あたまを使う/サイエンス 2020.12.25

「経済格差」が「学力差」を生んでいる。アメリカのオンライン教育の現状

今木智隆
「経済格差」が「学力差」を生んでいる。アメリカのオンライン教育の現状

前回の連載『「教室での集団授業」ばかりが正解ではない。未来の子どもの学習スタイル予測』では、RISU Japanのオンライン授業サービス「RISU小学生オンラインスクール」を取り上げ、アフターコロナ時代の子どもの学びを見つめました。学校での集団ベースの一斉授業から、個人に最適化された自由度の高い学びへと、教育の主流は変わりつつあります。そんな変化の時代にあって、オンライン教育への注目度はますます高まっています。

人々の関心の高まりを反映して、外国でのオンライン教育の取り組みが紹介されるケースも増えました。しかしその論旨は、「外国ではこんなにオンライン教育が進んでいるのに、日本はこんなに遅れている!」というものがほとんど。はたして、本当にそうでしょうか?

RISUでは、RISU USAというアメリカ向けのサービスを展開しています。今回は、RISU USAスタッフが見た、アメリカのオンライン教育の現状をお伝えしたいと思います。それらの知見はきっと、日本でも活きてくるはずです。

RISU USAのオンライン授業は1クラス7~8人

RISU Japanのアメリカ支社であるRISU USAは、英語圏にもRISUの教育サービスを展開するため 、アメリカ・カリフォルニア州シリコンバレーに設立されました。アメリカにおける教育の知見を取り入れるのも目的のひとつでした。

RISU USAでは地元のニーズに合わせて、日本のRISU教材と同じようなプログラムに加え、論理思考(Critical Thinking)のプログラムも取り入れた授業を展開していました。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大にともない、シリコンバレーでは3月18日から6月末までのロックダウン措置が決定。RISU USAのアフタースクールも、オンライン化を余儀なくされました。

RISU USAのオンライン講座では、小学生向けの「Scratch Game Coding」(プログラミング)や中学生向けの「Python coding」(プログラミング)「Financial Literacy」(金融リテラシー)、それに加えてクリティカル・シンキングの授業など、理数系を軸にした幅広いコースを開講しました。

授業では、画面を共有し、機器の使い方のレクチャーを交えながら課題を解いてもらいます。そして、子どもたちの課題への取り組み方を確認しながら、教師がフィードバックを行ないました。対面形式では、1クラス20人近くの子を見ることができましたが、オンラインでは、1クラス7~8人が精一杯。オンライン上でひとりひとりと双方向的なコミュニケーションをとる難しさを実感させられました。

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Wifi環境がない!? アメリカのオンライン教育の現状

手探りで始まった、RISU USAのオンライン講座。試行錯誤のなかで見えてきたのは、アメリカにおけるオンライン教育の難しさでした。

一番多かったのは、機材に関連するトラブルです。いくら現代の子どもがデジタル機器に親しんでいるといっても、実際にそれを使ってコミュニケーションをとるには、いろいろな問題があります。Wifi接続や機材のセッティングといった準備は子どもには難しく、通信不良もたびたび起きます。また、子どもが自分のタブレットやPCをもっていない家庭では、親の仕事用PCを使っているため学習時間が限られてしまう、という問題もありました。

RISU USAは、もともと学校に出向いて授業を行なうというスタイルをとっていたので、子どもたちは学校のWifiを利用することができました。しかし、オンラインへ移行すると、家庭にWifiがないという理由でRISU USAを辞めてしまう子も出てきました。日本でも、Wifiがない家庭への対処が問題になっていますが、アメリカでも、Wifi環境の整備は大きな課題です。

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「経済格差が学力差を生んでいる」という事実

突然のロックダウン措置によるオンライン教育への移行から半年以上が経ったいま、アメリカの教育事情はどのように変化したのでしょうか。RISU USAのスタッフに話を聞いてみたところ、アメリカの教育現場が直面する厳しい現実が見えてきました。

どうやらアメリカのオンライン教育の現状は、あまり変わっていないようです。地域間の格差、あるいは同一地域内でも家庭間の格差が、そのまま子どもの学習機会の差を生んでしまっています。

裕福な家庭では、「パンデミック・ポッド」と呼ばれる、固定した生徒数人に対して、教員免許をもった先生1人の組み合わせで対面学習をさせる取り組みをしています。学校が提供するオンライン教育を受けながら、その補填をパンデミック・ポッドで行なうのです。

一方で、低所得者層を中心に失業率が上がっており、学年始めからオンライン教育にすら参加できていない生徒も一部いるのが現実。こうした経済格差の問題は、これから先、ますます顕在化してくることが予測されます。

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アメリカ社会が抱える問題。いずれ日本でも……

また、アメリカ社会全体に目を向けると、9月末で立ち退き請求保留の暫定法が失効し、家を追われた家庭も増えています。日本では、生活保護を受ければ最低限の衣食住を保証されています。しかし、アメリカでは住居に関するサポートは非常に限定的です。そのため、親にお金が入ったときは深夜運航のバスで寝て、それ以外は路上かホームレスのシェルターで寝る生活を余儀なくされる子どもたちもいます。

アメリカでは、最も裕福と言われるシリコンバレーでも、約1割の家庭は学校給食なしでは3食食べられないのが現実です。学習機能だけでなく、生活サポートの場としての学校、という側面も考えていく必要があるでしょう。これまで見てきたように、最先端のIT企業がひしめくシリコンバレーでさえ、オンライン教育をめぐるさまざまな問題に直面し、その対応に追われています。アメリカで明らかになったこれらの問題は、いずれ日本でも十分に起こりうるものです。

しかし、コロナ禍がもたらした「変化の時代」は、従来のやり方を見直し、教育をよりよい方向に変えるチャンスでもあります。コロナウイルス第三波の到来が叫ばれるいま、状況を冷静に分析し、関係者どうしが協力し合って、よりよい学習環境をつくっていくことが大切だと、強く感じています。



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■ 算数塾「RISU」代表・今木智隆先生 インタビュー記事一覧
第1回:子どもを「算数嫌い」にしない大原則。幼児期からできる“算数好きの基礎”の築き方
第2回:子どもが勉強で成果を出せないのは、親の「勘違い」が原因かもしれない
第3回:10億件のデータを調べてわかった、小学生が「ずば抜けて苦手」な算数の単元と例題
第4回:「算数の文章題が苦手」な子どもが、ひねった応用問題でも解けるようになる教育法