「早くしなさい!」「ダメって言ったでしょ」「何回言えばわかるの」
朝の玄関、帰宅後のリビング、寝る前の洗面所。この3つのどれも言わずに終わる日は、めったにないと思います。言った直後に「また言ってしまった」と思い、翌朝また同じ言葉が口から出る。
じつは、この3つの言葉には共通の欠点があります。どれも、子どもに「次に何をすればいいか」を伝えていないのです。「早く」は速さしか言っていません。「ダメ」はやってはいけないことしか言っていません。「何回言えばわかるの」は、答えようのない質問です。子どもが動かないのは聞き分けの問題ではなく、言葉のなかに「してほしい行動」が入っていないから。
その言い換えを、実際に言葉が出る朝・帰宅後・寝る前の時間帯ごとに、10組ずつ並べました。
目次
「早く」「ダメ」「何回言えば」は、子どもの「次の行動」を消してしまう
「早く!」という言葉がけは、子どもの自己肯定感を下げてやる気を奪うだけです。(白百合女子大学・発達心理学者の秦野悦子氏)「自分でやりたい!」という気持ちが高まる幼児期に、具体的なアドバイスなしで急かし続けると、自主性や自己肯定感が育ちにくいともいわれています。
「早くしなさい!」は、「脳をたくさん使わず、ちょこっとだけ使って、いまやっていることをパパッと終わらせなさい」という指示と同じなのだそうです。(発達脳科学・MRI脳画像診断の専門家、加藤俊徳氏)「早く」は、子どもの手を速めるどころか、頭を止めてしまう言葉なのです。
📖 調査でも、こう示されています
個別指導塾に通う中高生100人に聞いた調査では、51%が、親の言葉で「やる気スイッチ」がオフになった経験があると答えています。最も多かった言葉は「勉強しなさい・早くやりなさい」で、そのほとんどは、本人が「やろうと思っている」状況で言われていました。(やる気スイッチグループの調査より)*1
「ダメ!」はどうでしょうか。子どもは否定語を理解するのが苦手で、「ここで騒いだらダメ」と言われれば言われるほど、子どもの頭のなかは「騒ぐ」に囚われるといいます。(幼児教育研究家・はせがわわか氏)「シロクマのことだけは考えないで」と言われた人ほど考えてしまう、「シロクマ実験」と同じ仕組みです。(心理学者・ダニエル・ウェグナー氏ら)*2
また、「ダメ!」で失敗や危険から回避させ続けると、ちょっとしたことで挫折しやすくなるという指摘もあります。(教育家・見守る子育て研究所所長の小川大介氏)
そして「何回言えばわかるの」。「なんで〇〇するの!?」という問いは不毛です。問い詰められた子どもは怖くて黙るか、原因をあれこれ並べるかで、反省の弁は出てこないからです。(作家・カウンセラーの五百田達成氏)「何回言えばわかるの」も同じ型です。「足し算もできないの?」のような能力否定の言葉は、「自分は算数ができない」という思い込みを何十年も残しうるといいます。(教育評論家・親野智可等氏)
では、効く言葉は何が違うのでしょうか。ポイントは、「ネガティブな表現を使わずに、相手にしてほしい行動を具体的に伝える」ことです。(日本ペップトーク普及協会専務理事・浦上大輔氏)「騒がないで」ではなく「ここでは静かにしようね」と言えば、「静かにする」がすんなり入っていきます。以下の30組はすべてこの原則の応用です。元になった「早く!」の代わりに使いたい “魔法の言葉”、「ダメ!」と言われ続けると「挫折しやすい子」に育つ、我が子に決して言ってはいけない「7つのNGワード」も、あわせて読めます。

朝の10組は、「早く」を「時間」と「楽しみ」に置き換える
朝は「早く」がいちばん出やすい時間帯。起こす、着替えさせる、食べさせる、玄関から出す。すべてに締め切りがあります。
1は、夜ふかしの原因になっている「夢中になるもの」を朝に持ってきて、起きる楽しみをつくる言い換えです。(睡眠の専門家でもある小児科医・成田奈緒子氏)2は、まずよさを伝えてからほめる言い換え。子どもは何をするにも大人の2〜3倍の時間がかかるためです。(東京家政大学教授・岩立京子氏)3は、スーパーの「試食ごっこ」です。(保育士で育児アドバイザーのてぃ先生)
