あたまを使う/からだを動かす 2026.9.28

「かけっこの教え方」知っていますか? テレビの体操コーナーを監修する幼児教育のプロが “勝てるかけっこ” のコツを教えます

「かけっこの教え方」知っていますか? テレビの体操コーナーを監修する幼児教育のプロが “勝てるかけっこ” のコツを教えます

前回の記事で、運動神経は生まれつきではなく、神経系が育つ6歳までの毎日でつくられる、と書きました。読み終えて、うちの子はもう小学生だ、と思った親がいるはずです。運動会は近いのに、かけっこは去年も後ろのほうだった。6歳までにやっておけばよかったことを、いまさら知ってもどうにもならないのではないか、と。

35年の歴史を持つ「つくし会幼児教室」を運営する株式会社LOCOK代表の石井大貴さんに、そのまま聞きました。6歳を過ぎていたら、もう遅いのか。答えは「全然、大丈夫」でした。小学校時代は鈍足だった石井さん自身、人生でいちばん速く走れたのは35歳から40歳のときだったそうです。

今回は、かけっこに絞って聞きます。運動会の前に親が教えられることと、家でできる練習、そして、なぜいまからでも間に合うのか。

構成・取材/STUDY HACKER こどもまなび☆ラボ編集部

【プロフィール】
石井 大貴(いしい だいき)
株式会社LOCOK 代表取締役/金沢工業大学大学院 准教授/博士(メディアデザイン学)
慶應義塾大学法学部を卒業後、TBSテレビに15年勤務し、一流のアスリートや経営者、文化人と接するなかで「教育」の本質を学ぶ。慶應義塾大学大学院で博士号を取得すると同時に株式会社LOCOKを創業し、「あらゆる人に教育を通して無限の可能性を提供する」ことを掲げて教育プロデュース事業を展開。30年以上、独自カリキュラムを実践する「つくし会幼児進学教室」の運営や、千葉ロッテマリーンズなどプロアスリート・大手企業向けのリーダーシップ教育を手がける。2026年、つくし会の理念をスポーツで社会実装する『PROJECT やれば、できる!』を始動し、五輪代表経験者を擁するLOCOK陸上競技クラブの運営、ABCテレビ『おはよう朝日です』の体操コーナー「おきトレ」の監修、電通との業務提携による全国展開を進める。著書に『“目標”を“現実”に変えるたった3つのルール』(プレジデント、2021年)など。

6歳を過ぎていても、遅くない

神経系は6歳までに約90%が完成する。前回そう書いたのは、6歳までが成長スピードの速い時期だからで、6歳を過ぎたら育たないという意味ではありません。

6歳までは成長スピードが速いというだけで、後からでも育ちます。石井さん自身、小学校時代は鈍足だったそうです。それが35歳から40歳のとき、人生でいちばん速く走れるようになりました。子どもに体操を教えているうちに、自分でコツをつかんだからです。

大人でも変わるなら、小学生はなおさらです。石井さんが監修するABCテレビ『おはよう朝日です』の体操コーナー「おきトレ」で毎朝体操をしているお兄さんは、毎日続けて体が変わり、体幹と軸がしっかりしたそうです。大人がやっても効果が出る、と石井さんは言います。

ここからは、運動会の前に親が教えられることと、家でできる練習を、石井さんが35歳でつかんだコツも含めて聞いていきます。

運動会の前に教えるなら、この二つ

運動会の前に親が子どもに教えられることとして、石井さんは二つ挙げました。

「スタートの反応が遅くて負ける子が多いじゃないですか。だから、とにかくスタートに集中。合図が鳴ったら、ではなくて、合図が鳴るのと同時に飛び出すんだと。

あとは途中で止まってしまうのではなくて、ゴールのラインのもう少し先に壁があるとしたら、その壁にぶつかりに行くくらいの気持ちで、その先を目指す。そういうシンプルなアドバイスで、だいぶ変わるんですよ」

運動会の前に教える、二つのこと
走り方より先に、これだけ。
1
スタートに集中する
合図が鳴ってから動くのではなく、鳴るのと同時に飛び出す。
2
ゴールの先を目指す
ゴールの線で止まらない。その先に壁があるつもりで、壁にぶつかりに行く。

スタートは、合図を聞いてから動くと遅れるので、ちょうど合図と同時になるくらいでスタートを切る。

この二つは、走り方を変えなくても、当日の朝に一言伝えるだけで効きます。

速く走るとはどういうことか。石井さんが35歳で理解した体の使い方

35歳のとき、石井さんは走り方の意味を急に理解しました。

「急に意味がわかったんです。なんでももを高く上げなきゃいけないのか、それまで意味がわからなかった。ももを高く上げている暇があったら前に進めばいいじゃん、と思っていたんです」

