「うちの子、手がかからなくて助かる」「先生にも「いい子ですね」って言われる」「でも……この子の意見を聞いたこと、あったかな」
言われたことをきちんとこなし、きょうだいには譲り、習い事を勧められても「いいよ」と受け入れる。周りから「うらやましい」と言われるたびに、ほんの少しだけ引っかかるものを感じている親御さんは、けっして少なくないのではないでしょうか。
じつは、「手がかからない」ことと「本音を言えている」ことは、いつも同じとは限りません。学校の先生から「お子さんは完璧です」といわれるような「いい子」こそ要注意で、表面的にはいい子に見えても、その裏で不安を抱えている場合があるため、本当に「いい子」なのか、子どもにきちんと向き合ってほしいと述べています。(精神科医・青山渋谷メディカルクリニック名誉院長、鍋田恭孝氏)*1
手のかからないいい子のなかには、あるものを飲み込んでいる子がいます。それが「本音」です。「本当はこっちがよかった」「それは嫌だ」「私はこう思う」という、自分の気持ちや意見を指します。飲み込んでいるかどうかは外から分かりにくいものの、日々の小さなふるまいには表れてくるでしょう。
目次
「手がかからない子」と「本音を言える子」は、ここが違います
自立とは「親にとって、とても手がかかる状態になること」だといいます。(精神科医、明橋大二氏)*2 2〜3歳ごろの子どもが言うことを聞かないのは、自立心が高まり、自分の意志を伝えられるようになるためだそうです。
裏を返せば、本音を言ったうえで折り合いをつけている子も、本音を言わずに周りに合わせている子も、親の目には同じ「手のかからない子」に映ることがあります。
著書『イギリスのいい子日本のいい子 自己主張とがまんの教育学』(中公新書)のなかで、日本の子どもを「自己主張すべき場面でも抑制すべき場面でも抑制する」と表現しています。(教育学者、佐藤淑子氏)*3 我慢できる力そのものは、4〜5歳ごろに発達するとされる大切な力です。ただ、主張してよい場面でも抑えることが続いているなら、気持ちを言葉にする機会が少なくなっているのかもしれません。
ほめられてばかりいると、子どもは「親にほめられること」を優先してやろうとするようになり、繊細で大人の顔色をうかがうタイプの子ほどその傾向が強く、「自分が本当にしたいこと」と「親にほめられるからすること」の境界があいまいになると指摘しています。(医師・臨床心理士、田中茂樹氏)*4
こうして本音を飲み込み、周りの期待に合わせ続ける状態は、俗に「いい子症候群」と呼ばれることがあります。医学や心理学の診断名ではなく、親が子どものようすに気づくための呼び名と考えてください。手がかりになるのは、日常の小さなサインです。

いい子症候群7つのサイン。本音を飲み込んでいる子は、こう見えます
ここ1〜2か月のお子さんのようすを思い浮かべて、「わりと当てはまる」と感じるものに□をつけてみてください。年齢が低いうちは、まだ当てはまらなくて当然の項目もあります。
1〜3は、本音を言う力に直接かかわるサインです。こどもまなびラボの「我慢と自己主張のバランスーー日本と世界の「いい子」はこんなに違う!」の記事では、友だちに自分の気持ちを言えなかったり、NOと言えなかったりする子は、親にも本音を言えていない場合が多いと伝えています。自分の選択を否定されたり、変更を余儀なくされたりする状態が続くと、子どもは自己主張をしなくなるとのこと。(臨床心理士、高山恵子氏)*5 「どっちでもいい」という返事は、好みがないのではなく、自分で選ぶことをあきらめかけているサインの場合もありそうです。
4と5は、先ほどの「大人の顔色をうかがう」傾向が、表に出たものといえるでしょう。当たり前のことでもいちいちほめられていると、子どもは「ほめられる状態」が基準になり、ほめられない状態に不満や不安を感じるようになるそうです。(公認心理師・産業カウンセラー、大美賀直子氏)
6と7は、失敗と決まりにかかわるサインです。ほめられ続けた子は、その状態を保とうとして、失敗するかもしれない難しい課題には最初から挑戦しなくなる傾向があると説明しています。(心理学者、榎本博明氏) また、規則にこだわる子どもは自分だけでは物事を決めにくく、規則やパターンに頼ることがあるため、こだわりを見せはじめたら、不安を抱えていないか対話を心がけてほしいと話しています。(精神科医・青山渋谷メディカルクリニック名誉院長、鍋田恭孝氏) もともと決まった流れを好む気質の子もいるので、7は「以前と比べてどうか」を目安にしてみてください。

