おきトレ」です。お兄さん役の永田海渡さんと一緒に、頭と体を同時に使う動きを数分で行います。放送エリア外の家庭でも、この動画を使えば毎朝同じ体操ができます。
朝の情報番組は、毎日習慣的に見ている家庭が多いものです。決まった親子が、決まった時間に、体を動かすきっかけになる。そこに意味がある、と石井さんは言います。
「やれば、できる」というつくし会の言葉は、一足飛びにできるようになるという意味ではなく、毎日コツコツ繰り返せばできるようになる、という意味だからです。
親子で一緒にやることもすすめています。理由の一つは、親の自己肯定感が上がるから。毎日続けると大人の体も変わることは、前回の記事で書いたとおりです。
10月からは内容が「クエスト」という冒険仕立てに変わる予定で、お兄さんと一緒に冒険をクリアしていく形になるそうです。
運動の機会は、住む場所で決まりはじめている
スクリーンタイムの問題は、家庭の中だけの話ではありません。石井さんは、日本中の「子ども達の運動習慣」に以前から関心があったそうです。
昔は自然が豊かで、デジタルデバイスも今ほど普及していなかったから、外で走り回っているうちに体が強くなった。けれど今はスマホがあり、移動も便利になって、全国的に日常の運動習慣が失われてしまった、というのが石井さんの見方です。
「ある地方の名所に研修で行ったとき、小学生や中学生と交流する機会があって、休日は何をして遊ぶのかと聞いたら、スマホのゲームの名前が返ってきたんです。エメラルドグリーンの海があって、自然豊かな山々が目の前に広がっていて、こんなに環境が豊かなのに、スマホやタブレットの世界の中に閉じ込められている。
それを見たときに、教育格差なんてものは存在しない。情報がないから、習慣にならないんだと思いました」
正しい情報がちゃんと届けば、何がいいのかがわかれば、子どもは健康に育つことができる。それが石井さんの考えです。
運動の機会は、親の情報感度でも、どんな小学校に通うか、周りにどんな環境があるかでも大きく変わります。全国どこにいても、運動不足になるリスクが大きい時代になっている、と石井さんは言います。
公的なデータも同じ方向を示しています。スポーツ庁の全国体力・運動能力調査(2025年度)では、小中学生の体力合計点は前年から上がったものの、中学校男子を除いてコロナ前の水準に戻っていません。要因として挙げられているのは、運動時間の減少、学習以外のスクリーンタイムの増加、肥満の増加です。

教室の外に出た理由
つくし会のテキストは、長く門外不出とされてきました。そのメソッドを、おきトレという形でテレビとYouTubeに出し、大阪の学童では4月から週に1回、つくし会式の体操教室を開き、9月には電通と組んで、各地の放送局と連携して全国に広げると発表しました。
無料で公開することにした理由を聞くと、答えは短いものでした。
「ミッションとしてやりたい、ということです。僕も、つくし会の子どもたちも、運動習慣によって人生が豊かになったし、楽しい。それを多くの人に知ってもらえたら嬉しいんです」
正しい知識と運動習慣を、教室に通える家庭だけでなく、もっと多くの家庭に届けたいという思いからです。
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スマホやタブレットのない生活には、もう戻れません。だからといって、子どもの体に起きていることを、見ないふりをする必要もありません。見る時間と見ない時間を決める。紙の本を読む時間をつくる。朝の決まった時間に、親子で体を動かす。どれも、今日の夕方から始められることです。
まずは、子どもをまっすぐ立たせて、横から見てみてください。肩が内側に入っていたら、手のひらを前に向けさせる。そこから始めてみませんか。
【石井大貴さんに聞く「子どもの運動」連載】
- 第1回 運動神経は「伸ばせる」。合格率98%の幼児教室代表が家庭にすすめる、6つの基本動作
- 第2回 「かけっこの教え方」知っていますか? テレビの体操コーナーを監修する幼児教育のプロが “勝てるかけっこ” のコツを教えます
- 第3回 スマホの見せすぎで子どもの「身体」はどう変わるか。スマホへの向き合い方と、今日からできるちいさな習慣(本記事)