ももを高く上げるのは、高いところから足を落として大きな衝撃を生むためです。ただしももを上げるだけでは前に進まないので、前傾をつくる必要があります。

そして腕を振るためには、肩甲骨が開いていなければなりません。肩が内側に入っていると、腕は振れないからです。肩甲骨を開いて動きやすくすることでしっかりと腕が振れ、腸腰筋の動きがよくなって、ももが上がりやすくなる。高く上げたももを前に向かって落とし、その回転数を上げていけば、速く走れます。

速く走る体の使い方
子どもには理由を言わず、形だけ伝える。
1
肩を開いて、腕を大きく振る
肩が内側に入っていると腕が振れない。手のひらを前に向けて肩を開く。
2
ももを高く上げる
腕をしっかり振ると、ももが上がりやすくなる。
3
前に倒れるように走る
ももを高く上げても、前に進まなければ意味がない。体を前傾させる。
4
回転を速くする
高く上げたももを前に向かって落とし、その回転数を上げていく。

一つ目の「肩を開く」は、前回の記事で紹介した「手のひらを前に向けると肩が開く」という立ち方のチェックとつながっています。まっすぐ立てることと、腕を振れることは、同じ体の使い方です。

家でできる練習。ソファー、相撲、階段

スタートの練習は、家のソファーでできます。石井さんも、子どもとソファーに飛び込むスタートの練習をしてきたそうです。

朝に相撲をとるのもすすめています。相撲の立ち合いは低く、速く、斜め45度に向かって出るので、スタートの練習になるうえに、体幹も鍛えられます。石井さんも子どもと毎朝、相撲をとっていました。

石井さんは、走る練習より先に、よく歩くこと、よく走ること、階段を使うことをすすめています。石井さん自身、嫌がる子どもの手を引いて、毎日30分から40分かけてよく歩いていたそうです。大変ではあるけれど、散歩の途中で公園を通り、紅葉を見て、そういう時間が一生の思い出になる。そして歩けば絶対に体は強くなり、軸ができるそうです。

階段は、ももを高く上げる練習になります。腸腰筋でももを引き上げ、ふらつかないように軸をつくる。速く走るために必要な動きが、そのまま入っています。

つくし会では、東京都でいちばん長くてきついという150段の階段を、子どもたちが10往復するそうです。大人が4往復で音を上げる階段を、子どもたちは笑顔で上っています。

家でできる練習
道具はソファーと階段。
1
ソファーに飛び込む
合図と同時に、ソファーに向かって飛び出す。スタートの練習になる。
2
相撲の立ち合い
低く、速く、斜め45度に向かって出る。スタートの練習と体幹づくりを兼ねる。
3
階段を上る
ももを高く上げる筋肉を使い、ふらつかない軸をつくる。
4
よく歩く、よく走る
一駅分歩く。保育園まで歩く。歩けば体は強くなり、軸ができる。

子どもには「形」を先に。理由は後から

ここまで、ももを高く上げる理由や、肩を開く理由を書いてきましたが、石井さんは、幼児期の子どもにその理由を説明することはしません。

「アスリートの人たちはみんな言うんですよ。なぜそれができるのか、なぜそれができないのかをちゃんと言語化できるかどうかが全てです、と。原因がつかめていれば、もっとブラッシュアップすればうまくなれるし、スランプに陥ったときも修正できる。

でも幼少期の子どもは、それをわかろうと思ってもわかれないじゃないですか。だからまずは正しいやり方、効率のいいやり方を教えてあげる。だんだん育ってきて小学生とか中学生になったら、なんでそうなのかを後から説明する。そうするともっと伸びるんです」

だから親が子どもに伝えるのは、「腕を大きく振ろう」「ももを高く」「前に倒れるように」という形だけでかまいません。

理由は、親が知っていればいいことです。子どもが理由を聞ける年齢になったとき、ももを高く上げるのは衝撃を生むためだと話せれば、そこからまた伸びます。

***

6歳までにやっておけばよかった、と思う必要はありません。かけっこの前に教えるのは、スタートに集中することと、ゴールの先を目指すこと。

家では、ソファーに飛び込み、朝に相撲をとり、階段を上る。理由は親が知っていればよく、子どもには形だけ伝える。

35歳で速くなった人がいるのだから、小学生の体はこれからいくらでも変わります。

【石井大貴さんに聞く「子どもの運動」連載】