テストで90点を取ってきても「あと10点で満点だったのに」、習い事で3位になっても「1位を目指そう」。周りの子と比べて「○○ちゃんはもっとできているよ」「いま頑張れば将来もっと楽になる」。そんなふうに今日もお子さんに「もっと頑張りなさい」と声をかけていませんか?
じつは、そのような子育てにはタイガーペアレントという名前があることをご存じでしょうか? 2011年にエイミー・チュア教授の著書『タイガー・マザー(現代:Battle Hymn of the Tiger Mother)』で世界的に注目されるようになった子育てスタイルで、高い目標を設定し、子どもの学業成績や習い事を何よりも重視するのが特徴です。
このスタイルの子育ては、一見すると「優秀な子を育てる方法」に見えるアプローチ。しかしこうした厳しすぎる親による子育ては、じつは子どもの心に深刻な傷を残し、長期的には逆効果となってしまうことがわかっています。気をつけないと、教育虐待になってしまう可能性も。
この記事では、「知らず知らずのうちにタイガー・ペアレントになっていないか」をチェックできる5つのポイントと、子どもを本当に幸せにする子育てのヒントをお伝えします。
目次
タイガーペアレントの正体とは?
タイガーペアレントとは
その名の通り「タイガーペアレンティング・虎の子育て」をする親のこと。この考え方は、5世紀の哲学者孔子の教えである儒教哲学がもとになっています。このタイプの親は、とにかく厳しく、子どもをコントロールして成果を出させることが特徴。すべては「将来のため」という大義名分のもとで行なわれます。
確かに短期的な成果は出ることがあります。著者であるエイミー・チュア氏も「タイガーペアレント」のひとり。娘たちも実際にハーバード大学やイェール大学に合格し、ピアノとバイオリンで超一流の腕前を身につけました。しかし、チュア氏自身も子育てでの親子関係の悪化を経験し、結果的に自身の子育てへのアプローチを見直すことになったと話しています。
厳しすぎる親に育てられた子どものリスク
テキサス大学の研究によると、厳しすぎる親に育てられた子どもはかえって勉強の成績の低下と自尊心の低下を招くことがわかっています。厳しくすればするほど、子どもの成績は下がり、自信を失っていくというのです。*3
また、明治大学教授の諸富祥彦氏は、「子どもの意志とは関係なく、どんなことも親が決めてしまうことを『過干渉』といいます。過干渉は、いい子症候群とセットのように大きな問題となっています」と指摘。多くの親が無意識のうちに子どもの自主性を奪っていることを警告しています。
(関連記事)
「過干渉」育児が招く悲しい結果。“見守るだけでは物足りない”親が危険なワケ
“手がかからない子”ほど要注意! 「いい子症候群」が怖い理由と、その防止法
つまり、表面的な「優秀さ」の代償として、子どもは失敗を極度に恐れ、チャレンジ精神を失い、自立することが困難になります。そして何より、親子の信頼関係が損なわれてしまうのです。
あなたもタイガー・ペアレントかも? 5つのチェックポイント
では、具体的にどのような行動がタイガー・ペアレントの特徴なのでしょうか。以下の5つをチェックしてみてください。
1. 常に結果に満足できない
どんなに頑張っても「もっと上を」と求めてしまいます。
テストで90点を取ってきても「なぜ100点じゃないの?」、習い事で3位になっても「1位を目指そう」。常に満点や1位を求め、子どもが「せっかく頑張ったのに……」と感じても、親は「まだ足りない」としか思えません。進学先は偏差値だけで決め、「ほかの子はもっとできてるよ」が口癖になっています。
2. 子どもの時間や遊びに過度な制限を与えている
遊びや娯楽は「時間の無駄」と考え、子どもの時間を親が完全に決めます。
お泊まり会や友達との遊びを制限し、テレビやゲームの時間を厳しく管理。学校の部活動も「勉強に関係ない」として参加させません。習い事は親が選んだもの(ピアノ、バイオリン、塾など)のみ許可し、子どもの希望は二の次です。
3. 子どもの気持ちを聞かない
子どもの感情や意見よりも、親が決めたルールや目標達成を重視します。
「いやだ」「疲れた」という子どもの声は「甘え」として認めず、「いやでもやるのが当たり前」が合言葉。習い事を辞めたいと言っても「継続が大切」と却下し、子どもに選択肢や交渉の余地を与えることはありません。親の決定が絶対なのです。
4. 怒って言うことを聞かせる
子どもとの関係は権威と服従に基づいており、感情的にコントロールします。
期待に応えられない場合は怒鳴ったり、大切なものを目の前で捨てたりします。「親に口答えするな」「黙って言うことを聞きなさい」「こんな子はうちの子じゃない」など、恐怖や脅しによって子どもを支配しようとします。
5. いまより将来が大事と考える
「いま頑張れば将来楽になる」という長期的な視点を重視し、現在の楽しみを後回しにします。
「遊びは大学に入ってからでいい」「将来後悔するより、いま頑張る方がいい」が信条。子どもの「いま」を犠牲にすることをよしとし、ほめることより注意することの方が多くなります。将来の成功のためなら何でも犠牲にする考え方です。
いかがでしたか? ひとつでも当てはまった方は、知らず知らずのうちにタイガーペアレントになっている可能性があります。
子どもを本当に幸せにする子育てとは?
