黙っていても宿題をする子がいる一方で、何度注意しても一向にやろうとしない子もいます。毎日頭を悩ませている親御さんは、つい「もう知らないよ! 困るのは自分だからね!」と突き放してしまいたくなることも多いでしょう。
しかし教育評論家の親野智可等先生は、「宿題をやりたがらない子どもに対して叱ったり嘆いたりしても、なにも改善はされない。親は子どもが宿題をやる気になるような合理的な方法を工夫したり、やる気になるような言葉がけを考えたりすることが大切である」と述べています。
具体的にはどのような工夫や言葉がけが効果的なのか、考えていきましょう。
子どもの「宿題やだ!」に効果的な対処法
『「自分で考える力」が育つ親子の対話術』(朝日新聞出版社)の著者で「伝え方」のスペシャリスト・狩野みき先生は、子どもが「宿題やりたくない!」と言ったときの対処法について、「まずは受け止めてから次に問いかけるのが有効」だと述べています。具体的には次のような対話が良いそうです。
親:「そうなの? どうしてやりたくないの?」
子:「みんなやってないもん」
親:「みんなって誰?」
子:「○○ちゃんと、△△くんと……」
親:「みんながやっていないからやらないの? あなたの良いところは無理して人に合わせるんじゃなくて、自分がしたいと思ったことを一生懸命やるところだと思うよ」
子:「そうかなぁ。じゃあ、やろうかな~」
実際にはこのようにスムーズにはいかないかもしれません。しかしこの対話のポイントは、まず子どもの発言を受け止めて、やりたくない理由を問いかけて引き出している点です。そのうえで、やんわり反論しながら少しほめてあげることで、良い流れを作り出すことができます。
「ああ、またわがまま言い始めた……」とうんざりしたり、「何バカなこと言ってるの! さっさとやっちゃいなさい!」と頭ごなしに叱ったりしたところで、いつまでたっても自発的に宿題に取り組むようにはなりません。子どもを前向きに行動させるのも「親のひとこと」があってこそ。親子の会話を楽しみながら、スムーズに宿題に取りかかる流れを作りたいですね。
『「つい怒ってしまう」がなくなる 子育てのアンガーマネジメント』(青春出版社)の著者で、日本アンガーマネジメント協会理事の戸田久美さんは、「イラっとしても、まずは落ち着いて6秒我慢してみてください」といいます。どんなに強い怒りが生じても、そのピークはたったの“6秒”。感情のままに言葉をぶつけたところで結果は良くなりません。カッとなったら、次のように言い換えてみましょう。
×「なんで宿題しないの!?」
○「何時からするんだっけ?」
×「どうして同じ問題を間違えるの!?」
○「またここ間違えちゃったね。次に間違えないようにするにはどうしたらいいと思う?」
親も子どもも無駄にイライラせずに、次に進むための前向きなやりとりをすることを心がけたいですね。
「ごほうび=ほめ言葉」が原動力になる!
諏訪東京理科大学共通教育センター教授の篠原菊紀先生によると、子どもにやる気を起こさせるには、脳に報酬を与えることがカギになるそうです。
人間は報酬を得ることでドーパミン神経系が働き、快感を得ます。報酬=親からほめられること・認められることでもあるので、「宿題(勉強)をする」という行動と「ほめられる」という報酬が結びつくことで、やる気が起こるというわけです。
いずれは子ども自身が「問題が解けて嬉しい!」といった報酬を得られるようになるのが理想。でもそれまでは、親が「ほめる」という報酬を与えるといいでしょう。
ほめ方にはコツがあります。もし、まだ勉強をする習慣がついていないのなら、どんなことでもかまいません。とにかくほめまくること!
