教育を考える/インタビュー 2025.5.27

「人間力」が高い子の親がしていること。完璧を目指さない7割の子育てが子どもを伸ばす

「人間力」が高い子の親がしていること。完璧を目指さない7割の子育てが子どもを伸ばす

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誰の目から見ても、テクノロジーの進化や価値観の変化が激しい現代と言えるでしょう。これからの社会で必要とされる力は、親が生きてきた時代のそれとは大きく異なる可能性が高いはず。そこでお話を聞いたのは、20歳で学習塾を創業して以来、35年以上に渡って子ども教育に携わってきた石田勝紀さん。しかし、石田さんの答えは、「子どもの将来にとって重要な力は、どんな時代でも変わらない」というものでした。

構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)

子どもの20年後のために――伸ばすべき「3つの力」

時代に伴い社会の仕組みや価値観が変化したり技術が進化したりすることにより、私たち人間に求められる力は常に変わってきました。特に時代の変化のスピードがかつてないほど増している現代社会においては、求められる力に違いが出てきています。

そのような状況を背景に、親御さんのなかには「子どもの20年後、30年後のためにどのような力を伸ばしてあげればいいのかわからない」と悩んでいる人もいるかもしれません。ただ、未来永劫に渡って変わらず大切な力があるというのが私の考えです。

その力は、パソコンでいえばOSのようなものです。そのOSさえしっかりとバージョンアップさせておけば、それぞれの時代に有用となるスキルや知識といった、いわば最新のアプリをインストールしてしっかり活用できるというわけです。では、肝心のOSにあたる力とはどのようなものでしょうか? それは、以下の3つの力です。

【1】思考力
【2】創造力
【3】人間力

「【1】思考力」は、文字どおり考える力を意味します。これは、単純に頭のよさと言ってもいいかもしれません。頭がいい人には、たとえば「どうして人間はこの世界に存在しているのだろう?」といった抽象度が高い問いを立てられるという特徴が見られます。なぜなら、問いを立てられるからこそ、人間は考えはじめるからです。逆に言えば、問いを立てられない人は考え始めることもありませんから、その思考力が伸びることもないのです。

思考力は、「このプロジェクトの最大の課題はなんだろう?」「ミスの真因はどこにあったのだろう?」「今後のためにどのようなスキルを身につけるべきだろう?」といったかたちで、仕事面で力になってくれることもあれば、「どうすればよりよい人生を歩めるだろう?」というように、プライベートの充実にも役立つもの。だからこそ、重要な力なのです。

授業を受けている小学生男児

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最重要は「人間力」。人・もの・言葉を大切にしよう

「【2】創造力」は、新しいものを生み出す力です。人間は、新しいものを生み出すことで生活に豊かさをもたらしてきました。具体的な「モノ」でなくとも、新たなカルチャーやなんらかの課題を解決する方法を生み出すのもまた、創造力によるものです。
この創造力の源泉は、好奇心にあります。ですから、親御さんには、わが子が自分の好奇心のままになにかに夢中になることを阻まないようにしてほしいのです。「こうしてみたらどうなるだろう?」「こんなこともできないかな?」と、楽しいと思えることに没頭するからこそ創造力は伸びていきますし、夢中になって動き続けるため、行動力の向上にもつながっていきます

最後の「【3】人間力」については、人によってさまざまな見方があるでしょう。私の場合は、「心」にフォーカスしており、「大切にする力」こそが人間力だと捉えています。自分を大切にするのはもちろん、人を大切にする、ものを大切にする、言葉を大切にする、あるいはもっと大きな視点で地球環境を大切にする――。そうできてこそ人間らしいと言えるのではないでしょうか。

先にお伝えしたとおり、これら3つの力はいずれも大切な力であることは間違いありません。しかし、あえて順位をつけるなら、人間力が最重要となります。

想像してみてください。頭はいいしクリエイティブで行動力もある、だけど人やものを大切にする心をもっていない……。そんな人間では、周囲から「嫌なやつ」と思われて孤立してしまいかねません。協働が求められる時代に、仕事でも成果を出しづらくなるでしょう。

一方、人間力に長けていたらどうですか? 頭はいいとはいえないしクリエイティブな力も行動力もそれほどないけれど、人間関係を大切にする人ならば、まわりがサポートしてくれます。その結果、思考力と創造力が高いにもかかわらず人間力に欠けている人間よりも、仕事面などで活躍できる可能性も高いのです。

風船をもつ子どもたち

「7、8割できればいいか」という気持ちの子育てでOK!

