教育を考える/インタビュー 2025.6.6

「できない」を「できる」に変える冒険力! 小学受験のプロに聞いた、子どもの力を伸ばす親とは?

「できない」を「できる」に変える冒険力! 小学受験のプロに聞いた、子どもの力を伸ばす親とは?

先行きが不透明で不確実な時代、子育て中の親御さんのなかには「子どもにどのような力をつけてあげればいいのか」と悩む人も多いことでしょう。小学校受験において高い合格実績をもつスイング幼児教室を運営する矢野文彦さんは、「これからの子どもたちには『冒険力』を身につけてほしい」と語ります。

構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)

そもそも、ものごとがうまくいくことなどほとんどない

これからの時代を生きていく子どもたちにとって、必要な力については多くの見方がありますが、私は「冒険力」こそがもっとも重要だと考えます。

私が言う冒険力とは、「成功するかどうかわからなくても、『まずはやってみよう』と行動して挑戦する力」を意味します。さらに、チャレンジの先にある、「困難や逆境に直面した際にしなやかに適応して回復する力」まで含めれば、いわゆる「レジリエンス」と言い換えてもいいでしょう。

なぜこの冒険力が重要かといえば、長い人生において、ものごとが思っていたとおりにうまくいくことなどほとんどないからです。みなさん自身のことを振り返ってみてもそうではありませんか? これまでの人生、すべて期待どおりに進んできているでしょうか? おそらくそうではないはずです。

そう考えると、「人生はうまくいかないものだ」ということを前提としなければなりません。そのうえで、うまくいかなかったことに対してどのように向き合っていくのか、どう立ち上がってネクストチャレンジを続けていくのかといったマインドセットが必要なのではないでしょうか。

とくに現代は、コロナ禍のような誰も予想し得なかったことが世界中で次々に起きていますし、あるいは、以前のようにいい大学を出ていい会社に入れば一生安泰という時代でもなくなりました。先行きが見えないなかでチャレンジしなければならない場面、その結果として失敗から立ち上がらなければならない場面は、かつてよりはるかに増えているはずです。だからこそ、冒険力の重要性が増しているのです。

子どもたちがカメラをのぞき込んでいる

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子どもに「好きなこと」だけをさせるのは危険

ところが、とくに「失敗に向き合う」ことについては、親子ともに慣れていない家庭が多いという印象を私はもっています。

教育の専門家の考え方もいろいろで、親御さんに対して「子どもの好きなことをさせてください」とアドバイスをする人もいます。「好きなことなら子どもが自ら率先してやろうとするし、頑張ることができる」という理由からです。これは一見、ロジカルな主張に思えるかもしれません。

しかし、「子どもの好きなことをさせる」ということは、裏を返せば「子どもが嫌がることはさせなくてもいい」ということになります。子どもが嫌がることとは、たとえばできないこと、やったことがないこと、あるいはこれまでにうまくいかなかった経験があることなどでしょう。それらをしないということは、つねに挑戦を避けることにもなるのです。

本来であれば、思い切ってやってみたらできるかもしれません。過去の失敗経験を活かしてもう一度チャレンジしてみたらうまくいくことだってあるでしょう。そういったことも、もともとやらないという選択になってしまうのです。

そのような人生を歩んでいく子どもが、将来、厳しい社会のなかで果たして通用するでしょうか? なにか卓越した能力を発揮して個人で稼ぐことができるならともかく、組織のなかでは「私は好きなことしかやらない」などという人間が求められることはありません

ゲームばかりしている子ども3人

親の役割は、子どもの成長のわずかな「差分」を見つけること

だからこそ、「できないこと」「失敗」に対する向き合い方を、親子ともに変えていってほしいのです。その過程においては、とくに親の価値観を変えることが大切です。なぜなら、ものごとに対する親の見方を通して子どもは学んでいくからです。

「できないこと」「失敗」に対して「悪いことだ」とネガティブにとらえる親の子どもは、同じような見方をするようになります。その結果、失敗することを恐れて最初からチャレンジしないという選択をするにちがいありません。

そのような事態を避けるには、まずなによりも「ヨコの視点」で子どもを見ないことを意識してください。「ヨコの視点」で見るとは、自分の子どもと他人の子どもを比較する見方のことです。

幼少期の子どもの発達度合いには、大きな個人差があります。それなのに、わが子とよその子を比較すると、「〇〇ちゃんはもうこんなことができるのに」「うちの子はダメな子なのかな」と、「できないこと」に対するネガティブな見方を強めてしまうのです。

そうではなく、あくまでも「タテの視点」で自分の子どもの成長を見てください。先月より今月、先週より今週、できなかったことがほんの少しでもできるようになれば、それだけでもその子にとって大きな成長です。

そして、その小さな「差分」を見つけて子どもに伝えてあげることこそが親の役割です。鉄棒の逆上がりがまったくできなかった子が、先週よりほんのちょっとだけ体を上に振り上げることができるようになりました。逆上がりができたわけではありませんから、子ども自身は「やっぱりできない……」と落ち込んでしまうかもしれませんよね。でもそこで、「前よりずっとよくなってるよ!」「もう少しでできるよ!」と声かけしましょう。

当たり前かもしれませんが、子どもができないことを見つけるのは簡単なことです。親の力が問われるのは、できなかったことが少しずつできるようになっていくその過程のなかで、わずかな変化、まさに子どもの成長を見つける場面なのです。

矢野文彦先生

スイング幼児教室が教える 冒険力の育て方
矢野文彦 著/光文社(2024)
冒険力の育て方

■ スイングアカデミア代表取締役・矢野文彦先生 インタビュー一覧
第1回:「できない」を「できる」に変える冒険力! 小学受験のプロに聞いた、子どもの力を伸ばす親とは?
第2回:親自身が迷いや焦りを感じたら、「わが子の名前の由来」を思い出して。どんな願いを込めた?(※近日公開)
第3回:【冒険力の育て方】スイング幼児教室が教える、乱世を生き抜くための「4つの力」(※近日公開)

【プロフィール】
矢野文彦(やの・ふみひこ)
1973年生まれ、東京都出身。株式会社スイングアカデミア代表取締役。大学卒業後、広告代理店やインターネットプロバイダを経て大手通信会社に入社。ブランドマーケティング、広告宣伝等を担当。2011年に退社して独立。WEB制作、アーティストマネジメント、教育事業をはじめ、東京都港区にスイング幼児教室を開校。2014年に株式会社スイングアカデミアを設立。社会経験を経て、学力だけではない社会で活躍するために必要な本当の力に気づき、「未来につながる学び」を、学びのスタート地点にいる子どもたちに伝えたいという思いから小学校受験業界に参入。培ったマーケティングノウハウを活かし、教育トレンドを速やかに分析して反映するなど、効率的で信頼性のある独自のカリキュラムが定評。講師やスタッフたちとのチームワークを大切にしながら、自らも授業やセミナーを行い、生徒や保護者に学びの本質である「冒険力」を伝えていくことを続けている。
【公式X】矢野文彦 (スイング幼児教室)

【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。