「危ないからダメ!」「汚れちゃうからダメ!」「〇〇しちゃダメ!」
子どもが小さいうちは1日に何度も「ダメ!」と言いがちですよね。われながら口うるさいなあ、と自覚しつつも、まわりに迷惑をかけたくない、わが子が危険な目にあってほしくないという思いから、つい「ダメ!」を連発していませんか。
今回は、子どもに「ダメ!」と言い続けることのデメリットと、「ダメ」の言い換えにおすすめの言葉についてご紹介します。
「ダメダメ」と言い続ける日本の子育て
親がわが子の危険や失敗を察知して、行動する前に「ダメ!」と制止する場面はよく目にします。実際にみなさんも、お子さんに対して日常的に「〇〇しちゃダメ」と言っている・言っていた経験があるはず。海外の親もその傾向はあるものの、とくに日本社会は親が「ダメ」と言いすぎる、と指摘する専門家もいます。
「『ちゃんとしつけなければ』というプレッシャーが大きい日本では、子どもの行動をコントロールする場面が多くなる」と述べるのは、『世界標準の子育て』(ダイヤモンド社)の著者で学習塾TCL for Kidsの代表を務める船津徹氏です。まわりに迷惑をかけない人になってほしい、悪目立ちしない人になってほしい、親のしつけが行き届いていると思われたい――。たとえ口には出さなくても、このような願望を秘めている親御さんも多いのではないでしょうか。
東京大学名誉教授で元白梅学園大学学長の汐見稔幸氏は、「昔と比べていまの親は、ずっと子どもを見ていなければいけないプレッシャーがある」と言います。昔は小学校に入る前でも、近所の子どもたちと一緒に外で遊び回ったり、祖父母と同居して大人の目がたくさんあったりと、親がべったり子どもの面倒を見なくてもよい空気感がありました。しかし、いまの日本社会ではそうもいきません。汐見氏は、この社会状況をふまえ、「これでは『子どもがちゃんと育つかどうかは親の姿勢しだい』と言われているようなもの。結果として子どもに『こうしなさい』『それはダメ』と言いたくなる」と指摘しています。
小児科医の松永正訓氏によると、日本と比べて子育てのルールが緩いオーストラリアでは、「親は子どもに対してめったに『No』と言わない」のだそう。その理由は、「〇〇しなければいけない」という固定観念が薄く、「そういうこともありかな」と考える親が多いからだと言います。結果として、どうしても譲れないときに、親が「No」と言うと大変効果があるそうなので、やはり日頃から「ダメ」と言い続けるのは逆効果なのかもしれません。
「〇〇はダメ!」と言うと、なぜ子どもは〇〇するのか?
そうはいっても、毎回「ダメ!」と注意しているのに子どもは何度も同じことをやろうとする、なぜダメなのか子どもが理解していないような気がする……。そうお悩みの方もいるのではないでしょうか。子どものそうした様子には理由があります。
幼児教育研究家のはせがわわか氏は、「子どもは否定語を理解するのが苦手。『ここで騒いだらダメ』と言われれば言われるほど、子どもの頭のなかは『騒ぐ』に囚われる」と述べています。
つまり「〇〇しちゃダメ」という否定語の言葉がけは、子どもの意識にわざわざやってはいけないことのイメージをどんどん注いでいるのと同じです。結果、ちょっとした刺激でやってはいけない行動をさせてしまいます。
(引用元:マネー現代|知ってた?子どもに「〇〇しちゃダメ!」と言うのが逆効果なワケ)
やめさせようとして「ダメ!」と言っているのに、まさか逆効果だったなんて――。衝撃的ですが、これは心理学者ダニエル・ウェグナー氏の「シロクマ実験」で知られる有名な話です。Aグループには「シロクマのことを考えておいてください」、Bグループには「シロクマのことだけは考えないでください」と伝えたところ、シロクマのことをより頻繁に考えてしまったのはBグループだった、という結果に。昔話の『鶴の恩返し』や『浦島太郎』にも描かれているように、人は「見ないで」「開けないで」と言われると、そのことに心がとらわれてしまうものなのです。
「ダメ」と言い続けたら「挫折しやすい子」に育つ
親が子どもに「ダメ!」を言い続けていると、どのような影響が出てくるのでしょうか。
■自分で物事を決められなくなる
『1人でできる子が育つ「テキトー母さん」のすすめ』(日本実業出版社)の著者・立石美津子氏は、「『ダメダメ』と言い続けていたら、親の顔色ばかりを気にしたり、親の指示がないと動けない子になったりする」と述べています。さらに発展すると、自分で物事を決められなくなり、「何でもかんでも許可を求める子になる」と指摘するのは、25年間の保育士経験を活かしてこどもコンサルタントとして活動中の原坂一郎氏。たとえば、自宅にいるのに「これで遊んでいい?」と、本来なら許可をとらなくてもいいようなことも許可を求めることが定着してしまうなど、成長に悪影響を及ぼす可能性もあるので注意が必要です。
