「小学校で英語が始まるって聞いたけど、うちの子ついていけるかな……」そんな不安を感じている方も多いのではないでしょうか。
2020年度から3年生以上で英語の授業が本格的にスタートしました。「何か準備しておいた方がいいの?」と焦る声も聞かれますが、結論からお伝えしますと、特別な準備は必要ありません。何かやらなきゃと焦って早期英語教育を始めると、場合によっては 子供が “英語ぎらい” になり逆効果になることも。
大切なのは、幼児期のうちに“英語を楽しむ気持ち”を育てること。この記事では、「やらなくていいこと」「やっておきたいこと」を整理して、英語をのびのびと学ぶための家庭での関わり方を紹介します。
目次
やらなくていいこと:焦らず、比べず、完璧を求めない
「早ければ早いほどいい」は誤解
「英語は早く始めた方が有利」という声をよく聞きます。でもじつは、言語学の研究では意外な結果が出ています。
カナダのトロント大学のジム・カミンズ氏による仮説では、母語の土台がしっかりしている子どもの方が、第二言語の習得もスムーズだとされています。バイリンガル教育の研究でも、小学校卒業までには、バイリンガル教育を受けた子どもと一般的な学校に通う子どもで、母語の到達レベルに差はないことがわかっています。つまり「早ければ早いほどいい」は誤解なのです。
まずは、早く英語を始めることより、まず母語(日本語)をしっかり育てることが大切。その上で、英語を学ぶ環境をつくってあげることが大切です。
「間違えたらダメ」と言わない、「発音は気にしない」
日本で暮らすほとんどの子どもは、ネイティブスピーカーのように日常的に英語を使う環境にいるわけではありません。だからこそ、無理に英語を押し付けたり、間違いを厳しく指摘したりすると、かえって「英語っていやだな」という気持ちを育ててしまいます。
アメリカの言語学者スティーブン・クラッシェンが提唱した仮説では、「間違えたら恥ずかしい」「できなかったらどうしよう」といった不安やネガティブな感情が、言語習得の大きな障壁になるとされています。
つまり、親が「完璧な発音で話しなさい」「間違えないように」と厳しく指導するほど、子どもの心に壁ができて、英語が身につきにくくなってしまうのです。
「英語を勉強」にしすぎず、挑戦をほめる
ベネッセ教育総合研究所の調査では、「成績が悪くても努力を認めてくれる」と感じている子どもは、自己効力感が高いことがわかっています。また、コロンビア大学の研究では、「頭がいいね」と能力をほめるより、「頑張ったね」と努力をほめる方が、子どもが難しい問題にチャレンジする意欲が高まることが分かっています。
英語も同じです。「発音が上手だね」ではなく、「英語で言えたね」「挑戦したね」と、小さな一歩をほめてあげましょう。英語は、生活のなかで “楽しく触れる” ことが大切です。
やっておきたいこと:英語を「楽しい!」と思える体験を
幼児期には、とにかく「英語が楽しい!」と思える体験をたくさんさせてあげましょう。その気持ちを育てるために最も効果的なのが、英語の歌と絵本です。
🎵英語の歌が「英語耳」を育てる
バイリンガルサイエンス研究所の研究によると、英語の歌には言語学的に大きな効果があることがわかっています。まず、歌は英語の正しいリズムを学ぶ最も効果的な教材の一つです。
また、歌詞が音楽と結びつくことで、単語や表現の記憶が強化されます。歌の歌詞として聞いた方が、記憶に定着しやすいのです。
おすすめの歌:
- “Head, Shoulders, Knees and Toes”:体を動かしながら楽しめる
- “If You’re Happy and You Know It”:手拍子や足踏みで盛り上がる
- “Twinkle, Twinkle, Little Star”:ゆったりしたメロディで歌いやすい
- “The Wheels on the Bus”:動作をまねしながら歌える
- “Old MacDonald Had a Farm”:動物の鳴き声が楽しい