○「すぐに諦めなかったね。すごい!」
○「難しい問題なのに頑張って解いたね!」
また、“素質” ではなく “行動” をほめてあげると、やる気に結びつきます。
×「あなたは頭がいいね」
×「全問正解するなんてすごいじゃない」
このようなほめ方では、自分の「賢さ」を守るために間違えるのを恐るようになり萎縮してしまいます。
○「このあいだ間違えた問題も解けるようになったんだね。努力したんだね」
○「集中を切らさずに頑張ったから、いつもよりも短い時間で終わったね」
このように「努力」をほめるようにすると、より認められたいという意識が芽生えて、積極的に挑戦するようになりますよ。
毎日の宿題が「やり抜く力」をつける
毎日毎日コツコツと宿題をこなす習慣をつけると、子どもにとってどんな良い影響を及ぼすのでしょうか。それは「やり抜く力」「粘り強さ」です。しかし、本格的なロジカルシンキングを取り入れている学習塾ロジムの塾長・苅野進先生は、「ただ机の前でがんばるだけでは真の粘り強さは身につかない」といいます。
では、本当の粘り強さはどんなときに身につくのか。それは「手ごたえを感じながら前に進んでいる」とき。「前進している」という実感を得てこそ、「もう少しがんばろう」という粘り強さにつながっていくのです。そして、答えに近づいている、という手ごたえを感じるには、親の声かけも大きな役割を果たします。
■悪い例
- 時間かけすぎじゃない?
- こんなに簡単なのにわからないの?
- この前も同じような問題が出ていたよね?
■良い例
- がんばって取り組んでるね。
- 集中してがんばっているね。
- さっきより進んでいるね。
- 間違えたけれど、これでひとつわかったことが増えたね。
ポイントは前向きな言葉がけを意識すること。たとえ子ども自身がピンときていなくても、何度も繰り返し親からほめられることで自己肯定感が芽生えて、粘り強さにもつながっていきます。高学年になってからあきらめ癖を治すのは難しいので、できれば低学年のうちに、毎日の宿題をきっかけにして粘り強さを身につけたいですね。
シンプルだけど効果的な工夫を取り入れよう
ほかにも、スムーズに宿題に取りかかるための工夫をいくつかご紹介します。
■帰ったらランドセルの中身をすべて出す
教育評論家の親野智可等先生によると、子どもが幼いほど自分がやるべきことを可視化させると効果的とのこと。たとえば、学校から帰ってきたらすぐに、ランドセルの中身をすべて広くて浅い箱に出させます。筆箱から教科書、宿題に必要なプリントまで、とりあえず全部を箱に出しましょう。そうしたら遊びに行ってもOK。遊びから帰ってきたら箱の中身が目につき、スッと宿題に取りかかれます。
プリントがランドセルに入ったままだと、後回しにしてしまったり忘れてしまったりしがちです。家に帰ったらランドセルの中身を全部出す。親野先生によれば、たったこれだけのことで「宿題をしなさい」とがみがみ言わなくてすむようになった、という親御さんもいるそうです。
■「とりあえず1問」だけでもOK
宿題全体がどのくらいで終わるか見通しをつけるだけでも、宿題へのハードルはぐんと下がります。先に1問だけ解いて残りを後回しにしても大丈夫。または簡単な計算でウォーミングアップするのもいいでしょう。もしくは漢字の書き取りなど、ただ書き写すだけであれば難易度は低いはずです。
■脳をだまして苦手教科を好きになる
国語の宿題はすぐにやるけど、算数は苦手意識が強くてなかなか取りかかろうとしない、ということはありませんか? 大人でも、苦手なものには集中力が持続しないものです。
しかし、すでに脳の中に「苦手回路」ができあがってしまったものでも、それを「好き」と思い込むことで脳をだませることはご存知ですか? その効果を利用して、苦手教科で使用するノートにお気に入りのシールを貼る、心地良いBGMを流すなど、子どもが好きなものを取り入れるのです。すると苦手意識が和らぎ、脳が「この教科、好きかも」と思い始める、というわけです。
■暗示語を取り入れる
ほかにも、「よし、やるぞ!」と声を出すのもいいでしょう。脳は自分が発した言葉に反応して、心身の状態を変化させるはたらきがあります。これは「暗示語」と言い、集中力を高める効果が期待できるため、スポーツ選手もよく取り入れている方法です。
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いくつか提案した言葉がけや宿題をする前の工夫など、取り入れやすいものから試してみてください。きっとお子さんの宿題にまつわる悩みが軽くなるはずです。
(参考)
親力講座|こうすれば、子どもの宿題がスイスイはかどるーー親の工夫で「やる気になる環境」は作れる
汐見稔幸(2008年),『汐見先生の素敵な子育て「子どもの学力の基本は好奇心です」』,旬報社.
洋泉社MOOK(2018),『これからの未来を生き抜く できる子の育て方』,洋泉社.
親力講座|親野智可等さんに聞く!どうやったら子どもが勉強をするようになりますか?(前編)
洋泉社MOOK(2017),『子どもの脳を伸ばす 最高の勉強法』, 洋泉社.