あたまを使う/教育を考える/サイエンス 2022.1.21

「データを扱えない人間」にならないために。データサイエンス力を幼少期から家庭で鍛える!

長野真弓
「データを扱えない人間」にならないために。データサイエンス力を幼少期から家庭で鍛える!

(この記事はアフィリエイトを含みます)

「データサイエンティスト」という職業をご存じですか? アメリカでは、いま、学生に最も人気の職業です。ICT(Information and Communication Technology)技術の飛躍的進歩で、膨大な量のデータがやり取りされる現在、ビジネスにおけるデータの重要性は増しています。

データを扱う力は、子どもたちの将来を考えるうえで必要不可欠な能力となっているのです。今回はそんな「データサイエンス力」について考えてみましょう。

いま、世界中でデータサイエンティストが求められている

ショッピングサイトを見ているとき、自分の好みに合ったポップアップ広告が表示されることはありませんか。これは、データ分析がなされた結果、広告が表示されているのです。このようにデータを利用して、お店側が販促対策を立てていることは、いまや周知の事実。インターネットの普及と発展はめざましく、世界の総データの約90%は過去2年間につくられたと推定されるほど、この瞬間もデータはものすごい勢いで増え続けています。

そんななか、「日本のデータ活用教育は、欧米などの海外に比べて約30年遅れている」と話すのは、立正大学データサイエンス学部教授の渡辺美智子氏。時代を牽引するGAFA* の誕生は、データサイエンスに早くから着目し、その開発に取り組んできたアメリカの成果だと、渡辺氏は見ています。

2019年に日本で初めてデータサイエンスを専門的に学べる学部として開設された、滋賀大学データサイエンス学部長の竹村彰通氏も、日本の出遅れた現状を危惧するひとり。「現在では、データサイエンスは国際競争力の源と考えられており、世界中でデータサイエンティストが求められている」と学部長あいさつで述べています。

アメリカではどの業界にもデータサイエンティストの採用枠があるのだそう。竹村氏は、日本でも、データサイエンスの専門知識があればさまざまな分野で活躍できるとし、日本の経済力に大いに貢献できる人材となりうると断言しています。日本もこれからますます「データ重視」になり、「データサイエンティスト」が活躍する時代になっていくようです。

* 世界で影響力をもつIT企業群、Google、Amazon、Facebook(現Meta)、Appleの通称

データサイエンス力を高める1

子どもの知的好奇心を育てる3つのポイント
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小1から「データサイエンス学習」は始まっています!

では、データサイエンスについて詳しく見てみましょう。滋賀大学はデータサイエンスについて次のように定義しています。

インターネットに蓄積される多様かつ膨大なデータがビックデータであり、このビックデータなど様々なデータを対象とする新たな学問分野がデータサイエンスです。

(引用元:滋賀大学|データサイエンス学部を目指す人たちへ)※太字は編集部で施した

そして日本の教育界でも、ようやく2020年度から算数に「データの活用」という新たな領域が設けられました。2020年から小学校で始まった「データの活用」の狙いは、以下の3つです。

  • 目的に応じてデータを集めて分類整理し、適切なグラフに表したり、代表値などを求めたりするとともに、統計的な問題解決の方法について知る。
  • データのもつ特徴や傾向を把握し、問題に対して自分なりの結論を出したり、その結論の妥当性について批判的に考察したりする。
  • 統計的な問題解決のよさに気づき、データやその分析結果を生活や学習に活用しようとする態度を身につける。

 
実際に小学校では、1年生より「身のまわりにあるデータに着目」することからスタートし、3年生では「表と棒グラフを使って数の情報を整理する」といった学習をしています。

たとえば、以下は埼玉県HPで紹介されている「統計表」「単位グラフ」です。単位グラフは小学校2年生までの算数で学習予定とのこと。

統計表1統計単位グラフ2

(画像引用元:埼玉県|単位グラフ(たんいグラフ)

6年生になると、「ドットプロット」(複数のデータをドットの形で積み上げて表す統計グラフ)や「代表値」(平均値・中央値・最頻値など)、「質的データ」「量的データ」「時系列データ」についても習います。ちなみに、上の図の「単位グラフ」も「ドットプロット」のひとつ。「単位グラフ」以外の「ドットプロット」は6年生で学習しますよ。そして6年生ではさらに、「複数のデータ・グラフを読み解く考え方」まで学んでいきます。

東京都では「統計の知識を身につけて、児童自らが課題の解決に取り組む」という目的のもと、『小学生のための統計学習 まなぼう統計』という学習コンテンツをリリース。日本でも、いよいよ国や地方自治体がデータサイエンス教育に力を入れ始めているのです。

データサイエンス力を高める2

「データサイエンス力」を家庭で鍛えよう!

