「中学受験」の過熱状態からも見えるように、近年は子どもの教育に多くのお金をかける家庭が増えています。しかし、ファイナンシャルプランナーの飯村久美さんは、「教育費をかけ過ぎることで、逆に子どもに苦労させる可能性もある」と警鐘を鳴らします。その背景にあるのは、老後資金との兼ね合いです。当たり前ですが、子どもを育てあげたあとも親の人生は続きます。教育費と老後資金をどうバランスよく蓄えていけばいいのでしょうか。
構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/塚原孝顕(インタビューカットのみ)
目次
教育費をかけ過ぎて老後資金が不足する罠
少子化の影響もあり、各家庭での教育熱が高まっているといわれています。子どもが少ないからこそ、「一点集中」で「わが子を立派な人間に育ててあげなければならない」と多くの親御さんが考えているのです。
ただ、そうした教育熱の高まりが、悲劇を招いてしまうこともあり得ます。子ども自身が希望もしていないのに「中学受験」をさせる家庭も多く、学習塾などに驚くほどのお金をかけることも珍しくありません。家計に相当な余裕があるのなら問題ありませんが、そうではない場合、月々の生活費を圧迫するのは目に見えています。
すると、最終的には子どもに苦労をかけることになりかねません。短期的な目線で中学受験のために多くのお金をかけてしまったため、大学進学時に十分な資金がなく、子どもに奨学金を借りさせるといったこともよくある話です。「奨学金の返済は就職後に重くのしかかるからどうにかしてあげたい」と思っても、現実的に無理なのです。
あるいは、「奨学金を借りさせるのはかわいそうだから、教育ローンを組んでお金を工面しよう」と考える親もいます。しかし、奨学金と比べて教育ローンの金利は高いため、親が返済に苦労することになります。
さらに先々を見た場合、親自身の老後資金が不足するといったことも考えられますし、これはもうロジックとして実際に起きているものと考えます。「子どものために」と教育費に多くのお金をまわした結果、将来的には、子どもに対して「援助してほしい」とお願いするケースも出てくるはずです。
リスクが大きい投資法で教育費を確保してはいけない
これまでのことを前提にすると、子どもの教育費を確保しつつも、自分たちの老後資金もきちんと蓄えておく必要があります。
まず、教育費の目安についてお伝えしましょう。文科省が公表している「令和5年度子どもの学習費調査」のなかの、学校教育費、学校給食費、塾や習い事などの費用である学校外活動費を合わせた「学習費総額」が参考になります。その金額は、幼稚園3歳から高校3年までの15年間のトータルで見ると、すべて公立なら約596万円、すべて私立なら約1976万円です。
さらに大学に進学するなら、4年間の学費の目安は、国公立大学なら約250万円、私立文系で約450万円、私立理系で約600万円です。子どもにひとり暮らしをさせるなら、さらに費用はかかります。
このようにして、子どもの教育費はその進学先によって大きな差が生まれます。そのため、「月にいくら貯めればいい」といったことは一概にいえないのが実情です。
そんななか、基本的な考え方として知っておいてほしいことがあります。それは、「教育費についてはリスクの大きな投資法で増やそうと考えてはならない」ということです。個別株投資や暗号資産など、大きなリターンを期待できる一方、大きな損失を被ることもあるハイリスクな投資法を選択すると、いずれ元本割れしてしまう可能性も少なくありません。
ですから、教育費については、たとえば定期預金や学資保険、個人向け国債など安全性の高い金融商品でコツコツと貯めていくような方法を選択すべきでしょう。定期預金や保険なら原則として満期まで引き出すこともできませんから、大切な教育費に手をつけてしまうこともありません。
老後資金は積み立て投資で確保する
一方、親自身の老後資金については、2024年からスタートしたことで大きな話題となった「新NISA」を活用することを考えてみましょう。
昨今の物価高により、2024年のインフレ率は3.27%でした。「ゼロ金利時代」ともいわれるように現在のメガバンクの普通預金金利が0.1%程度だということを思えば、ただ預貯金にお金を預けておくだけでは、資産価値はどんどん下がっていきます。これは、インフレ対策という意味でも、投資によって資産を増やしていくことがマストになっていることを意味します。
ただし、ここでもハイリスクな金融商品に手を出すことはおすすめできません。わたしがおすすめする投資法は、手間をかけずに時間をかける方法です。
そもそも投資とは、お金を株式や債券、投資信託などの金融商品に換えて長期保有することで利益を得ることを目的としています。投資にギャンブルのイメージをもたれることもあるのは、短期的な価格の変動により利益を得る「投機」と混同しているからでしょう。
「人生100年時代」とも言われるなか、老後資金は長い時間をかけて形成していくものですから、その時間を味方につけましょう。NISAの「つみたて投資枠」では、厳選された比較的ローリスクの金融商品だけが買えるようになっています。確かにローリスクである反面、大きなリターンは期待できませんが、それは時間が解決してくれます。投資で得た利益を再投資して「複利の力」を最大限に活かせば、長い時間のなかで資産は雪だるま式に増えていくはずです。
子どものことを思うのなら、教育費はもちろん、自分たちの老後資金もきちんと形成しておかなければなりません。だからこそ、なるべく早めにマネープランを立て、できるだけ長期にわたってコツコツ型の投資で資産形成を実践することが大切なのです。
『年収300万円でもラクラク越えられる 貯蓄1000万円の壁』
飯村久美 著/KADOKAWA(2021)
■ ファイナンシャルプランナー・飯村久美さん インタビュー一覧
第1回:【2025年版】15年間の教育費、いくらかかる? 公立・私立で3倍差! 物価高騰時代の「賢い考え方」
第2回:過熱する「中学受験」、塾代+受験費用で300万円! 人気FPが教える【計画的な貯め方】
第3回:教育費&老後資金を正しく貯める|賢い親はやっている、新NISA時代の資産形成術
【プロフィール】
飯村久美(いいむら・くみ)
金融機関在職中にファイナンシャルプランナー(FP)の資格を取得。退職後、自らの経験から、お金の正しい知識を身につけることが「生活を守る手段」であり、「やりたいこと」や「夢」につながると痛感。その経験を伝え、その人の夢が叶うマネープランをサポートすることを目的として、2006年にFP事務所を開業。テレビやラジオ出演、セミナー講師など幅広く活躍中。監修書に『一生お金に困らない! 貯め方・増やし方』(ナツメ社)、著書に『お金の先生! できるだけ簡単にお金が増える方法を教えてください。』(アスコム)、『ズボラでもお金がみるみる貯まる37の方法』(ゴマブックス)、『シングル女子の今日からはじめる貯蓄術』(成美堂出版)などがある。
【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。