4と5は時間を見える形にする言い換えです。子どもは「5分」の意味はわかっても、それがどれくらい短いのかはわかっていないので、画用紙に描いた「模擬時計」を本物の横に置きます。(教育評論家・親野智可等氏)
6〜8は、「ちょっと」「何回」「そんなことも」を、具体的な言葉や励ましに置き換えています。(作家・カウンセラーの五百田達成氏、教育評論家・親野智可等氏)9は肯定語への置き換え。10は「10秒」待つ言い換えです。2歳の子でも10秒あれば片足は履けるのに、5秒で「早く」と言っていないか。あと10秒待つだけで「ひとりでできた」の場面はずいぶん増えるといいます。(スーパー保育士・原坂一郎氏)

帰宅後の10組は、「質問」を「次の一手」に変える
帰宅後に出やすいのは「早く」よりも、「やったの?」という質問を次の行動へとかえる言葉です。
1の「宿題やったの?」は、やっていないと気づきながらあえて聞く「意地悪な質問」で、子どもに「やったよ」と嘘をつかせてしまいます。(教育評論家・親野智可等氏)2は、「何時から」を確認してから誘う言い換え。低学年は、いまが勉強時間だと認識していないことがあるからです。(子育て心理学協会代表理事・東ちひろ氏)3と4は、始める時刻と量を小さくする言い換えです。子どもは最初の一歩が一番腰が重くなります。(教育家・見守る子育て研究所所長の小川大介氏)
5と6は、「たくさんほめてから直す」順番です。(教育評論家・親野智可等氏)7は脅しを選択肢に変えます。「捨てちゃうからね」と言って捨てないことが続くと、子どもは親を信用しなくなり、弟や妹に同じ脅しを使うようになります。(子育て本著者・立石美津子氏)代わりに使いたいのが、どちらを選んでも親に支障がない2択です。(臨床心理士・高山恵子氏)
8は、子どもの頭が一番働いているのは「悩んで考えているとき」という考え方にもとづく言い換えです。(白梅学園大学子ども学部教授・増田修治氏)9は、友だちの名前を挙げてほめるなら、必ずわが子のよいところも一緒に。(心理カウンセラー・佐藤栄子氏)10の「あとでね」は、嘘をつくのと同じ。はっきり約束して守ることが、親への信頼になります。(日本メンタルアップ支援機構代表理事・大野萌子氏)

寝る前の10組は、「罰」と「評価」を「約束」と「気持ち」に変える
寝る前に出やすいのは「〜しないと〜させないよ」という罰と、「いい子だね」という評価の言葉です。
1は、罰を約束に変える言い換えです。罰は、何が悪いのかが伝わらず、「嫌なことを避けたいから従おう」と思わせるだけで、しかも内容がエスカレートしていきます。(育児相談室「ポジカフェ」主宰・佐藤めぐみ氏)2は、あらかじめ区切りをつけておく言い換え。こうしておけば子どもは混乱しません。(子育て本著者・立石美津子氏)3は、子ども自身に選ばせる2択です。(東京大学名誉教授・汐見稔幸氏)4は、背中を押す言葉への言い換えです。「もう勝手にしなさい」と突き放す言葉は、子どもが全人格を否定されたと感じてしまいます。(教育コンサルタント・上野緑子氏)
5の「だから言ったでしょう」は、子どもには何が「だから」なのかわからないので、一文で説明します。(心理カウンセラー・佐藤栄子氏)6の「いい子だね」は、上の人間が下の人間を判定する評価の言葉。代わりに「うれしいよ」と自分の気持ちを伝えます。(保育歴60年以上の保育士・大川繁子氏)7は、存在否定の言葉が「自分はいてはいけないのでは」という自己否定感を残すため、日頃から無条件に肯定する言葉を。(教育評論家・親野智可等氏)
8と9はペップトークの型「受容→承認→行動→激励」で、まず気持ちを受け入れてから、してほしい行動を伝えます。(日本ペップトーク普及協会専務理事・浦上大輔氏)10は、朝の1と同じ考え方を夜に応用した言い換えです。夢中になるものを取り上げず朝に回すと、寝る側にも起きる側にも楽しみが残ります。