ちょっとした空き時間に、YouTubeで流すだけでOK。親が完璧に歌えなくても大丈夫。一緒に体を動かすだけで、子どもの耳は英語のリズムを吸収していきます。
🐻絵本の読み聞かせも効果的
絵本を読んであげることで、普段の会話では使わない表現や言葉に触れさせることができ、語彙力が向上します。繰り返しのフレーズが出てくる絵本は、子どもがすぐに覚えて一緒に言いたくなります。
おすすめの絵本:
- 『Brown Bear, Brown Bear, What Do You See?』:繰り返しのリズムが楽しい
- 『No, David!』:簡単なフレーズで子どもが夢中になる
- 『The Very Hungry Caterpillar(はらぺこあおむし)』:カラフルな絵で食べ物の単語を覚えられる
- 『Goodnight Moon』:寝る前の読み聞かせにぴったり
- 『Where’s Spot?』:めくって楽しめるしかけ絵本
英語に自信がない方は、音声付き絵本もたくさん出ているので安心です。1日10分でもいいので、英語の歌や絵本に触れる習慣をつけましょう。車での移動中でもOK。
【上級編】もっと英語に触れたい家庭へ
小学校では3・4年生で「聞く」「話す」中心、5・6年生から「読み」「書き」が加わります。段階的に学習して行くので、家庭で特別なことをしなくても、学校の授業についていける子がほとんどです。
ただ、「もっと英語に触れさせたい」「読み書きも少しずつ始めたい」という家庭のために、議論はありますが、効果的とされる方法をご紹介します。
👂フォニックス:音と文字をつなげる
フォニックスとは、アルファベットと発音の関係を学ぶ学習法です。英語圏の子どもたちが読み書きを学ぶときにも使われています。
たとえば、”a”は「エー」ではなく「ア」、”b”は「ビー」ではなく「ブ」と発音することを学びます。この法則を知ると、初めて見る単語でも読める文字が増えます。
ただし、議論もあります。専門家のなかには「日本の子どもには、まず英語の歌や絵本で十分に聞く経験を積んでから、フォニックスを導入した方がよい」という意見もあります。
✏️文字に触れる活動:書く練習・サイトワーズ
アルファベットを指でなぞったり、簡単な単語を書き写したりする活動も効果的です。
また、フォニックスのルールに当てはまらない例外的な単語(said, the, wasなど)を「サイトワード」と呼び、視覚的にカードで丸暗記します。有名な「Dolch Sight Word List」を覚えると、子ども向け絵本の75〜90%が読めるようになります。
📱英語学習アプリ、家庭外の選択肢も
英語教室や英会話スクール、オンライン英会話、通信教育のDVDやおもちゃ、英語学習アプリなど、子どもが英語に触れる方法はたくさんあります。
大切なのは、子どもが「楽しい」と思える方法を選ぶこと。無理に通わせたり、嫌がるのに続けさせたりすると、かえって英語嫌いになってしまいます。子どもが嫌がったらすぐにやめる、「勉強」ではなく「遊び」として取り入れる、できなくても焦らない、比べない。この心がけが大切です。
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大切なのは、英語を嫌いにさせないこと。間違いを否定せず、発音の完璧さを求めず、小さな進歩をほめる。安心して学べる環境が、子どもの「もっとやってみたい」を育てます。
完璧な英語より、「英語って楽しい」という気持ちが何より大事。親が英語が苦手でも大丈夫。一緒に楽しむ気持ちがあれば、それが一番のサポートです。
(参考)
バイリンガルサイエンス研究所|バイリンガル教育が母語の言語処理に与える影響
バイリンガルサイエンス研究所|英語学習における、歌が持つ言語学的な効果
English Hub|情意フィルター仮説とは?第二言語習得に関するクラッシェンの5つの仮説(5)
ベネッセ教育総合研究所|自己効力感が高い小・中学生はどのような子どもか
文部科学省|小学校学習指導要領外国語活動・外国語編