では、どうすれば子どもの人間力を高められるのでしょうか。心がけてほしいのは、親御さん自身が、人やもの、言葉を大切にするということです。いうまでもなく、子どもはもっとも長く接している人間の影響を受けて育ちます。みなさん自身も、わが子を見ながら「私にそっくり」「パートナーにそっくり」と思う場面に何度となく遭遇しているはずです。

みなさんは、人やものを大切にしていますか? 誰かを差別したり、愚痴や不平不満ばかりこぼしてネガティブワードを頻繁に多用したりしていませんか? そうした姿を子どもは見て、同じように育っていきます。子どもの人間力は、親自身の言動次第で大きく変わるのです。

しかし、「パーフェクトを目指す」ことを考える必要はありません。親だって人間なのですから、たまには愚痴をこぼしたくなるときもあります。子育て全般に言えることですが、「7、8割くらいできればいいか」といった感覚でいいのです。

動物の世界でもそうですよね。親が子どもに餌の獲り方を教えるにしても、パーフェクトにできるまで手取り足取り教えるわけではありません。ある程度できるようになった時点でひとり立ちさせ、その後は経験を積みながら子ども自ら成長していきます。それが自然な流れなのです。

みなさん自身だって、家事も子育ても完璧にできるスキルと自信をもった状態で親になったでしょうか? そうではないですよね。いま現在も、悩んだり落ち込んだりしながら経験を重ねるなかで親として成長しているはずです。

そもそも「パーフェクトにやらなければ」なんて思っていたら、自分を追い詰めることになってしまい、常日頃、険しい顔を子どもに見せてしまうでしょう。「7、8割で十分」と軽く考えていつも笑顔でいるほうが、子どもの人間力を高めるためにもよほどいいことなのです。

石田勝紀先生

10年後、どんな親子関係でいたいですか?子どもを育てる7つの原則
石田勝紀 著/大和書房(2024)
子どもを育てる7つの原則_

■ 教育専門家・石田勝紀先生 インタビュー一覧
第1回:後天的にだって「賢い子」は育てられる。わが子のタイプに着目すれば長所は確実に伸びていく
第2回:中学受験に「向いている子」「向いていない子」。教育のプロが教える4つの判断ポイント
第3回:「人間力」が高い子の親がしていること。完璧を目指さない7割の子育てが子どもを伸ばす

【プロフィール】
石田勝紀(いしだ・かつのり)
1968年生まれ、神奈川県出身。教育者、著述家、講演家、教育評論家。Yahoo!ニュース公式コメンテーター。国際経営学修士(早稲田大学)、教育学修士(東京大学)。1989年、20歳で起業し学習塾を創業。4500人以上の子どもたちを指導する。35歳で東京の中高一貫私立学校の常務理事に就任し、大規模な経営改革を実行。2016年からは「カフェスタイルの勉強会〜Mama Café」という子育て・教育の学びの会を全国で年130回以上主宰し、これまでに1万3000人以上の母親から相談を受けている。東洋経済オンライン連載「ぐんぐん伸びる子は何が違うのか?」は、累計1億3000万PV。音声配信メディアVoicy「Mama Caféラジオ」は、1500日以上連続で配信しており、フォロワー数は1万8000人を超える。著書は『同じ勉強をしていて、なぜ差がつくのか?』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『頭のよい子が育つ家のしかけ』(日本文芸社)、『のびる子はやっている 最大効果を出す 小学生の勉強法』(新興出版社啓林館)、『勉強しない子に勉強しなさいと言っても、ぜんぜん勉強しないんですけどの処方箋』(ダイヤモンド社)など全30冊。

【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。