当てはまった数は、こう読みます
親の関わりで変えていけるのは、習慣の部分です。どの個数だったとしても、次の3つの置き換えから、できそうなものをひとつ選んでみてください。
親が置き換えたい3つの関わりは、どれも「よかれと思って」していることです
本音を飲み込む習慣は、叱られることだけでなく、ほめられることや、親が先に答えを出すこと、親の機嫌を読むことの積み重ねからも育つことがあります。見直したいのは、親切のつもりでしている3つの関わりです。
置き換え1
置き換え2
置き換え3
置き換え1: 「いい子だね」を、「〇〇できたね。お母さん、うれしいな」に変える
「いい子だね」のようなほめ言葉は、上の人間が下の人間を判定する「評価」の言葉で、ほめられることが行動の目的になってしまうおそれがあると述べています。(『92歳の現役保育士が伝えたい 親子で幸せになる子育て』〈実務教育出版〉著者・保育士、大川繁子氏) 自分の気持ちを軸に伝えると、子どもは「いい子でいること」より、「自分がしたこと」に目を向けやすくなるでしょう。
置き換え2: 先に答えを出すかわりに、「どう思う?」と聞いて10秒待つ
子どもの感情を受け止める前に「こうしたらよかったじゃない」と解決策を言うと、子どもの自己肯定感を下げてしまうと注意をうながしています。(家庭教育の専門家、田宮由美氏) 子どもの話を聞くことは、子どもの自己肯定感を育てることだと語っています。(ジャーナリスト・キャスター、岸田雪子氏)*7 「どっちでもいい」と返ってきたら、「じゃあ、〇〇はどっちが好き?」と問いを小さくして、もう1度だけ聞いてみてください。
置き換え3: 機嫌で判断させるかわりに、「決まり」と「がっかりしない受け止め」を
子どもの自由を尊重している「つもり」でも、矛盾したメッセージで子どもを縛ってしまう親は、じつは条件付きの愛情を示していると指摘しています。(白梅学園大学教授〈当時〉、増田修治氏) 100点のときは思い切りほめてよい一方で、50点のときも過剰にがっかりせず、「こういうこともあるよね」と受け止めてほしいと呼びかけています。(精神科医・青山渋谷メディカルクリニック名誉院長、鍋田恭孝氏) ルールを子どもと一緒に決めておくと、「なぜそれがダメなのか」が子どもにも分かりやすくなるでしょう。親の機嫌を読む必要が減れば、子どもは顔色より、自分の考えで動きやすくなります。

「手のかからないいい子」が飲み込んでいるのは、本音です
手がかからないことは、子育てがうまくいっていない証拠ではありません。我慢できる力は、たしかに育っています。ただ、その隣で「本音を言う力」が育っているかどうかは、手のかからなさだけでは見えにくいところがあります。本音は、聞かれて、受け止められる経験を重ねてはじめて、少しずつ出てくるものなのかもしれません。
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7つすべてを1度に気にかけなくて大丈夫です。今夜、「どっちがいい?」と聞いて「どっちでもいい」と返ってきたら、「〇〇はどっちが好き?」ともう1度だけ聞いて、10秒待ってみてください。小さな「こっち」が返ってきたら、「教えてくれてうれしいな」と受け取るだけで充分です。
FAQ(よくある質問)
Q. 「いい子症候群」は病気や診断名ですか?
A. 医学や心理学の診断名ではありません。本音を飲み込んで周りの期待に合わせ続ける状態を指す、俗な呼び名です。7つのサインも診断ではなく、親が日常のようすから気づくための目安なので、当てはまる数で子どもにラベルを貼る必要はありません。眠れない、食べられない、園や学校に行きたがらないといった変化が続くときは、園や学校の先生、かかりつけの小児科、自治体の子育て相談窓口などに早めに相談してみてください。
Q. 3〜5歳の幼児でも、このサインは当てはまりますか?
A. 幼児期は我慢する力(自己抑制)が育っていく時期なので、我慢できるようになること自体は育ちのあらわれです。この年齢なら、□1と□4を目安にすると見やすいでしょう。「りんごとバナナ、どっちがいい?」の二択で好きなものを選べているか、何かを言う前に親の顔色を確かめていないかを見てみてください。選べた日は「教えてくれてうれしいな」と、評価ではなく気持ちで受け止めてあげましょう。
Q. 「いい子だね」をもう何年も言い続けてきました。手遅れですか?
A. 手遅れではありません。ほめられてばかりいると、「自分が本当にしたいこと」と「親にほめられるからすること」の境界があいまいになると説明されています。(医師・臨床心理士、田中茂樹氏) あいまいになるのは境界であって、本音そのものがなくなるわけではありません。今日から「いい子だね」を「〇〇できたね。お母さん、うれしいな」に置き換え、「どう思う?」と聞いて待つ回数を増やしていけば、境界は少しずつ戻ってくるはずです。つい「いい子だね」が出た日があっても、またやり直せば大丈夫です。
Q. 「どう思う?」と聞いても、「分からない」としか返ってきません。どうすればいいですか?
A. まずは10秒待ってみてください。それでも「分からない」なら、それも本音のひとつとして受け止め、問いを小さくしてみましょう。「ケンカしてどうしたい?」ではなく、「明日、〇〇ちゃんと話したい? 話したくない?」の二択にするイメージです。答えが返ってきた日は、その中身を評価せず、「教えてくれてうれしい」と受け取ってください。本音は、言っても否定されないと分かってから、少しずつ出てくるものです。
(参考)
*1 こどもまなびラボ|学校で褒められる「いい子」に要注意! いい子に見えるのは“心の問題”のサインかも
*2 こどもまなびラボ|親の言うことを聞かないのはナゼ? 聞き分けのない子どもへの間違った声かけ5パターン
*3 こどもまなびラボ|我慢と自己主張のバランスーー日本と世界の「いい子」はこんなに違う!
*4 こどもまなびラボ|「褒められ依存症」になってない? ズルをする・本番に弱くなる子どもたち
*5 こどもまなびラボ|子どもの自己肯定感が低下する「ダブルバインド」。“条件付きの愛” は危険です
*6 こどもまなびラボ|「泣いたって仕方ないでしょう」は子どもから自信を奪う。「自信を与える」3つの方法
*7 こどもまなびラボ|自己肯定感は3歳・6歳・9歳・12歳で育て方が変わる。年齢別「効く声かけ」12選