30組に共通するのは、「してほしい行動」をそのまま言うこと
言い換えの型は3つしかありません。
①否定語を肯定語にする。②「早く」「ちょっと」「なんで」を、具体的な時間・理由・選択肢に置き換える。③評価・脅し・罰を、気持ちと約束に置き換える。どれも、子どもの頭に「次にやること」が残る言葉です。
30組すべてを覚える必要はありません。子育てのルールが緩いオーストラリアでは、親はめったに「No」と言わず、そのぶん譲れないときの「No」がよく効くのだそうです。(小児科医・松永正訓氏)日頃の共感があれば、親の本気の「ダメ」は届きます。(東京家政大学ナースリールーム元主任保育士・井桁容子氏)言い換えを増やすことは、本当に必要なときの「ダメ」を効かせることでもあるのです。
そして、「親に待ってもらった子は、やがて自分が『待てる子』になる」といいます。(スーパー保育士・原坂一郎氏)明日の朝、玄関でひとつだけ。「早く」と言いかけたら、10秒だけ待ってみてください。
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「早く」「ダメ」「何回言えば」を言ってしまう日があっても、次のひとことで取り戻せます。
言い換えた言葉が、子どもの「できた」を少しずつ増やしてくれるはずです。
よくある質問(FAQ)
A. すぐに動かなくて普通です。子どもは何をするにも大人の2〜3倍の時間がかかります。(東京家政大学教授・岩立京子氏)「10秒待つ」を目安に、言い換えたあとは口を足さずに待ってみてください。(スーパー保育士・原坂一郎氏)ただし、「どうしたらいいかわからない状態」の30分は、子どもにとって苦痛でしかないともいわれます。(教育家・見守る子育て研究所所長の小川大介氏)手が止まったまま困っているようなら、「どこまでわかった?」「一緒に考えようか」と手を貸すサインです。
A. 言ってかまいません。オーストラリアの親のように、普段の「No」を減らしておくほど、譲れないときの「No」は効きます。(小児科医・松永正訓氏)日頃の共感があれば、親の本気の「ダメ」は子どもに届きます。(東京家政大学ナースリールーム元主任保育士・井桁容子氏)危険がないとわかっている場面から、肯定語に置き換えていけば充分です。
A. 言い直せば大丈夫です。「早く!」のあとに「7時50分までに靴を履こうね」と時刻を足す。「何回言えばわかるの」のあとに、「これからはどうすればいいと思う?」を足す。(作家・カウンセラーの五百田達成氏)最初の一言を消すことはできませんが、「次にやること」を足せば、子どもの頭に残るのはあとのほうの言葉です。
A. 言葉の意味がわかる年齢から使えます。1〜2歳の子どもは親の言葉や指示をだいぶ理解できるようになり、「イヤ」と言うことで「自分もひとりの人間なんだ」と主張しています。(スクールカウンセラーで医師の明橋大二氏)3〜5歳になると簡単なルールは守れるようになるので、「5分か10分か」のような2択や、「〇〇が始まるまでに」という区切りが効きやすくなります。
*1: やる気スイッチグループ|個別指導塾スクールIEに通う中高生100人に聞きました 親に言われてやる気スイッチがオフになる言葉 第1位「勉強しなさい!」(PR TIMES, 2017年12月27日)(参考: こどもまなびラボ|「いい子だね」は禁句? 我が子に決して言ってはいけない「7つのNGワード」)
*2: Wegner, D. M., Schneider, D. J., Carter, S. R., & White, T. L. (1987)|Paradoxical effects of thought suppression. Journal of Personality and Social Psychology, 53(1), 5–13.