■自己肯定感が下がる
船津氏は、「自己肯定感を育てるには、『自分の意欲でやったことができた!』という成功体験が重要」であることをふまえ、先に述べたように「まわりに迷惑をかけないように『ダメ』を言い続けることで、子どもは自発的な行動をコントロールされ続ける」と述べています。つまり、自分の意思を押さえつけられたり、否定され続けたりすると、成功体験が積めずに自己肯定感が下がってしまうのです。子どもが失敗したり迷惑をかけたりするのは当たり前。自己肯定感向上のためにも、子どもの自発的な行動をおおらかな目で見守ってあげたいですね。
■すぐに諦めるようになる
「『ダメ!』と失敗や危険から回避させ続けると、ちょっとしたことで挫折しやすく、すぐに諦める傾向が強くなる」と指摘するのは、教育専門家の小川大介氏です。幼い頃から何にでもチャレンジし、「できたり・できなかったり」を体験してきた子は、結果をそのまま受け止めて自分で乗り越えようとする力がつくのだそう。失敗を恐れず挑戦することで、結果的に失敗しても、その経験によって困難を乗り越えるメンタルが育つのです。
「ダメ」の代わりに言いたい魔法の言葉
最後に、「ダメ!」の代わりにぜひ試してほしい声かけや行動をいくつかご紹介します。「ダメ!」と言ってしまいそうになったとき、思い出して活用してみてくださいね。
■否定語ではなく「肯定語」を使う
はせがわ氏が指摘するように、子どもは否定語を理解するのが難しく、「〇〇しちゃダメ!」と言われたらそのことばかりを考えてしまい、かえって逆効果になることも。そこでおすすめなのが、否定語ではなく肯定語を使うこと。「騒がないで」「しゃべったらダメ」ではなく、「ここでは静かにしようね」と伝えることで、子どもの意識には「静かにする」というメッセージがすんなり入っていきます。
■子どもに選択させる
「ダメ!」と一方的に禁止すると、子どもは自分で考える余地がなくなり、ただ我慢をしてやり過ごすことになってしまいます。それは親にとっては都合がよいかもしれませんが、子どもは親の言いなりになるしかありません。そこで汐見氏が提案するのは、子どもに「選択させる」こと。たとえば「あと5分、静かにできるかな? それとも10分かな?」と、静かにすることを子ども自身に選ばせます。親から信頼されて任されたことが誇らしい子どもは、自分で決めたことをやり通すはずです。
■言葉ではなく行動で親がお手本を見せる
いくら口で「ダメ!」と言っても聞かないのなら、親が進んでお手本を見せてあげるといいでしょう。東京家政大学ナースリールーム主任保育士の井桁容子氏は、親が子どもに身につけてほしいマナーを目の前でやってみると効果的だと話します。食事のときなど、こぼさないように食べるにはどうしたらいいか、こぼしてしまったときの片付け方、口に物が入っているときは黙って咀嚼するなど、目の前でお手本を見せてあげましょう。
また井桁氏によると、「ダメ!」の効果を最大限に発揮するためにも、普段から「共感」を意識しながら子どもに接するように心がけるといいとのこと。子どもが「嬉しい」「おもしろい」と感じたことに対して、軽く受け流さずにちゃんと共感してあげましょう。すると子どもは、「お母さん・お父さんは自分のことをわかってくれている」と思い、信頼してくれるようになります。親子間の信頼関係ができていれば、親が「これはダメなんだよ」と厳しい顔つきで言ったとき、「いつもと表情が違うから本気で聞かなければ」と、子どもはしっかりと聞き入れてくれますよ。
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「ダメ!」を絶対に言わないようにするのは難しいものですが、時間や心に余裕のあるときや、お子さんの身に危険がないとわかっているときには、できるだけ「ダメ!」の代わりになる対応を心がけてみませんか? そうすることで、親も子どももストレスなく過ごせるようになりますよ。
(参考)
ニューズウィーク日本版|「ダメ、ダメ」言い過ぎる母親を生む日本社会で、自己肯定感の低い子にしない最高の方法
プレジデントオンライン|子どもを叱り続ける「ダメダメ育児」から抜け出す魔法の言葉
NHK すくすく子育て情報|私、口出ししすぎ?
マネー現代|知ってた?子どもに「〇〇しちゃダメ!」と言うのが逆効果なワケ
神戸学院大学 心理学部/心理学研究科|「シロクマ」のことだけは絶対に考えないでください!
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