小学1年生からスタートしているデータサイエンス学習。家庭でもデータサイエンス力を伸ばすことはできるようです。

渡辺氏は、「算数・数学の試験のために公式や定理を覚える教育ではなくて、普段からデータを意識することが大事」だと、監修した『こども統計学』のなかで述べています。そして、意外かもしれませんが、データサイエンス力をアップさせるために必要なのは、好奇心・想像力・論理性・行動力・コミュニケーション力など、「複合的な人間力」なのだそうです。

渡辺氏、竹村氏のアドバイスを参考に、家庭でデータサイエンス力を伸ばす習慣をまとめました。

【データに慣れる】ニュースや新聞のデータに疑問をもつようにしよう!

渡辺氏は『こども統計学』のなかで、基準の違いによって「多い・少ない」「最多・最少」は変わると述べています。たとえば、ニュースや新聞で「バスケット選手が8本のシュートを決めました」と報じられたとします。その際に「8本って多いのかな?」と親が問いかけることで、子どもは「多いのかな? 少ないのかな?」という疑問をもつことができるのです。その “8本” が多いのか少ないのかは、ほかのデータを見てみないと判断できません。たくさんのデータに触れて、そのデータが何を意味しているのかを親子で話し合ってみてくださいね。

【データを楽しむ】身近な疑問をデータ化してみよう!

子どもには、まず「データは楽しい!」と知ってもらいましょう。楽しさを知るためには、自分の好奇心を原動力にするのが一番。よい例に、アメリカのデータ分析大手企業のSASが年に1度ほど開催している体験イベント「なつやすみ 親子でデータサイエンス」があります。

気になるテーマについてのデータを収集し、データ分析のプロであるSAS社員からアドバイスをもらいながらデータの集計をします。そして最後は分析結果をポスターにして、結果を発表するのです。テーマは「『昔より暑い』は本当か」「ガリガリ君の当たりがでる確率予想と実際」「私も女医になれるかな?」「お母さんがバイトをしている焼肉屋さんはいつ忙しい?」など。子どもの発想は自由ですね!

イベントに参加しなくても、「このゲーム、すごく流行ってるんだよ! みんなもってるから、僕も欲しい!」と、子どもが言ってきたら、「実際そのゲーム機が何台売れているのか」「クラスの何人がもっているのか」などについて、調べてみてはいかがでしょう。身近な疑問をデータ化して考えてみるだけでも、子どもがデータに慣れ親しむよい機会となるはずです。

【データを調べる】世のなかの統計データをどんどん調べよう!

小学校のタブレット授業でも使用されている「Google検索」や統計サイトなどで、世のなかの統計データを調べてみましょう。たとえば、「自分が住んでいる区や市の人口って何人だろう?」といった疑問をどんどん調べてみることで、「男女比は?」などの新たな疑問が湧いてきます。また渡辺氏は、「大人がどれくらい貯金しているか」というデータを調べてみることを勧めています。中学年以上であれば、「平均」や「中央値」などの言葉を知るきっかけにもなるでしょう。

【おすすめの小・中学生向け統計データサイト】

「キッズすたっと」(総務省)

「なるほど統計学園」(総務省)

「小学生のための統計学習 まなぼう統計」(東京都)

***
e-kagaku国際科学教育協会・子供の理科離れをなくす会代表の北原達正氏が、少し怖いことを言っています。

同じ大学を卒業しても、能力差で初任給が異なる時代がやってきます。つまりAIやデータサイエンスに関する知識は、子どもの人生を変えてしまうのです。その事実をどれだけの人が理解しているでしょうか。

(引用元:朝日新聞 EduA|AI・データサイエンスの知識で子供の生涯年収が変わる?未来を切り拓く科学の力とは)※太字は編集部で施した

また、現在の日本にはデータサイエンティストが不足しているため、企業は高い給料を支払ってでも、優秀なデータサイエンティストを確保しています。なかにはプロスポーツ選手レベルの高い給料をもらっているデータサイエンティストもいるのだとか。

「データを制するものが勝者」と言われるこれからの時代、データサイエンス力がないと大人になったときに大変かもしれません――。

(参考)
バウンド 著, 渡辺美智子 監修(2020),『こども統計学』, メディア・パル.
滋賀大学|データサイエンス学部を目指す人たちへ
日経DUAL|親も知りたい 必須のデータサイエンスは小学生から【前編】
日経DUAL|目標は「使える算数」PPDACで問題解決力を伸ばす【後編】
総務省|データが切り拓く未来社会
文部科学省|小学校学習指導要領(平成29年告示)解説
朝日新聞 EduA|AI・データサイエンスの知識で子供の生涯年収が変わる?未来を切り拓く科学の力とは
Edtechzine|子どもたちの目がキラキラ!好奇心と探究心を育むデータサイエンス体験をSASジャパンが提供 「なつやすみ親子でデータサイエンス2019」レポート
The Asahi Shinmbun GLOBE|米国年4000人、日本ゼロ。データサイエンス修士の落差、日本はどう埋める
立正大学|エピソードがエビデンスに変わる瞬間、データサイエンスの扉が開く
NHK|「データの時代に求められるスキルと人材」(視点・論点)
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小学生のための統計学習 まなぼう統計
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埼玉県|単位グラフ(たんいグラフ)
東京都|小学生のための統計学習 まなぼう統計