音楽をたのしむ/楽器 2018.9.21

子どもが大成していく「褒める」教育――我が子の才能を伸ばすために親がすべきこと

子どもが大成していく「褒める」教育――我が子の才能を伸ばすために親がすべきこと

「大物になる人は、子ども時代から周囲とはちがっていた」という話をよく聞くと思います。大人になってから大成する人は、幼少期をどのように過ごし、どのように育てられたのでしょうか。そして、親が子にできるのはどんなことでしょうか。ヴァイオリニスト・指揮者として活躍する傍ら、自身の教室で未来のヴァイオリニストを育てる西谷国登さんに聞いてみました。

構成/岩川悟 文/Tokyo Edit

失敗したときでもとにかく褒める

わたしは5歳でヴァイオリンをはじめ、現在はプロのヴァイオリニストとして生計を立てています。子どもの頃や学生時代に出会ったヴァイオリニストのなかには、世界を股にかけて活躍する人や、独自のジャンルを切り開いて、その第一人者になっている人もいます。そのような仲間たちや、日頃、教室で指導している優秀な生徒たち、そして尊敬する先生方のお話などを総合すると、将来的に成功する人にはなんらかの共通点があるのではないかと思うようになりました。

まず、一番の特徴だと感じるのが「褒められて育っている」ということ。成功する人はその分岐点となるような場面で、必ず周囲の人から「君ならできるよ!」と背中を押されているようです。それだけでなく、練習でもことあるごとに褒められています。褒められることで自信がつく。自信がつくと、「新しいチャレンジしてみよう!」という意欲がどんどん湧いてくる。彼らのなかでは、こうした良いサイクルが絶えずまわっていたのでしょう。

わたしも子どもたちに指導するときには、褒めることを欠かしません。むしろ、全力で大声を出して褒めます。明らかに上手に演奏できていなくても、成長がほんの少しでもあれば褒めます。というのも、褒めるところのない演奏なんて、基本的にないからです。たとえば、間違ってしまったけれど最後まであきらめずに演奏できた。音色は良くなかったけれど、テンポどおりに演奏できた。これだって十分に評価すべきことではありませんか? 「できなかったこと」より「できたこと」に目を向けて褒めることが大事だと思います。このような思考を持てたのは、わたしが若い頃アメリカに留学していたからかもしれません。アメリカでは褒めることが教育の基本。ほとんどの先生が子どもを褒めて才能を伸ばしていたのです。

よく親御さんから「この子は才能がありますか?」と聞かれることがありますが、わたしはその質問に「才能のない生徒なんてひとりもいませんよ」と答えます。なぜならば、誰だってなにかしらの才能に長けているからです。成功を収めている音楽家、経営者、芸能人などをみても、そのタイプは本当にさまざまですよね? つまり、どんな生徒にも才能があるし、大成できる可能性はあるということなのです。その子が持つ才能を見つけて褒め、最大限に伸ばしていく。それが先生や大人たちの役目だと思っています。

我が子の才能を伸ばすために親がすべきこと2

「木のおもちゃ」が知育におすすめな理由。五感を刺激し、集中力を育んでくれる!
PR

ロールモデルになる人と出会わせる

子どもの向上心が育つか育たないかは、どんな人をロールモデルにするかにかかっているとわたしは見ています。

音楽家は、幼い頃から優秀な師匠に弟子入りしていることがほとんどです。わたし自身も、高校時代から、東京藝術大学の名誉教授でありNHK交響楽団の元コンサートマスターであった故・田中千香士(たなか・ちかし)先生に師事していました。千香士先生はわたしのイメージする「最高の先生像」にピッタリの先生でした。「弓っていうのは、武士の命である刀のように持つんだ!」と指導する千香士先生の男らしさに、憧れを抱いていたほどです。

千香士先生との出会いは、父親にすすめられて参加した音楽祭でした。当初は音楽祭でレッスンを受けるだけの予定でしたが、先生の指導に感動したわたしは、先生が宿泊する部屋まで行き弟子入りを直談判。そうして、ラッキーにも弟子入りできることになったのです。このときの決断と積極的な行動が、わたしの人生を決めたと言っても過言ではありません。

わたしにアメリカ留学のチャンスが来たときにも、「すぐにでも行ってこい!」と背中を押してくれましたね。そんな千香士先生がわたしに言ってくれた言葉にこんなものがありました。「どんなに偉くなっても、芯は硬く、まわりは柔らかくだからな!」。この教えはいまだに心に刻まれ、わたしの人生の指針となっています。

これまでのヴァイオリン人生には、つらいことやうまくいかないことも多々ありました。ですが、先生の言葉を思い出して乗り切ったことも多々あります。師匠を持つということは、その人の人格形成につながると確信しています。子どもにとって、その師匠はお母さん(お父さん)かもしれませんし、習いごとの先生かもしれません。お子さんが優れたロールモデルを見つけられるように、いい大人との接点を積極的につくってあげてほしいのです。