では、タイガーペアレントになっている親は、どうすれば子どもを真に優秀で幸せに育てるためにバランスをとることができるのでしょうか。
◆子どもの気持ちを最優先に
まず大切なのは、子どもの感情を受け止めることです。「いやだ」「疲れた」という声を「甘え」として片付けるのではなく、まずは「そうなんだね」と共感してあげてください。
前述の諸富氏は、「子ども自身に『何を食べたい?』『どう思う?』と質問し、答えを待つ。この待つ力こそが、子どもの自己決定力を育て、『いい子症候群』を防ぐ」と述べています。怒って言うことを聞かせるのではなく、子どもの意見を聞く姿勢がタイガーペアレントからの脱却の第一歩です。
◆「ぼーっとする時間」の大切さ
教育ジャーナリストのおおたとしまさ氏は、「現代の子どもには『何もしない時間』が圧倒的に不足しています。スケジュールをぎっしり詰めるのではなく、子どもが『暇だな、何をしよう』と考える時間をつくってあげてください」と指摘します。
この時間こそが、子どもが「何をしているときに自分は幸せなのか」を知る機会となり、人生の羅針盤を育てるといいます。タイガーペアレントは子どもの時間や遊びを制限しがちですが、何もしない時間こそが子どもの自発性を育む貴重な機会なのです。
(関連記事)「教育虐待」のやっかいな実態。今の子どもには “決定的に足りない” 時間がある
◆結果よりもプロセスを大切にする
90点のテストを見たら「なぜ100点じゃないの?」ではなく、「90点も取れたんだね。どの問題が一番難しかった?」と声をかけてください。「○○ちゃんはもっとできるよ」とほかの子と比べるのではなく、「前回より◯点上がったね」「この分野が得意になったね」とその子なりの努力や成長を認めることが大切です。
結果だけに注目すると、子どもは失敗を恐れて新しいことにチャレンジしなくなります。しかし、頑張った過程や工夫したこと、乗り越えた困難に注目することで、子どもは結果に関係なく挑戦する意欲をもち続けられるのです。
***
厳しく子どもを制限し、成果を出させようとする子育ては、科学的研究により深刻なリスクが明らかになっています。短期的な成果に惑わされず、子どもの心の健康と長期的な幸福を最優先に考えることが大切です。
もし5つのチェックポイントに多く当てはまったとしても、今日から変わることができます。子どもの気持ちに耳を傾け、「待つ力」を身につけ、子どもの個性と成長ペースを尊重しましょう。真に優秀で幸せな子どもを育てるのは、厳しさではなく、温かいサポートなのです。
(関連記事)
バウムリンドの4つの子育てタイプ診断|あなたはどのタイプ?【チェックリスト付き】
(参考)
*1 Verywell mind|Tiger Parenting—Impact on Children’s Mental Health
*2 EBSCO|“Tiger” parenting
*3 PubMed| Does ‘Tiger Parenting’ Exist? Parenting Profiles of Chinese Americans and Adolescent Developmental Outcomes