我が子の才能を伸ばすために親がすべきこと3

やめるか続けるかの判断軸は「好き」という気持ち

楽器の練習を続けていると、うまく弾けなくなる時期が必ず訪れます。いわゆる、スランプですね。涙を流すほどつらいこの時期、子どもが「もうヴァイオリンをやめたい……」と言い出すこともよくあります。なにごとも長期間にわたり続けなければ大成できませんので、親の立場としては「くじけないで続けなさい!」と言いたくもなるでしょう。スランプを乗り越えることで強くなれるのもたしかです。ですが、その子にとって必ずしも続けることが良いとは限らないとわたしは思っています。

楽器をやめるか続けるかを決める分岐点は、「向上心」や「興味」があるかどうか。ヴァイオリンに限らず、生涯の仕事はすべて好きなこと、興味があることでないと続きません。好きだからこそ他の人が考えられないほどの情熱を注ぎこめるし、他の人が追いつけないくらいのレベルにまで到達することができる。わたしが知る限り、「興味」を原動力にしている子は強いし、それだけ大成する可能性が高いです。

子どもが目の前のことを本当に好きかどうか確認するには、親自身の考えを口に出さず、子どもが決断するのを待つことではないでしょうか? 親御さんのなかには、「わたしがヴァイオリンを好きだから続けてほしい」「わたしは音楽家になるのが夢だったから、この子には叶えてほしい」と思っている方がたくさんいます。ヴァイオリンをはじめさせるきっかけとしてはとても素晴らしい理由だと思います。ですが、ずっと続ける理由がそのままでは、子どもは「お母さん(お父さん)の願いを叶えてあげよう」と必死になるだけです。

日頃からいろいろなチャンスを与えて、才能を認め、褒めて育てていけば、子どもはいつか必ず「好き」と感じられるものを見つけることができます。好きになれるものを見つけられれば、子どもはその分野で認められるにはどうすればいいか、その仕事で生活するにはどうすればいいかを自ら考え、道を切り開いていけるようになるはずです。もちろん、その「好き」が仕事にならなくても大丈夫。なにかに夢中になり打ち込んだ経験は、その人間を支える礎になり、人生に大きく役立つと思うのです。

■ ヴァイオリニスト・西谷国登さん インタビュー一覧
第1回:子どもの音感を伸ばす3つのステップ――音感はトレーニングによって育てられるもの
第2回:幼少期に習うヴァイオリンにある4つのメリット――身体面・精神面にもたらされる良い影響
第3回:子どもが大成していく「褒める」教育――我が子の才能を伸ばすために親がすべきこと
第4回:ヴァイオリンを通じて見える「理想の親子関係」――子どもをぐんぐん伸ばす親の特徴

【プロフィール】
西谷国登(にしたに・くにと)
1983年2月5日生まれ、東京都出身。ヴァイオリニスト・指揮者。ニューヨーク大学大学院修了(M.M.特別奨学金含む)ポートランド州立大学卒業(B.M.4年連続奨学金授与)。大学入学時より大学オーケストラの首席コンサートマスターを務め、2006年7月、2007年6月、2009年5月に米国各地にてリサイタル(いずれも満席)を行う。2010年、日本に帰国。2012年9月、日本帰国後初リサイタル(1日2回公演)を行う。その後、2014年5月より2016年5月、2018年5月と浜離宮朝日ホールにてリサイタルシリーズを行っている。また、日米のさまざまなオーケストラと共演。5枚のCDアルバムを(株)エス・ツウよりリリース。最近では、NHK-BS、TV Asahi、J:COMに出演するなどメディアでも活躍中。在米中、ニューヨーク大学非常勤講師、ポートランド州立大学非常勤講師、ローズ市音楽学院講師を歴任。また、情熱的で的確な後進の指導には定評があり、国際コンクールを含むコンクールやオーディション等でも入賞等の結果を残している。第25回、第26回「日本クラシック音楽コンクール優秀指導者賞」2年連続受賞。2017年4月、名門米国イリノイ大学、ウェスタンイリノイ大学の各大学に招待され、リサイタルや公開レッスンの他講演を行う。これまでに、田中千香士(元・東京芸大名誉教授)、キャロル・シンデル(Yハイフェッツ愛弟子)、マーティン・ビーバー (コルバーン音楽院教授)の各氏に師事。現在、Kunito Int’l String School (KISS) 教室主宰。石神井Int’lオーケストラ音楽監督。クニトInt’lユースオーケストラ音楽監督。池袋コミュニティカレッジ講師。読売・日本テレビ文化センター講師。日米各地でレクチャー講演や公開レッスンを開催。また、各地でコンクール審査員、講座の監修・公共イベントのプロデューサーを務める。著書に『国登ヴァイオリン教本(全4巻)』(サーベル社)※Amazon売れ筋ランキング弦楽器部門第1位獲得。『ヴァイオリン留学愚痴日記@米国オレゴン州ポートランド』(文芸社) などがある。
西谷国登公式サイト https://nkunito.com

【ライタープロフィール】
株式会社Tokyo Edit
金融・経済系を中心としたメディア、コンテンツの企画・制作・運用を行う。運営するチーム「Tokyo Edit」には、ライターや編集者の他、デザイナーやカメラマン、プログラマーなど、幅広い職種のクリエイターが登録。高品質で結果の出るコンテンツづくりを目指している。